序章03
いろいろ迷って、序章だけで四人分できましたが、妥当なところで行きます。
序章ver.片瀬運命(貞芽:さだめ)といった感じでよろしくお願いします。
朝起きて時計を見る。
――早いなぁ。
どうやら目覚ましの時間を間違えて、いつもより数時間早く目覚めてしまったらしい。
外の道路を通り過ぎる自動車の音しかせず。騒がしい日々と比べると、本当によくわかる静かさだ。
「顔、洗おぅ」
冷たい水を顔にあてシャキッとするように洗面台に向かう。今いる一階の右手奥、玄関の手前を左に曲がればそこにはたどり着ける。
部屋の位置も、長く住んでいるのだからちゃんとわかる。何カ月も暮らしている場所で迷うなんて、相当なモノである。
洗面台の鏡を見ながら、小学生のころから続けているポニーテイルに髪をセットしようとして手を止めた。
後ろで階段が忙しく揺れる音がしたからだ。
それも二人分。
「さーちゃん。おはよう」
「……おはよう」
さーちゃん――私の下の名前から一文字とってそう呼ばれている。少し恥ずかしい。
そういってもこの子は聞いてくれない、騒がしい二人組の片方である。
そしてもう一人。一緒に降りてきたのが、この家の長女『玉梓麻衣』。
現在中学一年生の私と三つ違いの高校一年生で、九歳、隣の子の姉。この家の家事全般をしてくれる人でもある。
この家で偉大なる元気さを持っているのもこの人。
「ダメですよ、片瀬さん。朝の挨拶は、ハキハキとー、元気よく! はい、おはようございますっ!」
私の名前は『片瀬運命』。運命とかいて“さだめ”と読むので覚えておいてほしい。
趣味嗜好は人それぞれだから、人当たりのよさそうなのを上げると、趣味は情報操作、嗜好はドロドロした人間の修羅場などなど。玉梓家には居候として三月ほど前からお世話になり、義務教育を投げ出した中学生でもある。
一人でいると大人しいと、近所で有名な双子二号が洗面台前の台に上がって顔を洗っていた。
姉の麻衣とは逆に、私と三つ違いの小学生。それがこの家にはもう一人いる。
「かなちゃんは、お寝坊さんだからまだ布団のなかー。あとで起こしてくるから、お姉ちゃんたちは先にいっててー」
言われるまでもなく、一番奥の部屋に向かった。
朝食は、これも言うまでもなく待っていれば出てくる。さながら女王様気分を味わい、自分の体たらく差にこのごろ飽きてきていた。
「片瀬さんはー、やっぱり学校にはいきたくないんだよね。私のとこの中等部なら、たぶん……いや、絶対途中からでも入れてくれると思うんだけど、それでも行きたくない理由があるんだよね?」
「いいえ、特には――ただ、出番がないだけです」
それは深刻な問題だった。
出番のあるなしは、それはそれで危険度が薄いということになるのだからいいが、探偵クラブ現部長として、夏まで出番が一度もない。頼ってくるだろう仲間も、何の音沙汰なし。
もしかすれば、ここに私がいることさえ知らずに帰った無法者もいそうだ。
気分屋の中原真人あたりが有力だ。
「出番は自分で増やすもの! 進んで前に出ることが大事だよ!」
「いえ、そうゆうことではなく。もうちょっと世界が窮地に陥らないと第二、第三の人には出番がないんですよぉ。深くはお伝えできませんが」
「例えば、誰がその“第二、第三”の人たちなのかな?」
「絶対に知らないと思いますが、第二勢力は“片瀬、北村、斎藤、佐須”、第三勢力は“ガーディアン”と呼ばれる戦い好きなやんちゃさんたちです。扱いが難しいんですよ」
「へぇ~~」
それから麻衣は黙って朝ごはんを作りに席を立った。
リボンと小さな飴がポケットの中にある。今日は、気分的に髪を下ろしているから、そのリボンがここにある。もう一つ、飴の方は、渡す相手のいないちょっとしたレアアイテムである。
『真実の飴』
それがこれの正式名称。作ったのは……どうでもいいけど、大事なのはその用途。
これを一口なめてしまうと、十年、二十年先の世界の真実を知ることができる、とある偉大な人がいっていた。
世界を定義して、自らが“七つ”のカテゴリの一つの頂点に立っていた女性のことである。
その人には一人娘がいて、それをもとにある能力者がコピーを作ったりもした。
本当の娘が、間違って殺されるということもあった。
今のところ母も子も姿を消しその血は途絶え、次なる資質を持った人も現れていない。こことは違うもう一つの世界。
ここで暮らし始めた知り合いに伝えることがあって、私は待ちを喰らっているのである。
だがそれももう少し。
もう少しでそのときは来ようとしている。
不穏な空気が世界を覆い尽くし。
影に潜む闇が姿を現し始め。
こちらの世界が本来のあり方を思い出したそのときに、すべてがうまくいくようこの星は回っていく。
次は本編、メインパーソンは、今のところファイナルナンバーのあの人。
コピーとか言われている若干かわいそうな感じの宿敵です。