31 天狗
アヤカたちは虚の祠が祀られる洞窟へと来ていた。
「ここがそうなのね? ミステリア?」
「ここが私が以前眠っていた祠じゃ。 間違いないぞ」
ミステリアのナビゲーションの下、たどり着いた祠はコケが生えているのが年代を感じさせる。
その後ろにある洞窟はやけに入り口が大きく、軍隊でも通れそうだ。
「じゃ、行くわよー!」
「おー!」
拳を掲げて〝光気〟の気弾を洞窟にぶちこむ!
奥の方から獣の絶叫が聴こえ、アヤカはなにがおかしいのか腹を抱えて笑った。
「ええぇぇぇぇ??!? お主なにやっとるんじゃ!!!」
「洞窟に住んでる奴もこれで出てくるかなーと思って」
「今の流れはどう考えても突入の場面じゃったろう?!」
「そのネタはもうやったからいいわよ」
地鳴りのような足音が近づいてくる。気配からしているのは一体。
「あれ? 弱っちくね?」
「気配からして大したことないのう」
まだ会ってすらいない敵を弱いと酷評する二人。
自分たちに強力な光を浴びせた犯人を踏み潰すため、洞窟を出てきたのは天狗らしき人型モンスター。
「お前らかぁぁあ!! 儂らの家に光玉ぶちこんだのはぁあ!!」
天狗が元々真っ赤な顔をもっと赤くしてミステリアに怒鳴る。
「私ではない。 こっちの者じゃ」
「お前かぁあ……。 儂に喧嘩売るとは良い根性しとるわ」
「ねえあなた、一つ忠告してあげる。 この洞窟から出ていって。 私が用があるのはこの洞窟にある青金竜の手がかりだけなの。 それさえ渡してくれたらこれ以上はなにもしないであげる」
「お嬢ちゃん? いきなり光の玉撃っといてそんな言い分通るとでも思ってるのかい? お前が出ていけ、二度と戻ってくるな」
「そもそもここは藩主さんの所有地じゃ。 不法占拠者にとやかく言われる筋合いはないのう」
「お前は黙っていろ……ってお前はぁぁぁ!!」
ミステリアに顔を近づけてガンを飛ばそうとした天狗がアヤカすら驚く速度で後退り、腰を抜かす。
「ひぃぃぃい!! 分かった! 要求は飲む! だから命だけは勘弁してくれぇぇぇぇ!!」
「……なに? あんたすっごい怖がられてるんだけど? あんたこいつになにしたの?」
「私、こいつになにかしたかのう? なーんも覚えとらんわ」
ミステリアは腰を抜かし、なおも逃げようとする天狗を捕まえて話を聞き出そうとする。
「おい天狗よ。 私がお主になにをしたか言うてみい」
「覚えてない……のですか?」
「きれいさっぱり忘れておる。 だから思い出させておくれ」
「………思い出させて、なんてなんかえっちな言い方」
「そこ、うるさいぞ」
野次を飛ばすアヤカを黙らせて、天狗の言葉に意識を向ける。
「昔、喧嘩自慢だった私は調子に乗ってしまい、身の程知らずにもあなた様に喧嘩を売りまして……それで手足を食いちぎられてしまったことがありました」
「そうか! お主、あの時の天狗坊主どもの一人だったか! 私が齧った手足はどうやって生やしたのじゃ?」
「はい、私ら天狗はモンスターでも再生能力が高く、手足くらいならまた生やすことができるのです」
「そうか。 力は大したことなかったが、生命力は古竜並みじゃのうお主ら」
「はは、ありがたきお言葉です」
完全にかやの外のアヤカはたまらず口を出す。
「ねぇ、ちょっといい? 青金竜の居場所の手がかりは?」
「え、あ、洞窟の奥にある宝箱に地図がありましたが……」
「その地図は今どこ?」
「……去年、暖を取るために燃やしてしまいした」
「あ?」
地図を燃やしたと聞いた瞬間にアヤカの目に殺意が宿る。
無意識のうちに膨大な量の〝気〟が氾濫してその熱が周囲の気温は真夏のように暑くする。
アヤカの怒りを買ったことに恐れをなした天狗は青金竜の居場所を書いた地図を燃やしたことを心から後悔した。
その指が拳という原始的で最強の凶器を作り出し、ゆっくりと構えられた。
それが放たれたら待っているのは確実な死だということを本能で察した天狗は走馬灯の中に解決策を必死に見出だした。
「地図の内容ならば覚えております!!」
打たれた拳は顔面スレスレで止まった。
〝気〟と拳圧によるダメージで高い鼻が折れたが、死ぬのに比べれば大したことはない。
「じゃあ案内してね♪」
天使のような悪魔の微笑みに、ただ額から冷や汗を流しながら壊れた人形のようかな必死に頷く天狗だった。




