セリナ鍛冶屋
「はい。フランクさん。これでどうですか?」
完成したトングをフランクさんに差し出す。
と、フランクさんより先に付き添いのリセさんが素早くトングを私の手から奪った。
「ああ! 流石セリナちゃんだわ! そう、これよこれ!」
「よ、よろこんでもらえたようで何よりです……。その、こんなスペックなんですけど、フランクさんも大丈夫ですか?」
私は鑑定結果の書いた紙を渡す。
【トング】
攻撃力 150×2
防御力 150×2
握力強化(中)
耐久性(中)
「ああ。十分さ。むしろその年齢でこれだけのものが作れるなんて。トウキ以上の才能なんじゃないか?」
「ははは。お父さんにはかないませんよ。」
「いやいや。確かトウキがすごい鍛冶屋になったのは20歳の頃で、それまでは少し腕のいい鍛冶屋ってところだったからな。」
「そうなんですか。」
一体20歳のときに何があったし。
「じゃあ、これを頂くわね。」
「はい。カデンさんとフランさんのも完成したら連絡しますね。」
「ええ。お願いね。」
リセさんはお代を払うと、フランクさんと鍛冶屋を後にした。
禁止されたのはトウキ製品、閉鎖されたのはトウキ鍛冶屋、だったらセリナ製品、セリナ鍛冶屋なら問題ないはず。
そう考えてルクレスさんにお願いしてこの鍛冶屋を開いて既に2週間が経過していた。
毎日、街の人たちの注文に応えるのにいっぱいいっぱいで、ワーガルの人々にすら全然製品は行き渡っていない。
なかなか大変な毎日ではあるが、さっきのフランクさんみたいに製品を手にして喜んでくれる人を見ると、この仕事をしてよかったと思う。
貴族学校に戻るつもりもなかったので、学生をやめて鍛冶屋に専念したことで私の鍛冶ランクも相応のものとなっていた。
氏名:セリナ・エルス
職業:鍛冶屋(ランク18)
スキル:鍛冶
鑑定
……いや、これは遺伝なのかな?
相応どころではない気もするが。
私が鍛冶屋に転職してすぐに「俺だって最初はランク20までしか上がらなかったのに!」といいながら悔しそうにハンカチを噛んでいたのは記憶している。
同じ鍛冶屋としてお父さんに悔しい思いをさせることができたのはなかなか気持ちのいいものだ。
ガラガラガラ
私が色々と思い出していると、扉を開ける音がする。
「いらっしゃいませ。」
「「セリナ!」」
「ミア! イスラ!」
開いた扉の先には親友の二人が立っていた。
「二人ともどうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ! ミアからセリナが学校を辞めて鍛冶屋を始めたって聞いてすっ飛んで来たのよ!」
「ああ。伯母上から聞いたときは私もびっくりしたぞ。」
「あはは。ごめんごめん。とりあえず、隣の家に移動しようか。ここは鍛冶屋のスペースしかないからさ。」
私は、ミアとイスラを家へと案内する。
二人に会うのはいつぶりだろうか。
元気にしていたようでよかった。
「ただいま。」
「おかえり。っと、これはまた珍しいお客さんを連れてるね。」
「トウキさん。先日は実家までの手配ありがとうございました。」
「いやいや。お礼ならアベルとジョゼに言ってあげて。俺は何もしてないさ。」
「なんでそういいながらちょっとドヤ顔してるのよ。」
「ちょっとくらいいいだろ!」
「トウキさん、その、元気そうでよかったです。王家に連なるものとしてなんと申し上げていいものかわかりませんが。」
「いいのいいの。ミアちゃんがそんな風に思わなくても。それにその辺のことは君のおばさんが十分引き受けてくれてるから。ささ、上がって上がって。」
お父さんが私たちを上げてくれる。
「ミアちゃん、イスラちゃん、いらっしゃい。」
「エリカさん、ご無沙汰してます。」
「おい、イスラ! エルス伯爵に対してその呼び方は失礼だろう!」
「ミアちゃん、いいのよ。」
「そうそう。この冬でエリカさんと呼んでもいいって言われたんだから。」
そういいながら、イスラはミアに対してチッチッチと言わんばかりに人差し指を振って見せる。
「ぐぬぬぬ。」
「ミアちゃんもそう硬くならず、エリカちゃんとでも呼んでくれていいからね。むしろミアちゃんなんて私より位高いんだし。」
「いや、流石にエリカちゃんは……。エリカさんと呼ばせてもらいます。」
「確かに40歳超えて『ちゃん』はキツいよね。」
「セリナ、後でちょっと話があるから。」
「え゛っ。」
私の絶望はよそに会話は進んでいく。
「セリナが鍛冶屋を開くとなったとき、王城は大変だったのだぞ。」
「そうなの?」
「ああ。ちょうど私も王城に居たんだが、伯母上が戻ってくるなり、『トウキ殿の娘セリナ殿が鍛冶屋を開くことを許可してきた。異論は認めん!』とか言って仁王立ちしてな。」
「ルクレス様カッコいい!」
「……。ええと、それに対して、お爺様と叔父上、つまり国王陛下と皇太子殿下が反対したのだが。」
「したのだが?」
「王城の部屋を一つ吹き飛ばして、無理やり認めさせたんだ。伯母上を怒らせると誰も止められないからな。」
「やっぱりルクレス様はすごいわ!」
せっかく絶望から復帰したと思ったら、またしても衝撃的な事実を知ってしまった。
この際イスラの性癖は放っておこう。
まさかルクレスさんがそこまでするとは。
てか、おもちゃ屋さんで駄々をこねる子供とやってることは変わらないじゃない。
規模が違いすぎるけど。
「しかし、ルクレスもめちゃくちゃするなあ。」
「ほんとあの子にはあきないわ。」
「あまり伯母上で遊ばないで頂きたいのですが……。」
「「それは無理。」」
「ええ……。」
「そういえば。」
「なんだいイスラちゃん?」
「この間トウキさんは何をしてたんですか?」
「ぐふぅ!」
おっと、天然イスラの一撃がお父さんに突き刺さる!
「そ、そりゃ。可愛い娘の開店準備とか鍛冶のレクチャーとかだなぁ。」
「そうなんですか。」
「そそ。お父さんが鍛冶に直接関わることは禁止されてるからね。」
「では、今は何をしてるんですか?」
「ごはっ!」
さらなる追撃がお父さんを襲う!
「ほ、ほら。家事手伝いというか。」
「そうなんですか。」
「イスラちゃん。それくらいにしてあげて。」
「エリカさん、なにがですか?」
「畜生で知られるトウキを無自覚でここまで追い詰めるとは恐ろしいわ。」
そんなこんなで、旧友たちとの楽しい時間は過ぎていく。




