第七話:デートという名の調達がバレないように
どうも皆さん。緒蘇輝影丸です。
お久しぶりです。半年以上のネタ詰まりとリアルの都合で、投稿がかなり遅れてしまいました。
申し訳ございません。
しばらく投稿していなかった間に、閲覧者数が800人超えていた事にビックリしました。
そして、大変お待たせいたしました。
忘れ気味でしょうが、今回は、フェイアとのデート(?)編です。楽しんでいただければ幸いです。
ディザストレの火山地帯『インフェルノ』。読んで字の如く、灼熱の大地であり、現在でも火山が噴火するような場所。ご想像通りだろうが、その通り。ディザストレの中でもトップクラスの危険地帯である。
……どのくらい危険だと?魔海とも言えるバミューダに次いで、壊滅する勇者団が数多くいる。それぐらい危険な地帯である。理由は至って簡単だ。環境と魔物が両方とも凄まじく難関だからだ。環境面は極寒地帯である『フロスティア』と同等に過酷で、魔物の方は何週間か前に行った森林地帯のグランノームよりも力が強い魔物が数多くいるのだ。このように両立した環境に対応しきれる勇者団は数少ない。オレ達がその少数の方だ。
考えてもみろ。魔王を倒す前に最低でも一度は飛竜を相手して勝たなければならないんだぞ?人間時代のオレ達でも一回は泣いたぞ?まぁ、オレは泣くより先に叱る事が多かったけどな。周りがビィビィ泣いてて煩かったから。
……ちなみに、これから会うフェイアは、半泣きしながらも巨大盾でオレ達を守っていた。あの時は本当に助かった。
「……そう考えると、フェイアには感謝しかないなぁ……」
思い返せば思い返すほどに、なんでアイツに苦手意識を持っていたのか、疑問だ。
「――――ぉーーーい!!クロードぉ!!」
……おっ。ようやくフェイアが来たみたいだ。
「おぉフェイア。急に呼び出して悪かっ……たぁ……な……」
オレはフェイアの声がした方へ向いた瞬間、金縛りにあったかのように身体が硬直した。……何故かだと?今いるのはディザストレ屈指の危険地帯だ。いつものアイツなら重厚な鎧を身にまとい、左腕には巨大盾を取り付け、右手には普通の人間の腕力では持てないくらい重くて大きい槍を片手に持って行くと思った。それなのに……。
――――なんで装備どころか、アイテム一つも持って来てないんだよ!!自殺志願者か!!
……いや。元を辿ればオレの落ち度が原因なんだ。今は名目上ついでだが、デッドオーパーの新商品を開発するためという本来なら断って良い案件なんだ。それなのにフェイアは、まだ知らないとはいえ、オレの自分勝手な都合にわざわざ仕事時間を割いてまで来てくれたのだ。ここで怒って「そんな格好でインフェルノに来るバカが何処にいるんだ!?」なんて口には出せない。出してはいけないんだ。……そう。何の罪もないフェイアを責めるなんて、今のオレには出来ない。
「ど、どうだ?クロード。似合っているか?変じゃねぇよな?」
ましてや、ここまで弱々しくオレに服装について感想を求めているフェイアに追い打ちをかけるなんていう無慈悲な真似はしたくない。ひとまず、フェイアの格好を見つめ直した。……なんて言うか、涼しげだ。
「おいおい。そんなにジロジロ見んなよ。恥ずかしいじゃねぇか///」
ミリークやシエル、エルダにも言える事だが、顔立ちは別に悪くはないんだ。ただ、目つきや雰囲気が違うのだ。ミリークとエルダは目つきが少し吊り上がっており(エルダは常時半開きだから目つきがどうなっているのかは分からないが)、比較的にクールな感じで、シエルはやや垂れ気味の目つきだが、ニコニコしているから優しそうな雰囲気を醸し出しているのだ。
「……どうした?なんか変な所でも見つけたのか?どこだ?どこなんだ!?おい!なんか言えよ!!」
フェイアの場合、ミリークより目つきが吊り上がっており、顔立ちも可愛いとか綺麗より、格好いい感じがするのだ。悲しくもがな、人間時代のオレよりもな。しかも彼女の種族、竜人族特有の角が生えたおかげか、はたまたそれのせいか、より一層格好良さが増してしまったのだ。とはいっても、ロストみたいな好青年寄りの顔つきであるだけで別に厳ついわけではない。そこは誤解しないように。
「……も、もしかして、酷すぎて言葉も出せねぇのか?そ、それだったらすぐにでも直す!だから、アタシのどこがダメなのか、ハッキリ言ってくれ!!おい!!聞いてるのか!?」
……さて、問題は服装なんだが、さっきも言ったように(直接口には出してないが)防具一つも装備しておらず、上の方は赤色のタンクトップなのだが、胸(胸筋?)のせいか、へそが出るほど裾の丈が短く感じ、背中部分が大きく開いている。それに合わせてか、下の方はピッチリとした黒色の半ズボンというラフな格好だ。……つまるところ、平服である。まぁね?窮屈で重く、ある程度鍛えていないと動けない鎧といった防具とは正反対で、平服は開放感があり、軽くて動きやすい。良い事だ。フェイア自身、インフェルノといった暑い環境に耐えられることに特化された特性【変温】を持っているため、環境面ならば別に問題にはならない。女性として出ている部分が出ているため、多少露出が多い気がするが、そこは背丈と体格上仕方ない。似合うか似合わないかと言われると、フェイアらしくて良いんじゃないかとは思う。見えている腹にたるみはなく、引き締まっている。くびれというより、もはや腹筋が出来上がっているほどに。タンクトップの背中部分が開いているのは、もう一つの竜人族特有のモノ、翼が関係している。翼といっても、半鳥人族が持つ飛ぶための翼とは違い、高い所からの滑空に特化した翼である。仮に地上から羽ばたこうとしても、空高くまで飛び回れず、せいぜい拳一つ分の高さまで浮くことしか出来ない。フェイアはほかの竜人族より力が強く、翼も大きいため、もう少し高く宙に浮けるだろうが、その分不憫なのである。淫魔族のように小さくして折り畳むことも出来なければ、吸血鬼族のように必要な事以外は消えるようになる仕様でもないので、生活面は勿論、戦闘面では特に胴体を守るための防具にはソレ相応の配慮が必要なのである。……といっても、竜人族の鱗は硬いため、そこの部分を晒しても然程問題はないのだがな。
「……そ、そうか……数え切れないほど酷いんだな……ハハッ……アタシ、バカみてぇ……」
……さて、色々と変に考え込み過ぎたせいで、フェイアは相手してくれない事にかなり落ち込んでいるというか、拗ねている。というより、いじけている。
「ハッハッハッ……いいさ。分かってる。……どーせアタシは、ミリークみたいに綺麗じゃねぇし……シエルみたいな柔らけぇオッパイじゃねぇし……エルダみたいに可愛くもねぇし……クルスみたいにお淑やかじゃねぇし……アンタがアタシを嫌ってるのも知ってる……でもよ……良いじゃねぇか……アタシの何が嫌なのかを知ろうとしたって……」
……それに加えて、コイツは勘違いしている。オレは別にフェイアを嫌ってなんかいない。苦手意識を持っていただけだ。これだけだと嫌いと言ってるのも同然に聞こえるだろうが、よく考えてみろ。オレがフェイアを心底嫌っているのなら、たとえ依頼であれ、一緒にインフェルノに行こうだなんて誘うわけがない。……まぁ、今まで何かしら言い訳をつけて誘わなかったから、そう勘違いされても仕方ない。とにかく、彼女の誤解を解くには、誤解を招いた当事者であるオレが真実を言わなければ、彼女はいつまでもオレに嫌悪されている原因をアテもなく探し続けてしまう。
(……悪いのは、オレなのに……)
だからオレは、フェイアの傍まで近付き、屈んで、そっと彼女の頭を撫でた。
「……クロード?」
急に頭を撫でられて戸惑うフェイアだったが、ある程度撫たら、ようやく落ち着いたのか、気持ち良さげに目を細めた。竜という文字が付いている種族とはいえ、元は人間。姿形がどうあれ、優しさという温もりは心地良いものであろう。骨の身体だから直接的な温もりはないが、慰めようとしている気持ちは伝わっているだろう。
「……(そんないじけなくたって――――)……お前は良い奴だ。それこそ、ミリーク達にも負けないくらいに良い女だぞ?」
「クロード……声に出てるぞ///」
……思い留めていたつもりだったが、途中から口に出ていたらしい。……恥ずかしいな。
「さぁ、行こうか」
だがオレは無表情で骨だけの不死族。すぐさまオレはスクッと立ち上がり、半ば強引にさっきの暴露発言をなかったかのように誤魔化し、火山の方へ出発した。
「あっ!おい待てよ!!さっきの言葉、もう一回言ってくれ!!無理やり誤魔化したってそうはいかねぇぞ!!目の色がピンクになってたって事は、アタシの事を異性として見てたんだよな!?どこにドキッとしたんだ!?服か!?身体か!?」
振り返らずに真っ直ぐ進むオレの後を追うようにフェイアはすぐさま駆け寄り、何度もオレの顔を覗き込もうとオレを軸にグルグルと回り込む。ちょっとしつこい。
(フェイア……お前、どんだけオレの事が好きなんだよ……いや、違うか。どんだけオレに好かれようと必死なんだよ)
オレのフェイアに対する苦手意識は、もしかしたらこの必死すぎる態度の方かなぁ……。そう思いながら、とりあえずこの状況をどうすれば振り切れるのかを考えた。……どのみち、無理だろうけどな。
思わぬ事態に立ち往生してしまったクロードとフェイアの二人(主な原因はフェイアの格好とクロードの長考という自業自得な感じだが)。遅れを取り戻そうとやや早歩きで火山の方へ向かうが、フェイアはふと浮かび上がった一つの疑問をクロードにぶつけた。
「そういえばクロード。アタシ達は一体、何処に向かってるんだ?アタシ誘われただけで詳しい事、聞かされてないんだけど」
何気ない質問に、クロードは言葉を詰まらせた。
無理もない。何せ、フェイアはインフェルノでデートと聞いて(勘違いして)いる。しかし、当初の目的はマグマンタイトの調達だった。今はついでになっているのだが、誘った理由が理由であったため、適切な言葉が見つからない。
(ロストやミリークだったら、持ち前のコミュニケーションでなんとかしていたのだろうか……)
なんて、自分より普段会話慣れしている人物の能力に多少無いものねだりしてしまうクロード。どうしようかと悩んでいたら、フェイアは何かを察したのか、こう言って疑問をなかったことにした。
「まぁ、ここまで来て、そのまま帰るのも癪だからな。クロード。目的地に着いたらちゃんと教えろよ?」
「……あぁ。分かった」
……完全に気を遣われていた。そう感じたクロードは、胸中が罪悪感でいっぱいになった。
(……そういえば、どこかで素敵な光景があったような……)
罪悪感を抱いている内にふと、何かを思い出しかけた。……のだが――――。
……ルルルルァァァァァアアアアアーーーーー!!!!!
何かを思い出す前に遠くから咆哮。……いや、火山という大きな障害物による反響のせいで、何処から発せられたのかが分からない。しかし、それより問題なのは、今さっきの鳴き声は間違いない……飛竜だ。それも、ただの飛竜ではない。――――超危険種だ…ッ!!
この世界の魔物には、いくつかの種類に分類される。
まず、一般的に魔物と呼ばれるのは、特別な魔法を持たず、獣のように本能で動き、自身の特性の一部しか使いこなせない生物、もしくは言語能力、知能が低すぎる魔族の事を言う。一例で言えば、子鬼や悪戯箱、飛竜、それらの幼子種の事だ。
しかし、魔物と括られるモンスターの中には、一部の例外が存在する。例えば飛竜。基本は魔物に分類されるのだが、生きている年季によって危険種に括られる事がある。その場合、○○ドラゴンといった形で危険種に指定される。
ほかには、フォーカオスに所属している半液物質族のショーゴみたいに、本来魔物に分類されるはずのモンスターが、何かしらの突然変異によって知能等が格段に上がった形で生まれることもある。この場合は珍しい形で生まれた魔族、魔跡族という形で周囲に認識される。ただし、魔跡族を産んだ親に認知される事はかなり少ない。
次に危険種。この呼び方はモルディガンマの住人、人間が付けた総称であり、魔族からすれば、差別用語である。そのため、クロード達といった魔族のいるディザストレでは、亜種と呼んでいる。魔物との違いは、知能等が魔物より高く、魔法や特性をより上手く使いこなす、いわば上位互換なのである。クロードのペットであるハココは悪戯箱の亜種、絶望箱がこの種類に括られる。
この種類から魔族が生まれることはない。そのかわり、魔族とのコミュニケーションが可能。言葉ではなく、ハココがやっていたように、鳴き方や仕草によって伝えることが多い。
……ここまでの魔物は詰まるところ、油断せずに努力すれば倒せる範疇なのである。……しかし、あとの二種類は、通常の魔物とは様々な意味で別格なのだ。
それが、超危険種と古代種である。
この二種類は、魔物や亜種とは決定的な違いがある。それは、固有の名前が付いている事だ。
古代種は、すべての魔物の中で最も棲息数が少なく、力も全魔物の中でも最強とも言える伝説級モンスターだ。……しかし、性格は基本大人しく、自分が長年(約数百年から数千年)棲みついている巣を荒さなければ襲ってこない。……逆に言ってしまえば、荒した瞬間、地獄と化す。そのため、古代種を倒す事はしないし出来ない。理由は単純、それぞれの地帯の守り神のようなものであるため、殺せば均衡が崩れ、世界が滅ぶと言い伝えられている。なので、倒せと言われても、せいぜい一部の部位を壊して追い返すか逃げることしか出来ない。一番生存率が高いのは、この世でたった一つの団体だけであろう。最も、種族の関係上、そんな事はしないが。
そして、超危険種は、古代種ほどではないにしても、危険種よりも段違いの強さを誇る。年季を重ねれば自ずと知能等が上がるため、あと数百年生きていれば古代種に認定される。いわば、次期古代種なのである。ただ、問題なのは気性の荒さだ。縄張り意識が強いというより、誰のものでもない所でさえ自分の縄張りだと主張してくるものもいるため、どこからが超危険種たちの縄張りに踏み込んだ(と思い込んでいる)のかが分からないのである。つまり、プライドというより、自己主張(自意識)が激しいモンスター達なのだ。ただし実力は本物であるために質が悪い。
「……クロード。今の鳴き声は……」
さっきまでオレの近くにいたフェイアも何時になく真剣な表情で火山の上の部分を見渡していた。いくらフェイアに熱の耐性があるとはいえ、丸腰の状態で超危険種の炎をまともに受けるのは危険だ。
「あぁ。恐らく超危険種のアイツだろうな」
オレは、周囲を警戒しているフェイアの確認に一つ頷きながら、オレはヤツが来る前に予めフェイアに火属性特化の防御魔法【火焔衣】をかけ、ヤツの羽音を聞き逃さないように耳を澄ませる。
……バサッ……バサッ……!!
「――――!!後ろ……ッ!!」
飛行で羽ばたく音、否、滑空の状態から落ちないように羽ばたかせる音が聞こえ、すぐさま振り向いた。しかし、巨大な影が二人の上空を通り過ぎた瞬間、強風……いや、強い熱風が吹いた。この火山地帯に風は滅多に吹かない。なのに吹いた。何故ならばそれは、自然の風ではなく、ヤツの仕業だからだ。
バサッ…バサッ…ズシィン……ッ!!
ヤツはゆっくり下り、紅く光る目でオレ達を睨む。大きな翼と鋭い牙を持つヤツの姿は、血のように紅く、それでいて熱い。体躯を覆う鱗一枚一枚の隙間から溶岩のように朱く、鈍く光る。頭にある三対の角は最早マグマを結晶化したかのように鋭く、それでいて朱く綺麗に灯っている。
これが、インフェルノの中で最も攻防に長けた超危険種の飛竜――――[溶岩竜]マグナロスだ。
〈貴様ら……我が領域に土足で踏み込むとはな……よほど死にたいようだな〉
今の低く、重苦しい声は、目の前にいる溶岩竜、マグナロスの声(というより、心の声)だ。数々の魔物、魔族の中には、言葉で話せない代わりに、自分の心の声を相手の脳内に直接伝える【念話】という特性がある。魔族からすれば然程珍しくもない特性だが、魔物の中でそれが出来るのは、コイツのような超危険種と、長年生き続けている古代種のみである。
「……それは失礼した。申し訳ございません。[溶岩竜]マグナロス殿。貴方様に不快感を買うような行動をとってしまい……私達は別に、貴方の縄張りを荒そうなんていう気持ちは微塵もございません。用件が終わり次第、すぐに立ち去ろうと考えていたのですが……」
〈御託は良い。今すぐ立ち去れ〉
ひとまずオレは、多少仰々しく、堅苦しく感じるだろうが、かしこまった態度でマグナロスに跪いて穏便に話そうとしたが、勘ぐられて対話を断ち切られた。長年生きているから、こういう態度で話をした者は大抵嘘吐きだと分かったのだろうか。そうなると、残る手は二つ。――――逃げるか、立ち向かうのみ。
どうしようかと考えながら、一応隣でオレと同じように跪いていたフェイアを見た。フェイアはオレの視線に気付き、目を合わせた。……そして、彼女の瞳で、どっちにするのかを決めた。
(……仕方ない)
オレ達はほぼ同時に立ち上がり――――。
「【氷結牢獄】!!」
まずはオレの氷属性の拘束魔法で、マグナロスから見て右側の脚を前後共に凍らせ、動きを封じた。突然の拘束にマグナロスが狼狽えたその隙を狙い、フェイアが今使える渾身の絶技の名称を叫ぶ。
「【炎撃突進】!!」
すると、フェイアの身体は炎に包まれ、そのまま凍っているマグナロスの足に向かって一直線に猛烈なタックルをぶつけた。
その結果、凍り付いていたマグナロスの右側の脚は氷と共に砕け散り、その粉々に砕け散った傷口から血飛沫が噴き上がる。
グギャオォォォォォーーーーー!!!!!
これには流石の超危険種であるマグナロスも、【念話】ではなく本気の咆哮……いや、悲痛の叫びを上げた。大地が震えるほどの雄叫びだったため、近くにいるオレ達からすると、正直うるさすぎて仕方ない。
ちなみに、先ほど言った絶技というのは、無属性を始めとし、魔法職でいう魔法みたいな特別な力を込めた戦士職のみに使える武技である。魔法とは違い、魔力の消費が全体的に少ない分、ある程度の魔力適正がないと使えないのだ。フェイアの場合、無属性と火属性、風属性が使える。
ズドォォォーーーーーン!!!
前脚を失ったマグナロスは、自分の血だまりによって身体のバランスを崩し、大地を揺るがしながら倒れた。こうなってしまえば、あとは翼と意識を無くすだけ。
「ハッハッハッ!これで終わりだぁ!!【風塵爪】!!」
「【溺水牢獄】」
勝利を確信し、高笑いしながらフェイアは鎌鼬を起こす風属性の絶技でマグナロスの翼を斬り、オレは水属性の結界魔法でマグナロスの頭部を水で埋め尽くす。超危険種であれ、相手は生き物。呼吸器官を塞げば息が出来なくなる。つまり、勝負ありだ。
バァン!!バァァン!!ゴボッ…!ゴボボボボ……ッ!!
大暴れしながらマグナロスは酸素と魔素を求め、クロードの魔法を壊そうともがくが、前脚がないに加えて、水は流動体。故に、掴むことなんぞ到底不可能。……その間、マグナロスが高体温のせいか、頭を覆っている大きな水の球体からフシュゥー…と湯気が上がっていたが、残念ながら水の量もあり、完全に蒸発させるほどの熱量を持っていなかったため、ただ湯の球体に変わっただけだった。
そして、太くも大きく、しなやかな尻尾を何度も地面に叩きつけながら最期までもがき苦しんだマグナロスは、溺れたのか、それとも意識を失って力尽きたのか、尻尾を地面に叩きつけるのも暴れ回るのも止め、少し全身痙攣を起こした後に、ピクリとも動かなくなった。終わったと思い、フェイアはかいてない汗を拭いながら一息吐いた。
「……ふぅ……ハッハッハッ!なかなか熱い戦いだったな!!」
「あぁ。お互い怪我がなくて良かったな」
「ハッハッハッ!クロードのおかげさ!!」
「……おう。そうか」
……正直、フェイアと二人だけで超危険種を倒した事にも驚いたが、クロードとしてはそれ以上に、フェイアのラフな格好(今は所々焦げている)が、意外にも【炎撃突進】の機動力の糧になったという事に驚きを隠せなかった。
「……まぁ、竜人族の鱗とかがフェイアの鎧代わりになったおかげでもあるか――――ッ!!」
まぁ、何はともあれ、マグナロスが息を引き取るのも時間の問題だろうと高を括った瞬間――――力尽きて動いてなかったマグナロスの尻尾が突然、完全無防備のフェイアに向かって背後から鞭の如く叩こうとしていた。
(まだ動ける意識があったのか!……チッ!走っては間に合わない……!!)
無論声をかける暇も考える暇もない。
「【時間停止】!」
クロードは咄嗟に無属性の結界魔法を唱えた。その瞬間、マグナロスの尻尾攻撃が……否、マグナロスの尻尾どころか、オレに向かってニカッと笑っていたフェイアも、火口から漏れ出ていた溶岩含め、ここら一帯の全てが止まった。別に火山ごと拘束魔法をかけた訳ではない。クロードの魔法一つで火山ごと……いや。ここら一帯を含めた世界の空間全ての時間が意図的に止められたのだ。今この空間内で動けるのは、術者であるクロードのみ。この魔法は、装備などで時間対策をされない限り、術者以外誰も動く事が出来ない強力な結界魔法だ。しかし、同時に欠点がある。時間を止めている最中、自由に動ける術者は止まったモノ(今の場合、マグナロスやフェイアの事)への直接攻撃や支援が出来ないのだ。それに加え、世界規模というのもあり、発動中は時間が経つにつれて魔力の消耗も激しい。そのため、いくら魔力が大量にあるクロードであっても、止められる時間は限られている。なので、魔力切れという名の時間切れになる前に、クロードは早急にいくつかの仕込みを入れる。
「【遅効発動】。【衰弱】。【結晶防壁】。【衝撃鎧】。【安眠】」
(……よし。仕込み完了。多分思った通りになるはずだが……)
仕込みを終えたクロードは、この後向かってくるマグナロスの尻尾とフェイアの間に割って入り、フェイアを庇う形の位置で、今発動している結界魔法を解除する。
「……【時間停止】解除」
クロードのこの言葉と共に、時は動き出す。すなわち、一矢報いようとするマグナロスの尻尾がこちらに向かってくる訳だ。
「……ッ!?クロード!!」
変化に気付いたフェイアだったが、クロードは手で制した。フェイアは戸惑ったが、クロードは「安心しろ」とだけ言った。ここまで余裕になっている理由は簡単、既にクロードは確実にマグナロスを倒すための手を打っているのだから。
まずは鞭の如く迫ってきたマグナロスの尻尾の勢いがフッ…と突然落ち、その直後にクロード達の目の前に水晶のようにキラキラとした分厚く大きな壁が地面からせり上がり、尻尾攻撃を防いだ。弾かれた尻尾はそのままビタァーン!と大きな音を立て、そのまま熱を帯びた地面に張り付いたまま動かなくなった。
「……え?……は?……クロード。一体何をしたんだ?」
その一部始終を見ていたフェイアは状況を把握しきれず、ポカンと唖然しながら、クロードに問いかける。質問されたクロードは、フェイアにも分かるような説明の仕方を一度頭の中で整理し、確認を交えて答えた。
「まずは結界魔法である【時間停止】で、さっきの危機的状況を一時停止した。……この部分は分かるか?」
「あー……急に血相を変えて何か言ってるなぁと思ったら、あれクロードの【時間停止】だったのか。どおりでなんか急に縛られたような感じがしたわけだ」
普通の人だったら、そんな魔法があるのかと驚く所だろうが、フェイアを含め、元・勇者団のメンバーもとい、人間時代から一緒に旅をしていた者達からすると、【時間停止】は割と聞き慣れた魔法なのである。だから多少の違和感があるとフェイアが言うのである。
本来【時間停止】は、よほど仕込みに時間がかからない限り、解除されても違和感を感じる事はない。しかし、特殊な装備で時間対策をし、一度【時間停止】を回避すると、今後時間対策をし忘れた状態で【時間停止】に巻き込まれたとしても、フェイアのように実質短時間発動された【時間停止】でも違和感を抱くようになるのだ。
ひとまず、最初の行動を理解してくれたので、クロードは引き続き、時間を止めていた最中の仕込みを説明した。
「その【時間停止】を発動させている間、仕込みとして、【遅効発動】でいくつかの魔法を、【時間停止】を解除した直後に発動させるようにした。まずは【衰弱】でマグナロスの攻撃の威力を弱め、次に【結晶防壁】で防ぎ、最後は【安眠】で眠らせて安らかに死なす。ここまでが主な流れで、もし【結晶防壁】が壊された際の予防策として、【衝撃鎧】で飛んでくる破片をある程度無効化させる手筈だった。……まぁ、予防策の方は無駄になってしまったがな」
「おぉ!あの短時間で対応策まで考えていたのか!!さすがクロード!!アタシ達の参謀!!」
クロードの説明を理解してなのか、そうでないのか分かりにくい反応だが、おそらく前者であろう。そうでなければ参謀なんていう言葉は使わない。説明がちゃんと伝わった事への安心感と、過剰な褒め言葉に対する不快感との板挟みにクロードは複雑な気持ちを持ちつつ、フェイアの言葉に対する返事をした。
「そう褒めるな。……あと、参謀言うな。魔術師のオレに負担をかけさせるな。オレだって若くないんだぞ?」
「ハッハッハッ!それはお互いさまだろう!!実際アタシの方が年上だし!!」
そんな感じで談笑している内に、超危険種の[溶岩竜]マグナロスは、魔素と命が尽きてただの屍と化した。
「……どうやら、やっと力尽きたみたいだな」
「ハッハッハッ!そうみたいだな!……なぁ、クロード。――――もしかしてコレが目的だったりするか?」
ようやく討伐完了したとクロードは安心したが、フェイアは同調した後に核心を突くような質問をした。これには流石のクロードも、動揺を隠せなかった。
「……いや。正確には違うが……いつ気付いた?」
「割と最初から。……正確には、アタシが何処に行くのって質問した直後だな」
「……そうか」
(そんなに早く気付いていたなら、もう隠す必要はないな)
そう決心したクロードは、フェイアに包み隠さず、真実を述べた。
「オレがお前と一緒にインフェルノに行こうと誘ったのは、マグマンタイトの採掘に協力してもらおうと思って誘ったのだ」
「それをアタシはデートの誘いだと勘違いし、気が付いたら否定できない状況になっちまった……ってところか?」
フェイアの発した声色は低めだが、俯いていたため、怒っているのか、悲しんでいるのか、恥ずかしんでいるのかが分からない。ただクロードは、結果的にフェイアを騙していた事に変わりはない。なので、今のクロードに出来る事は、ただ謝るしかなかった。
「そういう事だ。……すまないな」
「……ハッハッハッ!ハァーッハッハッハッハッハッハッ!!」
「……え?」
てっきり怒鳴られるか殴られるかと思っていたクロードは、フェイアの予想外の笑い声に呆けるしかなかった。
「そんなシケた面しなくて良い!アタシは別に怒ってない!元をたどれば、アタシの早とちりでアンタに迷惑をかけちまった!それだけの話だ!!それに、熱い戦いも出来たし!何より――――クロードに嫌われてない事も分かったしな!!」
「……敵わないな」
(……本当に……敵わないな……真っ直ぐな気持ちで許す、その優しさには……)
フェイアに許してもらい、クロードは安心というより、清々しい気持ちになれた。目の光が緑色になる程に。
「……どうした?クロード?」
「……あ、あぁ。なんでもない。とりあえず、マグナロスを剥ぎ取って、その後にマグマンタイトを集めようか」
そんな感じで見惚れていた事に気付いていないフェイアは、クロードの骨しかない顔を覗き込み、声をかけたが、クロードは少し遅れ気味に反応し、慌ててマグナロスを剥ぎ取ろうという形で誤魔化した。
超危険種である[溶岩竜]マグナロスを倒し、オレとフェイアは今、それぞれ上半身側と下半身側に分かれて剥ぎ取りを行っていた。……この作業においての暗黙の了解だが、どの魔物においても一度に剥ぎ取って良い量は限られており、血肉や臓器といった残りは、魔物に食わせておくこと。……我ながら、一体誰に言っているのやら。
「……えっと……あった。逆鱗……っと」
マグナロスの鱗(逆鱗を含む)と皮、角に牙、爪をある程度剥ぎ取り、道具を使って眼球を片方だけくり抜き、肉を断ち切り、骨を何本か抜き取り、血を空の瓶にいくつも汲み取る。そんな作業を黙々とフェイアと一緒にやっていた所で……。
(……あっ。そうだ)
オレは、マグナロスと遭遇したせいで忘れてしまったある光景をふと思い出した。……まったく。思い出すのが遅い。
「おぉーい!!クロードぉ!!こっち側の素材、言われたとおりの数を取ってきたぞ!!」
「あぁ。ありがとう。……この袋に入れてくれ」
(……いや。逆に良いタイミングか)
マグナロスの剥ぎ取りに協力してくれたフェイアに感謝の言葉を言いつつ、オレは異次元ポケットからある物を取り出した。
収納革袋『超次元袋』。見た目はただの手ごろサイズの革袋だが、この袋は、見た目に反して一度に持ってこれる容量がとにかく大きいのだ。性能は異次元ポケットや、常連客が持っている超収納背嚢『無限背嚢』より数段劣るが、複数の普通の革袋と一つの超次元袋、どっちがより物が入れるかと言うと、超次元袋の方が圧倒的に物が入れるのである。しかも、普通の革袋と違い、超次元袋の中は小さな異次元に繋がっているため、かさばらないという利点もある。
「……まだこの程度だったら、重さは感じないが……」
「マグマンタイトをいくつも入れたら、さすがの超次元袋でも容量に響くからな。……そこでアタシの出番って訳だ!!任せな!!」
ドンッ!と胸を叩くフェイアだが、逞しい腕とシエル程ではないがそこそこある胸で妙な気持ちになる。……なんでかは分からないが……いけないいけない。危うくまた忘れるところだった。いい加減本来の目的を果たそう。
「まぁそれは帰りに集めれば良い。……とりあえず、フェイア」
「ん?なんだ?」
ウダウダ言ってる暇はない。オレはフェイアの手を掴み、少し強引かもしれないが、強めに腕を引っ張り、ある場所へ向かうため、進む。
「お、おい!!急に手を繋ぐな!!ビックリするだろ///!?」
「悪いな。……だが、ようやく邪魔がなくなったのだ」
「え?」
「デート、再開するぞ」
「……えっ、えぇっ///!?」
今回ばかりは、オレに非があったとか罪滅ぼしだとか、もっともな理由で羞恥を誤魔化すのはやめだ。
誠心誠意、フェイアとのデートに付き合うぞ。
一方、新人侍女達への抜き打ち検査のために、ジェノサイド城に滞在していたミリークは……。
「……むっ」
「あ、あの……どうかなさいましたか?」
「……この窓のサッシにホコリが溜まっているようですが、どなたが此処の掃除を?」
「あっ。わたくしです」
「窓は景色を眺める額縁のようなものです。それをホコリで台無しにしてはいけません。外へ出られないお嬢様の数少ない趣味なのですから、こういった細かい部分も気にかけるように」
「はっ、はい!」
何かを感じ取ったが、仕事中のため、指導する形で誤魔化していた。
いかがでしたか?
一応ファンタジーでもあるため、ファンタジーの代名詞ともいえるドラゴンとの戦闘シーンをはさんでみましたが、少し展開が急すぎましたかな?
次に投稿出来るのが何時になるのかが分からないため、気長に待っててください。