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異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません (旧題 命の対価はあといくら?)  作者: 黒月天星
第三章 ダンジョン抜けても町まで遠く

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第七十九話 甘ちゃんだのと言われても


 俺は影を蹴って空中へと躍り出た。さっきまでエプリの所に繋がっていたボジョの触手はもう元に戻っている。このままセプトの所まで一直線だ。


「…………!?」


 ようやくセプトが俺の姿を視認する。ふっふっふ。だが遅かったな。もうこの飛翔は止められないぜ~っ! 


 この状況でセプトがとりそうな行動は二つ。影に潜って逃げるか影で迎撃するかだ。しかし迎撃しようにも、影の大半をさっき攻撃に回してしまったから間に合わない。じゃああとは実質逃げるって選択肢しかない。


 セプトは俺の読み通り、即座に身体を再び影の中に沈み込ませようとしている。じわじわと沈んでいくその様子は、見ようによっては底なし沼か何かに飲み込まれていくような不気味さがある。いくら便利だからっておっかないから俺だったら潜りたくないな。


 だが残念。そう来るだろうなって思ってたさっ! 俺はポケットの中から切り札を取り出す。…………それは小さな布の袋だ。だが中に詰まっているのは危険物。銀貨十枚だ。


 元々銭投げは硬貨を投げて攻撃する技だけど、硬貨一枚ずつというのは意外に投げづらい。飛距離もそんなに出ないしな。かと言って一度にたくさん掴んで投げるとばらけてしまう。散弾のようにして広範囲を狙うならともかく、ピンポイントを狙うのは難しい。ならどうすれば良いか? 


 ……そこで考えたのが、袋に何枚も詰めて投げる方法だ。これなら着弾の瞬間までばらけないし、まとめて炸裂するのだから威力も減衰しない。パッと見はただの財布のように金を入れているだけだから、手荷物検査されても引っかからないという危険物だ。


 銀貨一枚でも凶魔となったバルガスの皮膚を抉るに十分の威力を発揮した代物。それを十枚詰め込んだらどうなるか? 今見せてやるぜ。


「逃がすかあぁっ!」


 俺はその危険物を空中でぶん投げた。…………()()()()()()()()()()()


 当然だろ? こんなもん人に当たったら痛いじゃすまないからねっ! 死んでしまうぞ。下手すりゃ木っ端微塵になっちゃうからね! そんなの怖くて投げられるかっての! 


 さて、俺がこうしてセプトの真上にぶん投げたのには当然だが訳がある。直接セプトに投げるのはいくら何でも気が引ける。なら、


「金よ。弾けろっ!」


 空高く舞い上がった布袋は、俺の言葉と同時に起爆。月明かりをかき消すような強い閃光と共に爆発した。爆風で周囲に漂っていた砂塵も吹き飛び、綺麗な夜空に上がったそれはちょっとした花火のようだ。一発一万円のお高い花火だけどな。


「これでも、食らええぇぇっ!」


 硬貨をぶん投げたままの不格好な体勢だが、この際贅沢は言ってられない。殴り掛かるとも蹴りかかるとも言えない体勢。無理やりカッコ良く言えばフライングボディアタックである体当たりを俺は敢行した。


 下を見ると、セプトは砂塵が消えたのをこれ幸いと影に潜ろうとしている。……だが、セプトはその途中で何かに驚いたように潜るのを止めた。


 潜れるものなら潜ってみろよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 影は対象が光に照らされることで生み出される。この状況では月明かりで影が出来ていたが、マズい具合にセプトの影と周りの影が一部重なってしまって操れる範囲が増えていた。光源は月なのだから壊すことは出来ない。


 ならば一時的にでも良い。他のもっと強い光源を真上に出現させれば、他の影と切り離すことが出来るのではないか?


 目論見は見事に当たった。まるでスポットライトのように、真上からの光によって一瞬セプトがくっきりと照らされる。


 この時セプトの方に月明かりで伸びていた他の影は、爆発の光で遮断されて入れない。今潜れるのは自身の影のみ。だけど自分一人の影なんて潜ってもまともに動く余裕もない。攻撃に回せる大きさもない。故に潜るのを一瞬躊躇してしまったのだ。


 だけどこのタイミングでそれは悪手だぜ。一瞬とは言えこの攻撃を避けることが出来れば、時間が経てばまた影が繋がることはあり得たのだ。


 だがこの戸惑いが勝負の明暗を分けた。俺は上からの爆風もものともせず…………訂正する。ちょっと熱かったけど我慢してセプトの所に向けて突撃(という名の落下)をしていき、


「…………かはっ!?」


 影に潜れずに止まっていたセプトの身体をぶっ飛ばして影から引きずり出した。そのまま二人でもつれ合うようにしばらく転がって止まる。悪いがクッション代わりにさせてもらったぜ。人の命を狙っていたんだからこれくらいは許せよ。


 加護のおかげですぐに復活した俺はすばやく起き上がり、そのまままだ倒れているセプトの両腕をガッチリと掴む。こうすれば影に潜ろうとしても引き上げることが出来るし、また影を操ろうとしてもこの至近距離では狙いが定めづらいだろう。


 ……しかし腕を掴んでいるのに反応が無い。もしや体当たりの打ちどころが悪かったか? 気を失っているだけなら良いが、頭でも打っていたら大変だ。……エプリに甘いとか何とか言われるかもしれないが、一応状態を確認しよう。


 俺は予想より細いセプトの手首を片手で掴みながら、空いた手でセプトのフードを外す。


「…………こういう所まで後任じゃなくても良いだろオイ」


 戦っている時からそうじゃないかとは薄々思っていたさ。ローブとフードで分かりづらいけど俺より背が低いし、さっき一瞬だけ聞こえたコイツの声はなんかそれっぽかったし、あと今もつれ合いながら転がった時の感触も何というかその……柔らかかったし。


 フードの下にあったのは……やっぱりというか女の子だった。





 この世界はあれか? フードをした少女は皆強いとかそんな法則でもあるのか? 年のころは俺より少し下くらいで、濃い青色の髪のおかっぱ頭。前髪が目元を隠すように伸びていてその表情は伺い知れない。しかし目元以外で分かる顔立ちは整っていて、まず間違いなく美少女だと感じさせる雰囲気があった。


 おっと。悠長に見とれている場合ではなかった。顔の前で軽く指パッチンをしてみるがやはり反応は無い。


 気を失っているのはほぼ間違いなく、俺はセプトの口元に手をかざして呼吸がちゃんとしていることを確認。念の為に手首から脈もしっかりしているかどうか確認する。……素人ながらトクントクンと鼓動を感じて一安心だ。


 以前妹の陽菜がやっていたのを見様見真似でやってみたが上手くいった。流石に陽菜みたく本腰入れて勉強したわけじゃないから不安だったが、案外何とかなるもんだ。


「…………トキヒサ。首尾はどうなった?」


 その声に振り返ると、エプリがよろよろとした足取りでこちらへ歩いてくるのが見えた。セプトが操っていた影は繋がりを失って元の影に戻り、もう自分も影で抑えなくてよいと判断したみたいだ。


「ああ。こっちは何とか…………エプリっ!?」


 しかし歩いてくる途中突然バランスを崩しかけたので、俺は咄嗟に走り寄ってエプリの身体を支える。


「全く。毒で身体がふらふらなのに無茶するなよエプリ」

「……フッ。アナタには言われたくないわね。動かないでって言っているのに前進していくのだもの。……あのまま動かずに当初の作戦通りに私がセプトの動きを止めていれば、ここまで苦労はしなかったのに」


 そう言えばエプリも影を操る魔法が使えたんだよな。エプリのいた場所もそれなりの影が有ったから、あのまま俺が動かずに様子を見ていればエプリも対抗出来ていたって訳か。しかしなぁ……。


「エプリも対抗策があったならもっと早く言ってくれよな。これは俺が踏ん張るしかないと思って結構覚悟決めて行ったんだぞ」

「……話を聞かないアナタが悪い。…………それにこの魔法はあまり使いたくなかったの」


 エプリはそう言って少し顔を伏せる。


「そりゃあ一度使うだけであんなに疲労していたものな。万全の状態じゃないとあんまり使いたくないよな」

「それだけでもないんだけど……まあ良いわ。……それで? そこに倒れているのがセプト?」


 再び自分の足で立つと、エプリは倒れているセプトの方に顔を向けた。今の今まで戦っていた相手だからな。何か思うところもあるのかもしれない。


 ちなみに今はボジョが触手で両腕を拘束している。傍から見るとなんか触手プレイに見えなくもないので、俺はあんまり凝視しないようにしている。……チラチラと見てしまうのは男の性という事で勘弁していただきたい。


「…………成程ね。……それでどうするの? ここで止めを刺しておく?」


 エプリは何かに気づいたように一人頷き、その後とんでもないことを言い出した。周囲に風が巻き起こり、エプリの意思ですぐにでも魔法が発動する勢いだ。傭兵の中では普通なのかもしれないが殺伐としすぎじゃないかい?


「俺のことをどう思ってるのか知らないがどうもしないよ。これだけ酷い目に遭ったんだ。もう襲ってくる気もないだろう。放っておこうぜ」

「……甘いわね。報復の手段はいくらでもあるし、こういう輩はしつこく付け狙ってくるわよ。ここで仕留めた方が後々の禍根を断つという意味では確実だと思うけど?」


 エプリの言う事はもっともだ。世の中道理を無視して不条理を押し付けようとする奴は沢山いる。セプトはどうだか知らないけど、クラウンの奴はこれまでの言動からしてまず間違いなくそういう類の奴だと感じる。……だけど、


「それでも止めは刺さない。命っていうのは簡単に奪っていい物ではないって信じてるからな。相手が悪い奴だから殺すとか、こっちが殺されるかもしれないから殺すとか、そういうのはなんか……嫌だ」


 甘ちゃんだの偽善者だのと笑わば笑え。いつか復讐に来るかもしれない。生かしたことで将来こっちが酷い目にあうかもしれない。……それでも、俺は殺さない。()()()()()()()()()()


「…………そう。私ならここで仕留めているけど、まあここは雇い主の顔を立てるとしましょうか」


 その言葉と共に吹き荒れていた風が収まる。……よく見ればエプリの額から一筋の汗が流れている。俺の意思を確かめるためにまた無理をしたな。


「でも……これからもそんな甘い考えを持ち続けることが出来るかしら?」

「俺一人だったらいずれ酷い目に遭って心境が変わるかもしれない。だから、そうならないように助けてくれよな。エプリ」


 俺はそう言ってこの頼れる護衛兼仲間にニカッと笑いかけた。それを聞いたエプリは呆れたようにこちらを見て、


「…………それも依頼の内ならば」


 と一言ポツリと呟いた。


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