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第一話:娯楽は多いに越した事はない

 中枢地帯ジェノエリアには、いくつもの集落が存在する。

 何時ぞやの依頼で軽く紹介した獣人(ビースト)族や獣魔人(アルビースト)族(違いは特殊能力がある事)という、ワウルやフェイアのような獣ならではの特徴を持つ獣系魔族が暮らす『ハウザー村』。

 クロードやテッド、パンプーカのような死魔(ホロウ)族、動く屍体や彷徨う霊魂といった死霊系の魔族が静かに暮らしている『レレイ村』。

 魔王家族やミリークのような魔人(デモン)族、人間(ヒューマン)の形でありながら人間とはかけ離れた特徴を持つ異形系の魔族が暮らす『ダルク村』。

 マリカのような魚人(マーマン)族や人魚(マーメイド)族といった、海の生き物ならではの特徴を持つ水棲系の魔族、海魔(アリアン)族が暮らす海底の集落『プルー村』。

 そして、今回の行き先である『ゼイン村』は、系統が異なる魔族が一堂に会する形で暮らしている唯一の集落である。模人系もとい人間に模した機械や植物の物魔(ファクト)族、蟲系もとい虫ならでは力や身体も持つ蟲人(セクト二ア)族、そして司る自然の力であれば十全に使いこなせる精霊。一見すると本当に関連性はないと思われがちであるが、実はただ一つだけ、「大自然によって生まれる魔素(マナ)を糧に生きている」という共通点がある。この一文だけではどの魔族にも言える事ではと思うだろう。ただ、摂取する方法が違う。大抵の魔族は呼吸と食事という経口摂取しか方法がないのに対し、ゼイン村に住む該当魔族は、余程の事がない限り地面や木といった自然の物に()()()()()()()()()なのである。もちろん食事を必要とするものはいるが、大抵の魔族が食べない草木や樹液を摂取すればすぐに回復が出来るのである。……なんといえば分かりやすいであろうか、魔素から魔力への変換率が他の追随を許さない程に高い。しかし、それらとは裏腹に、性格面はほかの魔族よりも温厚、というより平和主義という、魔族としては結構致命的な精神を持っているのである。故に人間であれ魔族であれ友好的に接するというより、種族の違いは気にしない、よく分からないと言う者が多い。


 ……のだが、少なくともゼイン村の住人は魔族の味方ではある。依頼目的で訪れただけなのに、外でボール遊びしていた精霊や蟲人族の子供達(一部の精霊は心身共に子供のままな者もいる)が、オレの姿を見た途端に一斉に群がってくる程に。

「アッ。クロードダ!」

〈くろーどだぁ!!〉

「ヒサシブリ?ヒサシブリィ」

〈くろーどくろーど!!〉

〈あそんであそんでー!!〉

 ローブを引っ張る蟲人族の子供達はともかく、精霊の子達はオレの顔の前に飛び回るのはやめて。【念話(テレパシー)】が羽音みたいに聞こえて、うっかり手で追っ払いたくなる。まぁそんな事をしたら怪我させてしまうから、出来るだけ優しく押しのけるようにする。

「悪いな。また今度」

〈えぇー!?やーだー!!〉

 そして、やんわりと遊びの誘いを断ったのだが、余程オレと遊びたいのか、駄々をこね始めた。どうしたものかと悩んでいたら、蛾妖魔(モスマン)族の大人の女性が、顔を青ざめながら慌てて子供達をオレから引き剥がしてくれた。

「コラッ!オマエ達!クロード様ニ迷惑カケナイノ!スミマセン!クロード様!オ許シヲ!」

「大丈夫ですよ。モガさん。……【幽影実体(ワンモアボディー)】」

 それはありがたいが、同時に子供達は不満そうにこちらを見つめる。何か思う所を感じてオレは、数ある自作の一つであり、闇属性の魔法【幽影実体】を使った。この魔法は、オレの影から()()()()()()()を作り出す事が出来るのだ。一番近い例えで言うならば、擬態幽体(ドッペルゲンガー)という密かに見た対象と同じ姿どころか声や仕草すらも真似て、ほかのヒトを騙くらかして対象を孤立させ、一人きりになった所を狙って対象を食らい、対象に成り代わって新たな対象を探す魔物であるが、この【幽影実体】は姿形を完全に真似するどころか唱えた当時の能力面まで真似する事が出来る。しかし、声を発する事は出来ないし、誤って被害を生まないように術者の指示がないと動かない仕様でもある。

「とりあえず、ここにいる子供達の遊び相手になってくれ。もし数が増えたとしても【幽影実体】は使わず、危険があまり無い大道芸のような魔法で目を惹かせろ。あと、子供達の要望は、危険が無ければ基本は叶えて、駄目そうなら断る事」

 その分指示はなるべく細かく伝えなければいけないのだが、こうでもなしないとまともに動かないのだから仕方ない。

 命令を理解した(オレ)は、水属性の魔法【溺水球(ウォーターボール)】というヒトの頭がすっぽり入るくらいの大きさの水玉を手から出したかと思いきや、鳥の形に変えて子供達のもとへ飛んでいった。オレにとっては大した事のない魔法だが、子供達には結構評判が良く、喜んでいた。本来は呼吸器官にぶつけて陸上等関係なく溺れさせる魔法だが、それは子供達には内緒。

 何にせよ、これなら大丈夫そうだと思い、子供達の事はひとまず(オレ)に任せて、オレは当初の目的を果たすためにその場から離れた。


 ゼイン村はほかの村と違い、大きく分けて二種類の区画が存在する。一つは、先程の子供達がいた場所もといほかの村と同様に多種多様の魔族が暮らす集落。ではもう一つはどういう区画なのか?と誰かに聞いてみた所で意味は全くないし、なんとなく予想はついているであろう。答えは、精霊しか住んでいない大自然の聖域である。それ故に足場も住処も手つかずであるため、余程の人物でない限り精霊以外の魔族が足を運ぶ事はないし、許されない。……いや。正確に言えば、通り過ぎたり薬草といった物を多少採取する分には幾分構わないが、道中で大自然に喧嘩を売る。即ち、許可無くゴミを捨てた者には、そのゴミを処分するまで帰さない。もしくは、そのゴミと共に土に還すかの二択である。それはどんな種族であれ、立場であれ、例外なくただ自然の猛威を振るわれる。そのために、いくら平和主義であまり強くないと評される精霊であれ、絶対怒らせてはいけないという暗黙の了解が存在する。

(……まぁ、精霊じゃなくても怒らせたらヤバイ奴なんて、いくらでもいるけどな)

 しかしそれは、元・人間(シエル)()()()()の存在という、種族と規模は違えど、怒らせたらどうなるかの恐怖は、いくら忘れっぽいクロードでも知っ(おぼえ)ている。だから、クロードに限らずほとんどの魔族は、余程の用事がない限り、立ち寄るどころか近付く事すらしないのである。……しかし、たとえどんな危険があったとしても、依頼がある限り、クロードは何度でも足を運ばなければならない。それが彼の仕事なのだから。


 そうこうしている内に、ようやくヒトが数十人入る程……否、精霊達の舞踏会場(ダンスフロア)と言われてもおかしくない程に巨大な切り株『チェイネスの古株』、別名『精霊の交信所』に着いたオレは、早速この巨大な切り株に上がり込み、真ん中近くまで歩いたらその場に座り、異次元ポケットからいくつかの物を取り出し、揃えた所でここの依頼主を呼ぶ。

「シピック。オレの声が聞こえてるなら来い。……久々に遊ぼうぜ」

 すると、木の茂みの方から手の平に収まるくらいの大きさを持つ薄紫色の光の玉が()()現れ、オレの前まで来たかと思いきや、光の玉からヒトの形へと姿が変わった。両方とも薄紫色の髪をした少年のような姿であるが、羽根や肌が違う。片方は虫の羽のような透明な羽を持つ褐色肌でやや吊り目の少年で、もう片方は蝙蝠のような羽と青色の肌という悪魔(デビル)族をそのまま小さくしたような垂れ目の少年である。

〈おもったよりはやくきたな。クロード〉

〈……こんにちは。クロードさま〉

「よぉ。シピック。ププイも」

 褐色肌の方が依頼主であり、戯妖精(ピクシー)族であるシピックで、青色の肌の方はシピックの同僚(ともだち)であり、遊悪魔(インプ)族のププイである。軽く挨拶を済ませた所で、早速依頼品の紹介を始める。

「まずはこの二つ。雨とかで友達と遊べなくて退屈な時、いわば一人用の娯楽、ルービックと知恵の輪だ。分類的には一番最初に紹介した事があるジグソーと同様、パズルに当たるが、解き方が違う。この箱状のパズル、ルービックは、大まかに言えば色を同じ面に揃えるパズルで、まずはこんな感じで面をずらして色が揃ってない適当な面にする。そこから元に戻すように頭を使って面をずらす。そんなの逆の手順でやれば簡単ではと思うだろうが、オレはあくまで見せるために少ない手順でやっただけ。これがもし本番、いわば面を適当な感じで弄くってから、よし戻そうと思うと、なかなか上手くいかないっていうパズルだ。……で、知恵の輪は見ての通り、独特な形を持つ複数の部品を綺麗に分解するパズルだ。ルービックよりかは簡単だと思うが、力尽くで分解するのは駄目。それでは知恵の輪という名の意味を為さないからな」

 まぁこれは、さっきも言ったように退屈しのぎ、暇潰し用の娯楽だから、と付け足して言いながら、その二つをシピック達が遊べるくらいの大きさに変えて、差し出した。普通の大きさではシピック達が遊びづらいから、魔法の武具や一部の魔導具と同様に、ヒトによって大きさを自在に変える特殊な術式が込められている。一人用の娯楽を二ついっぺんに説明、紹介をしたが、ここまでは前座。

「……さて、ここからが本命。まずは二人で対戦するリバーシっていう遊戯(ゲーム)だ」

 そう言ってオレは、一つの遊戯盤(ボードゲーム)をシピック達に見せた。緑色を基に黒い線で区切られている盤だ。その両端にある窪みには、表裏が白と黒に分かれている丸く小さな石が複数枚入っている。始める前にオレは石を四つ取り、盤の中央のマス四つに、白と黒が交差する形で石を配置した。これで準備は完了。あとは、やりながら説明した方が良いな。

「まずはこうして石を置いたら、どっちの色を使うか決めよう。シピック。どっちが良い?」

〈おん?……じゃあシロ。クロとクロード、にててややこしーから〉

 ……まぁ、それを言われたらそうだ。黒の石を使うヒトがクロードの番と言う度に自分の黒を白と間違えて使うんじゃないかと、遊戯中とは違うハラハラ感を抱かなきゃならないなんて、変に疲れるし嫌だろう。少し色変えた方が良かったかなんて思いつつ、説明を続ける。

「色が決まったら、先攻後攻のジャンケンをする所だが、今回は説明も兼ねて先にオレがやるぞ?」

 そう言って、オレは窪みに入っている新たな黒の石を、シピックの石を縦に挟む形になるマスの所に置き、最初に置いてあったシピックの石を一つ()()()()()()、自分の色である()()()()()

「こうやって縦、横、斜めの線で、相手の石を挟めるマスの所に置いて、ひっくり返したら相手の番、といった形を繰り返し、全部埋まるか両者の置けるマスがなくなれば終了。最後に自分の色が多かった方が勝ちという遊戯だ。はい。シピックの番」

〈おー!チェスとはちがったやりかただな!……じゃあ、ココ!〉

「そこに置いたら、この石をひっくり返して?……そうそう。じゃあオレは……」

 そうしてオレ達のリバーシ対決(講座?)をやり続け……。


〈――――だぁー!ちくしょー!まけたー!〉

 結果オレが勝った。……まぁ、シピックは分かりやすいからな。その傍らでずっと見ていたププイは、羨ましそうにこちらを見ていた。一緒に遊びたいと察したオレは、今度はププイも加えた三人で遊べる遊戯を差し出した。シピックがもう一度リバーシの勝負を持ちかけたが、後でププイと練習してこいと言い、リバーシとは違う遊戯を見せた。

 先程のは板状の物だが、今度は樽状の遊戯だ。樽の側面には無数の穴が空いており、上の部分には何故か舌を出して笑みを浮かべる幽霊(ゴースト)の人形が頭だけ出している状態で埋もれている。

〈なにこれ?〉

〈……タル?〉

「これは……危機一髪、という遊戯で、側面の穴に付属品であるこの小さな剣を順番に差し込み、人形が樽から飛び出たら、最後に剣を刺した者が敗退もしくは勝利という遊戯、らしい」

〈ハイタイもしくはショーリらしい?どーいうことだ?〉

〈……クロードさまも、よくしらないのですか?〉

 シピック達は、オレにしてはやけにたどたどしい説明に戸惑いを隠せていない様子。無理もない。何せ、オレもよく分からないのだ。先程のリバーシは、昔に師匠と一緒にやった事があり、やり方を教わったから流暢な説明が出来た。しかしこの危機一髪というものは、人間達の大陸、モルディガンマから届いた()()()()()()であるため、情報はこの現物がデッドオーパーに届いた時に、一緒に入っていた説明書のみである。

 ただ、オレ個人として分からないのは、敗退もしくは勝利の所ではない。それは恐らく特定の穴に差し込むと中に入っている人形が飛び出るから、それを助けた人と見なしての勝利なのか飛び出る程の痛い攻撃を与えた者だから敗退なのかを、参加者と一緒に話し合って決めれば良い。それ以上に気になるのは、構造と出所もとい()()()である。近頃の人間は娯楽であれ何であれ、やけに複雑な構造を持つ物品を送り届けてくれる。それ自体は別に構わない。オレ達魔族からすれば結構面白いとも感じるし、便利だ。ただ、これらを何の躊躇いもなく魔族に渡すという事は、それ以上にモルディガンマの文化は()()しているという事。いくら頭は良い種族と評される人間であれ、こういった物を思いつく発想力は一体どこから?……そういえば、物品を貰う時にマリカさんの旦那さんから人間達にh――――。

〈――――クロード!!きーてる!?〉

「ッ!?」

 そう考えている内にシピックがオレの耳元で大きな声を上げ、思考を一旦中断された。……どうやら、また思考の海に呑まれていたようだ。オレは慌てて危機一髪について説明をした。

「あぁ悪い。敗退もしくは勝利というのは、この中の人形を飛び出させた者を一人ずつ脱落させるか、一人勝ちにするのかを決める、という事だろう。……まぁとりあえず、人形を飛び出させた者が勝ちという形でやってみよう。オレもやった事がないから、少し楽しみでもある」

 とりあえず、オレのせいで出来たこの微妙な空気を払拭させる為に、シピック達と一緒に危機一髪をやってみた。


 ――――勝ったのはシピックだが、人形が飛び出た瞬間に全員の体がビクッ!と反応した。


 ほかにもジェンガ、ドンジャラとやらをやって相応に楽しんだ。大量の娯楽にシピック達も大満足したようで、皆にも勧めておくからと、いくつかの遊戯盤を複数個発注した。後日に運搬大鷲(キャレッジ・ホーク)で送るとだけ伝えて、オレはシピック達に別れの挨拶を告げた後、シピックから貰ったもう一つの依頼を果たしに、とあるカップルを呼び出した。


 ……さて、次はあのカップルの対処か……。正直不安だ。

いかがでしたか?

新章の開幕故に最初はこのような感じですが、ここから少しずつ魔族の登場人物を増やし、盛り上げていこうと思います。

その分投稿が遅くなりますが、そこはいつものように気長にお待ち下さい。


追伸:新作の案が浮かび、現在並行して制作中です。(ただし、正式に投稿するのはだいぶ先です)

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