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第三話:死なせない事とは、生物だけに限らない

どうも皆さん。緒蘇輝影丸です。

今回は幕間と共に投稿します。

楽しんでいただければ、幸いです。

 場所は戻りゼイン村の集落。オレことクロードは、その中で最もジェノサイド城に近くにある集落の一つであり、鍛冶や作製を専門とした職人達が集う場所『プロフェ区』のとある一軒家、否、一工房の前に来ている。

 人間(ヒューマン)と魔族もとい生きとし生ける者にとって……といっては大袈裟であろうが、少なくとも戦いに関わる者にとっては欠かせない存在、武具。それ以外を挙げるのであれば、生活においてあった方がより良い食生活を送れる包丁といった金属を加工した物というのは、本職の者を除けば、それ一つ作るのにどれだけ苦労するのかは、一度でも見学や体験した者以外誰も分からない。しかし、完成度だけでも見れば、職人がどれだけ拘っているのかは、泥棒や詐欺をするような余程の馬鹿でなければ皆分かる。

 工房と言うだけでも何種類か存在するのだが、今回オレが訪れるのは、今もなお煙突から黒煙が立っている武器工房の筆頭『ブドー工房』。数ある武器工房の中でも一番腕の立つ職人がいる工房だ。

 それ故に弟子入りを志願する者は、平和になった現在でも少なからずいる。しかし、客であるならともかく、弟子入りの場合であれば話は変わる。鍛冶をしたいという意志は買ってくれるが、いきなり師範代もとい親方の工房で働ける訳ではなく、作りたい物が得意であり、且つ志願する者の波長に合った弟子の工房から始まる。そこから掃除を始めとした工房の仕事を手伝い、時折行われる鍛冶の腕前を確認し、及第点を貰えれば自らの手で武具を作らせてくれる。それから師匠の太鼓判という推薦を貰えて、初めて親方の工房で働けるという仕組み。ただ、大半は親方の工房での仕事に耐えきれずに辞めるか、師匠の工房で鍛え直すか、自分の工房を起ち上げるかのどれかである。

 ……まぁ働き方は、ざっと言えばこんな感じであるが、あくまでオレは客なので、そのままブドー工房にお邪魔する。

「お邪魔します」

「いらっしゃい!……って、あら!?クロード様じゃない!久しぶり!元気にしてんの!?ちゃんとご飯食べてるの!?アンタ細いわよ!?」

 入店して早々恰幅の良い褐色肌のおばさんの早口に捕まってしまった。この愛想が良いを通り越してお節介焼きみたいなこのヒトは鍛冶老(ドワーフ)族のムーアさんという方で、この後に会うブドーの奥さんである。この二人は夫婦揃ってシエルが率いた人魔部隊の七番隊隊長、副隊長であり、装備品の整備等で結構お世話になったヒト達である。ちなみにムーアさんは、ブドーが唯一と言っても良いくらい頭が上がらない存在であり、仕事での立場はブドーに軍配が上がるが、それ以外の生活面での権利は奥さんであるムーアさんが握っていると言っても過言ではない。……まぁ、仕事人間であったブドーさんにとっては、そんなムーアさんだからこそ惚れて、今も夫婦でいられるのだろう。

「骸骨なので細いも何もないですよ。……それよりムーア殿()。本日はブドー殿より少々困った事があると聞いて、こちらに馳せ参じたのですが……」

「……あぁ。旦那なら、いつもの場所にいるよ」

 オレもいつか……なんて柄にもない事を考えてしまった思考を切り替え、ムーアさんに用件を伝えた。するとムーアさんの雰囲気が変わり、先程のはつらつな笑顔から一変、まるで仮面を貼り付けたかのような無機質な微笑みを浮かべながら、バックヤードに繋がる暖簾とは違う扉を開けて、入室を促した。そこには地下へと進む階段があり、オレはただ一人、促されるままに扉の先にある階段に足を踏み入れて、そのまま進めた。


 お気づきのヒトがいるかどうかは不明だが、オレは基本さん付けか呼び捨てで呼ぶのだが、仕事に関係する話をする際、元・勇者団を除いた隊長、副隊長格の役職を持つ者には殿を付けている。……まぁ、そんな事はどうでもいいか。


 ……カンッ……カンッ!……カンッ!!


 地下の鍛冶場が近付くに連れ、重々しくも何処か軽快な音、熱した鉄か何か堅い鉱物を鎚で打つ音が聞こえる。同時に感じない筈の熱気と引き締まる空気が徐々に強くなっているような気もする。理由は言わずもがな、この先で作業を行っている人物によるものだ。何せディザストレで一番の鍛冶師だからな。オレが頼んだ例の物以外にも依頼が沢山あるのは当然だ。……そう思いながら進んでいたら、今回の依頼主のブドーさんの姿が見えてきた。褐色肌を包む耐熱性のある作業着越しでも分かるくらいに筋肉が発達しており、鉢巻きが巻かれた横顔はまさに職人としての真剣な表情を浮かべ、逆立っている白髪と逞しい髭が炉の中で燃える炎の光に反射して光っている。依頼について詳しく聞きたかったが、見ての通りまだ作業中のようなので、一区切りつくまで待った。


 数時間後。ブドーがナイフ(形だけ)を完成させ、一息吐いた所でオレの視線に気付いてか否か、こちらに振り向いた瞬間、凄く驚かれた。

「おぉ!?クロード様!?何時からおった!?」

「ご無沙汰しております。ブドー殿。突然の来訪で、すみません」

 オレは気にせずに挨拶とお辞儀をした。先程の表情は何処へ行ったのか、ブドーさんは慌ててお辞儀を何度も返した。

「いやいや!とんでもない!ワシの方こそスマン!専門分野だから自力で解決すべきなのに、困った事が起きてついお前さんに依頼を出しちまって……」

「構いませんよ。……それで、どうされたのですか?」

 なんとかブドーさんのお辞儀を止めさせ、依頼というか事情を聞いてみた。ブドーさんは気持ちを切り替えるように一つ咳払いをしてから、「まずは見て欲しい物がある」と言って、横に広がった大きめの炉がある所へ案内された。

 そこには一本の鎗が丸々入っていた。炉の炎によるものなのか、まるで()()を鎗の形に変えたかのように鈍くも赤く燃えている。

「オレが頼んだ例の物、ですね?アレが」

「そうだ。お前さんとフェイア様が倒した()()()()()()()()()、ラグナボルグだ」

 オレとフェイアの二人で討伐したいつぞやの超危険種、[溶岩竜(マグマドラゴン)]マグナロスの素材で出来た鎗、ラグナボルグ……今いる位置からでも(なんとなく)熱気が伝わる。流石ディザストレで一番の鍛冶師、と賞賛したい所だが……。

「それで、困った事というのは?まだ炉の中に入っているという事は……加工が難しい事ですか?」

「いや。鎗本体は研ぎを除けば既に“出来ている”。……だが、使()()()()んだ」

「出来ているけど使えない?」

 どういう事か分からず、思わずオウム返ししてしまった。出来ているなら問題ないのでは、と思うが、専門家がお手上げに近い状態と言う程だ。余程の理由があるなら、聞いてどうにかしなければならない。それがお互いにとって大事なことである。オレはひとまず、ブドーさんの話を聞く事にした。

「前提として、ワシら鍛冶老は、森妖精(エルフ)と同様、人間と大差ない体格を持つ精霊なのは、当然知っておろう?」

「それは勿論」

「精霊には【妖精加護(フェアリーパフ)】という特性がある事も当然知っておろう?」

「勿論。その精霊の種族によって持っている属性が違う事も知っております」

 ディザストレに限らず、この世界の共通認識もとい常識だ。当然知っている。今回の依頼に関係しているのは分かっているが、脈絡を感じない。なんて事を考えてしまい、直ぐに自省をしつつ、ブドーさんの話の続きを聞いた。

「森妖精は風と水と地の三属性で、ワシらは火と地と水の三属性を、個体差はあれど使いこなす事が出来るのだ。それ故に、自分に合った属性……ワシの場合であれば、火と地と水の三つの耐性を持っておる。ここまでは良いな?」

「はい。ですから、鍛冶老族はその三つの属性を使った鍛冶鍛錬を得意としています」

「そうだ。道具も含めて、ワシらがこういった格好をしても平気なのは、この特性によるものが大きい」

「……それで、結局のところ、そのラグナボルグを使えない理由は何ですか?」

 これだけの前置きをするくらいだから、オレが思っている以上に重大な問題を抱えている事がなんとなく分かった。しかし、その内容がなんなのかイマイチ分からず、単刀直入に聞いた。

「つまり、火属性に耐性を持つワシら精霊以外の者が下手にアレを触ろうとすると、()()()()持ち上げる前に、()()使()()()()()()()()()()という事だ。()()()()()()()()()()()()()炉の中に入れっぱなしなのは、これ以上被害を増やさない為だ」

 問題は鎗じゃなくて使い手に危険が及ぶという事か……なるほど。だから炉の近くの床に()()()()()()がある訳か……一旦取り出して出来具合を確認しようとその場で立たせた時に付いたものだろう。確かにこのままではフェイアに渡す事が出来ない。

「それでは、一体何を持ってくれば良いのですか?」

 オレの手持ちでどうにか出来そうなら、無償で提供する所だが……。

「うむ。制御として使えそうな同属性の魔宝石(マナ・ストーン)と、素材もとい()()()()が必要なんだ。こっちは水属性ので」

「……魔宝石はともかく、水属性の魔物の皮が必要なのは何故ですか?」

「持ち手の革として使えば、巻かれた部分だけが冷めて、誰でも持ち運びが可能になるからよ」

「冷ます目的なら氷属性の方が良いのでは?」

「それだと()()()()()ラグナボルグが使い物にならなくなる。無属性の鎗にしたいのだったら話が変わるが」

 なるほど。鎗の強みを活かす為に程良く冷ませる素材で、且つマグナロスと同格。……つまりは()()()()()()()()()()()()()って事か……。

「……分かりました。火属性の魔宝石と水属性の超危険種の皮を持ってくれば、ラグナボルグが完成するという事でよろしいですね?」

「あぁ。魔宝石の方は、モンチーに頼んでくれ。いくらあの馬鹿でも、お前さんから頼めば素材を()()()()()()なんて馬鹿な事はせずに作ってくれるだろうよ」

 モンチーという者は、猿人(ルーシー)族の宝石商(ジュエラー)であり、物作りの腕は確かだが、同時に高額の素材を自分の懐に隠す悪癖を持っている。……もっとも、ロスト時代になってからは足を洗ったらしいが、まだ油断は出来ない。

 まぁその時はその時といった感じで、今回の依頼の内容を把握したオレは、改めてブドーさんに確認を取った。返事は肯定。であれば話は早い。オレは異次元ポケットから()()()()を取り出して、ブドーさんに渡す。コレを見たブドーさんは目を見開き、小刻みに震えながらも丁重に受け取り、コレが何なのかを確認してきた。

「こ、これは、もしや……!」

「超危険種[魔海蛇竜(レヴィアタン)]もとい()()()()()()()()でございます」

「こ、こんなに綺麗な状態の皮を、どうやって!?」

 サファイアは基本海底に暮らしているため、滅多に現れない存在らしいというのがあってか、貴重な素材を見てブドーさんはだいぶ興奮している状態だ。しかし、あまり大きな声で答えたくないオレは、ブドーさんが落ち着いて鎗を完成させるために、真顔でこう言った。

「我々の手にかかれば、と言ってはご納得しませんか?」

「……いいや。そうだったな。お前さん達なら、そんな驚く事ではなかったな……すまんのぅ」

 ブドーさんを落ち着かせるためとはいえ、必要の無い謝罪をさせてしまい申し訳なく感じたオレは、気にしてないといった意味で首を横に振り、「それでは後はお願いします」とだけ伝えて工房を後にした。


 ムーアさんにも挨拶を済ませた後、クロードはすぐにモンチーの工房に寄り、いつぞやのマグマンタイトとヒイロロ鉱石を渡し、魔宝石の製作依頼と盗難禁止を伝えた。モンチーは揉み手をしつつ、了承してくれた。一抹の不安を抱きつつ、クロードは今日の業務は終了といった感じでデッドオーパーへと帰った。


 ――――この依頼を終えた後日、グランノームの聖域が妙に暑い(原因はカップル達のイチャイチャ)という異常事態が起こり、クロードは焦り半分呆れ半分の状態ながらも、事態を収拾するために再びチェイネスの古株へと足を運び、様々な対策として複数の魔法を込めた家(鳥の巣箱くらいの大きさ)を大量に作る羽目になった。

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