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第十一話:吟遊詩人からの伝言はとんでもない

どうも皆さん。緒蘇輝影丸です。

自分でも驚き。まさかの短期間で投稿出来ました。

今回は、ディザストレに危機が迫る!?前編です。

楽しんでいただければ幸いです。

 ワウルの依頼から数日。自分の店、デッドオーパーに帰宅して早々、首無し(デュラハン)族の侍女(メイド)ミリークに貞操の心配されるというある意味いつも通りのやり取りがあったが、なんとか事を治めたクロードは、相も変わらず店の受付でうたた寝をし、落ち着いたミリークは店周辺の掃除をしていた。今日も何事もない一日に……なるかと思いきや、骨しかないクロードの耳に()()()()()()()()()()()()によって平穏が崩れる音が聞こえた。


 ――――魔天の風からお告げ。今より二つ目の夜。月の瞳を奪う天。海の盃を溢す雨。地の肉を掻き毟る波。我らの殻を掻き回す風。我らに災いをもたらす天を破るは骸。嗚呼。破天の骸よ。どうか、我らに安寧を。

 ……さすれば、心淋しきワタシの心は骸の虜。


 突然の事で目を覚ましたクロードだが、まだ眠気が抜け切れず、クルスの伝言の最後の一節は聞き逃した。何の前触れもなくこんな方法で依頼をお願いするのは、此処ディザストレにおいてたった一人しかいない。耳触りの良い音色を奏で、人々に安らぎを与える吟遊詩人(ポエマー)であり、ロスト、クロード、シエル、エルダ、フェイア、ワウルの計六人が所属していた元・勇者団()()の一人。クルス・デドティーレである。先ほどの話にも出ていたが、入団した順番的にはエルダの前、ワウルと同時期に入った人物である。しかし、ワウルの一件以降、クロード達と()()()共に行動しており、彼女の独特な思考というか、雲のように掴めない性格というか、気まぐれな感じというか、不思議な雰囲気というか、そういった関係で、エルダが加入するまで彼女は、仲間と呼ぶには些か他人行儀もとい自他ともに一線を引いている感じで接していたのだ。そうしている内にクロード達は、クルス本人が飽きるまで連れて行こう(エルダ発案)という形で正式に認めたため、元・勇者団に加入した最後のメンバーになったのである。


 少し寝ぼけた頭で、先程のクルスの伝言を解読しようとしていたら、ミリークが慌てた様子で大きな音を立てて店の扉を開けて入ってきた。店内にいたクロードに聞こえたのなら、その近くにいた彼女も、クルスの伝言が聞こえるのは必然。もっとも、彼女が慌てているのは()()()()()が原因であるが……。

「どういう事ですかっ!?」

「ドアを乱暴に開けるな。壊れるだろ……」

 クロードは、ミリークの侍女らしからね慌てように少し懐かしさを感じつつも、扉が壊れる懸念も相まって呆れもした。とりあえずミリークを宥めながら、共にクルスの伝言の解読をした。

「さっきのクルスの伝言を大まかにまとめると、「明日の夜、ディザストレに大きな災害が起きる」という事だな」

「はい。……それで、月の瞳を奪う天というのは、雲か何かで隠れてしまう、という事ですよね」

「あぁ。……で、海の盃を溢す雨が、大雨で洪水が起こる。地の肉を掻き毟る波が、それによって出来た津波で山とかが削れる。我らの殻を掻き回す風が、暴風で家が壊れる……つまるところ、()()が来るという事だな。……それを()()()()に頼もうとするのは違うだろ……」

 解読を終えたクロードは、依頼内容の重さに頭を抱え、最後は思わず溜め息を混じりに呟いた。クロードの目の光も、悲しみを表す青色に変わっていた。普段あまり見ない表情に、ミリークは軽くたじろいだ。正直どう慰めれば良いかは分からない。しかし、ここで何かを言って慰めなければならない。ミリークにとって正直な話、好きな人の悲しむ表情は、あまりに心苦しくて見ていられない。こういった部分は、人間(ヒューマン)であれ魔族であれ、一緒のようだ。

「い、いくら掴みにくい性格のクルス様であれ、お仲間であるクロード様を酷使させるつもりなんて、さらさらないと思います。クロード様だけにお願いしているというより、()()()()()()()何か解決策が思いつくのではというものかと……」

 痛む胸を押さえながらミリークは、クルスの回りくどい言動に少し憤りを感じつつも、クロードを必死に慰めた。その甲斐あってか、クロードはなんとか立ち直った。

「しかし……何故、クルス様はジェノサイド城もとい、お嬢様方に直接言わず、わざわざクロード様にお伝えするのでしょう?」

「彼女自身の体力と移動手段がない事と、手間を省きたかったのだろう。依頼をお願いしようと城へ出向いたのに、結局オレの元に依頼が届くならと。……何より、明日の夜まで時間がない事が一番だろう」

 ミリークのふとした疑問に、クロードは推測混じりの回答をしながら、身支度を整える。この間にも、クロードはクルスなら考えかねない理由をいくつか思いつくが、今言った事を含め、どれも推測の域を出ない。

「……それをどうにかしてしまうと、クルス様はクロード様に……」

「ん?何の話だ?」

「い、いえ!なんでもありません。……本当に、なんでもありません……」

 ミリークの(別の意味での)心配の呟きに、クロードは気になったが、ミリークは慌てて誤魔化した。この辺りが伝言を最後まで聞いていたミリークと聞いていなかったクロードとの違いである。

「……よし。それじゃあ……って、ミリーク。お前は()()()()()()のか?」

 身支度を終えたクロードは、いざジェノサイド城へ行こうとしたが、ミリークが掃除装具を持ったまま立ち往生していたので、指摘した。

「はい?」

 指摘されたミリークは、クロードの言った意図が分からず呆けていたが、その様子にクロードはまだ出来ていないと分かり、【念動力(サイコキネシス)】でミリークが持っていた箒といった掃除器具を取り上げ、専用のロッカーにしまい込んだ。

「あの……クロード様」

「何ボケっとしているんだ。一緒にロストの所に行って、伝えに行くぞ」

「……あっ。はい!」

 ようやくクロードの意図が分かったミリークは、軽く服のシワを伸ばし、(言う程ないが)付着したホコリを払った後、クロードに引っ付く……という事はヘタレて出来ず、近付くだけにした。

「……【転移(テレポート)】」

 ミリークの準備が完了した事を確認し、クロードは、転移魔法でミリークと共に、城主ロスト達のいる城、魔王城ジェノサイド城へ向かった。


 魔族の住処とも呼ばれる魔界島 ディザストレ。この島には、大きく分けて四つの地帯がある。隙を見せた者の慢心を容赦なく喰らう魔獣が数多く棲む森林地帯 グランノーム、警戒を怠った者の肉体を全て地獄の如く劫火で焼き尽くす火山地帯 インフェルノ、対策を忘れた者の精神を凍て付く吹雪で拷問の如く苦痛を与える極寒地帯 フロスティア、そしてオレ達魔族が主に生活している中枢地帯『ジェノエリア』。その中心に位置する一際目立つ大きな城こそ、魔王城とも言われるジェノサイド城である。

 支度を終えたオレ達は無事、そのジェノサイド城の正門の前に転移した。ロスト達のいる玉座の間に直接行ければ伝達が楽であるが、それは形式上無礼に当たるし、そもそも城に()()入る事は出来ないのだ。何せ、魔族にとって最大の要であり、最後の砦とも言える城を守る城壁は、全ての絶技を使っても壊せない強固な壁でもあるが、全ての魔法も通さない()()()でもある。……まぁ、大結界の部分を簡潔に言えば、城壁を境に、魔法等を用いて外部からの侵入や破壊、内部からの撤退は、出来ないという事だ。だから、城へ入るには見張りに頼んで門を開けてもらわなければならない。恐らく初代のいる時代から仕えた魔術師(ウィザード)を始めとした多くの魔法職の者達が、長い年月に渡り、ありとあらゆる侵入を阻む魔術を施したのだろう。

(……そう考えると、一人の魔術師としてなかなか感慨深い……って、感心してる場合じゃないな)

 クルスの伝言、予言とも言える大嵐についての報告をしないと。オレは一つ深呼吸をしてから、息を大きく吸い込み、思念も込めて言葉を吐いた。

「見張りの者!聞こえるか?自分はデッドオーパーの店主、クロード・オルデアンである!この門を開――――」

 ――――けてほしいと言い切る前に、ギギギと大きな音を立てて観音開きの大きな扉が開いた。……なんで?

「……いや、本当になんで?」

「クロード様が()()()城へ訪れたのですから、仕方のないことかと……」

 ……そんなに?確かに此処へ来るのはかなり久しぶりだけど、見張りが慌てて門を開けるほどなのか?まぁ、確かに内容が内容だから、別に良いか。そう自分で納得して、ミリークと一緒に門をくぐった。ジェノサイド城を外部から入る方法は先程くぐった正門だけだが、この正門の先、城の敷地内に入る事が出来たなら、使える範囲は限られど、魔法を自由に使う事が出来る。

「……よし、再び【転移】」

 門をくぐったオレ達は、早速転移魔法を再び使い、今度は城主であるロスト達のいる玉座の間の前に向かった。


 両端には、複数の髑髏というより、怨嗟や悲鳴の声を上げる亡霊のような彫刻が施された石の柱。扉の形に沿って作られた人骨のような造形の四つの枠には、金色の蛇と銀色のムカデが、その枠に巻き付くように彫られており、枠の中には森の精と獣、火山の竜と鬼、氷山の魔と骨、魔海の魚と姫が対面している。人間的に見れば悪趣味と感じる扉こそ、玉座の間へと繋ぐ扉である。

「……それじゃあ、ノックを――――」

 いざ入ろうとノックをする前に扉が突然開かれた。……だからなんで?いや、緊急の用事でもあるから良いか。そう言い聞かせて、ミリークと共に、玉座に座っている三人の前に跪いた。……忘れてしまっているヒトもいるだろうから、改めて紹介もしよう。……いや、誰に向けて言ってるだろうか。

「面を上げなさい。……お久しぶりですね?クロード」

「はい。お久方ぶりです。イリアス様」

 まず、オレ達から見て右の玉座には、迫力というより、魅力が溢れ出ている麗しい女性(……と口に出してないのに何故かミリークに睨まれた)は、現・魔王もとい姫様の母親であり、前・魔王の妻(この場合、皇太后と言った方が良いか)である淫魔(サキュバス)族、イリアス・ミドメイラ様。かつては[聖天国の宝の一つ]とも言われたが、現在は[城主の至宝妃]になっている。種族的な特徴は、天に向かって生えている頭の角が三人の中で最も小さく、淫靡(いんび)の象徴とも言える尻尾が生えている事で、彼女自身の特徴は波がかかったようにフワリとした雪のように白い長髪である事と、ロスト大好き魔族である事だ。

「こうして会うのは……何年ぶりだろうか」

「こうした形の対面は、姫様が魔王として即位された儀式以来ですので、120年程前になるかと……」

 そのイリアス様とは対の位置、左の玉座には、顔立ちは人間達からすれば好青年の顔立ちではあるが、肌の色が青く、先程のイリアスとは格が違い過ぎるほどの威厳と迫力を持つ男性が座っている。この男こそが、イリアス様の夫であり、姫様の父親であり、史上最強の元・勇者(ブレイヴ)のライド・スティンジャーであり、先代の魔王。現在は城主になっているロスト・シュナイドである。種族は悪魔(デビル)族で、種族的特徴は、イリアス様より角が一回りも二回りも大きく、ヤギのように捻じれた角と右目の下に赤色の刺青みたいなものが入っている事だ。彼自身の特徴を挙げるとしたら……人間時代からお人好しな所だな。

「おじさん久しぶりぃ」

「姫様。お元気そうで何よりです」

 そして、その二人の間にある一番大きな背もたれの玉座に座ってオレに軽く手を振るこの悪魔族の美少女こそが、両隣に座る二人の娘であり、現在のディザストレを支配している十代目魔王スフィア・(ミドメイラ)・シュナイド様である。種族はロストと同じ悪魔族で、両親の遺伝子をしっかり引き継いでいるのか、顔立ちはしっかり整っている。父の要素は、やや青色の肌を持っている事と赤い刺青、頭に生えている捻じれた角が母より大きい事と目の感じ、それとこの気が緩んでしまうような柔らかい雰囲気だな。母の要素は、目以外の顔立ちと、悪魔族にはない尻尾と、一生隷属なっても良いと思えるほどの可愛さを持っている(……ミリーク。オレにそういう趣味はないから、半目で見るな)事だな。

「……で、どうしたの?」

「……[予言詩霊(デドオブサーバー)]クルス・デドティーレより、()()()()が届きました」

 姫様の問いに、オレは至って真剣な声で用件を伝えた。その瞬間、三人からの穏やかな雰囲気は一転、厳かな雰囲気になった。いわゆる仕事状態に変わった。オレは続けてクルスの伝言の概要を伝えた。

「明日の夜、このディザストレに大きな嵐が来るとの事です」

「対策は?」

 イリアス様からの質問に、オレは即座に答えた。

「この報告が終わり次第、実行に移す予定です。ただ……それに差し当たり、許可をお願いしたい」

「許可?何の許可だ?」

 ……しかし、オレの一存で()()を使うのは少し躊躇う。オレの不安な気持ちと、何をするつもりかが分かっていないロストが聞いた。オレは、恐る恐る口を開いた。

「……()()()()()六芒星(ヘキサグラム)』の使用許可でございます」

「……?使いたければ使えば良いではないか。何故許可を求めるのだ?」

 それを聞いた姫様は、「何故躊躇う必要がある?」と言わんばかりに無邪気に聞いてきた。形式美……と言えればどんだけ良かった事か……。そう簡単に使う事が出来たなら苦労はしない。だから許可を求めているのだが、まだ若い姫様にはそれを察する事は出来ない。ならば、しっかり理由(不安要素)を言わなければ姫様達も納得しないだろう。時間がないのもあるので、いくつかある理由を正直に答えた。

「全く想定していなかった訳ではありませんが、実際にこういった事態が起きるのは初めて故、今使おうとしている()()()()()()でどれだけ通用するのかが不安というのが一つ。もう一つは、あの装置は()()()()起動する必要があるのですが、此処にある一つはともかく、残りの三つが所定の位置に残っているのかが分からない事。三つ目は、一応その三つの装置に様々な環境に合わせた防御魔法を施していれど、しっかり効果が発動しているのか、見てみない事には分かりません。四つ目……これが一番心配している事です。あの装置を()()()からだいぶ年月が経っているため、仮に上手く起動した所で経年劣化が原因で長く持たない恐れがある事と、そもそも起動するのかが……」

 仕方ない事とは言え、いざ理由を口に出してしまった事で、オレの不安の感情は増してしまった。……勿論、そんな事態を起こしてしまった場合、責任は取るつもりだ。……そう。()()()でありながら、定期的に装置を点検しなかったオレの責任だ。……言い終わった後の玉座の間は、一段と張りつめた空気になった。

「……スフィア。どうする?最終判断は、魔王であるスフィアが決める事だ」

 一秒が一分、一時間と長く感じてしまう中、ロストが目を閉じて考えている姫様に返答を促した。……ここまで言ってしまったんだ。あとは姫様、否、魔王様がそれらを聞いてなお、使うかどうかを判断してもらうのみ。使うならすぐにでも使う準備を整えるが、もし使わないと言うならば……オレの全力を以て、このディザストレを護ろう。

「……ミリーク。エルダ」

 考えがまとまったのか、姫様は目を半分開き、オレの横で同様に跪いていたミリークと、いつの間にか姫様の玉座の後ろに控えているエルダが短く返事をし、次の発言を待った。

「話は聞いたな?クロードの指示に従って、行動を開始せよ」

「かしこまりました。お嬢様」

「……了解。姫様」

 今回の依頼、これから起こる事態を重く受け止めてか、オレだけでなく、この二人も動いてくれるのは、正直ありがたい。流石にディザストレ全土を守るのはオレだけではキツイからな。

「六芒星の使用は許可する」

 使用許可も下りた。ならば早速行動に移そうと思い、立ち上がろうとしたら、姫様がそれを遮ろうとしてか「……だが」と付け加えたかと思いきや、立ち上がっていつもらしからぬ……いや、魔王様らしく振舞い、風格溢れる口調でこう言った。

「デッドオーパーの店主……否、[破天災骸(ディザスカル)]クロード・オルデアン!ディザストレの魔王、スフィア・M・シュナイドの名に於いて命ずる!其方が()()()()()()()()、ディザストレと民を護りきってみせよ!!」

「……っ!」

「……もし失敗しても、一人で責任を負うような事を言ったら許さないよ?おじさん」

 ……今の身分ではなく二つ名の方で呼ばれた上に、最早命令とも言えるそのような頼み方をされたら従うしかない。いやまぁ、断る気は端からなかったけど。

「……ははぁっ!このクロード・オルデアン。信じる者達と共に、必ずやディザストレを御守り致します!」

 これ以上は言わなかったが、姫様達の期待に応えてみせるという気持ちも込めて、オレは力強く返事をした。


 ……さぁ、行動開始だっ!

いかがですか?

いよいよこの物語の佳境が見えてきましたね。

果たしてクロード達はディザストレを守りきれるのか?

後編へ続きます。いつ投稿出来るか分かりませんが、気長にお待ち下さい。

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