侵攻派と融和派
結局イスラは昼食時間もホルスト先生の説教を受けていた。
私たちはもちろんおいしい昼食を食べたが。
今は2年生全員必修のマナー講座を受けるべく教室移動をしている。
「皆さん! 今こそ帝国への侵攻をするべきです!」
「これチラシです。」
「会合への参加お願いします!」
移動途中にある中庭では数人の男女が声を上げて勧誘活動をしていた。
「ああ、またやってるよ。飽きないねぇ。」
イスラが彼らのことを見てそういう。
彼らはこの学校の一派閥で帝国侵攻派という派閥である。
なんでも、我が国の国軍は世界最強であり、約20年前の魔王侵攻で弱体化した今こそ因縁のユーグレア帝国を屈服させるべきだというのが彼らの主張である。
しばらく侵攻派が勧誘活動をしていると、別の団体が駆けつけてきた。
「おい! 勝手に勧誘活動をしているんじゃない!」
「なんでお前らの許可が必要なんだ!」
「ともかくやめろ! それと皆さん! こんなやつらに加わってはいけませんよ!」
侵攻派の勧誘活動を止めに入ったのは、融和派と呼ばれる一派である。
彼らは、かつての拮抗した国力ではない今こそ長年の恨みを捨てて帝国と仲良くしていくべきだと主張している。
侵攻派と融和派は私が入学した頃には活動を開始していて、最近は活動が激しくなっている。
もちろん国論を二分するような議論なんかではなく、学生たちが勝手に騒いでいるだけだ。
正直、戦争なんてまっぴらごめんなので融和派の方が多少マシかなと思いつつも、融和派もなんだか胡散臭い。
なにより、揉めるたびに決闘を始めるのでうるさいし、場所は取られるし、備品を壊すし、流血沙汰を起すこともあるしで大迷惑であった。
「この野郎! こうなれば決闘でここの使用権を決めるぞ!」
「望むところだ!」
結局その後中庭では両派閥の入り乱れる決闘が始まり、野次馬も加わってお祭り騒ぎとなっていた。
私たちは物干し竿やら箒やらを振り回す光景を後にして、そそくさと中庭を離れることにした。
「セリナは勧誘を受けたりしなかったの?」
「最初の頃に侵攻派からね。あのトウキの娘ならいい武器を作れるだろうってことで。」
約20年前に施行された法律により貴族の揉め事は戦争ではなく決闘により決せられるようになった。
聞くところによるとお父さんが絡んでいるそうだが…。
まあ、王国に仲裁を頼んで代償を払うことで決闘を回避することや、決闘代理人を立てることができるようになったりして、かつてのように半強制的な決闘要素は薄くなっている。
貴族学校でも多少の違いはあれど、学生間の揉め事は決闘により決められる。
そのため、学校では強い武器というのが常に求められている。
「うえ。それでどうしたの?」
「もちろん断ったわよ。私には鍛冶の才能はありませんって言ってね。そしたらすんなり解放してくれたわ。」
「なるほどね。まったく人に興味があるんじゃなくてその能力にしか興味が無いなんてふざけた連中ね。ミアはどうだったの?」
「私か? 私は生まれが生まれだけにさすがにどちらも勧誘してはこなかったな。」
「そっちも納得だわ。」
「ところでイスラはどうなのだ?」
「私は…。あ、受けたことないや。」
私とミアは静かにイスラの背中を叩いてやる。
「ちょっと! 励まさないでよ! 逆にみじめだわ!」
「大丈夫よ。私たちはイスラの友達だから。」
「ああ、その通りだ。」
「それは嬉しいけど、今は嬉しくない!」
「ささ、遅刻しちゃうから早く行きましょう。」
「そうだなセリナの言うとおりだ。」
「ちょっと!」
イスラを促しながら次の授業へと向かっていた。