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第九話:召喚士は意気地があまりない

どうも皆さん。緒蘇輝影丸です。

リアルでの仕事の多忙が重なり、最新話から二年近く投稿出来ず、申し訳ございません。

もうほとんど自分のことを憶えている人はいないでしょうが、待望の最新作を投稿します。

今回は牧場での事件の前編になります。楽しんでいただければ幸いです。

 クロードとフェイアとの火山地帯インフェルノでの出来事(デートを含む)が終わり、ミリークがジェノサイド城での抜き打ち検査から帰ってきてから数日、物静かでありながらも何処か心地が良い雰囲気を醸し出していたデッドオーパーは今、それとは全く真逆のピィンッと張り詰めた息苦しい空間に変わっていた。その理由は、未だにミリークの機嫌が悪いからである。

「…………」

「…………」

「……な、なぁ、ミリーク……?」

「知りません」

 ミリークが帰ってきて最初の二日間は、話しかけても口を利いてくれず無視されていたが、現在は幾分ほとぼりが冷めたのか、話しかければ何かしらの返事をしてくれる。しかし、返ってくるのは明確な拒否。しかも、ここ数日の間ずっとそっぽを向かれているため、まだ機嫌が悪い事が窺える。

「…………」

「ふんっ」

 仮に目を合わせようと思い、回り込んで話しかけようとしても、肝心の相手がそれに合わせてすぐさまプイッと反対方向に向いてしまうため、聞く耳も持ってくれない。まさに取り付く島もない状況である。

 おかげでクロードの眼窩の下から見える光は日に日に青く、悲しげで弱々しい光に変わりつつある。

「…………」

 ミリークに話しかけるのを一旦諦め、とある棚にある旋律箱(オルゴール)くらいの大きさを持つ箱、否、絶望箱(パンドラ)であり、ペットのハココに声をかける。……正確には確認であるが。

「ハココ。……本当にオレはミリークに嫌われていないのか?とてもそうには見えないのだが……」

 パカッ、パタンッ。

「(肯定。嫌われていない、か……一応聞き直すか)……嫌われてる?」

 パカッ、パタンッ、パカッ、パタンッ。

「(二回の開閉……否定)……そうか……」

 わざわざ二度も確認を取り、嫌っていないという結果を素直に受け止める。だが、クロードの目の色は変わらない。別にハココの返答を疑っている訳ではないが、ミリークの状態が状態であるため、信じたくてもなかなか信じ切れない様子。クロードは何度もミリークに謝罪をするが、聞いてくれず、寝る前の挨拶をする前にもう寝てる(不貞寝)という状況。今相談してる相手は会話が出来ないハココという名のペット。打つ手なし……かと思いきや、ここでクロード、何かの答えに辿り着いたようだ。

(……謝罪()()じゃダメ、って事か?となると……)

 答えを見つけたと同時に少し考え、思いついた誠意もとい、()()を未だにそっぽ向いているミリークに投げかける。

「ミリーク。返事はしなくて良い。ただ聞いてくれ」

「…………」

「黙ってフェイアと一緒にケーキを食べたお詫び、と言ってはなんだが……今度……二人で一緒に何処かに出掛けないか?」

「ッ!?…………はい///?」

 ミリークは思わずバッ!とクロードの方を振り向いた。突然のお誘いというのもあってか、驚きで目を見開き、恥ずかしさによるものか頬は赤くなっていた。その様子を見て、クロードは自分の発言を思い返して気が付いた。

(……あれ?これだとオレ……ミリークとデートしたいと言う感じになってないか?)

 今になって自分がとんでもない爆弾発言を言った事に気が付いてしまったクロード。ただ、言ってしまった以上どう撤回すれば良いか分からないため、ひとまず適切な答えを見つけ出すために思考を巡らす。

(く、くくクロード様から、デデッデートのおおおおお誘い///!?ど、どどど、どうしましょう!全然心の準備が出来ていません……!!)

 一方ミリークはというと、クロードという好きな人からの急なお誘いにかなりの混乱(パニック)を起こしている。ミリークが不機嫌になっていた理由は厳密には違うのだが、そんな事は些細なものと言わんばかりに彼女の頭の中では、彼からのお誘いを断るなんていう選択肢はない。それに、彼女にはとっておきの()()()がある。

「あっ、えっと……今のは、その……」

「クロード様。シエル様の時に頂いた()()()を使わせていただきます。……実は私、手持ちの服がこの侍女(メイド)服数着と就寝用の服数着しかなく、プライベート用の服がなくて困っていました。よろしければ、私に似合う服を選んで頂けませんか?そうすれば、フェイア様との件を許します。日程はクロード様の都合がよろしい日で構いませんので」

「あっ……」

 クロードはなんとか誤解を解こうとするが……ミリークが言質を取ったと言わんばかりの先手を打ち込んだ。それも、いつぞやの苦労を掛けさせた侘びの命令権という、クロードが絶対に断ってはいけない権限を使って。それにより、有無を言わせない約束を取り付けた。クロードは先手を打たれたと思ったが、よくよく考えてみれば、原因は自分にある。それに加え、予定日時はこちらの都合に合わせるという妥協案も提示されたため、断る訳にはいかなかった。というより、それで許してくれるなら断る理由がないと考えついたクロードは、これ以上は何も言わず、素直に応じた。

「あぁ。分かった。出掛ける日時はまた今度伝える」

「分かりました」

(まぁ……謝罪も兼ねて、色々楽しませてやらないとな)

 埋め合わせをすると誓った手前でもあるため、自身の発言に責任を持ち、腹を括ったクロード。

(クロード様とデート、楽しみになってきました///♪嗚呼、いつになるでしょうか?待ち遠しいです///)

 心情だけを見れば何者だと思うくらい、恋する乙女のようにクロードとのデートを楽しみにするミリーク。

二人の心情は多少違えど、デートに対するやる気があるのは一緒。果たして、どうなる事やら。


 カァ~。


 そんな感じで二人のデートの約束が交わされた直後に、一羽の伝言鴉(メッセージ・クロウ)が久々にやって来た。

「あら。この伝言鴉は……」

「あぁ。鳴き声といい、脚に付いてる枷の色と印は……間違いない。()()()のだな」

 ただ、今回はシエルが依頼してきた通常の伝言鴉は違い、誰か()()の伝言鴉のようだ。通常のは鳴き声が平坦で質素めな如何にも誰でも使える公共的な感じであるが、今回やって来た伝言鴉の鳴き声は、少し間延びしている感じ且つ抑揚がついている。それに加えて、脚に狼の顔を模した印が付いている赤銅色の足枷が付けられている。これは誰かの契約獣である事を示している証なのである。ちなみに証の色や印は所有者自身、もしくはその関係者のイメージによって決まる。

 ……まぁ、クロード達にとって、伝言鴉と契約を交わして使役している人物はこのディザストレの中ではたった一人しかいないため、わざわざ枷を見る必要はないのだが、一応再確認で見たのである。

「一体何の用なんだろうな。まぁいいや……話せ」

 クロードの指示に従い、専用伝言鴉は嘴を開け、送り主であり、契約者の声と内容を伝えた。

〈あっ、く、クロード?ミリーク、さん?ぼ、ボクだよ?ワウルだよ?〉

 声の主の名前は、ワウル・フェストレイ。例によって元・勇者団の一人であり、主な役割としては、契約した魔獣を召喚し、牽制や誘導、錯乱といった感じで修道女(シスター)回復役(ヒーラー))のシエルとはまた違った形の補助をメインとする召喚士(サモナー)である。同じ魔法職であるクロードどころか、下手をすればシエル以上に自身の戦闘力が(元・勇者団の中では)低い。それらの影響なのか生まれつきなのかは不明だが、少しナヨナヨしているというか、弱々しいというか、如何にも内気な少年のような感じで話すのが特徴である。普通の者、もしくは気の短い者達からすればイライラするであろう話し方ではあるが、付き合いが長い二人にとっては、これが聞き慣れた彼の声と口調である。

〈……あ、あの、ね?魔獣の事で、ちょっと困った事が起きたの。本当はボクが直接クロードのお店に行って、お願いをしなきゃダメなんだけどね?ほら、ボクの職業って、魔獣依存の職業というか、魔獣を操るために必要な魔法しか使えない、って、言うのかな?クロードみたいに便利な魔法が使えないのは、知ってるよね?つまり、ボクの仕事って、あまり魔獣から目を離せない、というか、休めないからね?直接お店に行けないの……だから、ね?こうやって、メッセくんを使わないとね?全然上手くいかないの……あっ、ち、違う。ボクはこんな事を言いたいんじゃない……うぅ……またやっちゃった……もぉ、こんなに長くウダウダ話したらダメなのにぃ……あっ、え、えっと、ご、ごめんね?詳しい事は、ボクのいる牧場で話す、から……場所は分かる、よね?それじゃ、ま、待ってるからね?それまでには、ちゃんと話せるようにするからね?……じゃ、じゃあ、メッセくん。お願い……〉

 最後に専用伝言鴉、メッセにお願いをした所で伝言が終わった。

 結構長く話しているのになかなか内容が入ってこない事に加え、途中自分を責めるような泣きべそ混じりの声が入っているが、クロード達からすれば、この前置きの長さや声の状態で、彼がどれぐらい困っているのかが分かる目安になるのだ。そして、その目安によって一体どんな依頼内容なのか見当が大体付くのだ。ひとまずクロードはメッセに「お前の主人に、分かった。準備が終わり次第そこに向かうと伝えてくれ」と返事を伝えるように頼んだ。メッセは了解と言うように一回鳴いてから再び空へ羽ばたいて行った。

「う~ん……また危険な魔獣が脱走したのか、それとも病気にかかった魔獣の治療に必要な材料がない、といった所か?……まぁいいか。ミリーク。行ってくる」

「はい。お気をつけて。………あっ、クロード様」

 メッセを見送った後、クロードはいくつかの依頼内容の候補を挙げ、転移魔法を使ってワウルのいる所へいざ向かおうとした所で、ミリークが突然何か思い出したかのようにクロードを引き止めた。

「ん?どうした?」

「ワウル様と接触する際、()()()()()()()()()()()()()()お願いします」

「は?」

 引き止めたと同時に何かしらの注意喚起を言い渡されたが、内容は意味不明。ワウルの種族の関係上、匂いを嗅ぐなという事は、それは即ち呼吸するなと言っているようなものだ。

「何故そんな事を言う?」

「でないと、食べられてしまいますので」

「……は?……それはこの骨の身体が?それとも心が?」

「……どちらかと言えば、前者ですかね」

 クロードの疑問にミリークは、なんだか含みのある言い方で返した。食べられる……それは捕食的な意味なのか、それとも違う意味で言っているのか、クロードにはさっぱり分かっていないが、少なくとも穏やかではないという事だけは分かった。

「骨に噛みつくって、アイツは人狼(ワーウルフ)であって犬人(ワードッグ)じゃないぞ?」

「分かっていますよ。ですが彼、とても()()()()方なので」

「は?危ない?アイツが?むしろ大人しくて安全そうだが?」

「その思い込みが(色々な意味で)危険なのです」

「そうなのか?よく分からないが、分かった」

 どうやらミリークはワウルの()()を知ってるようだが、クロードにはそれが何なのかは分かっていない。しかし、ミリークが意味もなくそんな話をするとは思えなかったので頭の片隅に入れて置く事にした。

「まぁ、これだけ話せば、アイツも依頼がちゃんと伝えられるようになるだろう。……じゃあ改めて、行ってくる」

「いってらっしゃいませ。クロード様」

 多少の足止めを食らったが、クロードは再度改めて転移魔法を使って、ワウルのいる場所へ向かったのだった。


 ドダダダダダ…ッ!ギャアギャア!ブモォー…。


数十頭にも及ぶ多種多様な魔獣達が走ったり騒いだりのんびりしたりしている此処は、魔界牧場『ファーマスキュラー』。ディザストレ唯一の牧場であり、畜産物の源でもある。主な活動内容は、魔獣達の飼育や手入れ、その魔獣から作られる畜産物(人間で言う牛乳など)の入荷と出荷、絶滅が危惧されている魔獣の保護といった魔獣に関する仕事である。そのため、此処で働いているのは、召喚士、調教師(テイマー)酪農家(ファーマー)といった魔獣を扱う事を得意とする職業の者達が働いている。

「久々に見ると、相変わらず賑やかだなぁ」

 それだけ魔獣達がストレスを感じず快適に過ごせているという訳だ。それだけなら安心だが、逆に言えば、のびのびし過ぎて羽目を外して色々やらかすんじゃないかという不安もある。

「むむっ!?そこにいるのはぁ~……!」

「ん?」

 そんな感じで牧場の様子を見ながらワウルを探している所で、野太い男の声が聞こえた。何気なく声のした方へ振りると、そこで見えたのは――――。

「ぬおおおぉぉぉ!!やはり!!!我らがディザストレ最強魔術師(ウィザード)のぉ……クロードではないかぁぁああ!!!!元気であったかぁあ!!?」

 ――――鼻息を荒げながら両腕を上向きにして腕の筋肉を見せるようにポージング(確かダブルパイセップスとやらだったかな?)をする牛の頭が特徴の上半身ほぼ裸(オーバーオールは着てるため)の牛魔人(ミノタウロス)族の(変な)男だった。しかも体躯が大きく筋骨隆々であるため、一目見ても分かるくらいに暑苦しく、むさ苦しい。しかし、クロードは特に驚く訳でも通報する訳でもなく普通に挨拶をした。

「お久しぶりです。ブモードさん」

 何故なら、その男はワウルがお世話になっている牧場の持ち主、ブモード・スキュランテであるからだ。まぁ平たく言えば、それなりに長い付き合いの知人である。

「うむ。ちょくちょくお前さんの連れの侍女はよくウチのホルストミルクを貰いに来ていたが、クロードの方は数年くらい前に脱走した魔獣を捕まえて以来になるな」

「あれからどうですか?その魔獣は」

「おう。ソイツの住処に近しい環境の施設に移したらスッカリ大人しくなったよ。その数週間後には子供も産まれたぞ」

「それは良かったですね」

 さっきまで雄叫びを上げていたブモードが一周回って冷静というか真面目に応じていたが、クロードはその変わり様にこれといって指摘せず普通に会話していた。というより、こっちの方がブモードの本来の口調なのである。先ほどの態度は、久々にクロードと会えた嬉しさのあまりに気持ちが昂り、あの暑苦しい態度をとってしまった。ただそれだけの事である。……ポージングをしながら会話をするのは普段の時でも変わらないが。今はサイドチェストとやらのポージングをとっている。

「それで、ワウルから依頼があると聞いてここに来たのですが、ブモードさん。何かあったのですか?」

「あぁ。実はな……あっいや、すまない……知ってはいるが、俺の口からは言えない」

 とりあえずというか、クロードはワウルに会う前に、前回と同じようにブモードに大まかな依頼の内容と事情を聞こうとしたが、なんだかブモードの歯切れが悪いというか、言おうとしていたのを何故か止めた。不審に思ったクロードは更に問い詰める。

「どういう事ですか?」

「ワウルに口止めされてるというか……脅された」

「脅した!?ワウルがブモードさんを!?」

 脅迫されたという想定外の言葉を聞き、ミリークが言った事(内容の意味は違うのだが)を思い返し、ワウルがしばらく見ない内に性格が歪んで危険人物に変わってしまったのか、といった感じにクロードの誤解がブモードの発言によって深まってしまった。

「つい昨日だったか。少し事案が起こった直後にワウルが依頼について相談されたんだが、いつものように俺がお願いしようかと言ったら、急に血相を変えて「ダメ!!」と珍しく大声で怒鳴ったんだ」

「それはまた……何故?」

「さぁな。……ただ、その後に「急に怒鳴ってゴメン」って謝ったかと思ったら、「ボクがやるから邪魔しないで。いくら普段からお世話になってるブモードさんでも、邪魔したら大腿四頭筋(太ももの筋肉)を噛みちぎるから」と脅された。その後、自分の爪を齧りながらブツブツと何か言ってたんだ。……まぁ、はっきり聞こえなかったが、なんか黒い靄のようなモノ……心なしかお前さんに似たようなヤツが、ワウルの周りに纏わり付いてたよ」

「(何それ怖い)……情緒不安定なのか?アイツ」

「情緒不安定、というか……そうだなぁ……なんて言えば良いのだろうな……分からん」

 そのせいでか、クロードの耳(骨だからないが)には「ボクが()るから邪魔しないで」といった感じで、まるでワウルがクロードを殺したい程に恨んでいると勘違いしてしまう。ただ、人間時代からの仲間というのもあり、ワウル自身もクロードに()()があり、それをきっかけに懐いていたというのもあり、そんな事はないと信じたい一心でか、ブモードの発言に対して軽口を叩くことぐらいしか出来なかった。

「……正直会うのは恐いが、行かなければ依頼が終わらないどころか始まらないからな……行くか。ブモードさん。ワウルのいる所へ連れて行ってください」


 ウォオォーーーン!!


 ブモードの案内の下で連れてこられた場所は、ファーマスキュラーの中でも危険度が高いエリアの前。そのエリアの中で遠吠えを上げた人狼族の少年……っぽく見える成人(人間基準で言えば)男性こそ、元・勇者団の一人であり、クロードとロストに次ぐ男性陣最後の一人、ワウルである。

(ふむ……あそこで遠吠えを上げているって事は、何かが脱走したのか?)

「……それじゃあクロード。俺は持ち場に戻るぞ」

「あぁ。そっちも()()頑張ってくれ」

 ひとまず、ワウルの居る場所まで案内したブモードは、クロードにそう告げて仕事場に戻る。その際にクロードは、立ち去るブモードにお礼代わりの激励を送った。その言葉にブモードは返事もせず、振り返りもせず、ただ右拳を突き上げたまま立ち去る。こういう所が彼の魅力、憎めない要因なのであろう。


 先ほどクロードがブモードに向けて言った副業についてだが、原則として職業というものは転職も含め、一人につき一つしか職に就く事が出来ない。しかし、ある程度の器用さと適性、相応の努力と覚悟といった一定の条件を満たせば、転職するのではなく、本業と副業、即ち二つの職業を掛け持ちする事が出来る少し特殊な職業の形式である。つまりブモードは、いわゆる二重職(デュアルワーク)という比較的に珍しい職業の持ち主である。

 事細かく言えば、この世界で副業を抱える人物の割合は二割程度と、多くはいない。こういった割合である理由は、職業の組み合わせ次第によって、相応以上の努力と才能が要求され、挫折した者もいるからである。掛け持ちの事例を挙げて言えば、メインの職業(即ち本業)は、魔法攻撃を使った遠距離攻撃を得意とする魔術師をやっている。しかし、いざ懐に入られた際の対処法として、近接での戦闘を得意とする格闘家(ファイター)という副業を使って距離を取らせるなり驚かせるなりさせる。といった具合に、本業ならではの弱点を補える副業を取るのが定石である。しかし、この組み合わせの場合、本業である魔術師といった魔法職の肝である魔法の適正の方ならまだしも、副業になる格闘家に必要な身体能力と格闘術に必要な技量も身につけなければならないため、かなりの労力と時間がかかる。それ故にか、二重職をやっている者には様々な呼ばれ方がある。純粋な気持ちで称賛している者達からは別名夢現職(ドリームワーク)理想職(ロマンスワーク)と呼ばれているが、嫉妬といった負の感情を抱いている者達からは陰で欲張り職(グリーディワーク)混獣職(キメラワーク)(ツギハギ)とも呼ばれている。ちなみに、ファーマスキュラーの牧場主であるブモードの本業は守護者(ガーディアン)で副業は酪農家の文武両道型(変わり者とも言われる)。彼以外に該当するのは、以前フェイアと共に訪れたトリートパンプの店主パンプーカ(呪術師(シャーマン)菓子職人(パティシエ))と――――これから会うワウルである。

 ワウルは、勇者団唯一の二重職で、本業は術者と相性が良い魔獣を召喚し、操ることを生業とする召喚士であり、副業は野に放たれているモンスターを始めとした術者の相性的に召喚出来ない魔獣を屈服、服従させ、使役する魔獣を増やす調教師をしている。こういった組み合わせは専門特化型といって、定石より時間や負担が少ないため、二重職の中ではそれなりの需要がある。


 さて、少しばかり話が脱線してしまった。場面を戻して、クロードがブモードと一旦別れて、ようやく何かに向けて遠吠えをしているワウルの元へ歩み寄った。ミリークの忠告を筆頭にブモードからの経緯の事情を聞いてしまった手前、ワウルに対して少しばかり恐怖と不安を抱いてしまうが、それでもクロードにとってワウルは元・勇者団の仲間の一人である事に変わりはない。一度呼吸を整え、ワウルに声をかけた。

「ワウル」

「!…あっ、クロード」

 クロードの声が聞こえた瞬間、フサフサな狼の耳がピンッと立ち、パッとこちらを振り向き、()()()()()()()()()()()少々分かりにくいが、半泣きから安堵の面持ちでクロードのいる所まで駆け寄った。少年のような顔に加えて、男性にしては著しく(エルダ程ではないが)背が低いせいで、普通に走っている筈なのにトテトテという擬音が聞こえてくる(これは多分気のせい)。

右目について、気になる方もいるでしょうが、それは後程説明します。

 ひとまず、クロードは再会の挨拶をすることにした。

「久しぶりだな。ワウル」

「う、うん。……クロードも、元気そうだね。良かった……」

 それに答えるワウル。口調はまだ少し詰まっている感じだが、尻尾はブンブンと根元が千切れんばかりに横に振っている。気分は上々なようだ。とりあえず、機嫌が良い内に改めて依頼を詳しく聞く事にした。

「……で、ワウル。一体何があった?お前が本気で困って吠えていたぐらいだ。相当マズイ事が起きたんだろう?」

 するとワウルは思い出したかのように尻尾を振るのを止め、シュン…としょぼくれたように尻尾と耳が垂れ下がる。心なしか尻尾の先端が股下に入っていたが、それでもクロードに助けを求め、来てくれた手前、しっかり説明しなければと思い、意を決してポツポツと説明をした。

「う、うん……実はね、ボク、新しい召喚獣を呼んだの……」

「ほぉほぉ」

「久しぶりだったし……ボクがどれくらい強くなったのか知りたいというのもあって、ね?やってみたの……」

「ふむ」

「そしたら……ね?」

「……?」

「出てきたのが……[氷雪獣(ウェンディゴ)]…ガウフロスト、だったの……」

「はぁ!?ガウフロスト!?()()()()じゃないか!!」

「わぅ…っ!」

 依頼のいきさつを語る途中に突如現れた爆弾発言に、クロードは目の光を大きくし、驚きのあまりに声を荒げた。その声にワウルは、聴覚が良い事と内気な性格が相まって、ついビックリして変な鳴き声を上げてしまった。瞳の潤いも添えて。

「あぁ……すまん。大声を上げてしまって。続けて」

 それを見たクロードは慌てて謝罪し、続きを促した。

「え、えっとね……それで、ガウフロストが「貴様が我を呼び出したか?」って、聞かれたの……うん、って正直に答えたら、「こんな如何にも弱々しい子犬に呼ばれるとはな……応じた我が言うのもなんだが……なら、我に資格を見せてみよ。我を欲するのなら、この地の氷山に来るが良い」って……」

「……言われたけど、一人で行くのは怖いからオレが来るまで間、此処で遠吠えを上げていたと?」

 事情を聞く限り、どう考えてもワウル個人で引き起こした出来事である。……しかし、それならば何故クロードに助けを求めたのか、この牧場の中で遠吠えをしていたのか……普通ならその意図は読めないであろうが、クロードは長年の付き合い故にワウルの行動の理由を理解してしまい、答え合わせがてらにその先を言うと、ワウルは申し訳なさそうな顔を浮かべながら小さくコクリと頷いた。それを聞いたクロードは、軽く頭痛と眩暈を起こしたが、なんとか持ちこたえた。

「…………はぁ」

 少しの間目を閉じて(目の光を消して)考え、腹を括ったのか、それとも一種の諦めか、目を閉じたまま深く溜め息を吐いてこう言った。

「分かった。同伴()する」

 そう言った瞬間、ワウルはパァァッと表情が明るくなった。尻尾も上向きになりブンブンと根元が千切れんばかりに振っていた。しかし、クロードは「同伴()()な」と念押しして言った後、目の光を赤く灯し、ワウルの眼前に指を突き出し、冷たくこう言った。

「超危険種のガウフロストを召喚した責任は、しっかり取れ」

「え、えっと……責任?」

 てっきり人間時代からの仲間として無償で手伝ってくれると思っていたワウルは、静かに怒っているクロードの発言に理解が追いつかず、たじろいだ。ワウルがまだ自分がやらかしてしまった事の重大さを理解していないと分かり、クロードはまた一つ溜め息を吐き、淡々とした口調でこう問いかけた。

「お前、超危険種を野放しにしている状況が、このディザストレにとってどれだけ重大な事なのか、分かっているのか?話を聞いた限り、ガウフロストはまだ対話が出来る事に加えて、お前が自分の所へ来るのを待ってくれている。……もしガウフロストが獰猛な性格だったらどうなってた?召喚した魔獣がガウフロストとは違う超危険種だったら?……この牧場どころか、ディザストレだってタダでは済まないぞ」

「……ぁ」

 ようやくワウルは、自分の失態がどれだけの事なのかを理解した。その瞬間、ワウルの顔色はみるみるうちに青く染まり、冷や汗と涙を流すのを通り越して左の瞳の光が消えた。その顔はまるで、この世の終わりを迎えたような表情だった。それは当然だ。自身の好奇心、自分の何気ない行動でディザストレの……クロードを始めとする仲間に被害が及ぶと知れば、元・勇者団の一員として少なからずショックを受けるものだ。本来なら心を持たない不死(アンデッド)族のクロードでさえ自殺を考えてしまう程だ。ワウルとて及ばずとも自分の軽率な行動に深く後悔した。しかし、今その場で後悔をした所で運命が良くなる筈がない。被害を大きくしたくなければ、仲間を怪我させたくなければ、早急に対処しなければならない。……だからクロードは――――。

「……だから、装備を整え次第すぐに出発するぞ。……大丈夫。仮に失敗しても、オレも一緒に叱られてやる。……な?」

「クロード……うん!」

 先程の冷淡な態度とは打って変わって、目の光を慈愛を表す緑にし、優しく諭す。ワウルはまだ失望されていないと分かったからか、暗くなっていた左の瞳に光が戻り、垂れ下がった尻尾は再び跳ね上がり、再びブンブンと横に振った。

 ……なんと言えばいいか、この話し相手の気分を沈めさせてから慰め一つでやる気を上げさせるマッチポンプ紛いの言動は、果たして計画通りなのか無意識なのか……いずれにしても(タチ)が悪い。

 すっかりやる気になったワウルはすぐさま拠点もとい自分の部屋に駆け込み、革製のチェストアーマーと魔獣の毛皮を使った籠手と脛当てを素早く尚且つ丁寧に装備しながら、召喚獣を呼び出す為に必要な魔力を練り上げ、装備を終えた所で、部屋の窓からクロードのいる所へ跳躍、着地した。

「ごめん。お待たせ」

「(やる気になればかなりの行動力を持っていながら、普段の意気地なさで台無しになる部分は、どうにかならないものか……まぁ、今は良いか)……それじゃあ、ガウフロストがいる極寒地帯『フロスティア』へ【転移(テレポート)】」

 その光景を目の当たりにし、一度はワウルの内面をどうにか出来ないかと考えたが、ディザストレに超危険種がうろついている現状と、生きとし生ける者の内面は、余程がない限り変えることが出来ないという経験則により、クロードはその行動力にツッコミを入れる事はせず、出発の準備が完了した事を確認し、転移魔法でワウルと共に絶対零度の極寒地帯フロスティアへと向かった。

いかがですか?

恐らく今後もかなり(遅い方で)の投稿頻度になるかと思います。

暇さえ見つけたり思いついたりしたら執筆するかと思います。

気長にお待ち下さい。

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