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異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません (旧題 命の対価はあといくら?)  作者: 黒月天星
第一章 異世界来たら牢獄で

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閑話 ある『勇者』の事情 その二

 

 その日から私達の日常は大きく変化した。いや、元々異世界なんてところに連れてこられた時点で変化しているのだけど。


 まず私達はそれぞれ一人専属の付き人がついた。それも全員が美男美女ばかり。一度それぞれの付き人と顔を合わせる機会があったのだけど、全員どこのアイドルかトップモデルかという人だった。


 能力も優秀らしく、しばらくはこの世界での教師のような立場も兼任してくれるという。本来の仕事もあるので四六時中一緒とまではいかないけれど、そんな凄い人達が甲斐甲斐しく身の回りの世話をしてくれるというのは何だか申し訳なく思った。私は戦いの役には立たないというのに。


 私の付き人はエリックさんという端正な顔の美青年だった。歳は見たところ二十歳くらい。魔術師然とした服装で出来る男といったイメージのある人だ。実際本来の仕事は城勤めの魔術師らしい。


 最初に顔を合わせた時に、どうぞよろしくと笑顔で手を差し出してきたのだけれど、私は何かが引っかかって一瞬どうしようかと悩んだ。しかし一瞬のことだったのですぐに気を取り直してこちらも握手で返す。この時の違和感は後で分かるのだが、その時の私は深く考えることはなかった。


 次に別々の個室が用意された。私達の中で女性は私一人だったので、自分の部屋が有るというのはとてもありがたかった。他の男の人に終始気を気を使うのも使われるのも疲れるから。


 そしてそれぞれの部屋には、付き人とは別に城仕えのメイドさん達が数名控えていた。こちらはエリックさんとは違いほぼ一日中交代で部屋に控えていて、何か用があればいつでも何でも申し付けてほしいとのことだった。私が寝る時は流石に別の部屋に引っ込むらしいけど、まるで貴族にでもなったかのような待遇にどうにも落ち着かない。


 皆の部屋自体はそれぞれ同じ内装だったのだけど、部屋同士の距離は多少離れていた。何か話があっても少し歩かなければならない距離。そこは微妙に気にかかったけれど、私は自室が宛がわれたことで少しほっとしてしまったのだ。





 それからはしばらくは、戦闘訓練とこの世界の一般常識を勉強する毎日だった。私は戦うなんてことは出来ないけれど、最低限の自衛の為と言われたら断りづらい。それに、この世界のことは知っておいた方が良いと考えたのだ。


 常識の勉強は私達全員で行うのだけど、何故か戦闘訓練は個別に教わるという。これには理由があって、この世界には魔法が存在するのだけど人によって自分の使える魔法の属性が違う。どうやら私達の使える属性はほぼバラバラで、一緒に訓練するにしても多少慣れてからということらしい。


 城の一画にある訓練場で、私はエリックさんとマンツーマンで訓練をした。ただ一つ問題があって、以前私の血を使った略式の検査ではなく一日かけて細かく検査した結果、私の魔法適正は“月”属性だと判明した。


 これはどうやら非常に珍しい属性らしく、国中を探してもほとんどいないそうだ。そのため同じ魔法で実演するというのが難しく、城に所蔵された古い書物を頼りに自力でやっていくしかない。


 エリックさんは土の魔法適正持ちだけど、魔法を使う際のイメージについてはアドバイスを貰えた。


 書物によれば月属性は幻惑及び癒しを司り、時刻や月の位置、月の満ち欠けによって効果が変動するという。逆に相手を直接攻撃する能力はかなり低いらしいが、戦わない私にはあまり関係のない話だった。幻惑というのも身を守るだけなら効果的だ。私との相性は悪くなさそうだった。


 一般常識の授業は連れてこられた全員が参加する。手が空いている付き人の誰かが交代制で教えるのだけど内容は様々。この国の歴史や人々の暮らしぶり。食事のマナーに危険な魔物の習性など、多岐に渡って様々なことを教わった。特に他の二人が場合によっては戦うであろう魔族に関することは内容が濃かった。


 曰く、魔族は生まれついての魔法の達人が多く、一人でヒト種の兵士数名分の戦力になる。故に戦いになったら女子供でも容赦してはいけない。曰く昔はヒュムス国への侵略戦争を頻繁に行っていたが、ここ数十年は停戦状態。最低限の交渉はおそらく可能なものの、いつまた攻めてくるか分からない状態だ。そのために『勇者』は抑止力として自らを鍛えてほしい。といったことだ。


 平和な日本で育った私としては、戦争や侵略と言われても実感がわかない。しかし、そんな恐ろしい相手とはなんとか戦わずに済ませられないかと考えてしまう。


 こうして何日か過ごす内に、私はふと皆で会う頻度が減っているのに気が付いた。顔を合わせるのは合同の一般常識の授業ぐらい。食事は各自自室で食べることが増えてきたし、授業の復習も大抵は部屋でやる。微妙に部屋同士が離れているので誰かの部屋に行くことも少ない。


 しかし別に問題はないのかもしれない。魔法の訓練もエリックさんと一緒に順調に進んでいる。初歩の幻惑や癒しの魔法は使えるようになり、エリックさんには筋が良いと笑顔で褒められた。この頃は時間帯による魔法の効力の変動について試している。


 このままならもうすぐ自分の身を守れるだけの力は付くだろう。そうしたら……どうしようか? 望むなら仕事も与えると王様は言ってくれたので、何か適当な仕事でも貰いに行こうか。


 ……だけどエリックさんにはお世話になったし、このまま離れるのも恩知らずという感じもする。しかし初歩の魔法が使えるようになったとは言え私に戦いは無理だ。魔族への抑止力にはなれそうにもない。悶々と考えるけど、内容はまとまらずに頭の中でぐるぐると回るだけ。





 そうして考えていると、突然部屋に一緒にこの世界に来た人の一人が訊ねてきた。藤野明(ふじのあきら)という名前で、私より一つ年下の十七歳。少し茶髪の混じった黒髪で、身体はやや線が細いけれど、無駄な贅肉がほとんどなく引き締まっている。


 付き人の人達に負けず劣らずの美少年で、どこか中性的で不思議な感じのする子だった。更に付け加えると、ここでのスタンスで()()()()()()()()()()()()()という考えだった人だ。


 明(初対面の時に自分を呼ぶ時は名前にくんもさんも要らないと言われたので呼び捨て)は部屋に入るやいなや、部屋にいたメイドさんに用事を言いつけて退席させる。どうやら二人で話したいことが有るみたいだった。


 二人になると明はこう切り出した。これから先どうするつもりと。話を聞いてみると、明は趣味でよくネット上にある小説をよむのだけど、私達みたいに異世界に召喚される話は多いという。そしてよくそこで題材にされるのは、偉い人の話だけを鵜呑みにしたりちやほやされたりして最後は惨めに破滅する勇者の話だという。


 明はこの世界に来た当初は物語の世界みたいだと浮かれていたのだけど、だんだん周りが本当にその小説のようになっていると感じてきたらしい。


 突如として特権階級のような立場になり、皆が自分たちをちやほやするあまりに都合の良すぎる環境。このまま流されては何かとてもマズイ予感がする。そのため自分でも色々と探っているという。無論自分の付き人には内緒で、表向きは城内の探検と言っているらしい。


 ボクは元の世界に戻るつもりはないけれど、優衣さんは戻るつもりがあるのでしょう? それなら自分でももう一度考えてみてほしい。自分はこれからどうするか? ただ流されるんじゃなくて、自分の意思で決めなくちゃいけない。…………後悔しないですむように。


 明がそう言ったところでメイドさんが用事を済ませて戻ってきた。途端に明は何でもない話に話題を変えて場を和ませる。今の今まで深刻な話をしていたとは思えない程の変わり身の早さに私は内心驚く。そのままちょっとした茶飲み話をしばらくした後、明は自分の部屋に戻っていった。


 私は最後に明が言ったことの意味を考えた。私はこれからどうするべきか? やはり私も戦うことを選べば良いのだろうか? だけど明の言っていたことはそんな単純なことではないような気もする。では戦わないなら何をすれば良いのだろう? 


 一晩中考えてみたがやはり答えは見つからない。だけど、時間は刻々と流れていく。下手の考え休むに似たりということわざもあるけれど、私はまさにそんな感じなのだろう。気付けばもうすっかり朝になっていた。結局答えは出なかったけれど、この日から少しだけこれからのことを考えていくようになった。





 その日の夜。私達は最初の日に通された王の間に再び集められた。何故かそこには人がほとんどいなく、王様と僅かな貴族と兵士だけ。そこで王様に告げられたのは、これから七日後に『勇者』の姿を大々的に国中に知らしめるお披露目をするということだった。


 このことを知っているのは現在ここにいる者達だけ、それ以外の城の者や国民にはお披露目の前日に知らせるという。そして私達には戦う戦わないに関わらず全員参加してもらうとのこと。お披露目自体は仕方ないと思う。しかし戦わない者でも参加。しかもそれを肝心の国民には前日まで知らせないとはどういうことだろうか?


 このことは言われずとも説明するつもりだったらしく、王様は次のように語り始めた。曰く、戦わない者でも参加なのは、『勇者』は戦わずとも象徴として必要であり、この者達が『勇者』だと国民及び周辺国に知らしめる意味もあるという。


 また国民に前日まで知らせないのは、元々『勇者』のことはそれぞれ自衛が出来る強さになるまでは出来る限り伏せておく予定だったためと、その頃には()()()()()()が整っている予定だからだという。


 完全には納得できない理由だったけれどひとまずは頷いておく。だけど、『勇者』というのは周辺国からも注目される程度には重要なものなのだろうか?


 お披露目までは情報は伏せていくが、周辺国にはもうすでに『勇者』召喚の情報を掴んで密偵を送り込んでいるところもある。そのためこれからはなるべく付き人から離れずに行動してほしいという言葉を最後に、私達は王の間を退室した。もちろん付き人の人達も一緒だ。さっそくということらしい。





 私達が自室に戻る途中、何故か通路が慌ただしかった。兵士の人達がばたばたと通路を走っていくのだ。明がその中の一人に何があったのかと尋ねると、私達がここに召喚された部屋に侵入者がいたという。


 あそこの扉には特殊な仕掛けがしてあって、扉を許可なく開閉すると城の兵士達に連絡がいくようになっているらしい。さっそく王様の言っていた他の国のスパイだろうか? こんなに早く来るなんて……なんだか怖くなってしまう。


 その後遠目にその侵入者が牢に移送されるところを見たのだけど、はっきりとはわからないけれどどうやら小柄な少年のようだった。抵抗もしないで連れていかれる様子を見ているとあれがスパイだなんて思えないのだけど。異世界はスパイが人材不足なのだろうか?





 そして七日後。遂にお披露目の日がやってきた。


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