40 日の国では亜人は生き辛いのです(※アヤカは例外とする)
アヤカは山賊たちを相手に無双していた。
一人で山道を歩くか弱い女を襲わない賊がどこにいる。
しかし彼らが襲ったのは、か弱い女などではなく、世界最強クラスの力を秘めた女傑だった(※人格は査定に入らないとする)
「ヒャッハー!! 向かってくる奴は敵だ!向かってこない奴も敵だ!」
世紀末の雑魚の鳴き声を上げて素手で甲冑を着こんだ敵を屠る絶対強者が一匹。
その強者に立ち向かうのは数十人の弱者。
勇敢に戦おうとも、策を練ろうとも、数十匹の虫けらごときが一匹の怪獣に敵う筈がなく、その戦力差は歴然としていた。
「畜生めが!! この女強いぞ!!」
「数で押し潰せ!! 殺せ!」
「こんな目に遭うなんて聞いてませんよ! 僕はもう抜けます!」
「あっ、こら逃げるな!!」
「奥義〝雷鳴斬〟」
雷光の速さの足刀による衝撃波の刃で賊の首をまとめて刈り取る。
逃げようとする者、向かう者、降伏したがる者。
アヤカに怯えてたまたま伏せていた一人を残して全ての盗賊たちの首が重力に従い、するりと落ちて噴水のように血が噴き出す。
首が地面に落ちる前には、その場から犯人であるエルフの姿と運悪く生き残った盗賊の姿は消えていた。
「古竜と闘りあった後だと、やっぱり物足りないわねー」
小脇に生き残りを抱えてぼやく。短く切り揃えた黒髪の若い女だ。年はアヤカと同じか、少し幼い程度だ。
背もアヤカよりも低く、並んでみれば頭はアヤカの肩くらいの位置につくだろう。
賊の面子では唯一の女で、他の男たちよりも背が低かったことがアヤカの断頭技を回避できた一因だったのだろう。
大きな黒い瞳はアヤカへの恐怖で揺らいでいた。
「あんた、僕をどうするつもりなんだ?」
「は? なにタメ口聞いてるの? 殺すよ?」
冷たい目で賊を睨む。
座りこむ賊を見下ろすその青い瞳には、慈悲の心を一切感じさせない無機物的なものがあった。
「っっっ!!」
この賊、元々は親分肌の男に強引に引き抜かれた小心者だった。
そんな者が古竜とも対等以上に戦うアヤカの絶対零度の視線と殺気に勝てる道理はない。
「どうするつもりなのでしょうか?!」
無条件降伏以外の道はない。
「じゃあこの国案内して♪」
花も恥じらうような天使の微笑み。
但し、この女には悪魔に見えた。
◇
賊の女を手下にして町へ案内させていると、再び野盗に襲われた二人。
今度は先程よりも数が多い。
「またまた囲まれたわね」
「どうして僕ばっかりこんな目に合うのさ………」
町へ行く途中で、またしてもそこら辺の盗賊たちに襲われたアヤカと女賊。
女賊は自らの不幸体質を頭を抱えて嘆いていた。
「ヒヒヒ、いい子にしてれば痛い目には合わないぜ?」
手に持った武器に舌なめずりをする男の武装は刀と槍、新品そうな真新しいボロを着ている。
売ればそこそこの値段になりそうな、一目で分かる頑丈なつくりのいい武器だったが、アヤカはウゲッとうめく。
「(こいつの武器、気持ち悪いからもういらないや)」
この男たちの武器を売って金に変えようと思っていたが、いい歳こいたおっさんのよだれのついた刃物など清純な乙女であるアヤカには持てない、というか持ちたくない。
「なかなか顔も体もいい女たちだ……ぶげ!?」
「さっさと去ね!!」
最期まで言わせない。言わせてあげない。
その男たちから命と有り金とボロを奪い、アヤカはボロを纏ってから町へ繰り出すことにした。
グルメを満喫したいなら、騒ぎを起こさないに越したことはない。
「速く来なさい。 殺すよ?」
「えええ?! ちょっと待ってくださいよ~!」
恐怖を煽ってくるアヤカを、半泣きで追いかける女賊だった。
◇
日の国にはエルフ、ドワーフなどの亜人は伝説の中にしか存在しない。そして、亜人はかつて人間を支配し、奴隷化していた悪の化身としておとぎ話で語り継がれて、恐れられている。
亜人が見つかり次第、町民は逃げて兵士たちが狩り殺しにくるこの国では文無し、職無し、コネ無し、学も無しのエルフ耳付きのアヤカが暮らすのは少々過酷な場所………アヤカに限ってはそうでもなかったが。
「これで、変装完了!!」
ドヤッと幻聴的効果音が聴こえてきそうなドヤ顔。
闘いでところどころ穴だらけ、泥だらけになったボロボロの普段着の上からボロを羽織って耳を隠したアヤカだったが、フードが大きすぎて隙間から尖った耳がチラリと見えていた。
全くもって完了じゃない。むしろ目立つ分バレる。
繰り返すが、この国は亜人に容赦はしない。
そして、亜人と共に行動する者にも。
賊の女としてもあまり嬉しくないチラリズムだったので、必死に注意する。
「いやいやいや、それで隠したつもりなんですか~?! バレバレじゃないですか~!! 僕がちゃんと取り繕って上げますから脱いでくださいよ!!」
いつ殺されるかもという恐怖でおどおどしながらも、アヤカのボロのサイズを合わせる女。
その女の背中をジッと見つめてアヤカは考える。
「(なんで女なのに一人称が〝僕〟なの? これが僕っ子ってやつなの? 初めて見た……)」
とてつもなく下らないことを。
「(ずっと見られてる……。 集中できないよ……)」
背中を刺す視線。視線に殺傷力があれば、自分はとっくに死んでいると女は感じた。
仲間……というか腕力を笠に着ていびってくる連中を殺した相手に見張られながらの縫い物というのは、とてもとてもスリリングな体験だ。
「(神様……もう楽して稼ぎたいとかわがまま言わないから、どうか、どうか僕をお助けくださいぃ)」
人生で最高に、最低に生きた心地がしない中で、女は作業ミスをしないように願うばかりだった。




