33 森林竜 中編
神樹の森に着いた二人。
主に樹齢千年を越える大樹で構成されたこの森は、青銅竜の加護により、人の手が加えられずに壮大な自然がありのままの姿で何千年もの間保たれてきた。
大樹は一本一本が十人のアヤカが手を繋いでようやく囲めるぐらいの太さだ。
それが数十万本存在する森の規模はアヤカの想像を絶するものだ。
アヤカは前世含め、今まで見たことのない巨大な森に圧倒されていた。
「ここが森林竜さんの家ね。 すごく、大きい」
「一応は気をつけるのだぞ。 ここは高位モンスターどもの巣でもあるのだからな」
「わたしを誰だと思ってるの? わたしはアヤカ・ローレライ様よ!」
「フラグ乙なのじゃ」
三下小物にありがちな敗北フラグだが、その後、アヤカは自分で建設した敗北フラグなどものともせず、遭遇したモンスターたちを蹴散らしていくのだった。
「あっはっは! あんたら弱すぎでしょ! ミステリアだけで充分じゃない!」
「……一応こやつらはA級冒険者数人がかりでなければ倒せぬのだが」
そのどれもが竜種に匹敵するほどの強者揃いだったが、ミステリアとアヤカの敵ではなかった。
敵の屍が積み上がっていくなか、アヤカは歯ごたえのなさに大笑いした後、ため息をつかざるを得なかった。
特にオスのモンスターには「お前らタマついてんのか!」 と叫びたい気分だったという。
「はぁ、てんで話にならないわね。 ホントにここに森林竜がいるの?」
「ああ、お主の〝気〟の技術では我々古竜の気配は感じとれぬだろうが、私たち古竜だけが分かる気配が近づいている。 もうすぐじゃよ」
「だといいけどさ」
思った他にモンスターが弱すぎて、気分が落ち込みそうだったが、ミステリアの話を聞いて持ち直した。
もうすぐ目的の青銅竜、通称〝森林竜〟に会えるのだ。
クリスマスにサンタクロースが来るまで起きようとする幼い子供のように、今か今かと待ちきれない。
「ひゃあ! もう我慢できねぇ!!」
言い出すや否や、アヤカは走り出す。
「おい!? 行く宛ても知らんだろうが!」
ミステリアも慌てて走り出す。
二人の足は音よりも速い。
衝撃波が発生するほどの速度で走り回っても、この森の鉄よりも頑丈な木々はびくともしなかったので、今までのような自然破壊は防げた。
「それにしても、ここの木って頑丈だね」
「ここの大樹は大地から砂鉄を取り込んで、金属質に変化しているこの土地固有の変異種じゃ。 加えてこの太さ、お主でもへし折るのは厳しいだろうな?」
ニヒルに笑い、アヤカを挑発する。
「はんっ。そんな見え透いた挑発には乗らないわよ。 わたしだってそこまでバカじゃないからね」
「頭が足りぬのは自覚していたのか……」
「うっさい!!!」
哀れむような目で見られてアヤカは怒る。
ここで森を壊して森林竜を怒らせれば戦ってもらえなくなるのは、さすがの脳筋アヤカでも分かっていた。
ミステリアが何を思ってそんな挑発を仕掛けたのかはアヤカには理解不能だったが尻を一発蹴っておいた。
悦んでいた。解せぬ。
◇
「森林竜さーん! いませんかー?!」
「そんな呼び方じゃあやつは出てこぬぞ……」
大樹の森の深いところまで入ってきたが、一向に青銅竜は姿を見せない。
ミステリアは近くだ、近くだ、と言い張るが、アヤカのもともと弱い忍耐力ではこれ以上の我慢を強いるのは難しかった。
「……しょーがないのう、赤子なのだからな」
「あぁ!?」
小声で呟いたことも、感覚も鍛えられたアヤカの地獄耳ならよく聞こえる。
常人の足で歩いて数日離れた場所のヒソヒソ声すら聞き取れる耳なのだ。すぐ近くで呟かれた陰口言葉など、面と向かって言われているのと大差ない。
「ミステリア、あんた最近調子こいてない?」
「気のせいじゃよ」
「あ、そっか~。 わたしの気のせい……ってそんなわけないでしょーー!!」
金髪エルフの絶叫で大地をひび割れ、大木を揺らす。
「あんたね!! いい加減他の古竜と会わせてよ! わたしはもう誰でもいいから強いやつと戦いたいの! なんならあんたでもいいわよ! ほら、こいよ! リベンジマッチとかしたくないの!?」
「急かすな!喚くな!!騒ぐな!!! あやつはなかなか初やつで、女慣れしてないのじゃ! 恥ずかしがりなんじゃ!」
「思春期の人間くさいわね、そいつ」
「うむ」
世界で最も古い超越者たる古竜の意外な一面だった。
「で、今のペースなら後どれくらいなの?」
「あと、一日あれば向こうから出てくると思うんじゃが……」
「どんだけ繊細なのよ、そいつ」
「あやつは昔から大人しいやつだったからのう……」
「ホントにそんなやつが強いの?」
「強いぞ。 鍛えるのが趣味だったからな」
「わたしみたいに?」
「そうだ。 今はどれだけ強くなってるか、私でも想像がつかぬわ」
「いいわね、ますます楽しみになってきたわ!」
後一日の間、アヤカは座禅を組んで瞑想でもして待つことにした。




