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第六話:只事ではないと思ってはいたが…

どうも皆さん。緒蘇輝影丸です。

今回は、ロストに呼び出されたクロードが駆けつけたら…という回の前編です。

故に短めです。


さて、一体何が起きたというのか?

 普段大人しく玉座に君臨している魔王城主のロストが、いつになく冷静さを欠いている様子に、オレは不安に駆られつつも落ち着いて、指定されたジェノサイド城の医務室に向かった。道中で何が遭ったのかとロストに交信魔法【通話(コール)】越しに一応聞いてみたのだが、見た方が早いと言われた。どうやら言葉では言い表せない状況らしい。とにかくオレは、転移の魔方陣を使って十字に蛇が巻き付いている看板が下げられている医務室の近くに到着。ノックする時間も惜しいから、失礼ながらもドアノブを捻って入室した。

「邪魔するぞ」

「あぁ。クロード様。お待ちしていました」

 入室して早々応対してくれたのは、蛇のような鋭い瞳がある目の下には隈があり、少しみずぼらしい服装……というより、だらしない着こなしの上に白衣を羽織っているロングヘアーでボサボサした紫髪の男、包帯魔(ミイラ)族のペントである。こう見えて医療技術が高い上に相当な実力者だ。

「挨拶は良い。ロストは何処にいる?」

「あちゃー……入れ違いになっちまったかぁ……おっと、コホンッ……城主様はつい先程、魔王様へ報告しに行くと言って退室されました」

 とりあえずロストの所在を聞いたら、ペントは困ったように頭を掻いて思わず砕けた口調で心情をこぼしてしまったが、オレの前である事に慌ててすぐさま敬語で答えてくれた。一応ペントの性格は知ってるつもりなので、別に砕けた口調でも良かったのだが、その辺に関しては、しっかりしたいのだろう。

「……まぁいい。それで、一体何が遭った?緊急事態が起きたと聞いたが……」

「城内にて()()()()が発生しました」

「はぁ!?何だとぉ!?」

 大事件じゃないか!しかもこの間の大嵐よりもマズイ事態だ。今回は自然災害ではなく人為的な災害、つまり内乱(クーデター)が始まったって訳だ。

「……被害状況は?」

 思っていた以上の大問題に内心焦りつつも、一度呼吸を整えて死傷者の確認をした。聞かれたペントは、オレ(もしくはロスト)が来るまでの間に予め用意した報告書を、自分の蛇に持ってこさせ、それを受け取り、オレに渡して死傷者の内訳を見せてくれた。個人情報等の関係か、所属や種族、名前は書かれていないが、今はこれで十分だ。

「……死者はまだ無し、か……」

「その代わり、重軽傷問わずに怪我人が複数人おります。切り傷、火傷、引っ掻き傷、毒と怪我の事例(ケース)は異なりますが、全員自分が治療し、今は療養もとい安静にさせています。……少し余談ですが、怪我の感じと被害が起きた場所からして、少なくとも三人以上の計画的な犯行ですね」

 報告書を見せるだけではなく、更にオレが聞きたかった事を口頭で色々と教えてくれた。……こう言ってはなんだが、ペントって結構優秀なんだよな。

「そうか……だが、ここから増える可能性は否定しきれない感じか……」

「そうですねぇ……主犯と実行犯を見つけ出して捕えない限り、被害は大きくなる一方でしょう。最悪の場合、魔王様の責任問題になります」

 姫様の責任問題?どういう事だと問おうとしたが、少し落ち着いて考えれば分かる事だ。人間(ヒューマン)と魔族との両国完全平和時代とも言えるスフィア時代が、まさかの内乱もとい言い出しっぺ側である筈の魔族が秩序を破壊してしまえば、その情報がモルディガンマに知れ渡り、飛び火を恐れる人間達はそれに乗じてディザストレに乗り込み、まだ若き姫様を亡き者にするだろう。仮に返り討ち出来たとしても、爪痕として姫様への信用もとい、忠義が揺らいでしまう。そうなる前に事態を収拾しなければならない。

「――――きゃあああぁぁぁーーー!!!」

 今の悲鳴は……姫様!?彼女の甲高い悲鳴が聞こえた途端、オレはすぐさま転移魔法を使い玉座の間へ向かった。


 玉座の間の前に来たが声をかけるのもノックする時間も惜しい。無礼を承知していながらオレは【念動力(サイコキネシス)】で扉をこじ開け、まずは状況を確認した。


 ――――その目に飛び込んだのは、左肩から右脇腹まで一直線に斬られた傷を押さえるロスト。急な事態に頭が追いついていないが、父親が怪我をした事で泣き出しそうになっている姫様。……そして、無表情を通り越して無感情と言っても良いくらい冷ややかな目つきでロストと姫様を睨む吸血鬼(ヴァンパイア)族の暗殺者(アサシン)()()()であった。

「【神経麻痺(パラライズ)】。【聖光浄(ホーリーレイ)】。【拘束鎖(バインド・チェーン)】。【黒影手(シャドーハンズ)】。【黒の箱庭(ブラック・ボックス)】」

 何をやっていると怒鳴るより先に、これ以上ロスト達に被害が及ばないようにするのを優先したクロードは、まずはエルダを無力化させる為に、通常の【麻痺(スタン)】より強力な状態異常魔法で動きを一瞬でも封じ、更にエルダの種族的に弱点となる光属性の浄化魔法で身体機能を弱らせ、更に四方八方からの鎖と影から伸びる複数の腕で取り押さえ、最後は闇で作られた黒い箱という名の檻で閉じ込めた。

「スフィア!どうかしまs……って、ロスト様!?血が!!」

 その辺りのタイミングで、クロードと同様スフィアの悲鳴を聞いたロストの妻でありスフィアの母、イリアスがやって来た。イリアスは、状況を見て事態はまだ把握しきれていないが、異常事態であると理解し、まずはロストの元へ駆け寄って、回復魔法で傷を塞いだ。

「ありがとう。イリアス……少し楽になったよ……」

「お母様ぁ……」

「……これは一体、どういう事ですわ?」

「申し訳ございません。オレも姫様の悲鳴を聞いてすぐさま現場に駆けつけた身でして、ここへ到着した時には既にロストが怪我を負っていました。……ひとまず実行者の取り押さえは、このようにしましたが、何が何やら……」

 イリアスはそれぞれの手にロストの腹とスフィアの頭を撫でながら、クロードに事情説明を求めた。しかし、クロードもスフィアの悲鳴を聞いてから駆けつけた身、つまりはまだ事態を把握しきれていないので、黒い箱をポンポンと見せるように軽く叩き、ほぼ事後で何をしたのかという事しか言えなかった。すると、エルダが拘束された事とイリアスに撫でられた温もりで緊張の糸が少し解けたのか、スフィアが嗚咽をしながら、口を開いた。

「エルダが……エルダが、いつになく怖い顔してて……私に剣を向けたら、お父様から血が出て……」

 しかし、まだ混乱と動揺、そして恐怖が隠せなかったスフィアは、話の順序がめちゃくちゃな発言をしていたので、クロードが【獅子心(レオン・ハート)】で彼女の精神状態を落ち着かせた。とはいえ、スフィアから詳しい事情を聞くのは難しいと判断したクロードは、この場の顛末を一番知ってるであろうロストと突然実行犯になったエルダに聞いてみる事にした。

「……【言伝(メール)】……イリアス様。お手数を掛けて申し訳ありませんが、この後来るオレの部下と共に、ロスト達を医務室へ連れて行って下さい。此処が安全ではなくなった以上、この場を離れた方がよろしいかと……」

 だがその前に、ロスト達の身の安全を確保するのが最優先と判断したクロードは、死霊部隊の中で一番足運びが軽いテッドを緊急で呼び出し、イリアスに避難を勧めた。

「失礼しまッス!死霊部隊二番隊所属テッド・ダイネス!ただいま到着したッス!」

 呼び出してからそんなに時間が経っていない筈だが、一番早くに駆けつけてくれたテッドの足運びの軽さに感謝しつつ、指示を送った。

「【言伝】で言ったことは憶えてるか?」

「はいッス!イリアス様一行を医務室へ連れて行く為の護衛ッスね!任せるッス!ただ城内故に大人数での行動は厳しいので、堅殻部隊から五名の精鋭を呼んできたッス!」

(昔、死鬼体(コープス)族は腐死体(ゾンビ)餓鬼(グール)より知能が少し高い程度と聞いていたが、テッドは普通に優秀なんだよな……)

 明るく返事するテッドの様子を見たクロードは、テッドといった魔族単体の知識、かつての記憶に対して殴りたい程の罪悪感を抱いたが、とりあえずロスト達の身の安全は部下に任せる事にした。

「頼んだぞ。……オレは、この馬鹿者から少し尋問(オハナシ)しておくから」

「ッ!……了解ッス!それでは皆様、コチラへどうぞッス!」

 その時クロードは気付いていないが、テッドは見てしまった。数秒だけクロードが、エルダのやった所業に対して怒りを意味する赤い目、否、憤り、憎悪を意味する()()()()が火のようになっていた事に。テッドは、その怒気に気圧されそうになったが、今やるべき業務を果たす事が最優先だとなんとか奮い立たせ、ロスト達をペントのいる医務室へと向かった。それを見送ったクロードは、転移魔法を使って地下牢へと向かった。


 ……正直に言えば、信じたくなかった。エルダの過去、暗殺者であった経緯もとい彼女の人間時代を知っている身ではあれど、今になって姫様に危害を加えようとしたことに戸惑いを隠せなかった。だが姫様に向けたあの時の目つきは、間違いなく最初に出会った時の冷酷な暗殺者、まだ人間不信を患っていた時の彼女だった。しかし、それと同時に、何故今更になってエルダが姫様に危害を加えたのかという疑問が湧き上がる。動機と脈絡がない。……オレがそう思っているだけで、心の奥底では……なんて、考えてはいけない事、邪推するのは良くないな。

「クロード様。お待ちしておりました」

「あぁ。コイツを中に入れたら鍵をかけてくれ。そうしたらこの魔法を解くから、気を引き締めろよ?」

「はい」

 とりあえず、まずは黒い箱に閉じ込めたエルダを独房に入れ、事前に待機してもらった蜥蜴人(リザードマン)族の男性に鍵をかけてもらった。鍵がかかった事を確認した後、オレはエルダにかけた拘束を解いた。

「【詠唱省略(スペル・カット)】。【多重詠唱(マルチ・スペル)六重(シクス)】。【聖光壁(プロテクション)】。【衰弱(ダウン)】」

 同時に、詠唱した魔法より威力は劣るが通常の魔法より効果が強くなる支援魔法と、次に使う魔法を望む数だけ同時に発動させる補助魔法、その六つの防壁魔法(光属性)を独房内に囲う形、いわば結界のようにして影に潜れないようにし、そして身体能力を下げる弱体魔法の四つを使って、とにかく素早いエルダを逃がさないようにした。

「……力、出ない……」

「お見事です。クロード様」

 それなりに長い付き合い故、万が一、いや億、兆が一裏切られたとしても弱点を突くように取り押さえる事なんぞ、造作も無い。ちなみにオレは……いやオレに限らず、魔法職は総じて余程の対策がない限り、懐に入られると弱い。特に今の時代では、わざわざ対策を練る住人は殆どいない。

「……さて、なんであんな事をしたんだ?エルダ」

 話が少し脱線してしまったが、改めてエルダに事情を聞く事にした。これだけの事を仕出かしたんだ。前々から何かしらの不満があってついに爆発してしまったなら何故そうなるまで溜め込んだと叱ってやるところだが……そうじゃなかった場合、オレは例えエルダだろうと許さない。


 ――――そう思ったのだが……。


「……()?此処、()()?なんで、エルを、()()()()?」

 エルダの口から出たのは、すっとぼけ……と一瞬怒りを感じたが、エルダの本気でキョトンとした表情に、クロードは一度冷静にして、エルダの容態を確認して見る事にした。

「……【分解析(アナライズ)】……ッ!?(……魔法薬による()()()()と何者かによる()()()()、だと……?)」

 その結果、ロストへの報告が増えた以上に、とんでもない状態異常が彼女の身に起こっている事が判明した。


 ――――その瞬間、クロードの怒気が、憎悪による魔力が突然溢れ出し、地下牢が、魔王城が、魔界が数秒だけ恐怖に震えた。それと同時に、今回の事件に関わる犯人達への死の足音が聞こえ始めた。

如何でしたか?

後編でエルダの身はどうなるのか、犯人達の動機は何か、それが分かる次回の投稿を気長にお待ち下さい。


※一つ補足情報

支援魔法と補助魔法、ニュアンス的似てる魔法系統の違い

支援魔法:術者含む対象のサポート。単体での効果あり。利便性重視。

補助魔法:術者自身のサポート。単体での効果なし。戦闘効率重視。

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