第四話:悪いクセを起こした後に良い事はない
どうも皆さん。緒蘇輝影丸です。
GW明けで五月病になっていませんか?
自分は口開けば「ダルい」と一人愚痴ってました。(何それ悲しい)
投稿ペースがまた一段と遅くなりながらも、閲覧者数100人突破して嬉しいです。
今回は(多分)みんな大好きになるようなヒロイン登場回です。
楽しんでいただければ、幸いです。
ミリークと何気ない日常を過ごしていたある日、ディザストレ上空を飛び回る特殊な能力を持つカラス型のモンスター、伝言鴉がデッドオーパーに入ってきた。
「カーカー」
「あら。結構久し振りに来ましたね。……どちら様でしょうか?」
「さぁな。……話せ」
オレはミリークの疑問を短く答え、誰からか分からない伝言を聞く準備を整えた事を教えると、伝言鴉は嘴を開け、送り元の声と内容を伝えた。
〈クーちゃ~ん、ミーちゃ~ん。ひさしぶり~。シエルだよ~?〉
この声と、この独特――――というより癒しオーラ全開のおっとりとした喋り方をする女性は、オレ達の知る限り一人しかいない。
元・勇者団唯一の回復役であり、仲間になるまでオレと同郷のマルトノースにある孤児院に住み、現在はディザストレの森林地帯の近くに建てられた魔族専用の孤児院で子供達の世話をする森妖精族の修道女、シエル・フミーラである。
ロストが魔王として君臨していた時代では、「私に治せない怪我なんてない」と言い張るほど凛々しく、魔族の部下達がどんなに深手を負っても、意識さえあれば【癒しの風】一つですぐ戦線に復帰できる程の回復魔法使いだった。しかし、スフィア時代に変わる数十年ほど前から少しずつ人間時代の凛々しかった面影がなくなり、今では真逆の性格、おっとりしていて捉え所がないような雰囲気になった。
しかし、人間時代から全く変わってない点がある。それは、オレ達仲間の侮辱を聞くと怒る所である。この部分だけ聞いても別に違和感はない。誰だって大切な人が侮辱されれば怒るだろう。オレだって怒る。
……のだが、シエルの場合はただ感情的に怒る訳ではないのだ。凛々しかった頃は何かしら説教をする母親(いわゆるオカン?)みたいな感じで怒っていたのだが、現在は…………また後で話そう。彼女の伝言を聞き逃すわけにはいかないし。
〈あのね~?四人の子供達が「お外で遊んでくる」と言ってグランに行ったきり帰ってこないの~。だから、見つけてほしいの~〉
(……地名まで短く呼ぶなよ。誰かの名前みたいに聞こえちまうだろうが)
オレは心の中でシエルの地名までも略称付けする変なクセに多少文句を言いつつ、依頼の整理をした。
要は迷子の捜索願いか……。薄情な奴らだったら「自分で探せ」と突き放すだろうが、オレは一応孤児院の事情は知っているし、人間時代からの仲間であり、同郷の住人でもある彼女からのお願いを断るような真似はしない。というより断るわけがないだろ(二つの意味で)。
依頼を請け負うととっくに決めていたオレは、あの場所は道が入り組んでて迷子になりやすいとか、なにか目印になれそうな何かはないかという感じで、迷子になった孤児達が道に迷うであろう場所、とりあえず助けが来るのを待つであろう場所を頭の中でいくつかの候補を絞り出しつつ、シエルの伝言を最後まで聞いた。
〈無事に送ってくれたら~、い~~~っぱいムギューーーってしながらチューーーってしてあげるよ~♪〉
……そういう報酬はいらん。オレは最後の部分まで伝言を聞いた事に後悔した。
……なんでシエルは元・勇者団の仲間に対するスキンシップを男女関係なく求めるのやら。オレ達なら過ちを犯さないと信じてるから警戒心がないのか?それとも温もり感じてないと死ぬ寂しいモンスターなのか?森妖精のくせに。
「クロード様」
「……なんだ?」
伝言鴉を外へ出したところで、シエルからの伝言が終わるまで無言だったミリークが口を開けた。彼女が発した声は心なしか少し低かったような気がするが、気にしない方が身(骨)のためだろう。
「断りましょう。先ほどの依頼」
……ミリーク。何を言い出すかと思えば、私情だらけの依頼拒否だった。
どういう訳なのかは分からないが、ミリークと元・勇者団の女性陣たちとはあまり仲が良くない。……いや。たまに女子会とやらで一緒に飲んだり普通に話したりするから別に仲は悪くないのだが、オレ関係になるとどうしてか軽く言い合ったり睨み合ったりと軽い修羅場が起きるのだ。ロスト率いる魔王家族の前だとそんな気配はなかったのに。なんでオレの前だとこうなるのか分からない。
「悪いが、今後のディザストレに貢献してくれる人材を増やすためにも、若い命をこのまま危険な場所に放置するわけにはいかん」
とりあえず、ミリークの意見を却下し、一旦孤児院に向かう準備をした。……とは言っても、魔法杖を持って【転移】一つ唱えるだけだがな。
「では行ってくるから、店番を頼んだぞ」
「……いってらっしゃいませ。クロード様」
のんびりと過ごしていた時間を突然奪われたことに拗ねているのか、それともオレが意見を聞かずにシエルのいる所へ行くのが余程イヤなのか、ミリークはいかにも不本意といった感じの態度で挨拶をした。少しむくれた顔が可愛いと思ったのは内緒。
「土産は買う」
「……それでしたら、トリートパンプのジャトルテとモンスランを一つずつお願いします」
イチかバチかで店番の報酬を選ぶ権利を提示したら、ディザストレ屈指の美味しい高級デザート専門店『トリートパンプ』の商品を要求してきた。それも二つ。モルディガンマの人間基準で言えば、王族や貴族の者でしか買えないほど高額なのだが……。
「分かった」
オレはあっさり応じた。オレ達は魔王軍として働いていた時の給料(魔導具や魔法薬など)と、たまに来る依頼を成功した時に貰える報酬(食糧や素材など)を城からあり余るくらい貰っているだけではなく、不死族の特性の一つでもある【無食】とミリークの経済管理によって財産の消費が魔界島全世帯の平均よりやや低いのだ。……といっても、ミリークが寝る前に作ってくる夜食だけは食べてるけどね。食べないとアイツ泣くんだよ。
とりあえず果物の在庫があったのか確認をしてから、オレは依頼主であるシエルのいる孤児院へ【転移】した。
ディザストレ唯一の孤児院『オーファンズ』。
元々は魔導教会という魔神官達が魔神ジェノイザを崇める場所であったが、ロストとイリアスが「魔神とはいえ、神頼みする暇があるなら人間を狩って強くなれ」と魔神官達を叱責。その後に魔神官達は、これから会う予定であるシエル(この時はまだ人間時代の性格)がオーファンズにやって来て、彼女から「ここに捨て子達を保護する場所にしたいから魔神官達は補助部隊をやれ」とお願い(という名の脅迫)された。シエルの有無を言わせない圧力に負けた魔神官達は教会から魔王軍に移転され、もぬけの殻になったオーファンズはシエル管轄の孤児院に変わったのだ。
外観は基本の教会に暗い色をしたシダ科の植物が外壁を覆っている感じであるため、人間からすれば薄気味悪いという感想を抱くだろう。
まぁ、それなりに見慣れているオレからすれば、これはこれで風情があるという前向きな感性になる。……さて、オーファンズの前まで来たが……一応【衝撃鎧】をかけておくか。
かけ終えた後、目の前に見える木製の扉に二、三歩近付いた瞬間――――誰かが扉を開けた。……誰なのかは分かっている。しかし、抗う術がないオレには、腰を落として衝撃に耐える姿勢を取るしかなかった。
「クーちゃ~~~ん///♪」
何故なら、扉を開けてからハグするまでの時間がほぼ一瞬であるため、シエルのスキンシップの対応策はこれしか出来ないのである。……修道女なのに速すぎだろ。元・勇者団の暗殺者と良い勝負だぞ。しかも、修道服越しでバルンバルンと揺れる大きな双丘を持っていながらこの速度なのである。一瞬見えたあの双丘という名の重りがなかったらどのくらい速くなるのだと、彼女のミネラルメロン並のボリュームを持つ胸に顔を埋められながら意識を明後日の方に向けていた。
……だって変に意識すると匂いと柔らかさで理性が吹っ飛びそうなんだから。しかもこのスキンシップは彼女が満足するまで何がなんでも放してくれないんだから仕方ないだろ。
数分後、オレはようやく解放され、あんな細腕のどこからあんな腕力を隠し持っているのかという疑問を抱きながら、久方ぶりに彼女と顔を合わせた。
(……うん。相変わらずプライドが高い森妖精族とは思えない顔立ちだな)
改めて彼女の顔を見ると、やはり人間時代の凛々しさはなく、どれだけジィッと顔を見つめても、彼女はただニコニコとした可愛い笑顔を浮かべたまま小首を傾げた。
……なんか癒されるな。おっとりとした話し方を含め、彼女の放つ雰囲気は凄く修道女らしい。人間時代では同じ勇者団の一員として一緒に旅していながら、全然意識していなかった彼女の胸(人間時代から大きかった)も、今では現在の性格と職業と相まってかなり魅力的になっている。もし彼女がモルディガンマの王都などを歩けば人間の男共だったら十中八九触りたいと思いながら彼女の魅力的な胸に見惚れるだろう。……もっとも、女の価値は胸が全てではないのだが、つい見てしまうのが男の悲しき性だ。それは不死族のオレ含め、人外の男も例外ではない。
「……どうしたの~?」
「いや。なんでもない……」
オレの視線に気付いているのか気付いてないのか、シエルは顔を近づけた。オレの方が少し背が高いため、彼女の目線は必然的に上目遣いになる。いつの時代も、女性の上目遣いは男心をくすぐる。特にシエルやミリーク達のような美人ならば尚更だ。
ただ、ジッと見るのは流石にマズイかと思い目を逸らした瞬間、彼女はオレの耳元あたりに顔を近づけ、ボソッと言った。
「……えっち~///」
「ッ!!?」
不意打ちとも言える耳打ちにドキッとした。しかも近付いたおかげでムニッとオレの胸板に彼女の大きな胸が当たるどころか、男の悲しい性による目線がバレたなら尚更だ。
(……というか何故バレた?骸骨だから表情は分からないはずだが……)
「目の光が桃色だったからね~」
……そうだった。不死族は顔を含めて全ての筋肉がないため、普通の人間視点では表情がないように見える。しかし、その代わり眼窩から発せられている光で感情を読み取れるのだった。白を通常とし、赤は怒り、水色は哀しみといった感じに。……で、彼女の言った桃色の光はいわば羞恥、悪い言い方をするといやらしい目で見ていた事を表しているのである。
依頼を果たしに来たのに、その依頼主に不快感を持たすのは仕事をやる立場としては絶対やってはいけない禁忌だと前々から心掛けていたはずなのに!しかも人間時代からの仲間に対してその禁忌を犯すなんて……!!
「……すまない」
オレは、そんな自分に失望した。過ち一つで仲間まで失望、拒絶された日にはオレが考えて作った自殺用魔法【絶望の矛槍】で死ねる自信がある。今すぐシエルの元から離れたいが……せめて最期に依頼を果たしてかr――――。
スパコォーン!!
……今オレの身(骨だけだが)に何が起こったのか、把握するまで数秒かかった。どうやらシエルに側頭部を叩かれたらしい。少し視界が斜めになっているという事は……と思い、オレは頭蓋骨の傾きを手で直しながらシエルに「どうなっていた?」と聞いた。
「昔みたいに鬱になってたよ~。目の光が青黒くなって~」
……あぁ。昔の悪いクセか……。やっぱ不死族になっても、大切な存在に失望された事を考えている内に塞ぎ込んでしまうアレか。……確か、「三つ子の魂百まで」という言葉があるが、このクセが一番良い例かもしれないな……。
「戻ってきて~。青くなってるから~」
おっと……危ない危ない。危うくまた鬱状態になる所だった。
「【獅子心】」
鬱の再発防止に、オレは精神強化魔法をかけて精神的な異常を解消させた。……この魔法は人間時代から毎度お世話になっている。
「目の状態はどうだ?」
「う~ん……大丈夫~。もとの白色になってるよ~」
「なら良い」
一応シエルに確認を済ませた所で、ようやく本題に入ろうとした。――――しかし、その前にシエルのお説教を聞かなければならないようだ。
「クーちゃ~ん?アレは私が悪かったけど~、自殺なんてしたらみんな怒るよ~?クーちゃんはそろそろ自分の優しさとか~、凄さとか~、ローちゃんと同じくらいみんなに好かれている事を自覚した方が良いよ~?クーちゃんが死んだら悲しむ人はい~っぱいいるんだよ~?だから~、クーちゃんが自殺する必要性なんて皆無なんだよ~?だいたいね~――――」
(……これは少しばかり長くなりそうだ……)
オレは、シエルの説教の雰囲気で察した。今回のオレはかなりマズい方向の鬱に陥っていたと。
人間時代に比べれば全然怖くないのだが、緩やかそうな口調に反してネチネチと無い心臓と胃を痛めるような、親が自分の子を怒鳴らず諭すような説教は、不快感はあれど、感情的に怒られる時とは違って、罪悪感が湧くものである。
その結果、オレの鬱に対する説教が終わるのに一時間。終えた後の彼女へお詫びのハグして一時間。自分の脳内で描いていた予定より合計二時間弱の遅延をしてしまった。
……オレは、迷子になっている孤児達の安否を心配しつつ、今回の依頼を終えたらミリークに合うお洒落なアクセサリーも買おうと内心密かに誓った。
いかがでしたか?
今回登場したヒロインは、ミリークほどではないにせよ、それなりに登場するかと思われます。
まだ登場していないヒロイン含め、今後の展開を楽しみにして下さい。
次回はシエルからの依頼後半です。
いつ投稿出来るかは分かりませんが、気長にお待ち下さい。