32 森林竜 前編
アヤカとミステリアは天狗を連れてレイナの元へ帰還した。
「こいつが例のモンスターよ」とアヤカ。
ふん縛って簀巻きにした天狗を踏みつけて遊んでいる。
天狗の悲鳴が耳に心地好いようだ。
レイナは楽しそうにモンスターをいじめるアヤカを見て「うわぁ……」とうめき、ドン引きしている。
「これこれアヤカ殿、レイナが引いておるぞ。 第一、捕虜への虐待はさすがに私でも引くぞ」
「うん、じゃあ止めるわ。 十分楽しんだし」
大分ケロっとしている。頭おかしい。
藩主レイナは後に、その青い瞳に無限の闇と病みを垣間見たと語る。
「で、では、その天狗を引き渡してもらえば、森林竜の話を聞き出そう」
「あ、もう聞いたから心配ないわ」
「そうだ。 その天狗は煮るなり焼くなり晒し首なり、好きにせい」
「助けるって言ったじゃん! 助けるって言ったじゃん!!」
「喚くな。 わたしたちは助けてあげたでしょ? 藩主さんが助けるかは知ったことじゃないわ」
「騙したなぁぁぁぁぁ!!!」
天狗が歯をむき出して憎悪をぶつけるが、アヤカは意にも介さない。
恨まれるのが怖くて戦争ができるか!という思考の持ち主にはあらゆる脅迫も呪いも通じないのだ。
「じゃ、わたしたちはもう行くわね! いつか一宿一飯の借りは返すわ!」
「は、はい。 お気を付けて……」
「(あ、これもう来て欲しくない感じみたいじゃ)」
鈍感アヤカは知らぬ存ぜぬだが、ミステリアはレイナの気持ちを悟った。
言うまでもないが、アヤカは感性が普通の人よりもかなりずれている上に、自覚していない分取り繕うこともない。
ので、比較的まともな感性の持ち主には関わりたくねーなこいつと思われて距離を置かれることが割りと多い。
アヤカはクソバカなのでその事実に気づかないし、気づいても気にしないタチなのでなんの問題もなかったが。
「……私も案外好き者なのじゃな」
そんな相手に忠誠心を持ってしまった自分に辟易したが、それも悪くないと思ってしまっている。
「なに? どうしたの?」
「なんでもないぞ。 はやく森林坊主に会いに行こう」
「なにその呼び方!?」
ミステリア(ドラゴン形態)に乗ってアヤカは飛んでいく。
藩主の屋敷も瞬く間に地平線の果てへ消えていった。
「……嵐のような人たちでしたね」
「ええ、そうですね」
ポツンと残されたレイナと付き人の会話が空に解けて消えた。
◇
「ヒャッハーー!! 空の旅はやっぱり良いわねー! フーー!!」
一日空から離れただけでかなりハイテンションになるアヤカ。
基本、その場の勢いと気分で生きているアヤカは一昨日まで空の旅に飽きていたことなどとっくに忘れた。
テンション高すぎてミステリアもあきれた。
「(強烈なヤツを打った薬中患者かのう)」
アヤカのいた世界に気持ちよくなれる違法の薬があったように、この世界にもそういう薬は存在していた。
不運にもそういうものを入手してしまぅた者の大半は無知、無学からくる危機意識の無さでデメリットを考えずに使ってしまい、廃人化する場合が殆どだ。
薬が原因で小さな国が滅んだ場合もある。
ミステリアは破滅の道を全力疾走する人型種族を多く見てきたがために、アヤカの未来を憂いていた。
「(こやつなら刺激を求めて手をだしかねん)」
アヤカ自身はそんな気は毛頭なかったが。
なにせ、穂坂の方のアヤカはスラム時代に薬で手を染めたことがあったがだけに、薬物の危険さと中毒性はその身で理解していた。
薬物で地獄を見ていたがために、今後はもう二度とやらないと誓っているのでミステリアの決意は空回りで終わっている。
「ミステリアー! 着くまでどれくらいかかるー?」
「あと少しじゃ。 我慢せい、忍耐は美徳じゃぞ」
「わたし我慢苦手なのよねー」
「よくそんなんでここまで腕を磨けたのう」
「わたし、好きなことには全力疾走だからね♪」
数日後、二人は森林竜の住む森〝神樹の森〟へと到着した。
「ねえミステリア、わたし、なんかワクワクしてきちゃった!」
「それイカンやつじゃ!!」




