閑話 その頃のミステリアさん
アヤカがランを連れて路地裏で暴れていたのと同時刻。
ミステリアは両手いっぱいに食べ物やスイーツを抱えてエルフガイムお一人様食べ歩きツアーを楽しんでいた。
「美人なお姉さん、良い食いっぷりだね! おまけしてあげるよ」
「ありがとう。 この街の飯は本当に旨いのだ! もっと食べたいぞ!」
「どうもありがとう」
冷たい氷菓子を片手に、もう片方の手で熱辛な漬物を貪るように食っている。
冷たくて甘いものと、熱くて辛い正反対の味がするものを同時に食べる至福の一時を楽しんで、なくなったらお代わりを無限に頼んでいる。
カロリーの過剰摂取による太りすぎが心配されるが、彼女はこの世界の伝説の存在の一つ、黒金竜だ。
ドラゴンの巨体ならば、いくらでも熱量を消費できるのだ。
思えば今までろくなものを食べてこなかった。
「飯? あぁ、腹に納めてしまえばどれも同じだろう」と言って、鉄鉱石や石っころに鉄粉などを振りかけて食べるなどしていた。
生物としておかしい食事内容だが、全身が隅々まで黒鉄で構成されている黒金竜ならこんな食事でも平気なのだ。
五大竜の一つとして鉱物のような生活を送っていた。
そのせいか、この街で味わってしまった味覚の快楽の虜となってしまったのはご愛嬌だ。
それにしても、生きてるのか死んでるのかも分からぬ生活が変化したのはいつ頃だろうか。
なんの刺激もない鉱床の土の中で眠りについていたら、突然、変化が訪れたのだ。
地上にある大きな力の気配。
その気配が気になって目覚めた黒金竜は、その力を辿っていき、たどり着いた先にエルフの女の子を見た。
それは覚醒したアヤカの〝気〟だったのだ。
長い間暇を持て余していた黒金竜は、この面白そうなエルフをしばらく観察してみることにした。
そして、観察してみた結果。
このアヤカというエルフ、エルフにしておくには勿体ないほどの武勇の持ち主だった。
古今東西の武に秀でた自分でも知らない〝雷鳴拳〟という未知の武術を会得した彼女は、モンスター相手に無双状態だった。
数あるモンスターの中でも、ドラゴンは特に戦闘本能が強い種族だったので、例に漏れず、黒金竜も強者との死闘を求めていた。
闘いが好きだ。戦闘が好きだ。殺しが好きだ。殺戮が好きだ。
あのエルフと殺り合いたい!闘いたい!
一度そう思うと、もう理性での歯止めは効かなかった。
その日の夜。
黒金竜は彼女の家に侵入し、アヤカの帰りを待っていた。
そして負けた。手も足も出なかった。
竜種である黒金竜は、強いものにこそ従うのがこの世のルールだと考えている。
その美学に則り、アヤカのモノになると心に決め、服従を誓った。
現在、アヤカとの旅路で一人、食べ歩きを楽しんでいた。
金なら無限に近い竜生で人には言えない方法とかで溜め込んでる。それこそアヤカ一人くらいでは一生かけても使いきれないほどに。
「まだまだ食うぞー! 私は腹が減ってるのだー!」
ミステリアはアヤカの現在など露知らず、味覚の革命を求めて歩き続けた。




