第五話:早急に遅れた時間を取り戻さないと
どうも皆さん。緒蘇輝影丸です。
梅雨の時期に入ってジメジメしますね。少し嫌になっちゃいます。
それにしても、この短期間で閲覧者数200人を超えるとは思いませんでした。
……ただ何でしょう。大きな双丘に釣られたのではと少々疑ってしまうこの気持ちは……。
まぁ良いです。今回は依頼回後半です。楽しんでいただければ幸いです。
久々の再会を果たした修道女、シエルの説教とお詫びにより大幅な遅延をしてしまったオレは、普通の人間では到底敵わない魔獣だらけの森林地帯『グランノーム』の広大な森にて迷子の孤児達を探している。
シエルから聞いた情報だと、今回迷子になった孤児達は『フォーカオス』という孤児院であるオーファンズに住む数ある孤児達の中で、最も探検を好む四人グループらしい。
まず一人目は、メンバーの体格では通りにくいであろう狭い通路でも楽々通り抜け、中の状態を調べる事が出来る半液物質族の男の子、ショーゴ。
二人目は、もし魔獣に遭遇しても咳やくしゃみで溜め込んだ胞子を振り撒き、一時的に幻覚を見せ、メンバーの逃走回路を作る魔棲茸族の女の子、カサッコ。
三人目は、グループの中では一番大人しめだが、察知・探知能力が誰よりも高く、グループにとっては欠けてはいけない存在、自動人形族の女の子、マオ。
そして四人目は、勇気と冒険心、知性が一番高く、ほかのメンバーたちをまとめ上げるフォーカオスの頭目とも言える犬人族の男の子、ベルド。
無生物、植物、機械、獣といった感じに統一性がないグループだと思いつつ、まずはざっくばらんに【地形探知】という広範囲の探知魔法で四人がいる場所をある程度絞り、そこから一定範囲の効果を持つ探知魔法【探知】と【千里眼】で居場所を特定すればすぐに見つけられる。
もっと言えば、灰毛熊族の夫婦喧嘩した時のように子供二人(転移する対象)だけをオレの元へ転移すればあっという間に解決なのだが、残念ながら今回は魔素減衰の影響で魔力量が通常時の約半分までしかないので、あまり魔法の無駄遣いが出来ないのである。
魔素減衰は読んで字の如く、魔力の源とも言える魔素の量が半分くらいに減ってしまう時期の事である。季節ごとに一ヶ月の間だけではあれど、魔法職であるオレやシエル、まだ紹介した事がない召喚士や吟遊詩人にとっては割と死活問題とも言える時期なのである。ただ、逆に魔法職が大活躍出来る期間、魔素倍増も存在する。二ヶ月ほど先になるだろうが。
一年単位で魔素の変化量は、通常、減衰、通常、倍増、通常(最初に戻る)といった感じの周期を年に三回程繰り返すのである。ちなみに現在は今年で二度目の魔素減衰である。
なので、魔力の消費量が高い対象のみの転移魔法が非常に使いにくいため、自らこの危険地帯に足を運んだのである。
……それにしても、この近くにあの四人グループがいると分かっていても、グランノームは相変わらず深く、広すぎる。短距離歩いただけで普通に迷いそうだな。最後に来たのは二年くらい前か。毎度のことながら、索敵・探知などに長けた魔法や使役獣を持っていなければ間違いなく辺りを彷徨い、そのまま野垂れ死ぬか、魔獣の餌になるかの二択であろう。いくらグループの半数が食事をあまり必要としない種族であれ、魔獣からすれば食べられない種族であれ、そうじゃない種族もいるため、あまりのんびりしていられない。
「というか、あまりウロウロするんじゃないよ。魔獣はオレ達魔族と違って魔素減衰の影響が少ないヤツが多いんだから」
最近の子供は元気があって良いが、暴力による虐待や半ば強引すぎる強要などによる刑罰を恐れるあまりに大人が強く叱れないからといって、子供達はそれに付け上がって反省、自重するという気持ちがなくなるのは非常によろしくない。普段は別に優しく接して構わない。だが、もしその子供が明らかに悪い行為をする、もしくは不快な行為をしようとしたならば、強く叱れとは言わずとも、諭したり普段とは違った態度(冷たい態度)で話しかけたりして、子供に他人の気持ちを少しでも分からせないと無意味だ。でないと、子供は同じ過ちを何度も繰り返してしまうのだから。
……まぁオレは、既婚者で子持ちのロストとは違い、独り身だから説得力は皆無だがな。
…………ルルル……!!
……ん?今何かの唸り声が聞こえたような気がしたけど……。
「……ぶない!……ベルド!!」
(ッ!子供の声……!)
唸り声のした方へ聴覚を集中した途端、どいつかは分からない子供の声にオレは思わず走り出した。魔術師として焦りは禁物だって事は知ってる。……だが、元とはいえ勇者団の一人、目の前に困った者、助けを求めている者の所へ駆けるのは、人間時代から出来た習性なんだ。
――――魔族であれ、子供の命一つも救えないで、何が伝説の勇者団だ……!
ようやく視界に誰かは分からないが、子供の姿を確認した時には、既に四足歩行型の魔獣(何かまでは気にしてられん)が子供に向かって跳びかかっていた。今狙われている子供を庇おうと走っている三人の足では間に合わない。……魔素減衰なんかで出し惜しみしてる場合じゃないなっ!!
「【大地の拳】!」
今の魔獣は空中且つ翼がない。つまりは避ける術がない。……この魔法でどうなるかなんて、考えるまでもないだろう。
ドゴォ……ッ!!
地面から高速で盛り上がった地柱が、魔獣の無防備な腹に致命的な大打撃を与えた。……ほぼ咄嗟に唱えた魔法であったため、加減を忘れてつい子供に襲いかかった魔獣をディザストレの外までふっ飛ばしてしまった。多分魔の海とも呼ばれる『バミューダ』沖まで飛び、肉食系の魔海棲魚に食われているだろう。
そんな感じで少しやり過ぎたと軽く反省をしたが、別に後悔はせず、そのまま一人の子供を取り囲むように集まっていた三人の子供の所に歩み寄った。
「大丈夫か?」
「あっ……」
オレが声をかけると、今回の捜索依頼の対象であるフォーカオスの一人、笠を被った少女のような見た目を持つ魔棲茸族のカサッコが小さく声を漏らし、潤んだ瞳でこちらを向いた。カサッコの反応に釣られて、同じく犬人族のベルドの傍らにいた自動人形族のマオと半液物質族のショーゴの二人もこちらを向いた。
ベルド以外の三人の様子を見ると、みずぼらしい格好だった。カサッコとマオの二人は、体のあちこちが泥だらけで、服の所々にはまるでささくれが引っ掛かったかのような穴が開いていた。その穴から浅くも擦り傷が見えた。人の形に模したショーゴには怪我こそないが、体内には木の葉や木片、石ころが入っていて一概に無事とは言いにくい状態だった。
……しかし一人、ベルドだけは、みずぼらしいの一言では片付けられなかった。ほかの三人より酷い容態だった。木にもたれ掛かって座り込むだけならまだしも、呼吸が弱々しく、頭から血が出てたせいか、顔には血糊が貼り付いており、頭頂部にある犬耳の片方が一部欠けていた。ベルドの首より下、体には魔獣による引っ掻き傷がいくつもあった。傷の具合からして恐らく、オレが魔法で突き飛ばした魔獣に出くわす前に何度か別の魔獣に遭遇しては、ベルドがカサッコ達三人を庇って出来た傷であろう。
オレがもっと早く四人を見つけていれば、そもそもオレが孤児院の前で鬱にならなければ、こんな事態にならなかったのに……。
そんな罪悪感、後悔の気持ちが湧き上がるが、不幸中の幸いな事に、見た目こそ派手にやられた感じではあるが、ベルドが負った一つ一つの傷はそこまで深くない。
「……ひとまず、回復薬を彼に振り撒くから、少し彼から離れてくれ。もし回復してすぐ暴れられたらお前達もタダでは済まないからな」
ただ、あまり時間はかけられない。いくら魔族が人間より自己再生能力が高いとは言え、このまま放置するのはマズイ。そう思ったオレは、まず【回復】をかける前によく作る魔法薬の一つである回復薬を傷口にかけるように、小瓶の中にある液体をベルドの体中に振りかけ、傷口を塞ぐ。
オレの【回復】は、魔術師という本職の関係上、どんな大怪我でも完全(少し大袈裟かもしれないが)に治せるシエルの回復魔法と違い、痛みをなくしつつ早めに細胞を活性化させ、自然治癒を早めさせるだけで、怪我自体を瞬時に治せるわけではないのだ。あの時ミリークが店で少し暴走した後にかけた回復魔法は、オレが加減していたのもあり、【回復】一つで彼女の痛みがあっという間に治まっただけなのだ。
……あちこちにあったベルドの傷口が塞がっている事を確認した後、すぐに【回復】で痛みをなくさせ、【安眠】で安静させた。するとベルドはスゥスゥと、一定のリズムを刻むように寝息を立てた。これであとは数時間も眠れば元気になるだろう。
「……まぁ、こんな所か。……一応確認だが、お前達は大丈夫か?痛いのを我慢してるなら無理はするな。回復薬ならいくつも持ってるから、少しくらい使っても問題はないぞ」
ベルドの容態が安定した事を確認した後、ほかの三人の安否確認をした。
「あっ……大丈夫……です……胞子がない事……以外は……」
コクリと小さく頷き、たどたどしい口調で自身の体調を報告するカサッコ。
「プップッ!大丈夫だゾ!……とりあえず不純物を吐き出せばナ。……プッ!」
体内に入り込んだ木の葉や石ころを口から吐き出しながらピッと親指を立て、元気に答えるショーゴ。
「損傷率 四・○七%……自動修繕可能範囲内です」
如何にも機械的な返事をするマオ。……若干硬すぎる返答のせいで理解と反応が地味に難しいがな。
……まぁ何はともあれ、回復薬とかが必要ないくらいの容態なら良い。ひとまず、オレはぐっすり眠っているベルドを抱きかかえ、ほかの三人を手招きでオレの近くに寄せた。
「それじゃあ、戻るぞ?【転移】」
一概に無事とは言えなかったが、依頼された孤児四人組をなんとか保護し、シエルのいる孤児院オーファンズに転移魔法で送った。
一瞬で目の前がオーファンズの前にいるかのような錯覚をするが、何度も受けたこの感覚にもう慣れたオレは、着いて早々にシエルを呼んだ。
「シエル。連れて来たぞ」
「クーちゃ~~ん!」
「しぃー……」
出て来て早々シエルの声が少し大きかったのか、オレに抱きかかえられているベルドが不快そうな声を漏らしながら少し身じろいだため、もう少し声を抑えるように人差し指を口元に当てた。状況を理解したシエルはオレのジェスチャーを真似し、コクコクと頷いた。
「シ……シエルさん……ただいま……です……」
「今日はいつもより大冒険したゾ」
「……あっ。シエルの怒り指数 五五・八%感知。……叱られます」
マオ正解。何せお前たちは、予定外になってたとは言え、自由時間以上の探検をしてしまったのだからな。しかも泥だらけなので洗濯という名の余計な仕事(シエル本人は別に苦と思っていないが)に加え、ベルドが大怪我をしたという変わりない事実を知れば、大人として叱らなければならないのだ。
「ちょ~っと、ヤンチャが過ぎたね~?」
顔は変わらずにこやかな笑顔だが、発している声の低さに、この場にいる全員が凍った。そして悟った。嗚呼、この人は怒っていると。眠っているベルドでさえ小刻みに震えているほどだ。怒っている様子を目の前で見ている三人からすれば、死の宣告時間が迫っていると感じてもおかしくない。滅多に表情を変えない自動人形族のマオでさえ一筋の冷や汗がこめかみ辺りからツゥー…と流れた状態で「怒り指数が急上昇中……殺されるかも」と呟き、ただでさえ気の弱い魔棲茸族のカサッコは体の震えに加え、目に涙を溜め込んだ状態、今にも泣き出しそうな表情でシエルの怒気丸出しのニコニコ顔から目を逸らせないまま見つめ続け、半液物質族のショーゴに関しては全身をブルブルと震わせている。三者三様で違う反応をしていれど、三人揃って顔を青ざめている。
「今日という今日はぁ~……ユルサナイカモ」
……ッ!マズイ!!
間延びが無くなった瞬間、オレは数ある魔法の中でも最上級の防御力を誇る防壁魔法を唱えようとした。
――――しかし、ここで思わぬ事が起きた。
オレの左腕にあったはずの重みが無くなったほか、シエルの背後に二つ、シエルと三人の孤児達の間に一つの影が見えた。
背後の一つはシエルと同じくらいの背丈で、彼女を羽交い締めにして動きを押さえ、もう一つは孤児達の平均よりひと回り大きめで、シエルに肩車しているかのような体勢で手に持っているナイフ(というよりダガーか)を彼女の喉元に突きたてていた。
この二人まではまだ分かったが、オレが驚いていたのは、三人を庇うようにシエルと三人の間に割り込んだ一つの影だ。何故なら、ソイツはさっきまでオレの左腕の中で眠っていたフォーカオスの頭目で犬人族のベルドだったからだ。想像以上の怒気に膝がガクガクと震えていたが、腕はメンバー三人を庇うように大きく広げ、目線はシエルをジッと弱々しくも真っ直ぐな眼光で見つめたまま目を逸らさなかった。
シエルも思わぬ阻止に驚き、硬直した。その隙にオレはシエルに【正常化】で暴走した怒りを治めさせ、正気にさせた。
「……あ、あれぇ~?」
……ふぅ。ようやく怒りが治まったか。オレとフォーカオス四人は安心しきったかのように息を吐き、軽い脱力感に追われた。中には膝を崩してペタンと座り込んでいた者もいた。オレは張りつめていた緊張感をようやく緩め、シエルを物理的に押さえていた二つの影の持ち主に感謝をした。
「ありがとよ。ミリーク。それと――――久しぶりだな。エルダ」
その内の一人はよく見慣れた侍女、ミリークだ。彼女自身はそこまで戦闘力があるわけではないが、修道女とは違い、侍女は雑用で力仕事をする事があったため、少なくとも腕力だけならば修道女のシエルより高い。そのため、シエルがミリークに羽交い締めされても身動きが取れないのだ。
もう一人、オレの挨拶にコクリと頷いたエルダというポーカーフェイスの女の子は、オレとシエル同様、元・勇者団の一員だ。職業は暗殺者で、現在は自身の小柄な体型(本人はかなり気にしている)と種族、俊敏性と隠密能力を活かし、魔王城であるジェノサイド城の夜間警備隊長(ディザストレに夜なんていう概念は常時あるようなものだが)として侵入者を見つけては排除する役割を担っている。ちなみに種族は吸血鬼族だ。
「いえ。あまりに帰りが遅かったもので、何かあったのかと思い、こちらに向かう途中でエルダ様と共に来たのですが、まさかこんな事態になるとは」
「……うん。同意」
シエルの怒りが治まった事を確認してすぐ離れ、ミリークはここに来た経緯を簡潔に説明した。エルダが頷くからには、本当の事なのであろう(別に疑っていた訳ではないが)。ただ、ミリークだけだったらまだ分かったが、普段魔王城で働いている仕事の関係上、滅多に会わないエルダも何故オーファンズに来たのかが分からなかった。すると、オレの疑問を察してか、短い同意の後に、補足するように続けた。
「……ここから、城までピリピリ。……だから来た」
「そうか」
補足にしてはえらく短く拙いが、暗殺者にとって口数の少なさは習性であるため、今さら直せないのだ。なので、オレ達が彼女の発言を理解しなければならないのだ。とはいえ、人間時代から一緒に旅していたのもあり、大体分かるようになった。
要約すると、シエルの発した怒気がエルダ含めロスト達がいるジェノサイド城まで漏れ出ていたらしく、ロストが慌てて彼女を宥めようと思い、緊急動員としてエルダにここを向かわせたらしい。多分ミリークとはその途中で遭遇し、ちょうど同じ目的地であったため、一緒にここへ来たのだろう。
エルダは、基本ジェノサイド城の外を出る事はなく、今回のような余程の事態が起きない限り、滅多に姿を現さないのだ。だから久しぶりと言ったのもある。
「……にしても、ベルド。お前はなんであんな無茶をしたんだ?」
エルダとはかなり久々の再会であったため、色々積もる話もあったが、とりあえずエルダの動機を理解したオレは、目線をベルドに移し、少しばかり質問という名の詰問をした。
「うっ……オ、オレは……」
シエルほどではないが、静かに漏れ出ている怒気に一度言葉を詰まらせたが、ベルドは弱々しくも確かな声でこう言った。
「オレはフォーカオスのリーダーだ。……メンバーを守れないで、何がリーダーだってんだ」
……フッ。
「フハハハハハ……ッ!!」
「「「「「「ッ!?」」」」」」
ベルドが覚悟を決めて割り込んだ理由が、人間時代のロストがまだ勇者ライドとして、やたら前線で戦っていた理由とほぼ一緒だった。まさかここまで生きてきて(死んでいるが)、再びその言葉を、ましてや魔族の少年の口から聞けるとは思わず、つい高らかに笑ってしまった。あまりに急であったため、この場にいる全員驚いた。というより軽く引かれた。オレはすぐさま自分らしからぬ行動を誤魔化すようにゴホンと露骨な咳払いをし、シエルに説教の免除を求めた。
「……シエル。ベルドの勇気に免じて、今回は許してやれよ」
「うぅ~ん……ベルちゃん達~。もう危険な場所には行かない~?」
「あ、あぁ。流石に今回は懲りたぜ」
シエルの再確認に、ベルドは後になってシエルの怒気に対する恐怖感を抱きながらも応じた。そんな彼に同調するようにカサッコ達三人もコクコクと頷いた。その様子を見たシエルは、少し考えるような仕草をし、この後の予定を述べた。
「そうなのぉ~……じゃあ~、一週間外出禁止で許してあげるよ~」
ベルドは、一週間の探検という名の外出を禁止された事に「うへぇ~……」と不満げな声を若干漏らしたが、ここで彼女なりの妥協案に納得しなければもっと酷い刑罰を下されると察したのか、諦めて彼女からの刑罰を甘んじて受けた。
「それじゃあ、これで依頼完了だな。……ミリーク。寄り道してから帰るぞ」
「はい。クロード様」
ここからはシエルの仕事であるため、役目を果たしたオレは、デッドオーパーに帰る前に、ケーキを買いに行かなければならない。それもオレ達二人揃ってデッドオーパーにいない状態で放置されているアイツの分も含めて、な。
いざ行こうとした矢先で、ローブを引っ張られた感触がした。何かと思い、引っ張られた方を向くと、エルダがジッと、まるで子供のような目でこちらを見つめる。……多分エルダもケーキが食べたいのであろう。女の大半は甘いもの大好きだからなぁ……。
「……一緒に行くか?」
コクン、とエルダは無言で頷いた。……多少出費がかかってしまうが、シエルを止めてくれたお礼をしない訳にもいかない。
「じゃあ、行こうか。……【転移】」
それからオレとミリーク、エルダの三人は、オレの奢りでトリートパンプのジャトルテとモンスラン、ブラドベリータルトなどを食べ、エルダとはそこで別れた。
その後、オレとミリークは二人で帰路を歩いていた。何故歩いているのかと問われれば、オレの魔力がそろそろ尽きそうであったためである。……まぁ、たまにはゆっくり帰るのもなかなか乙なものだ。
「たまには悪くないな。こういう贅沢も」
「そうですね」
「あー……ミリーク」
それに……デッドオーパーに着くまで、あの時の罪悪感を抱いたままには出来ないしな。
「はい。なんでしょうか?」
「……悪かったな。なるべく早く帰るつもりだったのだが、まさかあそこまで遅れるとは思わなかった」
まずは謝る。大事なことだ。少し言い訳じみた部分もつい言ってしまったが、大丈夫だろうか。
「いえ。別に気にしてはおりません。……久方ぶりだったのもありますし、色々積もる話もありますでしょう」
大丈夫みたいだが、あまり表情を変えないから怒っているのかどうかがイマイチ分からない。
「いや。そういう訳ではないのだが……あー……んー……っと……」
「煮え切りませんね。ハッキリ言ったらどうですか?」
マズイ。ウダウダし過ぎてミリークがイラついている。ここで覚悟を決めないと、怒るだけでは済まされない。しっかりしろ。オレ。お前は魔王城主ロスト・シュナイドの右腕だろ?人間達との戦争に比べれば、こんなもん屁でもない事だろ?ここで失望、失敗を恐れたらまた鬱に陥って迷惑をかけてしまう。それだけは何としても避けたいだろ。だったら腹を括れ。……ここで誠意を見せないと、今のオレがオレを許せなくなる。だから言え。
「ケーキを奢っただけではオレの気が治まらん。なんでもいいから、オレに一つ命令をしてくれ。オレに出来る事なら何でもやってやるから」
「……なんでも、ですか……」
何でもやるという言葉にピクリと反応したミリーク。……少々強引かもしれないが、責任を取るにはこのくらいやらないと。
「……急には思いつきませんので、また後日に決めてもよろしいですか?」
「あぁ。魔王城からの依頼に関することじゃなければだがな」
「分かりました。……さぁ、帰りましょう。我が家に」
「あぁ」
そんな感じでオレはミリークと約束を交わし、その後に少しだけ会話をし、デッドオーパーに帰ったら各々風呂に入り、その後部屋のベッドで普通に眠った。
いかがでしたか?
特に矛盾した点はないかと思いますが、今回はクロードの中に残された人間味を出そうとしたのですが、おそらくシエルの意外な部分に目がいったかもしれませんね。
次回は本編とは違った視点での幕間回です。いつ投稿するかは分かりませんが、気長に待ってて下さい。