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第一話:城主がその表情を浮かべたら行くしかない

どうも皆さん。緒蘇輝影丸です。

今回はようやく主人公が登場する回です。

あと、メインヒロインであろう人物も登場です。

楽しんで頂ければ、幸いです。

 ディザストレの魔王城『ジェノサイド城』。その最上階、天守閣には現在、三つの玉座が置かれている。

 今日来訪した筋骨隆々の人狼(ワーウルフ)族の男性から向かって正面には、一番大きな背もたれの玉座に座っているが、両隣に座る男性と女性に比べると、少し背丈が低く、頭に生えているヤギのような捻じれた角もそこまで大きくないため、威厳も迫力も欠けている。そのかわり、やや青色の肌を持っていながらも、顔立ちはしっかり整っており、永久に彼女の隷属なっても良いと思えるほどの可愛さを持っている悪魔(デビル)族の美少女。そう。彼女こそが、現在ディザストレを支配している十代目魔王スフィア・M・シュナイドである。とはいえ、実際の権力は直属の部下と一部にしか利かない。王と呼ぶには納得がいかないであろうが、誰がなんと言おうとも、彼女は紛れもない現・魔王様なのである。

 その現・魔王スフィアから見て左の玉座には、迫力というより、魅力が溢れ出ており、淫靡(いんび)の象徴とも言える尻尾が見え隠れしている麗しい女性が座っている。天に向かって生えている頭の角は魔王であるスフィアよりも小さいが、種族が種族であるため、これは仕方がない。彼女の名はイリアス・ミドメイラ。前・魔王の妻であり、淫魔(サキュバス)族である。淫魔族は人間の男を【魅了(チャーム)】で篭絡させ、快楽を与えるとともに全ての精を涸らすまで腰を振る悪魔族とは違う意味で恐れられている種族である。……とはいえ、彼女が交わった相手は夫である前・魔王ただ一人である。

 そして、スフィアから見て右の玉座には、スフィアとイリアスとでは格が違い過ぎるほどの威厳と迫力を持つ男性が座っている。顔立ちは人間達からすれば好青年の顔立ちではあるが、スフィアより角が大きく、肌の色が青い。右目の下には赤色の刺青みたいなものが入っているが、特に意味は持っていないようだ。それにしても、玉座に座っている姿は結構様になっている。彼こそが史上最強の前・魔王であり、元・勇者であるライド・スティンジャー改めロスト・シュナイドなのである。種族はスフィアと同じ悪魔族で、イリアスの夫であり、スフィアの父親でもある。更に付け加えると、実質魔族を使役する権利は彼が持っている。ただし、あくまで魔王としてではなく、城主として権力を振りかざしている。

 ……さて、この魔王家族の紹介を終えた所で、そろそろ本題に入りましょう。

 今日訪問してきた人狼族の男曰く「グズリさんが妻であるリズーさんと焼き魚の塩加減の事で喧嘩している」との事。その話を聞いた魔王家族三人は揃いも揃って呆れたような溜め息を吐いた。

「あのご夫婦…またですか?」

「…で、あるか…」

「確か二ヶ月前にも同じ理由で喧嘩してなかったっけ?」

 イリアスが零した発言に、スフィアは短い言葉で同意をし、ロストがまたと言った理由を述べた。家族ならではの連携なのであろうか…。

 実はグズリ夫婦は、ディザストレの中でもある意味有名な灰毛熊(グリズリー)族のケンカ夫婦である。週に一回あるかないかのペースで、何か一つでも小さな不満がると勢い余って喧嘩になる事が頻繁にあるのだ。何故今日まで喧嘩をしていながら離婚しないのかが不思議なくらいである。

 いい加減断ろうかと考えたが、わざわざ来てくれた人狼族の男のお願いを無下にして追い出す事も、灰毛熊族の夫婦喧嘩を無視する事も出来ない。何せ、魔王は魔族の王、ディザストレの王なのである。今後裏切る恐れがある反乱分子を作らないようにするためもあるが、もし民が困っているのであれば、まず何に困っているのかを聞きながら打開策を考え、民が悩んでいるならば、その悩みをなるべく理想的な形で解決する努力をしなければならない。いわば、上に立つ者としての責務がある。

 つまり、私欲で責務を放棄するのは、ロスト達からすれば禁忌(タブー)であるも同然なのだ。

「……でもなぁ……僕としては、また()に任せるのは気が引ける」

「おじさんの事?」

「うん」

 責務を果たしたいのは山々なのだが、実権を持つ城主ロストは、責務を果たすことに乗り気になれないというより、責務を押しつけるように毎回ある人物にやらせている事に気が引けて止まないのだ。

「……今回は、僕が直々に仲裁を―――「城主様」」

 気が引けたあまりにロストが玉座から腰を上げようとしたところで、ぴしゃりと遮るような声が聞こえた。声の主は、ロストの妻、イリアスであった。心なしかいつもより低めの声で話しかけたので、ロストとスフィアだけではなく、訪問者の人狼族の男まで突然全身が凍ったように固まった。そんな事はお構いなしに、イリアスは目線だけロストに向け、落ち着いた口調で説教をした。

「魔王様はもちろんですが、この魔王城の城主様が、たかが夫婦喧嘩を止めるために席を外すなんて事になれば、自分の責務を軽んじていると勘違いされるどころか、部下たちまでもが仕事に手を抜く恐れがあります。部下が密かに手を抜いていないか見張るのも城主様の務めでありましょう?……違いますか?」

「……違わない……違わないが……」

 城主の責任関連の話になるとロストは何も言えなくなるが、しかし、魔王城とは直接関係がないからといって、責務を他者、ましてやロストの大切な人に押しつけるのはやはり納得出来ない。そう言いたかったが、妻の隠された威圧を前に、悔しくてこれ以上は言えなかった。

「……城主様が戦友の気持ちを重んじる方なのは昔から重々承知しております。ですが、娘を一人前の魔王になるためには、まず自分の仕事を果たすために必要な責任の重大さを、スフィア自身が理解してもらわなければならないのです。……何卒ご理解を」

 ロストの気持ちを理解しているように、諭すように優しい口調で言われ、ロストは何も言えなくなった。戦友と娘を天秤にかけられれば、否が応でもイリアスの意見に従わなければならないという使命感に駆られるのだ。ロストの性格、性分を知らなければ出来ない芸風である。

 なんだか少し厳しいというか、悪女のような感じではあるが、実際イリアスは単純に――――夫が戦友と娘ばかりに目を向けている事に嫉妬しているだけなのである。

 先ほどロストを優しく諭した時の心境は、こうである。

(もう、ロスト様ったら、お酷いですわ。……いつも戦友の皆様やスフィアばかり気にかけ、私の事を疎かにして……まぁ、皆様が大変良い方なのは知っておりますが……なんだか嫉妬してしまいますわ。ここまで大切に思われている戦友の皆様が)

 簡潔にまとめるとこのような感じである。

 そんな感情で制止されているとは思ってもみなかったこの場の者達は全員、イリアスの嫉妬という名の圧で身体を強張らせるばかりだった。

「……分かった。その依頼、今一度我らが最も信頼出来る者に任せよう」

 結局城主であるロストは、苦虫を噛み潰したような表情になりながら、イリアスの説得と嫉妬圧に根負けし、人任せという城主の中で最も気が引ける形で来訪者の依頼を請け負った。

「それじゃあ……ミリーク」

 ロストが依頼を受諾した直後に、イリアスがこの玉座の間にいない者の名を呼んだ。

「――――お呼びでしょうか。イリアス様」

 すると、イリアスの玉座の陰から、首元に紫色の大きめのチョーカーを付けた白銀髪の侍女(メイド)が現れた。彼女の名はミリーク・ビナンシュ。一目見ると人間と何ら変わりはないが、実は首元に付けたチョーカーを外すと、頭と胴体が離れている魔族、首無し(デュラハン)族なのだ。遠い所から来たためか、転移魔法を使ったのか、匂いも気配もしなかったため、来訪者である人狼族の男は少しばかり目を見開いたが、反応はそれだけであった。ロスト時代が誕生してから400年、スフィア時代に変わってから120年余りの年月が過ぎているため、このような状況はもはや当たり前の領域である。それでも多少は驚いてしまうが。

「彼に依頼を伝えて頂戴。内容は、灰毛熊族」

「かしこまりました」

 イリアスが短い伝言内容を伝えると、ミリークという侍女は聞き返したりオウム返しせず、ただ会釈をし、城主ロストの目を一瞬だけ見てどこかへ消えた。いわゆるツーカー、もしくは阿吽の呼吸で通じ合っているかのようだ。

「じゃあ、よろしくお願いしますねー」

 そう言って人狼族の男は自分の家に帰った。

「……おじさん。応じてくれるかなぁ……」

 来訪者が帰り、ミリークが城主代行の所へ向かって魔王城を去った後、スフィアがずっと気を引き締めていた魔王の表情から、城主とその妻との娘としての緩んだ表情に変え、城主代行の心配をした。何せ、百年以上前から頼りっぱなしている所が多々あったため、スフィアもロスト同様に気が引けているのである。

「大丈夫よ。彼はこの魔王城からのお願いを断らない方なのですから」

 そう言って、イリアスはスフィアの頭を優しく撫でた。


 場所を変えて、ここは中枢の居住区の端に佇む魔界雑貨店『デッドオーパー』。

 このお店は世界中に集められた数々の変わった魔導具を取り扱う雑貨店で、内装というより肝心の商品は、何の統一性もなく、様々な要素の魔導具がごちゃ混ぜに置かれている。最低限ではあるが、入り口から受付までの通路は一応残ってはいる。

 しかし、留守を示しているのか、受付には青白い光が関節部分からうっすら見える黒いプレートアーマーを身につけ、赤黒いローブを羽織った骸骨の置物が椅子に座っている状態で置かれていた。下手すれば、今にも動き出しそうな雰囲気を醸し出していた。

 ガチャリ、と裏口の方から鍵が開く音が聞こえた。……どうやら、お店の人が戻って来たらしいです。

「ただいま戻りました。クロード様」

 帰って来たのは、先ほど前・魔王妃イリアスに呼び出された侍女、ミリークであった。店には商品と骸骨の置物しかない場所で帰宅の挨拶を告げた。すると、骸骨の置物の眼窩からぼんやりと白い光が小さく灯った。

 そう。受付の椅子のもたれ掛かって座っていたのは、骸骨の形をした置物ではなく、お客が来なくてついうたた寝していた不死(アンデッド)族である。不死族は声のした方向、ミリークの顔を見て、寝起きだったためか、少し緩い感じで声を発した。

「……おかえり、ミリーク」

「はい。ただいま戻りました。クロード様。それと、おはようございます」

 ミリークは、クロードという不死族の男性(声の感じからして)に再度挨拶をし、お辞儀をした。

「……魔王城からの呼び出しにしてはえらく時間かかったな。どこか寄り道でもしたのか?」

 クロードは「思わずうたた寝してしまったよ」という言葉を付け加えて、ミリークの動向を聞いた。

「いえ。高まる気持ちを静めるために、花畑を見に少々遠回りしておりました」

 簡潔にまとめると、ミリークは予想より早く城の用件が済んでしまったため、少しばかり時間つぶしをしていたとのこと。「それって結局寄り道では?」と思ったが、クロードには興味のない寄り道の内容だったので、深くは追及せず、本題とも言える魔王城からの依頼を聞いた。

「……それで、なんて依頼されたんだ?」

「灰毛熊族」

「またか……原因は?」

 魔王家族と同じような反応を見せつつ、引き続きミリークから依頼の詳細を聞いた。

「恐らくですが、焼き魚の塩加減の問題かと……」

「メンドクセェなぁ……ロストからの伝言は?」

 詳細を聞き、更に依頼を受理する気力が失せたクロードであったが、立場上反対する事が出来ず、渋々椅子から腰を上げ、簡単な転移魔法で自前の魔法杖(ロッド)を手元に届けた。その間ミリークは、クロードのもう一つの質問に答えた。

「ありません。……魔王城を去る直前、一瞬ロスト様と目が合ったのですが、申し訳なさそうでした」

 その言葉を聞いたクロードの目は、気だるそうな雰囲気が漂うぼんやりとした白い光から完全に目を覚ましたかのようにはっきりとした白い光になった。同時に、軽く溜め息を吐いた。

「そういう目線があっただけでも良い。早急に依頼を片付ける」

「……よろしいのですか?」

 急にやる気になったクロードに、ミリークは少し心配そうな口調で確認をした。嫌々であるはずの依頼を、城主であるロストの目線だけで受理をする。傍から見たら自分の精神を無理やり向上させているのか、城主のお願いに弱い異常性癖者なのかが分からない分怖い。

 そんな不安があったが、クロードはミリークの顔を見ながら、依頼に応じる理由を述べた。

「アイツは人間時代から責任を自分一人で背負いこむような奴だから、分かるんだ。自分が背負うべき責任を、仲間に押しつけて良いのか悩む時に、いつも悲しそうで申し訳なさそうな表情をする事に」

 ミリークが気にかかった不安のどれにも該当せず、ただ昔から一緒に旅をしていた元・勇者の性格を理解した仲間ならではの動機であった。それを聞いたミリークは、少し羨むような表情を浮かべたが、すぐさま業務的無表情に戻し、クロードが依頼を受ける際に必ず頼む命令を待った。

「……ミリーク。オレがいない間、店番を頼む」

「はい。お任せ下さい」

「ではな。【転移(テレポート)】」

 クロードが魔法を唱えると、瞬く間にミリークの前から姿を消した。

転移魔法で依頼先に向かった事を確認したミリークは、先程クロードがうたた寝をしていた椅子に座り、微かなクロードの匂いと温もりを感じながら、急に消えるクロードの前でずっと言えなかった言葉を、ボソリと小さな声で言った。

「……いってらっしゃいませ。あなた///」

 そう呟いた彼女の表情はまるで、愛しの旦那の帰りを待つ妻のような顔つきであった。

 この雑貨店に暮らす二人は、結婚どころか交際もしていない。しかし、それは単純に、ミリークが彼に素直な気持ちを伝えていないせいだが――――彼女はいつの間にか、元・勇者で前・魔王の右腕とも言われる最強の魔術師、クロード・オルデアンに好意を寄せていた。一人の異性として。

 今日もまた素直に伝えられなかった事を悔やみながらも彼女は、クロードの骨しかない顔を思い浮かべ、椅子にもたれ掛かった状態のまま眠った。

いかがでしたでしょうか?

今後二人の関係がどうなるかも気になる所です。

次回は今作初の依頼回です。

彼らにとっては400年近くやっている仕事ですから初めてではないですけどね。

それでは、次回の投稿はだいぶ遅くなるでしょうが、気長にお待ちください。

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