シチュー
人が人を好きになるのは、当然のことで古今東西、人を好きにならなかった人間はいないと思った。
田口は、静香を家の前まで送り届けて、帰路についた。
しかし、数十mほど歩いて、足を止めた。
公園のベンチに人が座っていた。
街灯が雪に反射して、その人影を鮮明に浮かびあがらせた。
そのシルエットには、覚えがあった。
田口は、その影に近づいた。
「憲幸さん」
と田口はその影に声をかけた。
その影は、うなだれた顔を上げた。
「・・・・・」
憲幸だった。だが、言葉を発しなかった。
田口は、さらに近づくといきなり、憲幸の胸ぐらをつかんだ。
「いつまで、うじうじしているんだ」
憲幸は顔をそむけた。
「女とやりたいだけなら、他を探せよ。自分一番大切な女が泣いてるのなら、自分で責任をとれよ」
田口は、胸ぐらをつかんだ手を放していった。
「俺は、何にもできない」
と憲幸は力なく言った
田口は、準備動作なしに、憲幸の左頬を殴った。
よろけて後ろに下がる憲幸のみぞおちを殴った。
後ろにしりもちをついて、憲幸が倒れた。
「なんも覚悟もなければ、気を入れて女を抱くんじゃない。自分しか守れないと思うくらいの覚悟をもて、そんななければ、きれいさっぱり静香の前から消えろよ。未練たらしく静香の周りをうろつくな。」
憲幸は言い返さずに、うずくまったままだった。
田口は、しゃがみこんで憲幸を睨みつけると
「好きだったら、最後まで一緒にいろよ。永遠に続く物んてない。だから、今が大切なんだろ。今静香のそばにいてやれるのは、あんたしかいないんだ。」
といった
「俺には、そんな資格はない。妹だぞ」
と憲幸は吐き捨てるように言った。
「義理のな、その前に一人の人間だ。あんたが今まで守ってきたかけがえのない人だ」
田口はつづけた。
「やっと静香は、自分の居場所を見つけたんだ。望まれてうまれたわけじゃない。それでも誰かに必要とされたいと願ったんだ。」
憲幸はうなだれたままだった。
田口は、立ち上がると
「今言った、言葉は全部、むかし、静香にいわれたことだ。俺もなにもできなかった。だから、あんたを殴った。昔の自分みたいだったからだ。後は、自分で考えろ」
というと、田口は公園をでた。
雪の中を家まで、歩いた。
そーと玄関を開けると、裕子が玄関に座り込んでいた。
「どこ行ってたの?」
「ちょっとね、友達んちと買い物」
といって、買い物袋を裕子に見せた。
「そう」
といって裕子はリビングに戻った。
リビングに入るとあったかかった。
「お腹すいてない、なんか作るよ」
と田口は言って、キッチンに立った。
すると、裕子に背中から抱きしめられた。
「独りにしない」
と裕子がつぶやいた。
田口は、ジャガイモの皮をむきながら
「ごめん」
と言った。
裕子の腕が田口から離れた。
「なにを作るの」
と裕子が問いかけてきた。
田口はシチューの元の箱を振った。
「手伝うね」
といって、裕子は玉ねぎの皮をむき始めた。
暫くすると、となりで玉ねぎをスライスする小気味いい音が響き始めた。
「上手くなったね」
と田口が言うと
「4年も独り暮らしをすればなれるわよ」
と裕子は答えた。
「もう、4年もたったんだね、出会ってから」
という、田口の問いに裕子は答えなかった。
「どうして、戻ってきたの」
という、田口の問いにも裕子は答えなかった。
田口も問いかけるをやめた。
人参をビュラーで皮をむくと包丁の持っている、裕子に渡した。
それからジャガイモも渡した
裕子は形よくそれらを細かく刻んでいった。
鍋に、バターを溶かして玉ねぎを入れて火が通ったら、豚肉を入れて火が通るまで炒めると人参やジャガイモを入れて軽く火を通すとなべの蓋を閉めた。
「料理って人を幸せにするよね」
と唐突に裕子が言った。
「俺もそう思う。暖かい料理は人を優しくさせると思うよ」
「雄輝は、いつだって優しかった」
と久々に田口の下の名前を呼んだ
「随分と傷づけたよね、雄輝のこと、許してなんて言えないよね」
雄輝は何も答えなった。
鍋が沸騰して、湯気が激しく出た。
鍋の蓋をとり、火を中火にした。
あくをお玉で取りながら
「おれ、子供だったし、中坊だったし、どうしようもないよ。お互いに、だから、別れたんだよ」
と雄輝がいった。
「そうだね、私から振ったんだし。仕方ないよね」
と裕子は、あくを取り続ける雄輝の姿を横で見ていた。
「でも、わかってたよ。俺のためを思ったから、そうしたこと。自分だけが悪女になってさ。俺の将来のこと考えてくれたんだろ」
「・・・・・・」
「だから、恨んでないよ。いまは、裕子の気持ちは少しわかる」
裕子は雄輝の肩に頭を預けた。
雄輝は、シチューの元を入れるとユックリとかきまぜた。
とろみが出ると、火を止めて牛乳を入れてかきまぜて、また火をつけた。
「でも、今は自分の気持ちに整理がつかない。」
裕子はうなづいた。
火を止めるとシチューの甘い匂いが、漂っていた。
「腹が減るとろくなことを考えないから、食べよ」
と雄輝は裕子を促した。
裕子は
「そうだね。雄輝のせっかくの手料理。冷めるとおいしくないしね」
といって、笑った。
その日、裕子と雄輝は布団を並べて、手を繋いで眠った。




