第十二話:大嵐から魔界島を護らないと
どうも皆さん。緒蘇輝影丸です。
リアル多忙でなかなか執筆が進まなかった自分ですが、ようやく後半です。
楽しんでいただければ幸いです。
緊急予告を伝えに魔王城もといジェノサイド城へ向かい、彼にとっての姫様……否、魔王様で在らせられるスフィアから「信じる者達と共にディザストレを守れ」という勅命を受けたディザストレ最強の魔術師こと、クロード・オルデアンの行動は早い。
「エルダ。最上部の屋根裏に六芒星の装置があるのは憶えているな?今すぐそれを起動しろ。ミリークは、ほかの侍女や伝言鴉を使って、指名した奴らに指定の場所にある装置を起動せよと連絡。城にある装置を起動すれば、ほかの装置も連動して準備状態になる筈だ。役割分担と場所は、シエルはグランノームの端、フェイアはインフェルノの端、ワウルとクルスはフロスティアの端だ。良いな?」
玉座の間から退室して早々、移動しながらエルダ達に指示を送る。エルダは、暗殺者ならではの素早さ、音もなくその場で消えたかのような足取りでクロードに言われた場所へ行き、ミリークは、了解を意味する一礼をした後、影に潜って移動する闇属性の絶技【潜陰影】を使って姿を消した。
「クロード様!オイラ達に何か出来る事はないッスか?今いる死霊部隊一同!いつでも行動可能ッス!」
その直後、ツンツンとした脱色した髪を持つ緑色の肌をした腐死体……否、その上位種に当たる死鬼体族の男、テッド・ダイネスを筆頭に、複数の死鬼体や包帯魔、灯火南瓜魔、幽鬼といった、不死族のクロードと同類の死体、死霊系の魔族達が、クロードの前に駆け寄って来た。そこからクロードの元へある程度近付いたらその場から即座に整列し、クロードの指示を聞き逃すまいと真剣な表情で待っていた。これだけ大人数ながらも周到且つ規則正しい動きが出来るのは、日々の習慣とクロードのカリスマ(本人に自覚はないが)によるものであろう。
「お前達か……誰かから事情を聞いたのか?」
「はいッス!エルダ様とミリーク様から六芒星を使用する為に手伝えと、クロード様からの指示に従えと言われたッス!」
「……なら、風と地属性の適正を持つ攻防に長けた者はシエル、水と氷属性の適正を持つ支援に特化した者はフェイア、火と地属性の適正を持つ防御に特化した者はワウルとクルスを護衛をしろ。ソイツらが今住んで働いている場所は分かるよな?編制は各六人程度の少数精鋭部隊で、指名はそちらに任せる。ただし、万が一装置が起動していなかった場合に備え、機装鼠族や鍛冶老族といった装置に詳しく、応急処置でも直せる人物を各部隊二人ずつ配置する事。残った者達は、ほかの部隊と共に、城と集落の防衛にまわれ。集落の者達には一応、嵐が収まるのを確認するまで外出は控えるようにと伝えろ」
エルダの行動の素早さと、テッド達の聞く姿勢に感心を覚え、労いの言葉をかけたかったが、今の彼らはそれよりも指示を待っている。ならば、事が終わったらしっかりと伝えようと心に決め、クロードはテッド達になるべく事細かに且つ出来るだけ分かりやすく指示を出した。するとテッドの「了解したッス!」と元気の良い返事と敬礼を皮切りに、死霊部隊は各自行動に移した。
余談にはなるが、死霊部隊というのは、読んで字の如く、死霊系の魔族のみで構成された特殊な部隊の事で、ディザストレにおける全部隊、通称『魔界総隊』においては一、二を争う実力者揃いの精鋭部隊でもある。その理由としては、やはりクロードが直々に手懸けた部隊であったからであろう。……つまりクロードは、ディザストレの元・宰相であり、現・デッドオーパーの店主でありながら、今は名前だけであるが、魔界総隊の隊長、いわゆる総隊長でもあったのだ。何故名前だけであれ総隊長なのかと問われれば、彼以上に総隊長になりえる人物がいないからとの事らしい。これに関してクロード本人は、あまり納得はしていない。ちなみに、死霊部隊の一番隊隊長は、先程ディザストレに嵐が来ると予言したクルスであり、二番隊隊長は、お菓子の販売をしているトリートパンプの店主、パンプーカである。
ちなみに、魔法攻撃を始めに様々な分野の手伝いをしている死霊部隊のほかにも、ワウルが一番隊隊長を務めた戦闘面での補助と機動力を誇る猛獣部隊、シエルが一番隊隊長を務めた回復を始めとした支援から戦闘まで幅広く出来る人魔部隊、フェイアが一番隊隊長を務めた城外での防衛戦において右に出るものはない程の護りの堅さを持つ堅殻部隊、エルダが一番隊隊長を務めている現在も城内と重役の防衛活動をしている暗殺部隊、そして重役の健康管理といった身の回りのお世話を基本とした比較的に最近設立されたミリークが率いた女性のみで構成した侍女部隊(勿論現在も活動中)がある。
そんな心強い部下達を信じて、クロードは六芒星がきちんと作動するのか、転移魔法と飛行魔法を使って、ディザストレの景色を一望出来るジェノサイド城上空から辺りを見渡す。……すると、クロードはふと思った。
(……そういえばオレ、今の今までディザストレの全貌を見た事なかったな……)
グランノームの森林豊かな大地。インフェルノの荒々しく燃える火山。フロスティアの白銀に光る氷山。ジェノエリアの(魔族だが)人々の繋がりを感じさせる集落。そして、かけがえのない仲間達と共に守り続けたジェノサイド城。
(……なんとしても、このディザストレを護らなければ……)
そう思いながら景色を見渡した直後、城門から計八人編制の臨時護衛・修理部隊(三班)と、大勢の集落を守る警備部隊が出てきた。編成を終えて、早速行動を開始したようだ。
「動き出したか……」
〈クロード。装置。起動。問題なし〉
〈クロード様。シエル様達から了解の返事を頂きました〉
確認をした直後、エルダとミリークからの報告が交信魔法越しにクロードの耳に届いた。その通信にクロードは、一番重要な装置の無事に安堵しつつ「何か緊急の連絡が来るまで待機するように」と二人に交信魔法を介して指示を出した。
(とりあえず、ここまでは順調……あとは、それぞれの場所にある装置が無事作動したという連絡を待つだけ……)
クロードは、一息ついた後、残りの装置が無事作動することを祈った。
――――のだが、彼の耳に届いたのは、一つの吉報と一つの凶報と……一つの大凶報であった。
オレはジェノサイド城の上空で待機し続けていた。部隊が門を出てから十数分、もしかしたら数分程度だったのかもしれない。ようやく状況が動いた。
〈クーちゃ~ん。グランにあった装置、作動したよ~♪〉
最初に聞こえたのは、シエルから吉報だった。とりあえず「了解。一度持ち場に戻って良い」と伝えた。……よし。まずは一つ。グランノームの装置は無事作動したか。このまま残りの二つも……。
〈クロード!大変!あっ!ボクとクルスの担当、フロスティアの方だよ?で、え、えっと、動力源が冷えてて装置が動いてない!どうしよう!?〉
次に聞こえたのは、ワウルからの凶報だった。それを聞いた瞬間、無いはずの肝が冷えた。
〈……天賦の狗が慌てているが、心配ない。破天の骸よ。作り手達が祈りの焔で凍った装置の心臓を温めている。息を吹き返すのも時が解決してくれる〉
しかし、修理部隊が嵐が来るまでには直せる範疇であるらしいとクルスが補足してくれた。時間以内に間に合うなら良し。とりあえずオレは「調整、修理が終わり次第、持ち場に戻って」という旨の返事を伝えた。あとは、フェイアが向かっているインフェルノの装置が無事に作動出来れば……。
〈クロード!!悪い!!今すぐアタシの所に来てくれ!!〉
……と、無事を祈りたかったが、そのインフェルノに向かっていたフェイアから緊急事態発生という(内容はまだ分かっていないが)大凶報を聞きつけ、オレは返事をする間もなく、即座に転移魔法でフェイアのいるインフェルノの端の辺りまで向かった。
フェイアからの緊急要請に応じ、即座に飛んできたクロードが最初に目にした光景は、半壊している部隊と、部隊に護られて無事になった修理班(しかし動揺を隠せていない様子)。これ以上やられまいと必死に部隊を護っているが、肩で息をし始めているフェイア。そして、海面から頭と触手数本を出して立ち塞がるタコ型の危険種、巨大蛸が、まるで護るかのように装置を取り上げているという光景だ。……何故インフェルノ周辺の海にいるのかと問われれば、住処になる岩礁の大きな隙間が多く且つ、暖かい海を好んでいるからである。
「おっ!クロード!来てくれたか!!助けてくれ!!」
「…………」
来てくれた事に安堵し助けを求めたフェイアに、クロードは無言で頷き、思考回路を回す。実力的に考えれば、危険種くらいフェイア一人でも大丈夫では、と思うかもしれないが、実はフェイアは魔族になってもなお苦手なモノが存在する。その内の一つが、タコやミミズといったウネウネとヌルヌルとした生き物なのである。本来のフェイアなら、怖さのあまりに肉片一つも残さないくらい過剰に絶技をぶつけるのだが、そんな事をしてしまえば装置が壊れてしまう。そうなってしまえば、クロード達がここまで苦労した意味の全てが水の泡になってしまうため、攻めあぐねているのだ。
(……しかし、どうやってあの巨大蛸を倒し、且つ装置を無事に回収すれば良い?)
ただ、フェイアとは違う理由で、来た所で攻めあぐねているのはクロードも同じである。クロードにとって今この状況においての最悪は、人質のようになった装置が海中へ持ち逃げされる事と、装置が台無しにされる事である。装置だけを転移させる術はないし、仮にあったとしても、巨大蛸が持つ触手に付いている吸盤のせいで巨大蛸ごと転移させてしまう恐れがある。ただでさえ機嫌が悪くなっているのに、更に住処から引き剥がすような真似をしようものなら、巨大蛸は確実に怒りのあまりに暴走する。そうなってしまえば、装置どころかクロード達の身も危ない。
(せめて、装置に巻き付いているあの触手一本だけでも切り離す事が出来れば……)
クロードは、なんとかしてこの状況を打破しようと、いくつかの策を見出そうとしながら、今抱いている巨大蛸に対する恐怖心と嫌悪感を和らげる為に【獅子心】をフェイアと自分に使い、怪我をしている部隊に応急処置程度とはいえ【回復】を唱えて、なんとか形勢を立て直す。さらに、この膠着状態を利用して有効打になり得そうな案を練り始める。
(一番手っ取り早いのは、風属性の魔法と絶技だが……オレとフェイアじゃ少し不安だな)
そこで最初に思いついた案、巨大蛸の触手から装置を奪い返すのみを目的とした作戦。何よりの長所として、装置の回収が出来る。しかし、この作戦の短所は、巨大蛸が次の攻撃を恐れて退くどころか、怒って暴れ出し装置を壊すかもしれないという事である。それに加え、クロードの魔法であればまだしも、フェイアの絶技は威力が高すぎる。その分巨大蛸を退ける確率は上がるが、同時に一歩間違えれば装置を壊しかねないという恐れもある。ただ、現実的ではあるため、とりあえず保留することにした。
(なら巨大蛸を説得するか?……いやいや、普通に無理だ)
二つ目に思いついた案は、即却下。一番平和的解決になるが、そんな人材は今近くにいないため不可能。
(威圧をかけて無理矢理言うことを聞かすか?……フェイアはともかく、オレは無理だな)
三つ目に思いついた案は、二つ目より成功する可能性はあるが、威嚇した後どうするのかと問われれば、正直まだ考えていない。もう少し時間をかければあと一つや二つ案が思いつくやもしれないが、クロードとフェイアだけでの対処となると、一つ目が妥当であろう。あまり膠着状態が長すぎると、どちらかが痺れを切らして最悪の事態を招く恐れがある。
(……ロストか姫様に連絡したところで……姫様……待てよ?)
それだけは何としても避けなければいけない。そう考えている内に、クロードは姫様もとい現・魔王スフィアの勅命を思い出した。
其方が信じる者達と共に、ディザストレと民を護りきってみせよ!!
その言葉を思い出した瞬間、クロードの頭は冴え始めた。……クロードが信じる者達……クロードが、自身と今この場にいるフェイアや部隊だけが信じている者かと自身に問うならば、答えは否。ほかにも信じている人物はいくらでもいる。ただ今、この場で信じている者がフェイア達しかいないだけ。
(いないなら、呼び出すまで……!)
しかし、時間をかけられない……ならば、時間をかけなければ良い。
「【時間停止】」
その瞬間、隊士同士で支え合っている部隊は、クロード達を睨み付ける巨大蛸は、波を動かす海は、魔族と人間が別々の大陸で暮らしている世界は、一部を除いて刹那の動きを忘れる。
「これは……」
その除かれた一部の一つが、いつぞやの時とは違い、今度はしっかり装備を調えたフェイアである。魔力の消費を少しでも抑えるために、クロードはなるべく簡潔に指示を出した。
「フェイア。装置の回収を終えて合図をしたら、巨大蛸の眉間に全力の絶技を撃て。良いな?」
「おう!何をするつもりかは分かんねぇけど、任せろ!!」
「よし。【遅効発動】。【言伝】。【転移】。【強靭化】。……【時間停止】解除」
フェイアの威勢の良い返事に、クロードは安堵し、仕込みを早々に済ませ、時間を再び動かした。
スパ……ッ。
――――その瞬間、巨大蛸の頭上から小さな影と、無に近い斬撃音と、絶技の名前だけをボソリと言った少女のような声。
「……【空中歩】。【双剣斬撃】」
城と魔王様一同を刃で護る吸血鬼族の暗殺者、エルダの登場と共に、巨大蛸の触手が、装置を持っていた部分だけが切り離された。
巨大蛸は、突然襲いかかる痛覚に戸惑いを隠せない。しかし、反撃の隙は与えない、むしろ隙を狙うと言わんばかりに、次の手は既に打たれている。
「メレオくん!」
クロードの横から聞こえた声の主、普段は気弱な少年っぽい人狼族の召喚士、ワウルが、いつからいたのかと気付けないくらい景色に紛れていた大きなカメレオン型のモンスター、ステルスハンターのメレオ(オス)が姿を現し、口を大きく開けたと同時に粘着性ある長い舌を使い、切り離された事で落ちていく装置を瞬時に貼りつけ、すぐさまクロード(正確にはメレオ)の元へ引き寄せた。無論食べないで近くで外した。
「摘出します」
「は~い。みんな~回復魔法をかけるね~」
それによって出来た影から、手の形に沿ってピッチリとした伸縮性のある手袋を装着していた首無し族の侍女、ミリークが現れ、装置にくっ付いていた触手を引き剥がした。同時に、部隊をより万全の状態にさせるために森妖精族の修道女、シエルが得意の回復魔法をかける。それらの様子を看過できない巨大蛸はなんとか装置を奪う、もしくは部隊を壊滅させようと、斬られた触手含めて数本の触手を伸ばした。
ビャリンッ!!スパパパパパン……ッ。
……しかし、その触手は一本たりとも装置や部隊に届く事はなかった。むしろ、斬られた触手の本数が増えてしまった。原因は、女二人によるものである。
「【風塵爪】」
「……あまり汚い音色は好まないのだが……」
そう。一度ならず二度も触手を斬ったエルダと、ハープを使ってエルダが迫り来る触手を斬る前に触手の傷口と神経に恐怖を響かせるように、わざと不協和音を鳴らしてエルダに攻撃の好機を与えた死告精族の吟遊詩人、クルスである。この二人の連携によって、巨大蛸は後ずさりをし始めた。本来なら、追討ちをする必要は無い。しかしクロードは、再発防止のために、逃がすかと言わんばかりに、彼女に与えた筋力増強の強化魔法に加えて、今まで力を貯めていたフェイアに合図を送った。
「今だ!」
「おっしゃー!!くらえ!!【紅炎矛鎗】!!!」
満を持して放ったフェイアの投擲、炎を纏った鎗は、一直線に巨大蛸の眉間の所へ向かっていた。巨大蛸は、最後の足掻きでの防御か、本能とも言える生への縋りか、飛んできた鎗に向かって触手を伸ばすが、容赦なく突き破られ、物の見事に眉間を撃たれた。そこを起点に炎が巨大蛸の体に纏わり付いたが、既に致命傷を受けて絶命した巨大蛸は、何も感じず、ただ刺された鎗と共に、暗い海の底へと沈んだ。
「……ふぅ……どうだ?装置の具合は」
巨大蛸が完全に討伐した事を確認したクロードは、安堵の一息を吐いた後、装置の安否を確認した。部隊からの返事はなく、ただカチャカチャと部隊が装置の中身の機械をいじる際に生じる音が聞こえる。
(頼む。無事に……とまで言わない。せめて直せるくらい軽微であってくれ……)
その音を聞けば聞く程、クロードの内心はこのような感じでヒヤヒヤしていた。数分後、機械をいじる音が止み、護衛担当の部隊の一人がクロード達の近くまで歩み寄り、装置の安否を報告した。
「クロード様。装置の損傷は軽微。古びた部品を新しい部品に交換するくらいで済みました」
「よし。それじゃあ、定位置に置き、装置を動かせ」
無事に作動出来ると本気で安心したクロードは、すぐさま装置を所定の位置に置いて、起動するようにと指示をした。すると、各地に置かれた四つの装置が作動した事により、点は線を結び、文字通り六芒星の魔法陣が完成する。これでディザストレの安全は確保された。
「よし。一旦ジェノサイド城に戻ろうか」
「あっ!!」
完全に安心しきったクロードは、ジェノサイド城に戻って報告しようと思ったのだが、突然フェイアが何かを思い出したかのように大きめの声を上げた。あまりにも唐突な大声に、この場にいる全員が思わずビクッと肩を震わせた。
「……ビックリ」
「いきなり声を上げてどうしたと言うのだ?情炎の盾よ」
「アタシの鎗回収し忘れた!」
エルダは微動だにしない表情で驚き、クルスは何かと思って聞いたみたら、フェイアはハッキリと答えた。そう言えば、とクロードはフェイアの鎗の行方を思い出した。……そう。フェイアの鎗は、先程の巨大蛸の眉間に刺さったまま一緒に海に沈んだ事を。今更気付いた所で回収する事は出来ない。そう考えると、少し申し訳なく感じたクロードは、フェイアに提案をした。
「あー……新しい鎗が出来たら、オレがお前の所に送り届けようか?」
「新しい鎗……!良いのか!?」
その提案に、フェイアは物凄い勢いで食いついた。その様子にクロードは少したじろいだが、相当あの鎗に思い入れが強く、気に入っていたのかと思い、少し申し訳なく感じた。
「あぁ。ただ、素材が固すぎて加工に時間がかかるらしい。だから、それまではあるヤツを使ってくれ。どうせ今の時代、そんなに良い武器じゃなくても当分は大丈夫だろうし」
「おう!待ってるぞ!!くぅ~……熱くなってきた!!」
フェイアの気分が高揚している様子に、クロードは良い鎗が出来る事を祈るばかりだ。
「……で、なんだ?」
……それはそれとして、そろそろこの様子に対する視線が温かいのと冷たいのが飛んでいることに耐えられなくなったクロードは、ついに痺れを切らして視線の主達に問いただす。
「「「「「「いえ。我々は別に」」」」」」
「うぅ~ん……ベツニ~?」
「えっ、べ、別に?な、なんでもないよ?ほ、本当だよ?」
「別に」
「……二人は相容れぬ者同士かと思っていたが、杞憂だったようだね」
「いえいえ。お二人の仲が前より良くなっていることに一安心しただけです。えぇ。本当ニ」
一糸乱れないくらい口を揃えて同じ答えを言う唯一温かい視線で見ていた部隊。いつも通りの笑顔のようで目は笑っていない事に加えて、後半は低めの声で答えてしまったシエル。クロードに声をかけられて、いつもの雰囲気に戻り、慌てて答えたワウル。無表情なようで、黒い瘴気を放ちながら短く答えるエルダ。意外なものを見て少し驚きを隠せないのと同時に、面白くないと言わんばかりの表情を浮かべながら答えるクルス。平静を装っているつもりだが、口元が引き攣ってぎこちない笑みを浮かべているミリーク。
何故それぞれがこのような反応なのか、理由は至って単純。フェイアの喜んでいる理由が分かったからである。そう。新しい鎗を貰える事は二割程度の喜びであり、残りの八割がクロードが鎗を渡す事、つまり、クロードからのプレゼントを貰える事に喜んでいるのである。傍から見れば浪漫の欠片もない物であっても。
「……まぁ、とりあえず……戻ろうか」
フェイアが喜ぶ理由が新しい鎗を貰える事くらいしか分からないクロードは、部隊からの温かい視線を浴び、仲間達の視線が冷ややかなのかが分からないまま、気まずくなったので、さっさと転移魔法を使ってこの場にいる全員と一緒にジェノサイド城へ向かった。
その後、大嵐はクルスの予言通りに訪れたが、結界装置のおかげでディザストレは、精々沿岸部に大量の漂流物が流れ着いたくらいであり、結界内での被害は全くというほどなかった。
いかがですか?
なんとかディザストレを守り切れて良かったですね。
次の話で”第一章”が終わりになります。
いつ投稿されるかは分かりませんが、気長にお待ち下さい。