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第七話:どうにも分からない点

どうも皆さん。緒蘇輝影丸です。お久しぶりです。

数ヶ月ぶり故に腕が鈍ってしまいましたが、ようやく投稿出来ました。

生存報告も兼ねて、今回の話は、エルダの過去話がメインであり、本編はっきり言って薄味です。


次回はもう少し盛り上がれるように頑張ります。

 見た目は少女、今の種族は吸血鬼(ヴァンパイア)族のエルダ・ムピラダは、元・勇者団の中で唯一名字を持っておらず、生まれてからクロード達に会うまでの十三年間、人間大陸の光り輝く王都もといモルディガンマの聖天国ミドメイラの影、すなわち裏社会で暗殺稼業をしていた少女である。

 その裏社会に入る事になったのは、とある綺麗な娼婦、エルダの実の母親が、何処の誰かも分からぬ子を妊娠した事がきっかけである。親の借金の肩代わりとして自分を売り続けて数年、持ち前の若さと容姿でなんとか稼ぐどころか返済出来たある日、妙な違和感と体調不良を訴えてどうにか長い休暇を貰った娼婦は、人目がつかない場所で女の子を産み、エルダという名前を与えた。しかし、命名して早々娼婦は、とある裏社会へ彼女を売った。理由は単純。美人ではあれど娼婦、細々とした一人生活だけで手一杯だった自分に、子供を育てるお金がある訳がない。簡単な話、面倒を見切れないからだ。自己保身……自分が少しでも長く生きるためと、罪悪感とほんの少しの母性……エルダを衰弱死させないためにはという苦肉の策が、何処かに引き取ってもらうことだった。普通なら教会なり孤児院なりと当てがある筈なのだが、残念ながら娼婦が頼れる伝手、信じられる人物は、このミドメイラの影で密かに治安を正しているとある裏社会の人しかいなかった。それと、単純にすぐお金を手に入れる(買い取る)術がほかになかった。そう自分に言い聞かせた後悔と、最初で最後の母親としてエルダへの成長を祈りつつ、最期に娼婦は二十代後半という若さで息を引き取った。

 そんな形で裏社会『シュワンツァモンド』に引き取られたエルダは、長であるモンブレヒトという男性が、エルダに一人でも生きていける術を暗殺者として、彼女の師匠として厳しく叩き込んだ。そんな教育の下で育ったエルダは、齢八年にして自身の表情を悟らせず、相手の状態を見極め、隙を見つけたならば命を狩る。子供と思って侮ってしまう見た目に反して、実力は大人顔負け。ゴロツキなんぞ朝飯前と言わんばかりに強くなった。……その代償として、本人が知らぬ間に精神がすり減っている事を知らずに……。

 そんな彼女に転機が訪れたのは十三歳の時、暦で言えばパラドゼア時代になって二年と少し経った頃に起きた出来事である。勇者(ブレイヴ)一行もといライド達がワウルを仲間にし、クルスは同行者として共にミドメイラに訪れ、そこで冒険者として依頼をこなし続けていたある日、モンブレヒト宛に一通の依頼書が届いた。依頼主はとある貴族からで内容は、「平民勇者ライド・スティンジャーの暗殺」である。対象が勇者という世界規模の救世主になり得てしまう存在故に報酬はかなり良いが、その分世界から、少なくとも元・勇者団の仲間達から恨みを買ってしまう案件に、モンブレヒトは頭を悩ませたが、そこで白羽の矢が立ったのが、金に目を眩まず、慎重に素行調査も出来るエルダであった。その事にエルダは了承し、元・勇者団の素行調査と暗殺を目論んだ。

 ……結果は失敗。正確には、暗殺した際の利点が一切見つからない事と、調査の途中で周囲への警戒心が強いクロードと上空を見張っていたワウルの召喚獣によってバレてしまい、依頼を破棄せざるを得なくなった。捕まってしまったエルダは、最初は隙をついて反撃を考えた。しかし実力が違う。ならば、隙を突いて逃げようと考えた。しかし思った以上に相手の隙が見えない。……ならば残されている道は一つ。拷問をかけられて情報を吐くくらいなら、せめてもの依頼者への義理として隠蔽という名の自決を図ろうとした。自分が裏社会の人間である事はちゃんと自覚しているため、育ててくれた恩人のモンブレヒトに幸運の祈りを込めて舌を噛み切ろうとしたが、シエルとクルスが止め、エルダ自身の口から情報というか、事情を聞くまで交代で世話をされるという奇妙な体験をした。モンブレヒトから聞いた裏社会の人間が失敗した場合の末路とは全然違う奇妙な体験に戸惑い、そして絆されてしまい、ついポロリと依頼について話してしまった。その依頼を聞いた元・勇者団は、エルダを咎めるなんて事はせず、まずはモンブレヒトから依頼書をどうにかして貰い、ミドメイラの国王陛下宛にその情報等を手紙で送った。その後日、依頼主である貴族に粛正を与えたという返事が届いた。

 ここまではエルダの身の安全が保証されていたが、彼女はその後の問題に怯えていた。たとえ依頼主が悪徳の貴族であれ、失敗は失敗。今まで失敗した事がなかった為、その事を父のように慕っている恩人のモンブレヒトに報告するのも、命を狙われた身なのに親身になってくれた元・勇者団に咎められないのも恐かった。元々仕事という感情の抑制、ヒトを人と思わないようにしていた思想の上書き、命を奪い続けた感触……裏社会で培ってきた闇の経験が、たった数日出会っただけの元・勇者団という光に照らされてしまった。

(……もう少し、一緒にいたい……でも、ボスを……裏切っちゃう……)

 元・勇者団への厚意(ついていきたいキモチ)恩師への思い(はなれたくないキモチ)の板挟みに、エルダは久しぶりの涙を流してしまった。彼女の感情が吐露された事に元・勇者団は、付き添ってモンブレヒトのいるシュワンツァモンドへ向かい、ライドを筆頭にこう言った。

「この子と一緒に、魔王討伐させて下さい。報酬は、大量のお金とエルダの生還で」

 最初は理由を求められた。エルダはシュワンツァモンドにとって最高戦力であり、モンブレヒトにとっては娘同然。勇者とはいえ、結局は他人、まだ分からぬ馬の骨である。それにクロードは「彼女の実力を聖天国だけに留めるのは勿体ない、と言えば納得しますか?」と聞くと、モンブレヒトは、ライドとクロードを連れ出し、共にエルダの耳の届かない別室に移動し、そこで彼女の境遇を聞いた。それでもなお頼み込んだのは、エルダの境遇を聞いた上での同情ではない。モンブレヒトの役に立ちたいという心を買いたい、それだけである。そこから聞き耳を立てていたのか、突然入室してきたエルダ本人からの頼みもあり、ようやくモンブレヒトの首を縦に振らせることが出来た。それから約八年間、ライド率いる元・勇者団と共に魔王パラドゼアを打ち倒した後でも、彼女は暗殺術と気配察知の能力で、元・勇者団だけでなく何人何十人もの人々を救ったのである。

 しかし、魔王討伐後の自分を含めた人間の所業を見て色々と失望した事により、ライド改めロスト・シュナイドという新たな魔王が誕生したとほぼ同時期に、人間から魔族の為に戦うと切り替えるように、種族の別名ダンピールを弄ってムピラダという姓を名乗るようになった。


 そんな新たな贖罪、禊ぎを行い続けているエルダが、何者かによって盛られ、記憶喪失(刷り込み済み)になってると知り、クロードは憤りを感じたが、彼の傍らに控えていた蜥蜴人(リザードマン)族の男性が顔色を青くしながらも(実際の肌は緑色だが)、声を張り上げてクロードに呼びかけた事で、ようやく心を落ち着かせた。

「……すまない。取り乱した」

 落ち着いたクロードはすぐさまエルダに謝罪をすると、エルダは高速で首を横に振った。その様子を見て完全に怖がらせてしまったとクロードは落ち込んでしまうが、これで脱走を考えず話が出来るとなんとか前向きに捉え、気を取り直してエルダと話をする。

「まずは()()()()()()。オレの名はクロード。クロード・オルデアン。今はこの魔界島、ディザストレの町外れにある雑貨店の店主だ」

 まずは二度目の自己紹介をして、自分の今を知ってもらうように挨拶を交えて彼女の様子を見てみる。すると彼女は小首を傾げつつ、ポツリと返事した。

「……クロード?聞いた事、ある、かも?」

「似た名前の存在がいるかもな。……さて、早速本題に入ろうと思うが、その前に、お前の名前と年齢、目を覚ました前後に憶えている事、この三つを嘘偽りなく答えてくれれば命までは取らない」

 なるべく穏便に済ませようと、クロードは出来るだけ優しく声をかけたが、言った内容を思い返してきて、完全に脅しに聞こえるのではと、今更になって失敗したと後悔したが、時既に遅し。だが、エルダは彼のぶち切れた時の威圧感に比べれば話しやすいと思ってか、気にする事なく、すんなり答えてくれた。

「エルダ。ただのエルダ。十…三歳になる、かな?確か……いつもの、依頼?いや、()()()に紅茶、貰って、飲んで……ん?……んん~……」

「分かった。憶えているのはそのくらいなんだね?ありがとう」

 記憶が錯綜してしまったのか頭が混乱したようだがエルダは、曖昧になった記憶をどうにか捻り出してポツリと教えてくれたが、唸った所でクロードが話を中断し、少ないながらも情報提供に感謝すると共に、異次元ポケットから飴玉を取り出して渡した。異次元ポケットからの食べ物って大丈夫なのかという疑問については問題ない。その名の通り異次元というだけあり、その空間内であれば入れた物の状態をそのままにする事が可能となるため、痛みやすくなる生ものの保存も可能である。……ただし、精神的な衛生のために、異次元ポケットに食べ物を入れるのは日持ちが良い物(要は非常食や保存食)だけであり、傷みやすい物は早い内にいただくというのが元・勇者団内での決まりである。

「~♪」

 渡された飴を嬉しそうにコロコロと転がしながら舐めるエルダの様子は、完全に幼子のようだが、そんな事を口に出そう者なら漏れなく切られる。今はそんな事より、エルダが飲んだ紅茶に薬か何かで盛った犯人を考える事が重要だと思い、一度思考を巡らせる。

(いくら平和が続いていたとは言え、警戒心が高いエルダにそんな事が出来るのは、恐らく同じ暗殺部隊のメンバーだ。それでいてウサギの魔族という事は……だとしても、何故?)

 人物自体に心当たりはあれど、動機が分からない。複数人による犯行であるため、巻き添えの確率は十分にあり得るが、そもそも犯人達の目的が分からない。恨みを買うような事は恐らくしていないし、ロスト時代に比べれば確かに腑抜けているとは言え、まだ実力差がある。それなのにも関わらず、エルダ、いや、現・魔王であるスフィアに喧嘩を売るような真似事をする意味が理解出来ない。

〈クロード様〉

〈ペントか。どうした?〉

〈エルダ様の容態について詳しい方が医務室に来ています〉

 そう悩んでいた所で、ペントから交信魔法が入った。何かと思い応じてみたら、少し事態が好転(?)する言葉が届いた。

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