第二話:とりあえず、夫婦喧嘩を止めないと
どうもこんにちは。緒蘇輝影丸です。
一ヶ月以上更新遅れてすみませんでした。
今回は今作初の依頼回です。楽しんでいただければ幸いです。
魔界島中枢の居住区域の一つ『ハウザー村』。
この村には、獣人族が主に暮らしている。人狼族や猫人族、犬人族、猿人族、灰毛熊族などといった、獣ならではの特徴と性能を持つ亜人たちが数多く住む村だ。
基本の建物は山小屋のように窓ガラスと暖炉、煙突以外すべてが木で作られており、体格や家族構成などに合わせて建造・改築を行うこともある。……もっとも、大人になった獣人族は繁殖力が比較的に高いため、建設依頼が来る事もしばしばある。
「少しかけようとしただけだろうがゴラァ!!」
「そうやってアンタはまた最初の頃の味に戻すでしょ!!ダメ!!」
(おーおーやってるやってるー)
……さて、今いる場所の簡単な説明を終えた所で、オレことクロード・オルデアンは、この村の住人からの依頼を果たすため、例のケンカ夫婦、グズリ夫婦の家の前にいる。まだ扉も窓も開けていないのに、二人の男女の怒鳴り声が聞こえる。外からでも聞こえるので、家の中は相当な騒音、もはや爆音が響いているだろう。
「……あの子らも気の毒だ……」
外まで響くあまりの喧騒っぷりに、オレはグズリ夫婦の間に生まれた子供二人に同情するように呟いた。
実はグズリ夫婦はケンカ夫婦でありながら、122歳(人間で換算すると約12歳)の長女のルナーノと、98歳(約10歳)の長男のヒグーという二人の子供がいるのだ。
(……年頃の子供がいながら喧嘩をやるとは、グズリ夫婦は人間並に愚かだな)
人間達の住む大陸とも言えるモルディガンマには、「喧嘩するほど仲が良い」という言葉があるが、オレはその言葉をあまり信じていない。喧嘩というのは本来仲が悪い者同士だったり、欲しい物を我が物にしたりする為にあるようなもの。自分の本当の気持ちを伝えられないあまりに照れ隠しで心にもない戯言や罵詈雑言を述べる事を通り越して手を上げるなんて、感情の起伏が激しすぎる人間とは違う方向で問題だ。ましてや夫婦喧嘩なんていう光景を今でも目の当たりにしている子供にとっては迷惑極まりない。というより、教育的によろしくない。
(アイツに頼んだら喧嘩なんてすぐ解決するだろうなぁ……トラウマを植え付けて)
教育や子供の事を考えると、つい人間時代に築いたかつての仲間(今でも仲は良いが)の一人、現在は森林近くの孤児院で暮らして働く修道女を思い浮かべた。
人間時代の頃は修道女とは思えないくらい凛々しく、母性的と言うより姉御肌みたいな感じだったが、現在は修道女のイメージをそのまま体現した感じ、おっとりとしてて、母性的で寛容な性格になっており、かつての凛々しさも迫力もなくなった。……しかし、寛容な心と引き換えに――――怒らせると現・魔王城の城主であり相棒のロストまでも震え上がるほどの恐怖を与える怒気という名の圧力を手に入れたようだ。
(……人間時代の説教が懐かしい……)
オレは修道女を思い返せば思い返すほど、人間時代に食べ物の好き嫌いや、万が一最悪の事態に陥った時にオレかロストが囮などをやって仲間を逃がそうという考えを叱ってくれたあの日が懐かしく思えてきた。
……おっと、イカンイカン。少し思い出というか感傷に浸ってしまった。
まずは、二人の子供を夫婦喧嘩見学という拷問から救い出すとしよう。あの夫婦に気付かれず子供だけを連れ出せる方法はオレの頭の中ではただ一つ、転移魔法だけだ。
「【転移】」
唱えたと同時に、オレのすぐ隣に小さく丸い灰色のふさふさな耳を生やした灰毛熊族の姉弟が現れたのだが、椅子に座る体勢のまま後ろに倒れそうだったので、無詠唱で【大地の鞭】という蔓を生やす地属性魔法を使い、子供達の身体がグラッと傾いている間に植物にしてはあり得ないぐらいの速さで蔓同士が絡み合い、座板部分や背もたれが網状の簡素な椅子のおかげで、子供達は尻餅をつかずに済んだ。
例の子供二人が現れてオレの作った即席椅子に座るまでの時間、わずか0.2秒。
「……ぇ?」
「あ、あれ?」
姉のルナーノは、今自分の身に何が起こったのか分からず、ただ目をパチクリさせながら声にならないほど驚き、弟のヒグーも視界に移る景色の急な変化に頭が追いつかず、自宅の前という見慣れた景色のはずなのに、まるで異世界に来てしまったかのように周りをキョロキョロする。ヒグーが周りを見るうちにようやくオレの存在に気付いた。
「あっ。クロード」
「……クロード?アンタ。アタシ達に何したの?」
ルナーノは弟の言葉でようやく気付き、自分の身に何が起きたのかを聞いた。タメ口で。……一応年上なのだが、子供に敬語を使わすのは無理だろうから諦めて普通に答えた。
「お前達を騒音から遠ざけるために転移魔法を使っただけだ」
「家に入らずアタシ達だけここに転移されるっておかしくない?」
まぁ……混乱するのも無理はない。本来転移魔法は術者本人のみか、近くにいる複数人(術者を含めて十人以内)と共に指定された場所へ転移する事しか出来ない魔法なのだ。しかし、オレは魔術師として、そんじょそこらにいる一般の魔術師には出来ない芸当をいくつか編み出していた。術者の位置を変えず、任意の対象と人数を術者の近くに送る転移魔法もその一つである。ただし、さっきの転移魔法の欠点を挙げるとしたら、通常の転移魔法より魔力の消費量が多い事くらいだ。
「まぁ、オレはそこらの魔術師より強いからな」
そんな転移魔法に関する知識を教えた所で理解されないだろうから、オレが特別な存在だからと半ば無理やり言い聞かせた。その言葉にヒグーは「クロードやっぱスゲー」とあっさり受け入れ、ルナーノは少しはぐらかされている感じが気に食わないのか納得してなさそうな表情を浮かべた。
「それに、両親のケンカから一秒でも早く抜け出したかっただろ?」
「……まぁ……うん」
この一言でルナーノは少し気まずそうに目線を逸らし、俯きながら小さく頷いた。やっと納得してくれてオレはホッと一息吐いた。
余談だが、オレの繊細な高等技術魔法は不死族になってなお更新している。現在は錬金術士に出来る事は魔法でも出来るのかを調べている。今のところ分かっているのは、錬金術の基礎である風火地水の四大元素が魔法にもあるため、上手くいけば錬金術よりコストがかからない分、より一層将来に役立てるのである。
……オレが転移魔法を使ったことに納得してくれたかに思えたが、ヒグーが突然終わったはずの質問タイムを再開させた。
「でもなんで転移魔法なんだ?ほかに良い方法思いつかなかったのか?」
ルナーノは魔法の根本や法則、事例といった知識的な質問をされたが、ヒグーの質問はリスクを一切考えず、純粋に疑問に思った事をそのまま他人に聞くのが少しオレの中では返答に困るのだ。答えて良いのか悪いのかとか、どう言えば分かってくれるのかと、相手に伝わらなければ意味のない返答の求め方は特に難しい。
この夫婦喧嘩している種族が灰毛熊族ではなく人間の場合だったら、普通なら静かに裏口から潜入し、子供を連れ出せば魔力とかを消費せずに済むだろうが、オレがあえて魔法で連れ出した理由は四つある。
一つ目は、元々オレの魔力量は人間時代から群を抜いており、不死族になってからは人間時代の上限をさらに超えているため、別に転移魔法の一つや二つ余計に使っても今後の生活に支障をきたす事はないから。いわゆる持っている才能の有効活用だ。
二つ目は、灰毛熊族に限らず、獣人族は人間より五感が鋭いため、仮にオレがグズリ夫婦の喧嘩の騒音に紛れてこっそり裏口から潜入しようとしても、ドアの関節とも言える蝶番の擦れる音一つで侵入者と勘違いされて依頼を解決するどころではなくなるから。だから、物音を立てない転移魔法が有効なのだ。
三つ目は、個人的な理由だが、二つ目の理由にあるリスクをどうにかして潜入出来たとしても、なんだか不法侵入して子供を誘拐しているような感じがこの上なく嫌だからである。
四つ目は純粋に、二人の子供は一秒でも早く喧嘩から目を逸らしたいであろうから、連れ出すより魔法でオレの近くに送れば少しは緊張が和らぐだろうという考えだ。
「……いくつか方法は考えてはいた。しかし、一つの失敗で君達の身に何か起これば城主様に合わせる顔がない」
ただ、それをわざわざ言うのも照れくさいため、魔王城主である前・魔王ロストの名目を使った最善且つ効率的な行動という事にした。灰毛熊姉弟はそれで納得してくれた。
「それじゃあ、あの夫婦の事は任せて、お前達はアーベス爺さんの所で遊んでろ」
「はーい!行こう!姉ちゃん!」
「う、うん!」
夫婦喧嘩を止めるために、ルナーノとヒグー姉弟を灰毛熊族の長老であるアーベスの所へ行かした。ヒグーは元気の良い返事をして姉の手を掴んで引っ張ってアーベスの家に向かうが、ルナーノは一回オレの方を向いて心配そうな顔を浮かべたが、弟に手を引かれたままヒグーと同じ目的地に向かった。
(子供に心配そうな顔を浮かべられたけど……オレ、そんなに頼りないかなぁ……)
まぁ、今回までこの夫婦喧嘩を妥協案を利用して喧嘩をうやむやにしたり、怒気を放って恐怖を植え付けてみたりして後回しにした罰が当たったのだと考えれば、今回こそグズリ夫婦の喧嘩に終止符を打とうぞ!
そう決心したオレはローブの裏にある異次元ポケットからある物を取り出した。
呪香炉『煩悩香炉』。人間の頭くらいの大きさで、頭蓋や魂魄の画が彫られた壺みたいな形をしている。取っ手が付いていているため野営に使う明かりのランプ同様に持ち運びが可能の代物だ。効果は至って単純。状況に合わせて、使いたい効果を発揮するある香料をこの煩悩香炉の中に入れて着火する事で、香炉内にある香料の効果を増大化させた香りを周囲に放つ魔導具だ。
香りで何かしらの効果を与える香炉型の魔導具はいくらでもあるのだが、それはあくまでも魔香炉という対象の周りにある雰囲気を助長するためのものであって、鼻詰まりをした者や雰囲気に察していない鈍い者には効果がないのだ。しかし、オレが取り出したのは呪香炉であって魔香炉ではない。鼻を持たない無機人形などでない限り、呪香炉の効果に抗う事は出来ないのだ。ただし、呪いという文字があるという事は当然、使用する効果によって様々な代償を払うことになる。なので、最悪の場合、グズリ夫婦以外の住宅にも被害があるかもしれないため、あまり気乗りがしなかったのだが、長い夫婦喧嘩を止めるには致し方ない。最終手段として、これを使うことにした。
グズリ夫婦宅に突入する前に、オレはある者に交信魔法【通話】を使った。相手は、アーベスだ。通信を送って十秒少し前で声が聞こえた。
〈…誰だ?〉
「アーベス殿。ご無沙汰しております。前・魔王ロスト様の宰相を務めていたクロードです」
〈あー…お前か。いきなりなんだ?わざわざ【通話】を使って。何かあったのか?〉
「いえ。グズリ夫婦のご子息達がアナタの家に遊びに向かっている事を報告し参りました」
〈またアイツらか。毎度毎度飽きないなぁ……まぁいい。大体分かった。ほとぼりが冷めるまで、儂がガキたちの面倒を見といてやるから。さっさと済ませろ〉
「ありがとうございます。……今回はいつもより時間がかかるかと思いますが、今回で必ず終わらせてみせますよ。獣人部隊二番隊隊長アーベス・マクスウェルさん」
〈もう300年ほど前の話だ。その呼び方はよせ。胸の古傷が疼いちまう〉
「失礼しました。それでは、喧嘩を止めたらまた連絡します」
〈おう。ガキのお守りは任せろ〉
「はい。よろしくお願いします。……それでは」
交信を切断したところで、いよいよケンカ夫婦とも言えるグズリ夫婦の家に突入する。喧嘩の騒音が聞こえないという事は、恐らく言い合いをし続けて疲れているのだろう。入るなら今だな。そう思い、オレはあらかじめ乾燥させたサラケタケとオネス草をすり潰して混ぜ合わせた特性香料を煩悩香炉に投入し、グズリ夫婦の家に入った。
「はぁ…はぁ…この頑固女め……」
「それはこっちのセリフよ。分からず屋……はぁ……」
入ってみた結果、案の定夫婦揃ってぜぇぜぇと息を切らしていた。疲れてなお口喧嘩(痴話喧嘩とも言うか)は続いているようだが、序盤の時に比べれば圧倒的に迫力がない。
「お久しぶりですね?お二人さん」
「あ?……テメェか。何しに来たんだ?」
「どうせまた喧嘩を止めにきたんでしょ?これは二人の問題なんだから邪魔しないで」
ただ声をかけただけなのにグズリ夫婦はオレの顔を見るなりこの態度……こういう時だけ息ピッタリなんだよなぁ。本当は仲良いんじゃないの?と疑うくらいに。
今までだったらオレは相談なり何なりして喧嘩を宥めようとするが、今回は違う。
「邪魔しませんよ。よく考えれば口喧嘩って、自分の意見や気持ちを分からせるために行う一種のコミュニケーションだと気が付きましたから」
なのでどうぞ続けて下さいというニュアンスで進めると、グズリ夫婦は少し面を食らったが、クロードとの会話という軽い休憩を入れたお陰か、疲れ果てた状態からある程度回復した状態で口喧嘩を再開した。
その間にクロードは、香料を入れた煩悩香炉に【火の粉】を唱え、香料に火を点けた。すると、十秒も経たない内に香炉から薄紫の煙が空中に漂い始めた。そんな事も知らずグズリ夫婦は、やれもっと味付け濃くしろやれ薄味に慣れろといがみ合っていたが、息継ぎした瞬間、ほんのり甘い香りを吸ったが気にせず喧嘩していた所で、ついに効果が出てきた。
「なんで味を薄めんだよ!」
「大好きなアンタの身体を壊したくないからよ!!」
「………………ぇ?」
「あっ///」
突然の本音を耳にしたグズリは目を見開いてポカンと口を開け、言ったリズー本人は顔を赤くして咄嗟に口を押さえた。だが時既に遅し。グズリはリズーが口を押さえてからほんの数秒で顔を真っ赤に染めた。無理もない。何せ、百年以上前から夫婦としてずっと暮らしていた妻から愛の告白を久々に聞いてしまったのだから。
リズーの顔を直視できなくなったグズリは顔を逸らしながら「いきなり何言ってんだ」と言おうとしたのだろうが……生憎だが、そう上手く誤魔化せないのが煩悩香炉の効果だ。
「俺の体を心配してくれてたのか……アリガトよ」
「グズリ……」
「………///」
グズリは心の中に留めようとしていた妻への感謝の言葉が漏れてしまい、無言で頬を赤く染めた。
魔王城の城主であるロスト率いる魔王家族が毎度のように抱いていた「あれほど喧嘩していながら何故離婚しないのか」という疑問を、クロードはいくつかの答えを考えていたが、煩悩香炉を用いた事により、一つの解答に導き出された。
グズリ夫婦は、本心ではお互いに愛し合っているが、それを口で言うのが照れくさくてついケンカ腰になってしまう不器用な二人なのだと。
「ごめんね。グズリ。アンタが濃い味付けが好きなのは前から知ってたけど、近所のマックさんが塩分過多で亡くなったっていうのを聞いて……それで、グズリが……大好きな夫が……アタシより……先に逝っちゃうんじゃないかって……怖くて……」
効果が最高潮に達したのか、リズーが話せば話すほどに語気が弱まり、ついには泣き出した。グズリはそっとリズーの頬に手を添え、涙を親指で拭った。
「……俺も悪かった。お前がそこまで想ってくれてたのに、気付かずに文句ばっか言ってよ」
「いいの!悪いのは素直になれなかったアタシのせいなの!アンタは悪くない!」
「いいや俺が悪い!お前の気持ちに気付かなかった俺が悪いんだ!」
……あれ?内容は変わっていれど、結局ケンカ夫婦はケンカ夫婦なのか?いつの間にか罪の奪い合いになってるぞ?どうしてこうなったんだ?
なんか蚊帳の外になりつつオレの存在に見向きもせず、一種のバカップルっぽくなってきたケンカ夫婦はどっちが悪かったという言い争いをしている内に、お互いの顔は徐々に近づき、ついには口づけ(つまりキス)をした。
「んっ…ちゅっ…///」
「んっ…むちゅっ…んむっ…///」
あららー……舌が絡んでいらぁ……。
とてもじゃないが、これ以上は見ていられん。今のオレが不死族と言えど、元は人間だ。人間特有の感情の一つ、羞恥心だってあるんだ。
「そういう事は部屋でやれ」
夫婦の熱いキスを目の当たりにして気まずくなったオレは【転移】でグズリ夫婦をベッドの上に転移させ、すぐに結界魔法の一つ【音遮断】をグズリ夫婦宅の範囲まで展開させ、再度【転移】でグズリ夫婦宅を出た。
きっと結界の中は熱くて甘すぎる状況になっているのだろうなぁ……。
とりあえず、アーベスに【通話】で喧嘩をなんとか止めた事を話そう。通信を送ってから五秒くらいでつながった。
〈終わったのか?〉
つながって早々、挨拶を飛ばしていきなり本題に入ろうとするアーベス。せっかちな獣人だなぁ。
「喧嘩の方はなんとかなりましたが、今日中に子供達を家に帰すのは出来なくなってしまいました」
〈……どういう事だ?〉
「何と言えば良いのでしょうか……魔導具を使ったら色々と……」
〈余程マズイ状況になったと?〉
「えぇ。非常に気まずい状況を作ってしまいました。使用した魔導具には本心をさらけ出すどころか、本能までも表に出してしまう代物でして……」
〈……つまり発情させたという事か?〉
「お恥ずかしながら」
アーベスの声を耳にして、嘘を言える者は余程の愚者か肝が据わっているのか。オレは正直に説明した。普段の行いが良かったからか、アーベスは大して怒っていなかった。しかし、結構困っていた。
〈……ガキたちになんて言って家に泊まらせれば良いのだ?〉
何せ、アーベスは子供の接し方をよく知らないからである。オレだって子供を持っていないのでよく分からない。最低限でも怖がらせないように優しくも優し過ぎない口調で話すと心得ている。しかし、アーベスはその心得さえも知らない。なのでオレはアーベスにオレなりの提案を出した。
「両親は二人きりで仲直りしたいから今日はアーベス殿の家に泊まれと言えば良いのでは?知らない仲ではありませんし」
〈……うむ……一抹の不安は拭えんが、そう言うしかないか……〉
どうやら納得してくれたようだ。
「あと、少々下世話な話ですが……」
〈……ん?〉
「子供達に、弟と妹、どっちが欲しいか聞いてくれますか?」
〈……少し待て〉
そう言って一度通信を切断すると、三分くらいで通信を送ってきた。すぐに受信すると……。
〈両方ほしいだとよ〉
アーベスは一言だけ言い残してまた切断した。
オレは楽しく励んでいるであろう夫婦に、【念動力】で書いたメモを夫婦の部屋に置いて、我が家とも言えるデッドオーパーへ転移魔法を使って帰った。
それから一、二年後。グズリ夫婦の間に次男次女が同時に生まれ、一段と賑やかになったグズリ家族の住まいを大改装する事になったのは、別のお話。
いかがでしたでしょうか?
ほぼ勢いで書いているため、次回の更新がいつになるのかは分かりませんが、なるべく早めに更新出来るように頑張ります。
気長にお待ち下さい。