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ワーガルの街

 帰省して翌日、私はお父さんの方のおじいちゃんのお墓参りをしていた。

 この辺は私が小さい時に大規模に整備されて今では綺麗な庭園風になっている。

 昔お父さんが襲われたというのがウソのようである。


「ええと、無事帰ってきました。」


 おじいちゃんに報告する。

 私は会ったことがないけど、かっこよかったとお父さんは言っている。

 というより、うちのお父さんがかっこわるすぎるだけではないかと思う。


「じゃあ、また来ます。」


 そう言って街に戻っていく。

 今回の帰省ではちょっとした目的もあるのだが、それは少し後回しにしてしばらくは自由に遊ぼうと思う。

 さて、なにしようかなぁ。


―――――――


「ジョゼ姉、遊びに来たよ。」

「セリナちゃん、いらっしゃい。」

「とりあえずいつものください。」

「はいはい。まったく頼む姿だけはベテランの冒険者みたいね。」

「ふふふ。ここには何年も通ってますから。」


 とりあえず一通り知り合いに会いに行こうと考えた私は、昼食を食べにギルドの食堂にやってきた。

 ここでは、ジョゼ姉が働いている。

 年齢的には『姉』って歳ではないけど、昔からそう呼んでるし、なにより未だに可憐な見た目のままだ。

 これで一児の母なんだから驚きだ。

 ジョゼ姉は『紫電』と呼ばれていた元Sランク冒険者だけど、子供ができたのを機に引退して食堂で働いている。


「そういえばアベルさんは居ないんですか?」

「アベル君なら、コウキ君に付き合っているわ。」

「あ、そうなんですか。お世話になってます。」


 アベルさんは身の丈もあるグレートソードを使うことから『剛剣』の二つ名で知られるSランク冒険者であり、ジョゼ姉の旦那さんだ。

 今はコウキの師匠となっている。


「いいのよ。なんだかんだでコウキ君の面倒を見るのが好きみたいだし。ちょっと用意してくるわね。」


 そう言ってジョゼ姉は私の注文した品を作るためにキッチンへと移動する。

 私は出来上がるまで暇なので、食堂に併設されているギルド兼宿屋の受付へと足を運ぶ。

 ギルドの待合室には多くの冒険者が控えている。

 相変わらずの活気である。

 受付では女性と男の子が働いている。


「リセさん、アトル君、こんにちは。」

「あら、セリナちゃん。お帰りなさい。」

「あ、セリナ姉さん。お帰りなさいっす。」


 リセさんは相変わらずの美しさである。

 なんというか歳を重ねるごとに魅力を増している気がする。

 アトル君はアベルさんとジョゼ姉の息子で、冒険者ではなくギルドの受付を目指しているちょっと変わった子だ。

 あの二人の子どもならきっと冒険者の素質があると思うんだけどなぁ。

 ……鍛冶屋を継ぐ気のない私が言うべきじゃないか。


「昨日帰ってきたんだよね?」

「はい。フランクさんには挨拶したんですけどね。リセさんは今日になっちゃいました。それはそうと、なんで少し笑ってるんですか?」

「無理もないっすよ。昨日は朝からトウキさんとエリカさんが『セリナが帰ってくる!』って街中で言いふらしてましたから。」

「はぁ。それで昨日は妙に皆に挨拶されたのね。」


 まったく、あの二人は…。


「で、王国最高齢ギルド長殿はどこに?」

「ああ、あの人なら騎士団に行ってるわ。息子たちの様子を見てくると言って。」

「なるほど。ほんと元気ですね。」

「まったく、あの人も年齢を考えてほしいわ。」

「セリナちゃん! できたよー! そっち持って行くね!」

「あ、ありがとうございます!」


 ジョゼ姉ができたての料理をもって来てくれる。


「せっかくだから皆で食べましょう。」


 そう言って、自分の分とリセさん、アトル君の分も持ってくる。


「まあ、ジョゼちゃん。ありがとうね。じゃあ、業務はいったん休憩にしましょ。」

「母さん、ありがとう。」

「いえいえ。どういたしまして。」


 4人で昼食を食べることにした。

 うむ。一流コックのいる学校の食堂も悪くないが、ここの料理も負けてないな。


「そういえば、リセさんは王都の学院に行ってたんでしたよね?」

「もう何年も前のことよ。懐かしいわ。」

「確か、フランクさんとはそこで出会ったとか聞きましたけど。」


 私がそう言った途端、ジョゼ姉が私のことを凝視する。

 一体どうしたんだろう?


「ええ、そうなのよ。実はね……。」


―――――――


 リセさんワールドに長々と付き合わされた私は、食後の運動がてら騎士団の駐屯所に足を運んだ。

 ジョゼ姉の視線の意味がわかった。

 もう絶対にあの話題は振らないと心に誓った。

 駐屯所の見下ろせる少し小高くなったところに腰を下ろす。

訓練場を見ると、フランクさんがトングを手にして、汗びっしょりになりながら騎士団員数名を相手に模擬戦をしていた。


「やあ、セリナちゃん。」

「あ、カデンさん、フランさん。」


 訓練を見ていた私に二人の騎士団員が話しかけてくれる。

 フランクさんの長男で『ヤカンのカデン』で知られる現騎士団長と、次男で『まな板のフラン』で知られる現副騎士団長である。

 攻めのカデン、守りのフランとも呼ばれているそう。


「訓練の見学かい?」

「はい。久しぶりに見に来たんですけど、フランクさんは相変わらずですね。」

「ああ、親父はなぁ。もう諦めてるさ。まあ、俺たちとしても団員の訓練になるしいいかと開き直っている。」

「ですよねぇ。」

「というかフラン。お前もなにか話したらどうだ?」

「どうも…。お久しぶりです…。」

「こちらこそお久しぶりです。」


 私とフランさんはお互いペコペコと頭を下げる。

 フランさんは昔から寡黙な人だ。

 とはいえ、別に暗い人ではないし、悪い人でもない。

 私も小さいころからお世話になっている。


「じゃあ、俺たちは訓練があるから行くね。好きに見て行ってよ。」

「ありがとうございます。訓練、頑張ってください。」


 手を振って二人を見送る。

 それからしばらくして始まった、親子の激闘を見学したのち帰宅した。


―――――――


「ただいまぁ。」

「おお! セリナ殿お帰り。」

「あ、はい。」


 なんで家に帰って来て、お父さんでもなくお母さんでも弟でもなく、英雄さんが出迎えてくれるのだろう?

 思わず、変な返事をしてしまった。


「さあ! 飛び込んでくるがいい!」


 そういって、ルクレスさんは両手を広げている。

 いや、帰省してまだお母さんともハグしてないのにずいぶん積極的だなぁ。


「はあ。いいですけど、絞殺さないでくださいね?」

「当たり前だ!」

「じゃあ、えい!」


 思いっ切り飛び込む。

 タックルのレベルで飛び込む。

 が、ルクレスさんは全く動じない


「おお! そうかそうか! そんなに嬉しいか!」


 なんでこうも私の周りは規格外だらけなのか。


―――――――


 現在、四人で夕食を食べている。

 ただ、弟OUT英雄INの四人である。


「なんでルクレスさんがここに居るんですか? 確かミアが訓練を付けてもらってるはずでは?」

「ああ、実はな。これも訓練の一環なんだ。」

「どういうことですか?」

「今はな、ミアと鬼ごっこ中なんだ。」

「「「はぁ。」」」


 鬼ごっこってなんだよ。

 そして、なんで鬼ごっこでうちに来るんだ。


「なんだかこういう冷ややかな視線を受けるのも懐かしいな。」

「いやいや。ルクレス、お前どういうことだよ。」

「おお、私を呼び捨てにする無礼者め。」

「はいはい。トウキのことを打ち首にしてもいいけどエルス家は残してね。」

「うむ。そうなればエルス家を取り潰してセリナ殿を私の養子にするというのも……。」

「お父さんもお母さんもルクレスさんも本題からずれてるわよ。」

「いや! お父さんはずれてなかったから!」


 結局ルクレスさんが言うにはこういうことらしい。

 訓練を始めるにあたり、屋敷の訓練場でやるような訓練は面白くもないと二人とも意見が一致したそうだ。

 この辺から一般人の私には意味がわからないのだが。

 そこで、ルクレスさんが一日早く屋敷を出て、ミアが夏休み中に捕まえることができれば勝ちというゲームをすることにしたのだという。

 ルールは簡単で移動は必ず自分の足でなくてはならない。


「私が勝ったらミアを一日メイドとできるのだ!」

「ちなみにルクレスさんが負けたら?」

「聖剣をやるぞ!」

「「「あんたアホか!」」」


 エルス家の心が一致した。

 と、そのときだった。

 家の外から声がする。


「すみません! 英雄来てないですか!」

「ええ、来てますよ!」


 そう言って一階の玄関を開けてあげる。

 予想通り、ミアが立っていた。


「ちょ! セリナ殿! 裏切ったな!」


 一階に駆け下りて来てそれだけ言うと、ルクレスさんは裏口から素早く出ていく。


「あ! 叔母上! お待ちください!」

「待てと言われて待つわけがなかろう!」

「セリナ、ありがとう! また休み明けね!」

「がんばってね!」


 そう言ってミアも裏口から出ていく。

 その間、うちの両親は平然とご飯を食べていた。

 私もミアを見送ると食卓に戻る。


「なんというかルクレスは相変わらずだな。」

「ホントにね。ここなんていの一番に探しに来るでしょうに。」

「まあ、バカ正直なところもルクレスさんのいいところだと思うよ。」

「それもそうだな。」


 こうして騒がしい一日が過ぎていく。


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