後編:数少ない休暇は、長くない
クルスのささやか(?)な復讐を遂げている間、クロードは現・魔王である姫様もといスフィアの元に向かっていた。そこにはスフィアと遊んでいたロストとワウルの二人だけではなく、先程まで泳ぎをしていたフェイアとマリカもその輪に加わっていた。
「あっ。おじさん!」
そんな四人と楽しげに笑っていたスフィアは、こちらに向かってきたクロードの姿が見えた途端、一段とパァッと明るい笑顔で手を大きく振ってきた。
「……お待たせしました。姫様」
休憩が終わったら遊ぶという約束した手前、無視する訳には勿論いかない(端っからする気は無いが)。クロードは、スフィアの笑顔に癒やされつつ、自分も輪に入って何をして遊んでいたのかを聞いた。
「砂のお城を作ろうとしてたの!大きめの!」
(オレも含めて計六人で?)
スフィアの返答を聞いたクロードは、驚きを隠せなかった。別にクロード自身、砂の城を作る分には構わないと思っているが、大体は一人二人でやるモノを六人で作るとなると、一体どれほどの大きさのモノを作るつもりなのかが、いまいち想像がつかなかった為、確認をした。
「大きめと言われましても、具体的にどのくらいの大きさですか?もしヒトが入れるくらいとなりますと、労力と時間、何より砂が足りませんが……」
「そこまで大きくしないよ!?せいぜい私くらいの高さまで!」
(それでも十分デカいが……だがまぁ、それぐらいなら……)
真顔で砂の城の規模について指摘した事に、スフィアは「第二の魔王城を作るつもり!?」と言わんばかりに驚きながらも、作る砂の城の大きさを教えてくれた。思っていたより現実的な大きさに、クロードは安堵した。
「たまにクロードって、天然だよね。まぁ、本人は至って真面目に言ってるつもりだろうけど」
「えぇやん。せやから皆クロードはんの事が大好きやんけ」
それらの様子を見たロストとマリカの言葉を皮切りに、輪に入っていたほかの皆も笑っていた。今回の笑いの根源であるクロード自身は、首を傾げるばかりであった。別に嗤われた訳ではいないと分かった為、深くは追求しなかった。
「とりあえず、大小様々なバケツと道具を出しておこう」
「わぁーい!」
「本格的で用意が良いじゃねぇか!!ハッハッハッ!!」
遊ぶ方針が決まったと知るやいなや、クロードは異次元ポケットから三つの大きさに分けたバケツと大小二つのコンテナ、そしてヘラや鉤爪といった様々な形状をした木製の道具が入った箱を取り出した。それを見たスフィアは喜んで早速それらを持って使い始め、フェイアは「思っていたより乗り気じゃねぇか」と笑っていた。
「一応調理場からお子様用ランチに使う旗もいくつか持ってきたけど、どれ使う?」
「抜かりないなぁクロードはん!」
「実は一番楽しみにしてたのクロードじゃないか?」
引き続き何かの遊びに使えるかなと思っていた飾り用の小さな旗を数本取り出したら、マリカとロストからも何やら嬉しそうに笑っていた。ちなみにその旗には、元・勇者団のメンバーを可愛い感じに模した顔と武器が描かれている。するとワウルがその旗を見てある事に気がついた。
「……あ、あれ?クロード印の旗は?ないの?」
「オレの?ほかのはそれなりにあったから持ってきたが、オレが取りに行った時にはなかったから、持ってきてないぞ?」
クロードがそう言った瞬間、周囲の空気が少しだけ凍った。その空気を感じ取ったクロードは、調理場の引き出しから残っていた旗を種類毎に一本ずつ取ってきただけであり、たかが旗一本ないだけで何故と思い、ない眉をひそめた。
当人は知らないであろうが、クロード印の旗がなかったのは、単純に補充のし忘れ、子供の我儘と成長、自前で持ってきて再使用、その三つの理由が重なった偶然の結果である。普段であればクロード印の旗はほかのメンバーの倍くらいの在庫を用意していた。何せクロード印の旗がほかのメンバーより人気だから。別にほかのメンバー印の旗が不人気という訳ではない。一本では満足しない子供が結構いた為に、おまけ感覚で旗を二本までの組み合わせ(いわゆるカップリング?)を決めるようにしてみた結果、必ずといっても良いくらいクロード印の旗を軸に選ぶ子供が多かった。そこから更に、その旗を洗っては持ち帰り、何かしらの形で使い続け、ボロボロになったら泣く泣く捨て、新しい旗を手に入れる。そんな繰り返しにかなりの年季がかかり、いつの間にか管理が疎かになってしまったという訳である。ちなみに、調理場担当の者達での会議では、旗を新たに三種類(イリアス、ミリーク、スフィア)追加する予定があったりなかったりする。
いずれにしても、凍り付いてしまったこの状況をどうにかしようと頭の中で画策するが、理由が理由であるため、クロードはどうしたら良いのかが分からず困り果てた。
「何してるの皆ー?早く作ろうよー!そして完成したら旗立てようよー!」
しかし、先程までコンテナ(大)に砂を詰めて土台を作っていた可愛らしい鶴の一声が聞こえた。しかも、クロード印も含めた全ての旗をクロード達に見せて。
「姫様。その旗は?」
「えへへ……小さい頃からコツコツと集めてたの。万が一旗がダメになっても泣かないように」
思わずクロードがスフィアに旗の事を聞いてみたら、はにかみながら教えてくれた。
(そういえば姫様が三歳の頃、初めてお子様ランチを振る舞った次の日に、ロストから「旗を駄目にしちゃってぐずりだした」って言われて、「なんで子供を持った事も育てた事も無いオレに相談するんだ」と思いつつ、使わなくなった仕切り付きの箱を渡した事があったんだっけ……)
当時はもう少しでモルディザス条約(貿易以外の不可侵条約)の締結が出来ると奮起していた時期であり、クロードがまだ宰相兼総隊長として多忙を極めた時期でもあった。その傍らでロストとイリアスの魔王(当時)夫婦はスフィアの子育てに励んでいた。その時に飛んできた依頼の一つがあった事を、クロードは思い出した。
(そんなに大事にしたいなら箱にでもしまえ、なんて、結構投げやりな方法だったのだが……)
スフィアの笑顔に癒やされつつ、そこまでの善意で渡した訳ではないとはとても言えず、それを誤魔化すように軽く頭をポンポンとしてから、スフィアが今やっている作業の手伝いを始めた。
「旗を飾るのは最後にしましょう。まずはこのコンテナに砂を詰めたら、水を含めさせ、叩いて固めましょう」
「砂を詰めるだけじゃダメなの?」
「砂は触って分かるようにサラサラしていますので、それだけではしっかりとした形、土台にならないのです。お城に限らず、土台がしっかりしていなければ、形も崩れてただの山になるだけです」
「じゃあ、もしおじさんがいなかったら父上達はどうなっていたの?」
「…………さぁ?少なくとも、今こうして姫様と一緒に遊ぶ、という事はなかったでしょう」
「えぇ!?ヤダァ!!」
「オレも嫌ですよ(なんだったら、姫様も生まれていない、だなんて言える訳ないし……あれ?)」
スフィアにアドバイスをしながら、クロードはある事に気付いた。こういう事は父親であるロストが言うものじゃないか、という。だがしかし、皆との楽しい休暇に水を差すのはいけない。なので、気付かない振りをしつつ、呆けていたのかホッコリしていたのか知らないが、こちらを見たまま動いていない四人に声をかけた。
「お前達、見てないで手伝ってよ」
そう言われた四人はハッと気が付いて、小さめのバケツに砂(もしくは海水)を入れてはコンテナに入れたり、大きめのバケツに入れたりし始めた。人数が人数であるため、思っていたより早く終わりそうだと思いつつ、クロードとスフィアも土台作りに取りかかった。
少し紆余曲折があったが、なんとか姫様の胸の下くらいの高さ(やっぱ流石に限界があった)まで積み上げる事が出来た。姫様も喜んでいる。あとは城の形になるように削り、旗を飾るだけ。とりあえず、終わったらイリアス様やミリークといった、この場にいないほかの皆にも見せてやろう。
キャアアアァァァーーー!!!
――――と思いきや、何人かの女性の悲鳴が聞こえた。オレ達は急いで声の主達の所に向かった。
何事かと思い、駆けつけてみればなんと……のんびり寛いでいた筈のイリアス様にミリークと、日焼けオイルのやり取りをしていた筈のクルスとエルダとシエルが、巨大なイカ型の危険種、大王烏賊に捕まって大変けしからん状況になっていた。
「イヤァー!!ロスト様!!み、見ないで下さい!!でも助けて下さいましぃッ///!!」
「や、やめて下さい!私はクロード様以外にこの身をッ!ヒャッ///!!」
「待って…今、エル…びんか…ッ///!」
「ひやぁぁぁあああ~~~っ!!!オッパイばかり攻めないでぇ~~~っ///!!!」
「破天の骸ー。ハープもあられもないワタシの純潔が粘液の搦め手に奪われてしまう。助けて。……いや本当に///」
……エルダとシエル以外、意外と余裕そう(特にクルス)?でもないな。早く助けようと思い、異次元ポケットから魔法杖を取り出そうと手を伸ばしながらロスト達に注意を呼びかけようとした。
「おいロスト……って、あれ?」
だが、オレと同様にイリアス様達を助けようと近くにいた筈のロスト達がいない。何処行ったかと思い周りを見渡していたら、別の悲鳴が後ろに響いた。何かと思い、後ろを振り向くと……。
「うわぁー!!……んんッ///!!」
「ワウル!君は男でしょ!?変な声出さない!ってオイ!海パン取ろうとするな!!」
「ひぃいいい~~~っ!!!ぬるぬるイヤァ~~~!!!クロード!!!見るな!!!見ないでぇ///!!!」
「イカだけやと思ぅたらウミウシまで来る!?普通!?ウチ人妻やで!?いや関係あらへんってかぁあああ~~!!……あんっ///!」
「いやぁ~~!!ウミウシさんのえっちぃ~~///!!」
オレ以外の五人が、巨大なウミウシ型の魔物、魔海牛の触手に捕まってしまった。……いや嘘だろ!?オレ一人で二体のモンスターを対処するなんて流石に無茶だぞ!畜生!皆休暇を満喫したいが為に装備を外してしまったのが仇になるとは……っ!大きいだけの大王烏賊はともかく、魔海牛には怪我(部位の切り離し)をしても、そこの部分から再生する【自己再生】という特性がある。助けるだけなら両方共に問題はない、だが助けた後の魔海牛の再生能力が非常に厄介だ。あの大きさからして危険種と同等と言っても良いくらいだ。という事は、間違いなく【自己再生】を進化させた特性【分裂】を持っている可能性が高い。ただでさえ二体のモンスターに挟まれている状況なのに、これ以上敵が増えられたら堪ったものじゃない!とりあえず、まずは触手による拘束を緩めさせて救出もとい人員確保。雷と火、氷属性は駄目(無防備の姫様達に被害が及ぶ)。水属性はもっと駄目(敵が喜ぶだけ)。風と地属性の混合魔法【風砂刃】なら……ッ!
「……あれ?」
そう思い、やっと見つけた魔法杖を取り出した……かと思いきや、何を間違えたのかオレの手に持っていた物は魔法杖ではなく、角笛だった。角笛はモンスターを任意に呼び出す魔導具であり、場所によって呼び出せる種類が変わる。経験値を稼ぎたいけどなかなか見つからない時や、依頼に必要なお目当てを探す手間を省かせる時に使うように、呼び出したいモンスターを思い浮かべながら吹くのが基本的な使い道。しかも、この角笛には青い魔宝石が目立つ装飾があしらわれている。これは通常の角笛より強いモンスターを……って、コイツは……!
「待ってろよ!今助ける!」
オレが今手に持っているこの角笛なら、この間の巨大蛸の騒動より安全に解決出来たかもしれない。という今更の後悔を抱きつつ、オレは息を大きく吸い込み、ある存在を思い浮かべて角笛を吹いた。
(来い!サファイア!!)
ブォォオオオーーーー……ッ!!
雄叫びか何かかと思えるくらいに響く笛の音。ディザストレ中に響き渡る音と共に、海が揺れ始めたかと思いきや、大きな水柱が立った。水柱が雨のように海に還ると共に現れたのは、宝石と纏っているのかと見間違うくらいに綺麗な碧色の鱗、妖しくも何処か美しく感じる紅い紋様、クロードが付けた名前の由来とも言える蒼い瞳、そして大きく長い体躯を持つウツボ型の超危険種[魔海蛇竜]のアクラヴァル改めサファイア・アクラヴァルである。
そのサファイアの登場に、ロスト達どころか大王烏賊と魔海牛も驚きを隠せなかった。正確に言えば、元・勇者団のメンバー達はサファイアの存在とクロードとの関係は知っていたが、思わぬ登場に驚いただけ。特に驚いていたのは、事情を知らなかったスフィア達と二体のモンスターだけである。しかし、当のサファイアは、そんな事はお構いなしに【念話】でクロードに話しかける。
〈我を呼んだか?主よ〉
「挨拶は後だ。まずは、この二体をどうにかしろ」
〈…………やれやれ〉
久々の再会だというのに業務的で冷たい態度を取るクロードに、一言物申したい気持ちがあったが、周囲の状況を見て、サファイアは呆れつつも、まずは主の命令に従おうと気持ちを切り替えて、雄叫びを挙げた。
ギャオオオオオォォォォォーーー……ッ!!!!
クロードが吹いた角笛以上に響く魔海蛇竜の咆哮。この場にいる全員どころか、ディザストレが恐怖で震えているのではと勘違いしてしまうほどの振動。その矛先を向けられている大王烏賊も魔海牛も、本能に従って、捕らえた皆を下ろして、敵うわけがないと言わんばかりにそそくさと海の中へ逃げ帰った。下ろされた皆(特にスフィア達)は、まだ理解が追いついておらず、ポカンと呆けていた。
「ありがとうサファイア。とりあえず、姫様達とは初めて会うよな?挨拶してやってくれ」
〈うむ……少し待て。なにぶん久々にコレをやるからなぁ……〉
スフィア達を尻目にクロードはひとまず、サファイアに感謝をし、スフィア達に自己紹介をするようにと言った。サファイアは応じたかと思いきや、何やら力み始めた。すると、サファイアの体は光に包まれ、みるみるうちにヒトの姿へと変貌した。これにはスフィア達どころか、クロード以外の全員が口をあんぐりとさせたまま固まってしまった。姿が変わった事にも驚きだが、その容姿にも驚きを隠せなかった。何故なら、基本はマリカもとい魚人族と似たような姿であるが、スフィア達と並ぶかそれ以上に綺麗な女性であったから。
海の宝石と言われても納得するくらい蒼く輝く瞳以外にも目を惹くモノがあり、碧色の長い髪は先部分を輪っか状の髪留めでまとめており、魚のヒレのような耳には赤黒いイヤリングが左側に付いている。格好は、腕七分程の袖がある羽織と膝が見えるくらいに丈が短く裾が緩めのズボン、いわば淡い色をした作務衣(風呂付き宿屋で湯上がりした時に着る服)のような格好であり、その下には紺色のビキニを付けている。何故下にビキニを着ている事が分かるのかというと、羽織は袖を通しているだけで、その開いている部分からビキニの上部分が丸見えだからである。その際に見える腹は、張りのある胸と同時に見えても恥じないくらい引き締まっており、そこには紅い紋様が見え隠れしている。ちなみに紋様は腹以外に腕や太腿、少しだけだが頬や額にもある。
「あぁ~…えっと……初めましての方は、はじめまして。我はサファイア・アクラヴァル。此処にいる主、クロードの従魔だ…じゃない…デス」
そんな彼女は後頭部を掻きつつ、ぎこちない敬語でスフィア達に自己紹介をした。最後の部分は素で間違えてしまったようだが、事情を知らなかったスフィア達は、そんな事はどうでもいいと言わんばかりに悲鳴をディザストレ中に響き渡らせた。
少し時間がかかったが、クロードはなんとかイリアス達を落ち着かせ、元・勇者団とサファイアとの出会いを大まかに説明した。
・出会ったのは、人間時代後半というかディザストレに向かう道中(約406年前)
・バミューダで遭難した(港にいる誰もが案内したくないと言われ、せめての詫びとして船だけ貰った結果)
・魔物を利用しようと考えた(出身を考えれば庭のようなモノだから詳しいと思って)
・最初はワウルの召喚獣を使い、引っ張ってもらった(当時はただのイルカ型モンスターだったドウモルフィンのフィルくんとモルちゃん)
・そうやってディザストレに向かっていた途中で[魔海蛇竜]アクラヴァルに遭遇(同時にフィルとモルは自ら還ったというか逃げた)
・苦戦した(戦士職のメンバーが揺れる足場でバランスを取るのに必死だったのも含めて)
・クロードが怒って大火力の雷属性の魔法を撃った(アクラヴァルが本気で船を壊しそうになった焦りも含めて)
・勝った(後の事を考えて生かした)
・職業柄を考えてワウルに従わせようとしたが、アクラヴァルが拒否(当時のワウルでは自分を制御しきれないとか何とか言って)
・アクラヴァル本人の希望でクロードと契約した後、ディザストレに向けて出発(その時にイヤリングが付いた)
・到着後、アクラヴァルの役割を考えて契約を解除しようとしたら拒否された(帰りとかどうするのとか必死に説得された)
・相談した結果、名前を与え、海に放し飼いする事にした(その時にサファイアという名前を付けた)
・双方感謝の述べた後、サファイアは「何かあったら呼ぶように」と言って別れた(クロードは召喚魔法が出来ないと知り、その際に例の角笛『海神角笛』を貰った)
・補足として、サファイアがヒトの姿になれると知ったのは、魔族になった直後(コレを直接見たのはクロードのみ。だからほかの面子は知らない)
――――と説明したのだが、それはそれでクロード達の凄さに少し引いていた。無理もない。彼女達の目の前にいる魔海蛇竜は、数ある超危険種の中で最も古代種に近い存在なのだから。あと百年経たない内に魔物界隈で最上位とも言える古代種と認定されるであろう。そんな超危険種を飼い慣らすクロードは、間違いなく大物である。
ちなみに海神角笛とは、通常の角笛とは違い、海もとい水中の生き物しか呼び出せない。その代わり、水中で暮らす生き物であれば雑魚から超危険種まで確実に呼び寄せる事が可能なのである。こういった魔導具はほかにも何種類か存在するが、装飾としても優秀な分、通常の角笛より遙かに高値で売れる。
説明を終えたクロードは、この後どうしようかと悩んでいたら、サファイアが口を開いた。
「……とりあえず、お前達……いい加減に服を直した方が良いのでは?」
それを聞いて気がついたクロードは即座に後ろを向き、被害者達は悲鳴より先にズレてしまった水着をそそくさと直した。その間も後も、会話はなくただ沈黙するばかりであった。
「……あー……その、なんだ。ここからはサファイアも交えて遊ぶか?」
そんな気まずい雰囲気をどうにかしようと、クロードは仕切り直しを提案した。
それからは皆、今回の出来事というか事故を忘れようと総出で砂の城を作り上げた。その結果、大人の一人分くらいの高さと奥行き、その倍くらいの幅を誇る、下手をすれば小人族や妖精族といった体躯の小さい魔族や精霊なら住めるのではないかと思えるくらいの超大作が出来上がった。
そうして辺りが暗くなり始めた頃らへんで、短くも濃い休暇はお開きとなった。少し疲弊しながらも満足げな彼らはそれぞれの家に帰ったら風呂で洗い流し、それぞれの寝室に入ったら即座に眠り、夢の中で次の休暇は何をしようかと何時来るか分からない事を考えながら眠りについたのであった。
いかがでしたか?
仕事で忙しくかつリア充イベントがなかった自分ですが、結構な出来かと思います。
恐らく年内の投稿はここまでとなりますが、逆に言えば、来年から正真正銘の第二章の開幕です。本筋関係以外の依頼は短編ばりの短さになるかと思いますが、気長に待っていただけると、嬉しいです。
追伸:この章を機に、章の分割と、題名を変更させていただきます(旧題として残しておきます)。