親子二人三脚
やばい。
なにがやばいって、お父さんの鍛錬だ。
お父さんに教えを乞うた翌日から私の夏休みは消え去った。
お父さんのことだから、なんだかんだでゆるーい感じにしてくれるかなという淡い希望は一瞬でゴミ箱に行った。
まあ、みっちりお願いしますと言ったのは自分なので文句はないが。
文句はないがしんどい…。
午前中はお昼ご飯まで座学。
午後からは鍛冶の実技をすることもあれば、素材屋に行って素材選びをしたり、ときにはコウキを引き連れて素材集めに行ったりもした。
さらに気温と湿度の影響を知るために深夜に作業したり、早朝に作業したりすることもあった。
おかげでメキメキ実力は上がったものの、もうクタクタである。
「ぶはー。疲れたぁ。」
私は自室のベッドに倒れ込む。
自室はここ最近寝るためだけの場所と化している。
気が付けば夏休みもあと3日となっていた。
「お父さん厳しいなぁ。まあ、それだけ私に応えてくれてるってことなんだろうな。」
聞くところによると、お父さんは王都にある今は無き鍛冶の専門学校に通っていたみたいだし、教え方は上手かった。
おかげで今では学生ランクは28というとんでもない数値になっている。
まあ、お父さんは鍛冶屋ランク34とかいう人間やめてる数値なんだけど。
御伽噺とかだったら絶対ラスボスだわ。
「ふわぁ。眠い。ねよ。」
私は一瞬で意識を失う。
―――――――
翌朝工房に下りると、真面目な顔をしたお父さんが立っていた。
「どうしたの?」
「今日で鍛錬は終わりにしようと思ってな。」
「ええ! 本当!?」
「ああ。ただ、最後の試練としてなんでもいいから全力で物を作ってみてくれ。」
「うん。わかった。鍛錬の成果を見せるね。」
「材料はここにあるのを使ってくれ。期限は20時まで。それじゃあ頑張るんだぞ。」
お父さんの励ましを受ける。
うーん。なにを作ろうか。そしてどんな能力を付与しようか。
どうせなら、作った後も使えるものがいいな。
「よし。あれにしよう。」
私は作製する物を決めると作業に取り掛かる。
座学の知識を思い出しながら付与したい能力に合った素材を選んでいく。
そして作りたいものをイメージしながら素材を溶かし、形にしていく。
あまりに集中しすぎて、途中でお母さんにお昼ご飯を食べるように怒られてしまった。
そして、日が暮れて、期限まで30分となったところで完成する。
「ふう。やっとできた。学生の私にはこれが限界かな。」
自分の作品を鑑定しながらそうつぶやく。
普段は気にならないけど、ランク28ともなると本職に対する学生の下方修正の凄まじさを感じる。
ともかく、お父さんもこれなら許してくれるはずだ。
「お父さん。できました。」
「おお! ふむふむ。うん、いいじゃないか。ただ、なんでこれなんだ?」
「作った後も使えるものにしたかったのと、お土産にね。」
「なるほどね。」
「うん。って、ちょ!」
そう言った途端、お父さんが突然抱きしめてくる。
ただ、それはいつものようにうっとうしさを感じるものではなく、暖かさを感じるものであった。
「よく頑張ったな。大変だっただろ。」
「うん。お父さん急に鬼教官になるんだもん。」
「ははは。ごめんな。ただ、これでどこに出しても恥ずかしくない鍛冶の腕になったはずだ。」
「ありがとう。トウキの娘に恥じないようにしないとね。」
「まあ、それは気にしなくてもいいさ。」
そう言うと、お父さんはそっと放してくれる。
ちくしょう。
普段はあれなのにこういうときはいいお父さんになるからずるい。
その日は、とってもぐっすり眠ることができた。