18 刺せるものならやってみな!
気絶したアヤカの両脇をしっかりと抱えてランは引きずる。
細身に見えてしっかり鍛えられたアヤカは以外と筋肉質で重い。
具体的な数字は乙女の秘密情報だが、ナイフとフォークより重いものをもったことがないランが運ぶには厳しいとだけ言っておこう。
「ローレライさま重いですぅ……」
ランの体力の無さと、以外と重いアヤカの体重は移動にはかなりのハンデになる。
非力なランではアヤカを抱えては遠くには行けない。
逆にアヤカがランを抱えれば直ぐに遠くに行けた。
そうやって王都に逃げるという選択肢もあったように思えて、アヤカの中にはそんな選択肢など無かった。
戦いたがりのアヤカは、如何なる理由でも敵に背を向けることはプライドが絶体に許さなかった。
そうやって選択を自分で狭めた結果、護衛対象を危険に晒しているのだからアヤカは致命的に護衛には向いてない。
壊し屋や殺し屋、傭兵なら天職だろうがアヤカはそんな汚れ仕事は拳法家の誇りに掛けて決してやらない………やっぱりやるかも。
アヤカならやる。
「ダイエットは女の子の嗜みですのにっ!」
大切に育てられた温室育ちの女の子に腕力を期待するのは酷だが、ツインドリルお嬢様エルフは自分の腕力が無いのを棚上げした。
◇
影でアヤカたちを監視していた男たちは絶好のチャンスが到来したことを心から喜んだ。
あのドラゴンのように化け物染みた訳分かんない強さのエルフは気絶している。
仲間の魔法使いに体調や状態異常のチェックをするために使う診断魔法での判定させても、完全に意識はオチてると出ている。
魔法は魔法でしか欺けない。あのエルフたちは魔法など使えないぬるま湯育ちのお嬢様と、脳みそまで筋肉の貧乳しかいない。
あれはひっかけの演技ではないと結論が出した。
「行くぞ。 今がチャンスだ」
「おう! おう! おう!」
「早くやりてぇ~!」
「一回でいい!」
「おう!」
―――こんなやつらで本当に大丈夫か?
暫定リーダー役の男性エルフは切実にこのメンバー全員変えたいと願った。
二人がいる路地裏に入り、逃げられないように裏道も塞いでおく布陣を整える。
「ラン・ゴールド・シュミット。 てめぇの親父に恨みがあるし、金を貰えるから死んでもらうぞ」
悪者なのに素直。本当はこの仕事向いてないのかも。
「もし、ローレライさま! 起きてください! 敵が来てます!」
ランは男たちが見えた途端に命の危機を感じて取り乱し、唯一の希望であるアヤカを起こそうとする。
顔を叩いたり、肩を揺さぶったり、顔を叩いたり、顔を叩いたり、顔を叩いたり。
アヤカの白い頬に赤い手形ができるまで秒読み段階だ。
「起きて! 起きて! 起きてください! わたくし殺されちゃいます!」
必死にアヤカを起こそうとするが、かなり深くオチてるのか全然起きる気配がない。
「あぁ、来ないで………来ないでください」
ガタガタ震えて小さくなって命乞いをするラン。
今までは令嬢として愛されて守られて育ってきたランにとって、向けられる剥き出しの悪意と殺意は耐え難い恐怖だ。
「じゃ、死ね」
リーダーの男が振りかぶったナイフを振り下ろす。
「ひっ」
悲鳴を上げることさえできなくなったランは、涙を流す目を固く閉じて、次の瞬間に確実に襲いかかる痛みと死から逃げようとした。
………。
………………。
…………………………。
いつまで待ってもなにも起きない。
起きて欲しいとも思わないが、不思議に思い、勇気を振り絞ってゆっくりと目を開く。
眼前に迫っていたナイフを止める白く、華奢な綺麗な手が見える。
その手の持ち主は………。
「大丈夫?」
「アヤカさま!」
悪党たちの悪意と殺意にあてられて、すっかり気力を回復したアヤカがナイフを素手で掴んでいた。
ちなみにアヤカの手の平の皮は繊細そうに見えて、鋼鉄並みの強度を誇っている。
「ふんっ!」
「ナ、ナイフが………!」
「………砕けた」
だから超人の握力と組み合わされば、鉄製のナイフだって素手で握りつぶせる。
「わたしの体は全身が鋼! 刺せるものならやってみな!」
「かっこいいです! 素晴らしいです!」
「やめて」
「やめます!」
軽くコントをして調子を整える。
動揺する男たちに向けて、アヤカ選手はここに宣言する。
「あんたら、わたしが寝てる間にずいぶんこの子を怖がらせてくれたわね! 覚悟しなさい!」
朗報、アヤカ・ローレライ氏による蹂躙劇開始のお知らせ。




