21 ラン、ゴーホーム
「くっさいなー! もう!」
「スンスン………匂いが付きそうなのじゃ」
「わたくし、今まで恵まれていたのですね………」
下水から出た三人は口々に愚痴や文句を言う。
年頃の少女たちに下水の匂いは相当堪えたようだ。
「あんたのお父さん頑張りすぎでしょ! おかげで間違いなくわたしの人生で最悪の体験をしたわよ! どうもありがとう!」
「わ、わたくしのせいではありませんよっ!」
「それは八つ当たりではないかのう、アヤカ殿」
キレる若者代表であるアヤカは親の因果が子になんたらと、ランに当たる。
さすがに度がすぎると、アヤカ信者のミステリアもアヤカを諌める。
ランとミステリアはそれでもキレるアヤカをどうどうと宥めながら街へ向かったが、途中で湖に寄って体を洗うことにした。
下水の臭いをしたまま人口密集地に行くのは乙女のプライドが許さなかった。
衛兵に裏の連中を引き渡す前に体を洗う。
女子力皆無のアヤカも含めて満場一致の可決だ。
「ふうー。 生き返るー!」
湖で裸になって泳ぐアヤカ。
不思議な光で局部は見えない。 というか、ミステリアが光魔法で隠していた。
「少しは恥じらいを持て!」
「女同士でなにを恥ずかしがるのよ。 あんたも泳げばいいでしょ」
ミステリアの小言も馬耳東風と右から左へと受け流す。
近くに気絶させた男たちを転がしているので、ミステリアの言うことが正しい。
ミステリアは彼らが目を覚まさないことを祈っていた。
覚醒した瞬間に意識を刈り取る用意は出来ている。
最強エルフとブラックドラゴンがこの場にいる時点で彼らに逃げられる心配はないが、女の子の尊厳を失ってしまうかもしれないからだ。
「少し水が冷たいですね」
「そう? わたしは丁度いいけど」
そんなこんなで街に入る前に綺麗に臭いを落とした三人は、エルフガイムに戻っていった。
ランの誘いでしばらくの宿はランの実家の屋敷に泊まることとなった。
曰く、「命を救われたお礼です」とのことだ。
アヤカとミステリアも、初日に考えなしに路銀を使いすぎて財布が軽くなっていたのでありがたい申し出だった。
ここは素直にお言葉に甘えることにした二人だった。
すっかり夜になった街中を歩いていると、アヤカはふと大切な用事………でもないようなでも大事なことを思い出した。
「あ、そうだ。 今日のクエスト、ギルドに報告するの忘れてた。 先に寄っていっていいかな?」
「なんじゃ、以外と真面目じゃのう。 私だったらそんなつまらぬこと気にせんぞ?」
意外とズボラな所があるドラゴン。
「はい! 全然よろしいですよ!」
ランは快く承諾してくれた。
「んじゃ待ってて」
ランの了承を得られると、アヤカは軽くジャンプして屋根伝いにギルドに向かった。
アヤカのような超人はこの辺りでは珍しいのか、その移動方法は結構人目を惹いていた。
ミステリアとランは屋台の食べ物をなけなしのお金で買い食いしながら談笑しつつ、少しだけ待つと超人エルフは帰って来た。
「おまたせ!」
「もう少しゆっくりしていても良かったのだがな」
「屋台の食べ物って美味しいですね!」
串焼きを頬張っていたランはの食べ物を運ぶリスのように頬を膨らませて言った。
「お主はもう少し遠慮しろ」
ミステリアの金で食う飯は旨いのだ。
◇
約一名、空腹のままだが、腹も満たされたのでランの屋敷に向かうこととなった。
「ここがわたくしのお屋敷です!」
えっへん、と腰に手を当てて胸を張るランの背後には大きな豪邸がある。
門には金メッキが塗られており、建物は豪華な三階建て。
部屋はどれだけあるのか、田舎者のアヤカには検討もつかない。
ただ、すごく大きな家だとは思った。
「ホントにすごい家ね。 わたしの一軒家とは大違いだわ」
その家も破壊されたが。
「私は家すら持ってないぞ!」とミステリア。
ドラゴンなのだから当然だ。
「では入りましょうか。 我々のお召し物の用意もさせておきます」
「あ、恐れ入ります……」
「私は黒い服がよいぞ」
色々あって汚れた服を召し使いが用意した服に着替えた。
アヤカが今まで着ていた安物の服とは大違いの着心地も動きやすさも抜群の服だ。
素材は普通の布じゃないらしい、召し使い曰く、魔法で加工された特別な布だとか。
着替えた二人は客用の部屋へ案内された。
ベッドは二つ。 木で出来た椅子と机があって食事も出来る。
この世界では珍しく、シャワー、風呂と水洗トイレまで完備されていて豪華なホテルのような部屋だった。
何気に転生してから水浴びしか出来なかったアヤカにとって、温かいシャワーは嬉しいことだった。
どうやって水を温めているのか気になったが、恐らくは例の魔鉱石とやらだろう。
魔力って万能だね。
アヤカはそう思った。
「残念じゃ………」
ベッドが別々なのを見て、ミステリアが膝をついて項垂れるのを無視してアヤカは寝具に潜り込んだ。
腹の減りは奥義〝捨食〟で自然の〝気〟をたっぷり食ったことで収まった。
もう寝るしかやることはない。
目を閉じるとあっという間に睡魔が押し寄せてくる。
いかに鍛えられたアヤカでも、こればかりはどうしようもない。
「アヤカ殿、褥を共にしても良い……っあん!!」
「一人で寝ろ!!!!」
毛布に入り込もうとする変態を黙らせ、今度こそ眠りにつく。




