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伝説の女武術家が美少女エルフに転生したらこうなる  作者: コインチョコ
二章 御令嬢ラン・ゴールドシュミット
18/58

16 狙撃されてもなんとかなる件



表街道を歩いて数時間。


日が傾き、夕暮れに染まった街は眠らない夜の宴に備えてますます活気づいている。


表を歩く人の数は昼間よりもむしろ多くなっている。


アヤカとランも手を繋いで動かなければたちまちはぐれてしまうほどだ。


「ラン、手を離さないで」


「はいっ!」


元気のいい返事。美少女二人が手を握って歩く姿は絵になるが、エルフが密集し過ぎて誰も二人に気を配らない。


今この瞬間に裏の連中に暗殺されそうになっても誰にも気取られないかも。


雷鳴拳を努めてからたった十年ぽっちの経歴しかない今のアヤカでは、これだけの人の波では人の気配が多過ぎて敵を感知できやしない。

ランの緩い表情と気持ちとは裏腹に、アヤカの緊張感はますます高まっていく。


「ローレライさま。 今日は十年に一度のお祭りの日なんですよ! わたくし、お祭りとか参加したことないので楽しみです!」


「あんた………状況、分かってる? 命狙われてるのよ?」


呑気に祭りを楽しもうとするラン。

呆れたように突っ込むアヤカ。


「そもそも、あんたの親とかは何をやってるの? どうして命狙われてるのよ」


アヤカの言葉にランは諸事情を思い出したのか、俯いてしまう。


「わたくしの父は、この街の領主です」


「うん。 それで?」


「それで父は、この街の裏社会の方達の横暴に心を痛めており、彼らを一掃するためにある州法をつくりました」


「それはなに? どんなの?」


「犯罪組織との関与が暴かれた方は、この街から問答無用で追放するという法律です。 それで、大勢の裏の人たちが一斉にこの街を追われ、父は裏の勢力から恨まれたんだと思います。 護衛の方たちも、もう殺されてしまいました………」


「そう。 お父さんは正義感の強いエルフなのね。 それと、今はわたしが護衛だから大船に乗ったつもりでいなさい」


「いえ、父は………」


ランが何かを言おうとした時だった。


「危ない!」


アヤカがランを押し倒す。


「え? ええ?」


困惑して照れるランを無視してアヤカは鋭い目で遠くを睨んだ。


視線に乗せられた〝気〟がドッッッ!!と爆音を立てて霞むほど遠くに見える建物の屋根をえぐる。


かなり遠くで一人でいたからこそ、返って暗殺者の気配と殺気を見逃さなかったのだ。


「え? なんですの?」


突然のアヤカの奇行にランは戸惑いを隠せないが、アヤカは至って正気のままだ。


「狙撃されたのよ。 ほら、この毒矢」


アヤカがランに見せた手にあるのは、オモチャのように小さな一本の矢。


アヤカの決して大きくない手のひらで握れる程度の小ささのこの矢ではほとんど殺傷力はないだろうが、この暗殺用の暗器に強力な毒が塗ってあるなら話は別だ。


そんなのを危険なものを素手で握っていいのか疑問だが、アヤカにはどんな毒も薬も効かない。うっかり手を切っても平気だが、ランは違う。


「この毒の匂いからして、即効性の猛毒。 それも生きたまま内蔵がドロドロに溶かされるタイプの毒よ。 これ一瞬で死ぬけど相当苦しむ毒よ。 あんたどんだけ恨まれてるの?」


この世界で目覚めてから、ナモナキ村の人たちから習った動植物の勉強を欠かさなかったのがここで活きた。


これは植物性の強力な毒だと見切りをつけた。


「ま、あんたなら擦り傷一つで即死の毒だったわね」


「お、恐ろしいです」


押し倒され赤くなった顔を今度は青くしてランは震えた。


「ねーおかーさーん。 あのおねえちゃんたちなにしてるのー?」


「ラブシーンの最中よ。 見ないであげて」


小さな女の子が大きな声で自分たちを指差し、その子の母親がとんでもないことを口走る。


アヤカとランは、ようやく自分たちが周囲の注目を集めていたことを知った。


「青春だねぇ」とか、「熱いぜ」とか、「かわいい」とか色々言われてる。

エルフは長寿で繁殖力が弱い故に、人間族以上にそういう人たちへの理解が大きかった。

彼女らの名誉のために言うとランは至ってノーマルだし、アヤカはそういう欲求自体に興味がなかったので、野次馬たちの解釈は正真正銘の誤解だ。


「は、速く離れよっ!」


「………そうですね!」


それでも悪目立ちしたことは事実なので、恥ずかしさに顔を赤くしてそそくさとその場を逃げるように離れる二人。


人目を引く公の場所で派手なことをし過ぎたと、アヤカは少し反省したという。





しばらく歩いて少し屋台と人通りが少なくなった場所で人心地ついたアヤカはランと今後の相談をすることにした。


「で、これからどうする? 奴らぶっ潰すならボスを探さないといけないけど、それ、あんたのお父さんに頼める?」


「お父様には頼りたくないです」


なんでだよっっ!!と怒鳴りたくなったが、グッと堪えて何でか聞く。


「お父様は今はこの街にはいません」


「いない人には頼れないわね。 今どこにいるの?」


「仕事で王都ハイマンにいます」


遠いな、と口の中で舌打ちする。

エルフガイムから王都ハイマンはアヤカの豪脚でも往復二日はかかる距離だ。


なにせエルフガイムはナモナキ村よりはマシだが、ハイマンズ王国の端っこの辺りにあるのだから。


対して王都ハイマンは国の中心。すなわち、大陸の中央にあるのだから。


二日間もランをこの街に放っとけば半日も経たずに殺されてしまうだろう。


ミステリアがいれば、と思ったがアヤカだったが、そもそも彼女はドラゴンだ。アヤカ以外の存在にはその生命にすら興味を持っていない節がある。

それはミステリアが特別冷たいのではなく、ドラゴンがそういう超越的な種族なだけだ。


「二日で良いんですね……、」


ランが引き笑いを浮かべるが、アヤカはこれでも遅いと思っている。

ホサカアヤカなら一時間あればそれで十分だからだ。


改めて前世の自分がどれだけ規格外なのか思い知ったアヤカだった。


「あんたのお父さんにはどっち道頼れないから、わたしが一人で奴らを潰すしかないわね」


殺る気満々だとアピールするように拳をぶつけて雷気をスパークさせるのだった。







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