夏の思い出
私が作品を仕上げた翌日、我が家は四人揃って馬車に揺られていた。
せっかく家族がそろったのだから旅行の一つでもしようというお父さんの提案にお母さんが賛成したことから急遽家族旅行が決まった。
我が家の多数決においてはお母さんが3票ぐらい持っている気がする。
「母さん、これどこ行きの馬車なの? 俺よく知らずについて来たんだけど。」
「シアルドよ。」
「シアルドって隣街じゃん! いや、まあ隣と言っても確かに馬車の距離だけどさあ。」
「仕方ないでしょ。一泊二日なんだから。」
「そういえば、シアルドってジョゼ姉の出身だよね?」
「そうよ。セリナは行ったことがないんだっけ?」
「うん。ないなぁ。コウキはあるの?」
「ちょっと前にクエストの都合でね。」
「ふーん。」
「おお! 見えてきたぞ!」
突然静かだったお父さんが声を出す。
お父さんが指差す先には海が広がっていた。
「わー。綺麗。」
思わず見とれてしまう。
ワーガルには海がないため見とれてしまう。
もちろん川はあるので泳ぐことはできるが。
うちの両親にしてはいいチョイスではないか。
―――――――
宿に荷物を置くと、早速海に出かけた。
この時期なので宿では海グッズが色々売っていたので水着はそこで買った。
とある事情で持っていた水着は着ることができなかった。
「やっぱりいっぱい居るわねぇ。」
「そうだなぁ。」
両親は浜辺のお店でお酒を飲むと言って行ってしまったので、今は私とコウキの二人だ。
はあ。なにが悲しくて弟と二人で夏の海という最高のシチュエーションを過ごさなくてはならないのか。
まあ、水着のお母さんと一緒に居るのもなんだか嫌だったので悪くないのかもしれない。
なにせ、娘の自信を粉々に砕く見た目だった。
40歳超えてあれってどうなってんだ。
我が家の風呂のせいか。
「とりあえず泳ぐか?」
「そうね。せっかく来たんだしね。」
もう開き直るしかない。
全力で楽しんでやる。
「どっちが先にあそこまで泳げるか競争な。」
「いいわよ。負けたら飲み物奢りなさいよ。」
弟と泳ぎを競い。
「おお! 姉ちゃん上手いな!」
「ふふふ。どうよ。」
弟と砂の城を作り。
「わあ! やったな! くらえ!」
「ぎゃあ! 手加減しなさいよ!」
弟と水を掛け合い。
「ほら、ジュース。さっきの商品。全く泳ぎだけは俺よりできるんだもんなぁ。」
「ありがと。姉の意地を見たか。」
弟と水平線に沈む夕日を見ながら和む。
「やっぱりちがーう!」
私は夕日に向かって叫んだ。
―――――――
「うーん。美味しい! 姉ちゃんもこれ食べてみろよ。」
夜は海の幸満載の豪華なご飯だ。
コウキは目の前の光景から逃避すべく食べることに集中し、意図的に視界に私だけを入れている。
両親は昼から飲んでたせいか、完全に出来上がっている。
「ト・ウ・キー。」
「なんだーい。」
「愛してるわ!」
「俺もだよエリカ!」
「うふふふ。」
「あははは。」
うん。レストランじゃなくて個室での食事にしてもらってよかった。
両親のこんな場面を他の人に見られるなんてとんでもない拷問だ。
「うんもう。」
「どうしたんだい?」
「もう私たちも若くないのよ。」
「エリカはまだまだ綺麗だよ。」
「そういうトウキだってまだまだ元気なんだから。」
「ぐふふふ。」
「げへへへ。」
「ええい! やめんかこのバカ親!」
この旅以降、しばらく両親は禁酒したそう。