47 ミステリアとアヤカの受難な旅
謎の浪人者を連れて都を歩くミステリアと森林竜。
「お姉ちゃんよ、乳ぐらい触らせてくれよー」
「断ると言うておろう!! しつこいぞ!」
アヤカのことを知らないならとっくに十回は殺しているセクハラ発言のオンパレードに絶対零度の眼差しで威嚇するが、効果はなくのらりくらりとかわされる。
「おじさん本当にアヤカちゃんの場所知ってるの?」
「知ってるぜ。 異邦人の娘なんて滅多に見ねえからな」
「ならば早くそれを教えろ」
「だからその前に乳揉ませてくれよ………っていてててて!!」
「ここで死ぬか?」
胸に向けて伸ばされた手を握りつぶすつもりで掴んでも痛がる以上の効果はない。悶えたり、膝をついてないことを考えると、痛がるのも演技だろう。
人間形態でかなり弱体化しているとはいえ、それでも竜の握力だ。
拳のなかで炭素の塊からダイヤを創るのはミステリアでも容易いことなのだ。
その力をもってしても壊せないこの男の肉体強度は計り知れなかった。
「そのお嬢ちゃんなら、西門からそのまま田舎へ行っちまったぜ。 そこは昔は小さな国があったんだが、今は戦場跡地ってんで大国同士の戦争で武士も民草も大勢がなで斬り(みなごろし)にされた曰く付きの土地がある。 そこは虐殺された無念を抱えたままの幽霊だの悪霊だのが漂ってるらしいぜ?」
お姉ちゃんもおっかねぇだろ~、と最後におどけてみせる男は無視してミステリアは竜に変身する。
大通りなのに僅かしか人もいないし、どうせすぐに離れる国だ。
食も武も大したことがないこの国には、一度立ち去れば四、五百年は立ち寄らないつもりだ。
竜が現れたら騒ぎになる? なったって知るもんか。
ミステリアにとっては取るに足りぬ木っ端人間どもが騒いだってそんなのは自分の主であるアヤカと再開するためならば、と気にとめないという古竜特有の傲慢と自己中心的な価値観がそこにあった。
「おうおう、お姉ちゃんやっぱ人間じゃなかったかー。 にしても、顔怖いねぇ」
『貴様はやはり好かんな。 だが礼は言おう。 いずれこの借りは代えそう』
『バイバイ、また会おうね』
森林竜も本来の姿に戻り、肩をほぐすように前足を回している。
人間の子供の姿はなにをするにもなにかと不便だし、体が凝ってしまうようだ。
二頭の竜はその金属の肉体よりも巨大な黒金と青銅の翼を羽ばたかせ、天高く舞う。
「ちょちょちょい待ち、俺も連れてきな」
浪人男が森林竜の背に飛び乗る。
『うえっ!? 降りてよ! 僕人乗せたことないもん!』
「竜の坊や、何事にだって始めてのことはあるもんさ。 手始めに俺を運んでみな。 経験だよ経験」
『お主は来るでないわ、この好色無精髭が!』
ミステリアと森林竜は新たな仲間? を引っ提げたようだった。
◇
その一方でアヤカ一行は、半透明で足のない、ついでに首とか腕とか色々欠けてて弓矢も刀も効かない謎の不死身ゾンビ集団に攻撃を受けていた。
早い話、悪霊の軍団だ。
「ひぁ、こわいこわいこわい!!」
「早く立って! 逃げるわよ!」
「お~、アヤカお姉ちゃんはやーい」
腰を抜かしながらも弓矢だの手裏剣だのと、飛び道具で抵抗するアヤネ。
油断すれば膀胱が緩みそうになるが、そこは小さい子がいる手前と乙女の尊厳と走るアヤカに抱えられて腰に引っ下がっている状況を考えれば、当然ながら死ぬ思いで我慢する。
ダムが決壊すれば、その場で置き去り確定なのだから文字通り必死だ。
アヤカはオカルトが大の苦手だ。
前世で師匠の趣味で強引に付き合わされたホラー映画で幽霊がトラウマになっていたのだ。特に子供を殺されて狂った女の霊が苦手だった。
幼い子供を目の前で殺害された際の絶叫は記憶の奥底に眠り続けている。
なお、逃げるアヤカを追う幽霊にその手の者がいた模様。
「カエシテ、カエシテ。 ワタシのコドモ」という幽霊にありきたりなフレーズがアヤカには恐怖の対象だった。
「知らいわそんなの!! さっさと天に召されなさい!」
雷気で反撃するも〝気〟は自然と生命力のエネルギー。
命の力に満ちたその攻撃は、死人には効きにくいようだった。
多少なりともダメージはあったが、それでも多少怯ませる程度のもの。
アヤカの言う、天に召されるほどの威力はない。
そもそも死人なのに殺せるのか?とかなんで追われてるの?とか、相手の攻撃はアヤカを倒せるの? とかそんな疑問はない。
だってパニックで頭がいっぱいだから。
「アヤカお姉ちゃん、もっと速く速く!」
ただ、ゆきだけは面白い人たちが遊んでくれてると認識しているらしく、無邪気にアヤカの小脇で鬼ごっこを楽しんでいた。
刀や弓矢、槍、投石、鉄砲。
クロスボウや魔法は無し、と亡霊たちは戦国時代かここは!と言いたくなるほどの古代兵器の数々でアヤカたちを追いたてる。
「ちょっ、ちょっともう! 服に穴空いたじゃない」
お荷物二人抱えての逃げはキツいのか、服の裾や胸元などの際どい部分への攻撃を紙一重で避けると、サイズの合わない服を少し壊された。
既に死んでいる分際で武器だけは透過していないことから、実体化しているのは武器だけのようだ。
なんとか幽霊だらけの山を命からがら下っていき、ようやくまともそうな建物が見つかった。
苔と植物に飲み込まれそうになっている古い城だ。
天守閣にあたる部分も完全に崩壊しており、元がどんな形をしていたのかも無学なアヤカとアヤネには不明だった。
「あそこに逃げるわよ!」
「でも幽霊どもまだ追ってきてまスよ! 逃げ場が無くなりまス!」
「あ、そっちはいるよ!」
ゆきが目を向けた先にあるのはただの石の城壁。
なにが!? と叫びたいが、城壁を透過して突きだされた槍を回避して覚る。
ここは幽霊城だと。
開くことがない城門から亡霊が次々と出現し、背後からも霊の大軍が押し寄せていた。
「進退極まったか、なら逃げるのは止め。 戦うだけよ」
恐怖で震える拳を握る。雷気を充填させ、血の巡りが活性化して体が熱くなる。血管を流れる気が雷気へと変換されて全身から稲妻がスパークする。
髪の色は金と前髪の一部が青く光るツートンカラーになり、瞳色は闘気の影響で金色に変色する。
ギリシア神話の天空神を象徴する最強の武器の名を冠する現時点でのアヤカの最強形態。
雷霆モードの省エネ状態だ。
体に負荷がかかりすぎる雷霆モードを暴走させるよりもスタミナを温存できる。
「一気に決着をつけてやる!!!!!」
雷気なら攻撃が通じるのは証明されているのだ。
これならば倒せる。
「どっからでもかかってこいや!!」




