49 合流
アヤカの雷挺のエネルギーとして電力を吸収された雨雲は消え去り、透き通った空の彼方遠くから黒く、大きな巨影が雲を引き裂いてやってきた。
アヤカはこの数ヶ月で見慣れた、アヤネは見たこともない山のような迫力のある空飛ぶ巨大物体に驚いてぎっくり腰となり、ゆきは満面の笑みで「お城が飛んでるー」と楽しんでいた。
現実離れした光景にアヤネが惚けていると、自分の前に着地した二体の巨竜の着地の爆風を受けてぶっ飛ばされて思う。
「(僕、なんか今日、ぶっとばされてばっかっス)」
泥と砂に汚れて立ち上がると、片方は黒い光沢の鱗の竜。
身体の至るところに明らかに金属製の棘がある。
特に背中は銀色の棘が大量だ。もし座ったら、昔受けたことがある三角木馬拷問よりも確実に痛い。
もう片方の竜は苔の生えた青銅の鱗を鈍く輝かせている。
アヤネはその青銅鱗の竜を知っている。日の国の人間であれば、誰もが親から、そのまた親から聞かされるおとぎ話の怪物。
鬼より天狗より山賊より天災よりも恐れられる伝説の化け物。
「せ、せせせ、青銅竜だぁぁぁああ!! イヤァァァァァァ!! 青銅竜イヤァァァァァァ!!」
『ボクの名前イヤーじゃないよー』
違う違う、そうじゃない。
「それはただの悲鳴よ。 ほら、挨拶しなさい」
『初めまして! ボクは青銅竜の森林竜です!』
「しゃ、喋ったぁぁぁぁあああ!!」
ありふれたリアクションを取るアヤネになんとなくだが、どやりたくなるアヤカ。
アレが自分の乗り物一号と二号だと知ったら、彼女はどんな顔芸を見せてくれるのだろうか。
『アヤカ殿~、会いたかったぞ~!』
『アヤカちゃんいたねー。 小さい友達もいるね!』
「よよしく!」
気さくに挨拶を交わす森林竜とゆき。子供同士打ち解けるのが早い。
強面で、人を喰ってそうで、明らかに言葉の通じなさそうな顔した竜なのに、ハスキーボイスのように低くても女性らしい丸みと優しさを帯びた声と、子供特有のキンキンと響く高い声。
言葉も会話も通じる人間そのものの声と化け物の顔のギャップに、もうアヤネのキャパシティは爆発寸前だ!
「は、ははは。 すごいんスね、姉御の人脈は」
「おうおう、アヤカ様を奉りなさい」
思考回路を一巡し、アヤネは考えるのを辞めた。
アヤカは無い胸を張って少しでも大きく見せようとするのは、可愛いと云うべきか。それとも可愛く見せようとしてるのか。
どちらにしても、竜の威を借るアヤカはアホ丸出しだ(なお、竜は実力で屈伏させたものとする)
『でね、ボクたちも新しい友達が出来たんだ!』
「どーもー、あっし浪人のお侍さんでごぜぇます」
無精髭、ボサボサの長髪、細い身体と木の枝のような手足に加えて、着古した継ぎはぎだらけの着物がその男の浪人というよりも浮浪者と呼ぶべきみすぼらしさをこれでもとばかりに強調している。
「お、かわゆい娘が沢山いるねぇ。 まるで殿様の側室だな」
その男は挨拶もそこそこに、アヤカたちを見て喧嘩を売るような発言をする。
そういう目で見られたことを悟ったアヤカは、殺意よりも先に嫌悪感で鳥肌が立った。
「なにこいつ、キモ………。 殺していい?」
『な、気持ち悪い輩じゃろう?』
「女の敵っス。死ねばいいっス」
「んー? 気持ちわる………いー………?」
「…………ひでぇや」
『ごめんねおじさん、擁護できないや』
露骨なセクハラに女性陣全員を一度に敵に回す男の非モテ指数は9000オーバー。
生涯童貞で過ごす典型的な非モテ男子が800~1500なのを考慮して頂ければ、彼がいかにハイレベルな非モテ男なのかご理解頂けるだろう。
因みに森林竜の数値は最も高い時点で50以下だ。
彼はこれからハーレムでもなんでもできちゃう男になる。
「金髪の姉ちゃんは………ちょっと足りてねーな」
「このセクハラ野郎うるっさいわね。 焼いて食べちゃおうかしら?」
セクハラ野郎への名刺代わりに、音速のアッパーを繰り出すアヤカ。
当たる直前まで引き付けてから顎を上げて飛ぶことでひょいっと避けた男。
「(こいつ、やれる)」
アヤカの中で、彼に対する警戒心のステージが三段階は上がった。次からは骨を折るつもりでいくつもりだ。
「こっちの黒髪の娘は………ん、んんん!?」
アヤネの身体を下から上まで、舐めるように見やる男。
「あんた、もしかしてアヤネちゃんか?」
「ボクのことを知ってるんでスか?」
浮浪者風の浪人は画風が変わるほどの真剣な表情で言う。
「いや、知らん!」
「「『『知らないんかい!!!』』」」
「かーい!」
全員のツッコミが重なる。ゆきもなんとなく乗ってみる。
なんだかんだで上手く打ち解ける男だった。




