ウワバミ
大蛇は日本の昔話などにもよく出てくる。まことしやかに語られる都市伝説に近い話だが、日本で人を喰らう様な大蛇が捕獲された例はない。
近年はペットで飼われていた外来種が捨てられて野生化するケースが多く、海外でもワニやらニシキヘビやらが下水管を通って自宅やホテルの水洗便所に現れる、というちょっとしたホラーみたいな事件が起こっている。
だが、日本の場合大型の爬虫類は、冬を越えることができずに多くは死滅するだろうと推測されている。妥当な判断だとは思うが、本当にそうだろうか。
大蛇は日本の創世神話などにも出てくる。ヤマタノオロチだ。マタが八なので頭が九つあるヘビ、ということではなくて、ヤマタノオロチの頭の数は8だ。マタという言葉は元はそういう数え方をしていたので、例えば人間の足は二マタ、という勘定の仕方になるのだと思う。頭と手を入れたら五マタだろう。さすがにこんなおぞましいヘビは存在していないと思いたい。
獅子や虎、麒麟と同じく、大蛇も大陸から情報だけ輸入されてきた、実際は日本にはいなかった伝説的な動物なのだろう。
ヘビはその形態からか、恐れられたり、神格化されたりもしている。手足がないことがヘビの特徴と言うか、ヘビのアイデンティティ的なものと思いがちだが、分類上は骨格的にアゴを外せることがその決定的な特徴とされる。手足がないトカゲ、というのも存在しているから、手足のあるなしはあまり良い分類の条件とは言えない。逆に退化してはいるが、足のあるヘビもいたりする。ヘビは丸呑みが得意で、獲物を絞め殺して骨も砕いてぐにゃぐにゃにしておいてから飲み込む。自分の頭より大きいような相手も場合によっては喰らうので、その時は顎を外す訳だ。星の王子様のイラストでゾウを丸呑みしたウワバミが出てくるが、実際にああいう絵面になるかは置いておいても、あり得る話なのだろう。
ヘビの丸呑みの癖を利用した残忍なトラップがある。ヘビは卵も好きなので鶏舎に忍び込んで卵を取っていくが、石や陶器など固いもので、偽物の卵を作って置いておく。誤って飲み込んだヘビは腹筋で割ることができないので苦しんでのたうちまわった上に、偽卵の大きさのせいで入ってきた入り口からも出られない、という最悪の罠だ。
人間はアフリカが発生地で世界中に散っていったことが知られている。アフリカのジャングルには大蛇もいただろうし、夜寝ている間に襲われるというケースもあっただろう。ヘビにはサーモセンサがあり、暗闇でも獲物の位置を正確に把握できる。アオダイショウなどが舌をチロチロ出しているのは、そのセンサを使っている時で、舌に感覚があるらしい。かつて人間にとって大蛇が天敵であった可能性は充分にある。その本能的にも刷り込まれた記憶が、ヘビを恐れたり、神格化させる原動力になっているのかもしれない。
ベンゼン環を発見したケクレも、ヘビ(というかウロボロスらしい)が自分の尻尾を咥えて輪状になっている夢を見て六員環構造のモデルを思いついたと言われている。日本でもヘビの夢は縁起が良いとされている。ヘビは人間の想像力を刺激し、ヒトの深層心理でも大きな影響力を持つ存在なのかもしれない。
最近超有名 YouTuber(というか日本での第一人者だと思う)のヒカキンさんが、大蛇の話をしている動画を見て、もちろんホラ話の可能性もあるが、もしかすると本当にいるのかもしれない、と思ったりもした。ヒカキンさんの祖父(ジジキンらしい。このお方にご家族一同謀られている可能性はある)が真っ青になって山から帰ってきたことがあって、話を聞いたら山小屋で大蛇に遭遇したらしい。これは逃げられない、殺されて喰われる、と最期に煙草を吸ったら、ヘビの方が逃げていったとか。その大蛇はなんと胴体がポット程もあったらしい。
ヘビがタバコのヤニを嫌うのも有名な話で、昔はヘビを嫌う人は、紙巻き煙草を潰して水に混ぜて自宅の周りや畑に撒いていた。今はホームセンターでも行けば、もっと使いやすいヘビ除けが売っていると思う。
実際に大蛇に襲われた話がインドネシアでニュースになっていたが、やはり人間程度の大きさならまず絞め殺しにくるようだ。この人の場合は幸い友達が近くにいたため、助けを呼んでもらえた。頭部などを強打されたヘビはたまらず獲物を離した。殺されかけた人は腕などの骨折ですんだらしい。たくましいのは後でこのヘビを殺して村で喰ったというオチだ。
こういう話を聞いても改めて思うが、山野での単独行動は何かあった時に非常に危険だ。おひとり様ハイキングとか最近は結構いそうだし、私もやったことがあるが、本当は止めておいた方がいいと思う。今時山賊はいないだろうが、それでも人間等に襲われる可能性は今でもある。
ヒカキンさんの出身地は新潟で、日本の大蛇伝説も意外に北陸など一見大蛇に不利そうな条件の地域にもあったりする。そう言えば寒い地方へ行く程動物は大型化する傾向はある。表面積に対する体積が大きくなるため、熱を奪われにくくなるという理屈だ。ただ、ヘビは爬虫類で変温動物なので、違うような気もする。
日本に大蛇が生息しているという証拠はないが、冬眠するなどして冬を越せる未知の新種の大蛇が、山奥でひっそりと生きているのかもしれない。あるいは昔は存在していたが、カワウソやニホンオオカミ、ヤマネコなどと同じように近年になり絶滅したという可能性も一応は考えられる。




