第二話:時折依頼の報酬がえげつない時がある
どうも皆さん。緒蘇輝影丸です。
今回は思っていたより早めに投稿が出来ました。
とはいえ、前回の話のオマケもとい次回の話へのつなぎでございます。
短めの話ですが、楽しんでいただければ幸いです。
場所は引き続き、精霊の交信所もといチェイネスの古株。交信所とは言っても、この大自然の区画に全ての精霊がいる訳ではない。もしそうであったなら、ゼイン村に子供達と遊ぶ精霊はいない筈なのだから。そもそも精霊とは、自然の力が具現化したような存在。ディザストレの聖域とも言える場所に限らず、モルディガンマにだってバミューダにだって精霊は存在する。ただそこに棲息する精霊が、姿を隠していたり少なかったり偏っていたりしているだけの話。
……と、少しばかり現実逃避まがいの物思いに耽っていたら、真正面から生暖かく、味覚を感じない筈なのに甘いを通り越して甘ったるい空気の原因とも言える二人を、近くにいながら遠い目で見つめていた。
〈ティナ……すまない。指一つ触れただけで、君を傷つけるどころか蒸発させてしまう私の身体を許してくれ……〉
一人は、赤く燃える炎の身体を持つ精霊。炎精霊族のフリード。彼は申し訳なさそうに、否、本当に申し訳ないという気持ちを口に出して、話し相手である彼女に背を向ける。
〈そんな……イヤよ!フリード!アタシ、アナタの傍から離れたくない!〉
もう一人は、生物以上の水分どころか、水そのものの身体を持つ青い精霊。水精霊族のティナ。フリードが自分の元から離れようとするのを必死に呼び止めている。
〈……ねぇ、フリード。アタシとの誓いを忘れたの?一滴も残さずアタシの事を愛するって……触れられないってだけで諦める、そんな悲しい運命なんかに負けないって……アタシ達の恋が絶対実らない運命をアナタが変えてみせると言ってくれた……あの誓いは嘘だったの!?〉
〈嘘ではないっ!!それだけは断言する!今でも私の炎は君への情熱、愛そのもの!火花の一片たりともそれは変わらない!……だが!私一人では……ッ!〉
〈……バカ。一人で悩まないでって言ってるでしょ?アナタの悩みはアタシの悩み。……一緒に乗り越えましょ?〉
〈ティナ……〉
〈フリード……〉
……オレは一体、何を見せられているんだ?現場の者達からすれば何度も見たであろうやり取りを終えた二人は、ただただ見えない壁があるような形で空気越しに手を重ね、熱い視線を互いに見つめ合っていた。こういう依頼は何度かあったが、毎度思う。この状況を打破するにはどうすれば良いのかサッパリ分からない。何せオレは、城主のロストとは違って独り身だから。……そう。難しい問題に悩むのは仕方ない事なんだ。ディザストレの宰相どころか元・勇者団を立ち上げる前から数々の依頼を受けた。その依頼を解決出来た数が多いだけで、普通に失敗した事だってある。
――――だからさぁ……そんな期待と心配の目をオレに向けるな。住人達よ。特にオレの視界の真正面にいる竜よ。
いつの間にか現場の周りには、先程の依頼主であるシピック達と一部を除いた殆どの住人達(恐らく同じ悩みを持つカップル達)がオレ考案の打開策を遠回しに求めている。それだけならまだしも、フリードとティナのカップルの背景から二つの光、否、一対の眼光が見える。
シピック達との依頼のやりとりをしていた時の眼光の主は、伏せって眠っていた為、一見すると苔の生えた超巨大な岩に見えたが、今はそのような姿ではなく、森の茂みや影により全貌が分かりにくいが、一対の角を持つ翼の生えた蛇のような姿をしている。これこそがディザストレの森林地帯、グランノームに棲む古代種 [森林護竜]ガイナニールである。
文献『超・魔物大図鑑 魔界訂版』によると、ガイナニールは、昔から森林の守り神もしくは番人のような立ち位置ではなく、むしろ森林を破壊する竜。いわばグランノームの災害と呼ばれていた。その証拠は今クロードがいる場所。チェイネスの古株が古株になった由縁である。何千何万、いや何億もの年月をかけて、精霊を始めとした生物と大自然を生み出した始祖神が一柱、チェイネス。この始祖神がいなければ、そもそもディザストレやモルディガンマといった大地はなかったと言える存在であったが、ある日に若かりし頃のガイナニールが、不意を狙ってチェイネスの生命線とも言える根を噛みまくり、チェイネスを亡き者にした。それにより、グランノームに限らず、全ての大自然が、崩壊の一途を辿った。草木は枯れるどころか生える事すらなくなり、その草木を糧としていた生物は息絶え、精霊も姿形どころか存在が危ぶまれた。
しかし、そんな状況を放置もとい良しとせず、ガイナニールという元凶に一喝したのが、クロードを含めた全存在が知っている、自然と大地の女神もとい神格種の[聖魔神樹]ネイチェルである。彼女の手によって、ガイナニールは猛省し、その贖罪として、現在の自然を保護している。一説ではネイチェルは始祖神チェイネスの娘ではないかと考察されているが、チェイネスの存在を知る者は、とうの昔から存在していないため、その真偽は不明である。
そんな思わぬ重圧を受けつつ、クロードはなんとか考えを見出す。……とはいえ、実は一つだけ案を、というより、一つの疑問が浮かび上がったので、クロードは聞こえているか分からないカップルに、水を差すような真似である事を自覚しつつ、その疑問を投げてみた。
「自身の【妖精加護】か防御魔法をお互いにかけても駄目だったのですか?」
〈〈……えっ?〉〉
二人の返答はキョトンとした顔であった。どうやらやった事はなかったらしい。なんで自分に関係する事なのに自分を知らないのかと思われるだろうが、意外にも自分というものは自分に関して無頓着であり、誰かに言われないと気付かないものである。
「……やった事がないのでしたら、ひとまずお二人の特性をお互いに使ってみてはいかがでしょうか?万が一それで駄目だった場合、オレが防御魔法を重ねるか引き離すかしますので」
自分の事を棚に上げるつもりはないが、クロードはもう少し自分の種族について学べと呆れつつ、二人の特性をお互いにかけるように促し、魔法の準備を整える。
肝心のカップルは、お互いに【妖精加護】をかけてから恐る恐る手を伸ばす。炎と水。一歩間違えればどちらかが消える。いわば成就か消滅かの瀬戸際、クロードは固唾を飲む。ここで消火もしくは蒸発して失敗ともなれば大問題である。成功したらしたで別の面倒が起きるだろうが、その時はその時。緊張感が漂う最中、ついに二人の手が、それぞれ指先が重なった。……音は聞こえず、蒸気も見えない。だが指先だけでは確信出来ない。もう少し勇気を振り絞り、お互いにお互いの手のひらをピッタリ隙間なく重ねた。なお異常はなし。いやむしろ異常あり。炎と水のいずれとも消滅せずに生きている。実らない恋と思われた摂理が、今この瞬間、歓喜の声と共に音を立てて崩れ落ちた。
そこからは感謝の証として、精霊達からはそれぞれの属性の魔力を込めた魔塊結晶を大量に貰い、見守り人であったガイナニールからは古くなった鱗と手の平くらいの大きさの竜琥珀を貰った。
数ある飛竜もとい竜と称される魔物の中には、逆鱗以外に竜珠と呼ばれるモルディガンマに棲む危険種程度の竜では絶対手に入らない大変レアな素材が存在する。力を行使するにあたって重要な器官でもあれば、体内で生成された物でもあるソレを保有しているのは超危険種以上且つ竜に括られる魔物のみ(ただし超危険種の場合、全ての竜にある訳ではない)である。その中でも古代種の竜珠は、それぞれの属性の頂点とも言える宝石であり、宝石商のいる店では『□の竜○○』(例:地の竜琥珀)と言う表記で高値で販売されており(大体小さいか偽物)、蒐集家もとい宝石集めが好きな者にとっては垂涎物。鍛冶師もとい武具を製作する者にとっては強力な武器を作るのに大層喜ばれる代物である。
ちなみに、これまで会った超危険種のレア素材を挙げると、[溶岩竜]マグナロスが逆鱗(竜珠はない)、[氷雪獣]ガウフロストは氷劫器(氷を操るのに必要な器官)、そして[魔海蛇竜]アクラヴァルもといサファイアは竜蒼玉(竜珠)である。
そんな報酬に面を食らったクロードであったが、この後の依頼で必要になるかもと感じ、異次元ポケットにしまい、渡してくれた者達に感謝した後、次の依頼主の所へ向かった。
いかがでしたか?
何やら見た事あるようなないようなカップル(作者は様々な意味で経験なし)を書いてみましたが、なかなか芝居がかかりつつ砂糖を吐きかねない感じに仕上がったかと思います。
次回も出来るだけ早めに投稿出来るように頑張ります。
……まぁ、不定期なので自信は微妙。ですから、いつものように気長にお待ち下さい。
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(ただし、アンチや荒しのコメントは絶対止めて下さい。投稿が物凄く遅くなりますので)