29 藩主は鬼らしい
「勝ったー!」
死屍累々の村人たちの山を踏みつけ、アヤカは笑顔のまま勝利のピース。
「まさか本当に殺るとはのう………」
殺してこそないが、向かってくるもの全てを叩き潰すアヤカの容赦のなさは、ドラゴンでも引いた。
ミステリアがドン引きしている傍ら、アヤカはまだ意識のある若い男の首根っこを掴み、思いっきり揺さぶる。
「ほれほれ! これがいいんだろ! これが効くんだろ!」
めっちゃノリノリだ。
「よせ! 本当に死んでしまうぞ!!」
ミステリアは見ていられなくて止めに入る。
若い男を哀れんでのことではない。
アヤカがこの国で人殺しになるのを許容していないからだ。
この国は文明レベルこそ低いが、ハイマンズ王国よりも治安が良く、治安維持機構の練度、能力は高い。
そして、一度指名手配されたら最後、その手配書は瞬く間に国の隅々まで広がっていく。
つまり、この日の国では衛兵を敵に回したら生きていけない。
アヤカはそれをやろうとしていた。
その理由を直接言わないのは、アヤカならあえて困難な道を進むために、自分から衛兵を敵に回そうとするからだ。
ミステリアは、アヤカなら絶対にやると確信していた。
ミステリアとしては、アヤカがこの国で大勢の人間を敵に回すならそれはそれで祭りを楽しめるので良かったが、こんなくだらないやり方では喧嘩もロクに楽しめない。
どうせなら、もっと派手にやりたかった。
「ま、良いわ。 で、あんた森林竜ってやつの居場所知らない?」
「お、俺はそんな伝説、信じちゃいねえよ。 そんなおとぎ話信じるのはバカとガキだけだ………。 ま、お前は前者みたいだが……な」
「な、ん、だ、と~~~!!!」
「よせと言っておるだろうが!!!!」
バカと呼ばれて、頭に血が上ったクソバカは危うく男を殺しそうになったが、ミステリアの剣幕に怯み、理性を取り戻した。
「おおっと、危なかった。 ありがと、ミステリア」
「よい。 では次は私から質問しよう。 お主らの藩主はどこだ?」
「ハンシュってあの藩主? 時代劇みたいね」と思うアヤカだった。
茶々を入れることは自重した。
「はんっ。 そんなの聞いてどうする? 藩主様の元に殴り込みでもかけるのか?」
「いいや。 この辺の土地には代々私と繋がりがある一族が藩主を勤めている。 私の顔を見れば、すぐさま話を通してくれるさ」
「あんたがか? そりゃあ傑作だな!!」
ハッハッハ!と大笑いする男。
アヤカ一人に歯が立たずにやられたこの状況で、まだ二人を挑発しようとする神経の太さはアヤカも内心「敵ながら見事な胆力ね」と称賛していた。
「いいぜ、つれてってやる。 そんでもって殺されてこい! この土地の藩主様は鬼だ! お前ら程度じゃ潰されて捨てられて終わりだぞ!」
鬼という単語に、アヤカのテンションが一気に上がる。
「オニ! オーガね! あの言わずと知れた妖怪の鬼! それは会うのが楽しみね! ね、ミステリア!」
「そ、そうだな」
私、会ったことあるのにはなぁ、とミステリアは歯切れの悪い返事をする。
結論から言って、藩主は鬼ではないのだから。
ただ、鬼のように強い血筋が藩主として勤めているだけだ。
ミステリアは昔会ったその女性の血脈がどれだけ強くなったかに興味があった。
彼女はミステリアのことを子孫代々に残してきたはずだ。
ミステリアが戻ってきたとき、歓迎するようにと。
だが、それを言ってしまうと、アヤカの機嫌を損ねてしまうかもと思い、言い留まった。
しかし、これだけの騒ぎを起こしてしまえば、いかに旧知の仲とも言えど、ただでは済まぬかも知れぬ。
それだけが心のしこりとなったが、アヤカだったらそんなトラブルさえも楽しむだろう。
「アヤカ殿、わたしが背中に乗せて案内できるぞ。 この男は不要じゃ」
「あっそうなの? じゃあ寝てろ!」
寝てろ!と言いつつも男を殴り、気絶させる。
「じゃ、行こうか!」
『ここから東に半刻ほどだ。 瞑想でもして待っておれ!』
ミステリアの背に乗り、アヤカは東の空を見つめるのだった。




