第三話:このメイド、ちょっと抜けてない?
どうもこんにちは。緒蘇輝影丸です。
なんとか今月中に投稿出来ました。
今回は依頼の後に起きた幕間的な感じです。
楽しんでいただければ幸いです。
前回の依頼、灰毛熊族のケンカ夫婦を仲裁してから二週間くらい経った。魔王城の方からの連絡は特になく、オレの店であるデッドオーパーに来る物好きな客も来ない、退屈で静かな日常が続いた。
オレ一人だけだったら、退屈のあまりに魔法でどこかの国を滅ぼしに行っていただろう。しかし、そんな事をしたら条約違反になるし、私的な都合でモルディガンマの住人に危害を与えればロストに迷惑がかかるからやらないけどな。……それに、この店に住んでるのはオレだけじゃないしな。
コツン…コツン…。
おっ。この足音は、ようやくアイツも起きたみたいだな。いつもはオレより早く起きてオレを起こしに来るのに、今日はたまにある寝付けられない夜だったのか。
「おう。起きたか。ミリー…ク……あらら……」
とりあえず起床した際の挨拶をしてみたが、彼女の耳に届く事はなかった。
だって、オレの所に歩んできたのはミリークはミリークでも――――首から下、胴体部分だけだったからだ。……あっ。欠伸した。手が口元の位置を覆った(虚空だけど)って事は。
「やれやれ……」
魔王城の侍女として、欠伸の件も含めて、はしたない行動するのは如何なものかと物申したい所だが、頭がないのでは何も始まらない。オレはもう手慣れたのように、ミリークの左手を掴み、手のひらに指で「アタマ」となぞった。
するとミリークの胴体は、ハッと気付いたような反応を見せ、慌てて回れ右をして早歩きで自分の部屋に戻った。
数分後、何事もなかったかのようにゆっくりとオレの所まで歩み寄り、挨拶をした。
「おはようございます。クロード様」
「あぁ。おはようミリーク」
さて、少し説教するか。
「それでミリーク。……さっきオレの前で欠伸しt――――」
「しておりません」
食い気味に否定したな。……知ってるか?食い気味の返答には二種類の意味ある。一つは、最後まで聞く必要もなく自分の答えを正直に言うもの。もう一つは、自分の過ちに心当たりを持っていながら、相手に悟らせたくないあまりに勢い余って嘘や否定の言葉を言うもの。今回の場合、後者に該当する。
「いや。絶対に欠伸s――――」
「しておりません」
強情だなぁ……素直に欠伸したって言えば注意だけで済むのに……。
「……目やに付いてるぞ?」
「……え?」
オレの発言にミリークは即座に目頭を押さえるが、何もない。……少し悪い言い方をすれば、ミリークにカマをかけたら見事に引っ掛かったという事だ。
騙されたミリークは「しまった」みたいな顔色になって俯いたが、既に遅い。……というより、お前とは何十年も続く長い付き合いだ。自分で言うのもなんだが、ミリークの仕草や思想は、魔王城主ロストの妻であるイリアスの次くらいによく知っているんだぞ?
「オレの前で嘘を吐けると思ったら大間違いだぞ?ミリーク」
「申し訳ございません」
観念したミリークは深めのお辞儀と共に謝罪をした。いつもなら「次は気を付けろ」という所だが、甘えてばかりいると付け上がる可能性がある(彼女の性格上を考えれば低いが)。なので少しばかり厳しくしよう。
「……お前。その場で謝ればそれで済むと思っているのか?」
「……ぇ?」
意図的だが声を低めに発し、いかにも怒っているかのように目の光を白から赤に変えた。少しアゴを上げて見下すような視線も加えてな。
「人間時代からロストが魔王として君臨した時代の終わりまでイリアス女王様の専属兼城の侍女長として恥じない働きをしていたお前が、スフィア時代の始まりと共に引退し、オレとロスト達との仲介人として働いた瞬間、どこかで気を抜いて手も抜く。……ミリーク。かつてのようにとは言わんが、もう少し気を引き締めてもらわないと、捨てられるぞ?」
という感じに最後の部分をあえて強調するように叱った。いや、叱ったというより呆れ口調で諭したという方が正しいか。ミリークは何も言えない事が悔しいのか俯きながら肩を震わせていた。
「……!?」
――――と思い、ミリークの顔を覗き込んで見たら、不甲斐ない自分に腹を立てていたわけではなく、ただ嗚咽するのを我慢していただけようだ。
「……くすん……くすん……ぇぐっ……」
イカン。やり過ぎた。ミリークの目が涙で潤んで今にも泣きそうな顔をしてる。いや、泣いてる。オレとした事が、侍女の前で「(お前を)捨てる」なんていう言葉は冗談でも言っちゃダメだった事を忘れていた。これだから時の流れと共に記憶もどこかへ流れるこの頭は…っ!
魔法に関する知識しか受け入れないオレの記憶力を恨めしく思いながら、オレはミリークの肩をポンポンと軽く叩いた後、ギュッと優しく抱きしめた。強く抱きしめたらミリークの顔にオレのプレートアーマーが当たって痛いだろうし。
「悪い。お前はお前なりに頑張っているのに……変に意地悪をしてしまった。……すまない」
もう怒ってなんかいないと分からせる為に、背中を擦りながら優しい口調で謝罪の言葉を耳元で囁いた。
「…………捨てませんよね?」
「捨てる訳がないだろ。お前以上に優秀な侍女はいない」
「……でも気が抜けてるのは事実ですし……」
「お前は普段からしっかりしてるんだから、気を付ければ良い」
「……分かりました」
ミリークは弱々しくも、オレの励ましに応じた。……オレもオレで反省しなきゃいけない。侍女もとい女性の気持ちをちゃんと見ていれば、こんな事にならなかったのだから。
「……それじゃあ、魔法薬の素材を集めないとな」
気まずくなったオレは薬草といった魔法薬の素材集めという建前でミリークから離れようとしたが、ミリークがオレを放そうとしない。
「……ミリーク?」
「……きは?」
「は?なんだって?」
ミリークはオレをハグしたままボソッと何かを言っていたが、オレの胸板のせいで声がこもってよく聞こえなかった。なのでオレは聞き返した。
「……お仕置きは?……しないのですか?」
「………………は?」
何言ってんだこの首無し侍女は……。
「聞こえませんでした?」
「いや。今のは聞こえてて「は?」って言ったんだ」
いや本当に何言ってんだミリーク。お仕置きって……何?デコピン?耳に息を吹きかけるの?それともくすぐりの刑?このディザストレには、お仕置きだけでも種族や地域によって違う。前回の依頼に出ていた灰毛熊族はビンタしたり、ロストや姫様といった悪魔族は浄化魔法といった光属性(聖属性とも言う)の魔法攻撃をぶつけたりするのだが、ミリークの言うお仕置きとはどんなものなのか、忘れてしまった。……なんかやりたくなくてデコピンといった妥協案を出したような気がする。
「……お……」
「お?」
「………お尻ペンペン///」
「……………………」
……あー……スパンキングねー……うん。思い出した。
そういえば、オレやロストの人間時代から知っている女性陣の中でもミリークは胸よりお尻が大きめのプロポーションをしており、幼女体型を特徴とする吸血鬼族の暗殺者がよく「思い切り叩きたくなるお尻」とバカにしている内に、どういう訳か「自分のお尻は叩かれるためにある」と錯覚し、何時しかミリークが何か不祥事を起こしたらスパンキングされると思い込み、事あるごとに何故かオレにスパンキングを求めるようになったのだ。それの度にオレはデコピンなどとミリークが望まないお仕置きで妥協していたのだった。
……なんというか、発想というかセンスというか物事の捉え方が多少ズレているこの間抜けムッツリな侍女に何をすれば気が治まるのだろうか……断れば良いのか?
「いや。しないからな?」
「何故ですか!?」
やって欲しいんかい!!という言葉が喉元のあたりまで出かかったが、なんとかグッと堪え、代わりにやらない理由を述べた。
「お仕置きというのは受けたくない苦痛や体罰を与える事がお仕置きであって、自ら望む体罰はお仕置きではなくご褒美の一種として扱われるんだ。つまり、お前がオレにスパンキングを求めているのは、お仕置きではなく自分の中でのご褒美を体罰という名目で求めていると同じという事だ。だからオレはお前にスパンキングなんてしない」
それにセクシャルハラスメント(だっけ?)で訴えられたくないしな。
「……そうですか……」
オレの言い分に納得したからなのか、それとも何も言い返せないからか、それともスパンキングされないと分かったからか、ミリークはシュン…と落ち込んだ。
……多少罪悪感が湧くが、人間時代から残っている理性を外さないようにするにはコレしかないのだ。諦めてくれ。
「……では……」
……ん?なんか嫌な予感。
「――――私はお尻が叩かれるのは嫌なので叩かないで下さい」
「…………は?」
コイツ真顔でスパンキングを否定する形で要求してきやがったぁー!!!どんだけお仕置きされたいんだよこのムッツリ侍女はぁ!!
「さぁ、早くこの淫らでだらしない私めにお仕置きを……!」
「頼むから魔法薬の素材集めに行かせろぉ!!」
強い発光とバリバリバリィ!!!という騒音が、デッドオーパーを中心に轟いた。
どうしてもスパンキングされたいミリークに怒ったオレは、【電撃】という魔法でミリークの身体を感電、麻痺させ、デッドオーパーを後にした。
……そこから約二時間後、オレは流石に酷い事をしたと深く後悔し、ミリークに【回復】と【正常化】で身体を治し、彼女が満足するまで頭を撫でた。
いかがでしたか?
今年の四月からは多忙になるためにただでさえ遅い投稿ペースが更に遅くなるかもしれませんが、気長に待っていただければ幸いです。