50 転生者のこと
全員の気持ちが落ち着いたところで、この面子のリーダーであるアヤカが場を取りしきることに満場一致で反対意見はない。
異議申し立てなどすれば、雷の速さで鋼鉄の鎧をぶち抜く拳が飛んでくるのだから仕方ない。
竜二体も負けた以上はリベンジの時までは黙って従うだけだ。
「さて、わたしの旅の目標を伝えるわよ。 わたしは、わたしの最強を証明したい。 この世界のことを知りたい。 もっとたくさん美味しいもの食べてお酒飲んで、人生を楽しみたい。 以上よ」
拳を手のひらに叩きつけて、改めて決意表明する。
世界で最も古く、強い生物である七体の古竜たち。
それら全てを打ち倒すことがアヤカの旅の最大の目標なのだから。
それと世界中の美味しい食べ物と酒。食わなくても良い身体の癖に、人一倍飯を食いたがるこの女は、生粋の資源破壊テロリストだろう。
彼女が行く道にあるものは、ぺんぺん草すら残さず平らげられる運命にあるのだ。
「姉御、完全に言ってることがダメ人間のそれっスよ………」
「お侍さんはこのお嬢ちゃんと気が合いそうだぜぇ」
元盗賊とダメ人間の日の国出身コンビがアヤカの目標に人としては低いと言いつつも、共感を見せる。
元が犯罪者と浮浪者の典型的な社会のはぐれ者であるこの二人は、なにかとダメ人間への共感性が高い。
『なぜじゃ? 強いものは好きにするのがこの世の摂理ぞ』
『だよね、なんでダメなの?』
「そーなのーかー?」
反対に不思議そうな顔をする竜たちとゆき。
竜は古竜も新竜も、弱肉強食を唯一のルールにして生きている。
力があれば偉いし、なにをしても良いという野生野蛮な心理で生きているのが大半だ。
それは比較的温厚なこの二人でさえ例外ではない。
こいつらが今まで人類に害を為さなかったのは、単純に、自分の趣味以外に興味が無かったからたまたま無害だっただけにすぎないのだから。
ゆきは単純に、隔離されていたから世俗に疎いだけだ。
「ま、とりあえずは次の竜を探しに行くわよ! ねぇミステリア、森林竜、他のやつの場所知らない?」
『妾はもう他の者とは長いこと会っておらんのじゃ……すまない』
『う、……………ボクも千年くらい森に引きこもってたから……』
「そう、それは残念ね」
肩を落とすアヤカ。
「だったら、俺が知ってるぜ? 一体だけだがな」
「だったらあんた案内しなさい、えっと? 名前は?」
浮浪者はわざとらしくも恭しく頭を下げて、改めて言う。
「あっし、武田信三と申します。 あの信玄公の直系の子孫さ」
「(信玄って、あの風林火山の信玄?)」
あの戦国武将と同じ名前。
文字に書いて貰ったが、字も同じだった。
「あの信玄公の!? 四百年も前に一代で国を興して日の国を平定してみせた、あの伝説の将軍の子孫っスか?」
「そうさ、転生者疑惑のある、あの男の子孫様さ。 なあ新たな転生者アヤカ・ローレライ殿?」
「お主がか?」
「え、アヤカちゃんが転生者?」
「なんでスかそれ」
〝転生者〟という単語を知る古竜二体がアヤカに視線を向ける。
転生者というには、知識量や知能や精神があんまり成長してないような…………。口にしなくてもそう考えているのが透けて見える。
「え、なんで分かった?」
「アヤカ嬢の記憶が目覚めた瞬間さ。 オレの組織、転生者の監視と保護を目的にした組織なんだが、オレも本当はちっとだけ人違いの可能性を疑ってたんだよ」
「どうして?」
「あぁー…………。 まあ、あれよ、あれ。 あれがアレってことよ」
恐らくは精神的な成長がどうこうの話だろう。
「…………………」
こいつら………本気で首、落とそうか。アヤカは真剣に考えだした。




