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伝説の女武術家が美少女エルフに転生したらこうなる  作者: コインチョコ
プロローグ
4/58

3 経験積みます



アヤカは教会でお爺さんとお婆さんの無事を祈った。


この教会で働いているシスターさんが祈りを捧げているアヤカを見つけた。


「アヤカちゃん。 今日は何かしら? 修行の一環?」


「ブラッドさん家のお爺さんとお婆さんがゴブリン退治に行ったから、無事を祈ってるのです」


「そう、モンスターは皆の問題だものね。 私にも祈らせて」


シスターが隣で祈り始める。


職業柄、毎日やっているだけあって、中々様になっている。


「我らが大いなる神よ。 どうか敬虐なる我らの隣人をお守りください」


「ください」


シスターの台詞に合わせて取り敢えず言っとくアヤカ。


「ふふっ」


「(……目を合わせちゃダメ)」


微笑ましそうにシスターに見られたがその視線は無視した。


ほのぼのしていると、村の若い男が息を切らして教会に駆け込んできた。


「シスター!! 大変だぞ! ブラッドさんたちが!」


汗を流し、肩で息をする男に水を差し出しながらシスターは落ち着かせようとする。


「落ち着いてください。 なにがあったんですか?」


「ブラッドさんたちがゴブリンに捕まっちまったぞ!! しかもゴブリンどもがこの村に攻めてくる!!」


「なんですって!?」


「お爺さんとお婆さんが!?」


男の話によれば、ゴブリンたちはもう村のすぐ近くまで来ているのを森で木を斬り倒していた男が見てたという。


男は村中にこの情報を報せるために息をつく暇もないまま教会を出ていった。


シスターは自分を抱き締めて震えていた。


「あぁ、そんな。 怖い。 怖いわ」


この村はなにもないが、平和なのだけが良いところだった。

しかし今、その平和が崩れようとしていた。

恐怖しているのはシスターだけじゃなかった。

大勢の村人たちが、避難所である教会に詰めかけて、不安そうにしていた。


アヤカもこの村はどうなるのか、お爺さんとお婆さんはどうなっているのか不安だった。


「(でも、これってチャンスじゃない?)」


だが、前世から続く闘争本能がそれを上回っていた、


モンスターの方から村に攻めてくるのならば好都合。


自分から行くのは周りが必死になって止めるが、相手から来るのであれば、誰も止めないだろう。


周囲を見渡すと、まだ避難していない者がいた。

この村は小さい。村人全員が顔見知りだ。

ここに来ていない顔ぶれといえば………。


「私、スタローンさんの様子見てくる!」


「あっ、待って! アヤカちゃん!」


我に返ったシスターが制止する声を無視して、アヤカは走り出した。


目的地はジルの住む家だが、もしゴブリンがいたら倒してしまっても構わないのだろう?と考えていた。


アヤカにとって幸運なことに、この村にとっては不幸なことに、都から騎士団の応援を呼ぶのには一週間はかかる。


その間、村人たちだけで村を守らなければ行けなかった。


「あ、いた」


見つけた。ゴブリンだ。

手にはナイフを持っている。

分散して行動しているのか、一人だけだ。


これは都合が良い、とアヤカは思う。


「死ねぇ!!!」


「ぐぎゃ!」


掛け声を上げて首に足刀蹴りを見舞う。


ボキッと固いものが折れる音がした。

その音は前世で何度も聞いたことがある。骨が折れる音だ。

ゴブリンの首の骨を一撃で蹴り折ったアヤカは、思った以上に歯応えがなかったことにガッカリしたが、ジルたちの無事を確認するのが先だと急いだ。


途中、何匹かで動いているゴブリンを見つけたが、全て殴り倒した。


「ジル! ヴェスタ!」


ジルの家の玄関を蹴破り、家族同然の付き合いをしてきた人たちの名前を呼ぶ。


「アヤカ! どうしたの?」


「ゴブリンが村に来てるの! 早く教会に避難して!」


「え? モンスターが村に来てるの? え?」


「なにも聞いてなかったの?」


「うん、私ヴェスタとお昼寝してたから」


「あー………」


親友のマイペースぶりに驚かされながらも、不安の種が一瞬で消し飛ぶアヤカだった。


「じゃあ、私に着いてきて。 教会まで守ったげる」


「うん、ありがとうね」





周囲を見渡すジルとアヤカ。

二人の周りは緑、緑、緑。緑一色だ。

その全ては森からやってきた小さいやつらだ。

ヴェスタはジルに背負われて寝ている。


「で、なんでゴブリンの群れの中にたどり着くのかな?」


「さあ、なんでだろう?」


「なんでだろ? じゃねーーーーよーーーー!!!!」


「落ち着いて、ジル」


なんとかあやそうとするアヤカに、ジルは掴みかって叫ぶ。


「落ち着いていられるかーーー!!! モンスターに囲まれてるんだぞぉぉぉぉ!!!」


「私がなんとかするから!! 守るから!」


これはジルの言い分に理がある。

「避難所に行こうとしたら、モンスターに囲まれてました」では、方向音痴の親友を恨みたくもなる。


しかもその元凶が状況を楽しんでいるなら掴みかかるのも当然だった。


「だってアヤカさっきから笑ってるんだもん。 頭が壊れてるよぅ」


「え、笑ってないよ? 楽しんでるだけ」


「そ、れ、を! 笑ってるっていうの!!」


もはやモンスターそっちのけで漫才すら始めている二人に、緑色の小さいやつらは一斉に襲いかかる。


「「「ガァァァァァ!!!」」」


「ひっ、来たぁ!!」


「よっしゃこい! どんどんこい!! いくらでもこい!!!」


「なに楽しんでるのよぅ!!」


ジルを庇うために前に出るアヤカ。そのアヤカに仲間を四体も殺されているゴブリンたちのヘイトは集まった。


「ギギギギギギ!!!」


「おらぁ!! ギブアップしろぉ!」


一体にアルゼンチンバックブリーカーを決めてすかさず背骨をへし折り、全力投球!


肉の砲丸と化したゴブリンは何体も仲間を巻き添えにしてミンチよりひでぇ状態となって死んだ。


その様子を見て、ゴブリンたちはますます怒り狂う。


「グギャァァァァァァァァァ!!」


「こいよ!! 勝つのは私だ! 強いのも私だ!」


凡そ七年ぶりの戦いと血の匂いの高揚感に酔いしれるアヤカ。

血に酔い、暴力に酔い、殺しに酔う。

戦闘に置けるありとあらゆる感覚に酔って、楽しんでいた。


しかしどんなに楽しくても、夢中で戦っていればいつかは終わってしまうもの。


学生がいつまでも遊んでいたくても、そうはいかないのと一緒だ。


時が過ぎ、アヤカがクールダウンして冷静さを取り戻した時にはもう敵はいなくなっていた。


ジルが涙目からギャグみたいな泣き方をしている。


「うぇぇぇぇん!! 怖かったよーー!」


「よしよし。 もう大丈夫だからね」


座り込んで泣きじゃくるジルの頭を優しく撫でてやるアヤカ。

小さい子とお母さんみたいだな、と思っても口には出さない。

それを言ったら更に拗れそうだから。


「アヤカーーー!」


安心したのか、アヤカに抱きついてくる。


「ジルーー!」


気分も良いし、たまには悪くないかとアヤカも抱き返す。


二人の周りには、ゴブリンの亡骸が大量に転がっていて、駆けつけた大人たちに「アヤカが倒した」とジルが説明したときにはひどく驚かれたが、ゴブリンに殺られたんじゃないかと心配されていたブラッドさん夫婦がゴブリンの巣から普通に帰ってきたことで話題はそっちに持っていかれて終わってしまったが。


日が経って落ち着いた頃合いにアヤカは問う。


「で、お婆ちゃんとお爺ちゃんはなにしてたの?」


ブラッドさん夫婦はこう答えた。


「ゴブリンども倒したあと、ちょっとばかし昼寝をしててな」


「もうあたしらも歳かな」


存外図太いところがあるアヤカでもこう思わざるを得なかった。


血生臭いところでよく眠れるな、と。






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