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鍛冶屋の一家

 風呂から上がった私が見た光景は、お父さんがお母さんに謝るものであった。


「あんたこの前私が鑑定した能力からお風呂変えてなかったの!?」

「いや、育乳(小)から育乳(中)に変えていたはずだ。」

「そんなこと聞いてんじゃないわよ!」

「いやだって。」

「だってなによ。」

「この歳で新しい能力を付与できたのが嬉しくて…。」

「はあ。その好奇心でどんな目に合ってきたと思ってるのよ。」

「うっ。そ、それにだな。」

「それになによ。」

「セリナがこの前帰ってきたときに、ぼそっと『イスラの胸いいな…。』って言ってたのが聞こえ…ごふぁ!」


 私の綺麗な飛び蹴りがお父さんに決まる。

 なるほどそういうことか。

 確かに言った記憶がある。


「はあ…。セリナ、ご飯にしましょうか。」

「うん。手伝うよ。」

「あら、ありがとうね。」


 私とお母さんは白目をむいているお父さんを置いてキッチンに移動する。


 ―――――――


 伯爵がエプロン付けてフライパンを使っているなんて学校で言っても、実際に見た二人以外は誰も信じてくれなかった光景が広がる。


「そういえば、お父さんも鑑定が使えるようになったんだ。」

「そうなのよ。まさかこんなことになるとは思わなかったけど。あ、それ取ってくれない。」

「はい、どうぞ。」

「けどまあ、トウキも悪気があった訳じゃないから許してあげてくれないかなぁ。」

「ああ、うん。まあ、お父さんはいつものことだし。気にしてない。」

「ならよかった。けど、セリナも長風呂するぐらいだから満更でもないんでしょ?」

「お母さん。鍋ふいてるよ。」

「ああ!」


 ふう。鍋グッジョブ。

 次に胸の話題を出したらお母さんの胸を毟ってやろう。


「そういえば、コウキは居ないの?」

「コウキならしばらくはクエストで居ないわよ。」

「そうなんだ。忙しくしてるんだ。」

「最近Cランクに上がったとかで、気合入ってるのよ。」

「へぇー。それはすごいじゃん。」


 トウキショック以来ギルドのランクはとんでもなく厳しくなったそうだ。

 私は冒険者じゃないから詳しくはないけど、リセさんやジョゼ姉に聞いたところ、一人前のCランクになるには昔のAランク相当のクエストをこなす必要があるらしい。

 なんだ、弟も頑張ってるじゃない。

 まあ、親バカ二人組がアホみたいな装備を作製した上、アベルさんやジョゼ姉とパーティー組ませたから当然と言えば当然だが。

 おそらくこのままいけばコウキの持ってる槍が名工トウキ最後の武器になるんだろう。

 ……いくらで売れるだろうか。


「ところで、そっちのほうはどうなの?」

「そっちって?」

「恋愛よ恋愛。私がセリナくらいのときには…ん? あれ? そういえば、トウキと私って恋人の時期がなかった気が…。」

「ええ…。」


 そのとき、リビングからドタドタドタと大きな音がする。


「俺より鍛冶の腕が立たない男は認めんぞ!」

「はいはい。お父さんと比べてたら私死ぬまで一人だから。その基準は却下。」

「うぅ…。」

「いや、そんな顔されても困るから。」


 はあ。帰って来て早々ほんと騒がしいんだから。

 まあ、嫌いじゃない。

 うん。嫌いじゃない。


「そういえば、ルクレスがセリナに会ったって言ってたな。」

「ルクレスさん、ワーガルに来たの?」

「ああ、帰って来たってニュースから少ししてな。エクスカリバーのメンテナンスを頼まれたんだ。」

「そうなんだ。」

「まあ、大してすることもなかったんだが。」


 ご飯ができて、家族三人で囲んでいる。

 食卓で普通に聖剣の話やら英雄の話やらが出るあたり、異常といえば異常だが、我が家では日常である。

 なんなら、当の英雄本人が一緒にご飯を食べていることもある。


「ミアちゃんとイスラちゃんは今年は来ないの?」

「うん。ミアはルクレスさんに鍛え直してもらうって。イスラは家族で旅行なんだって。」

「あら、残念。お母さん一応、宿だけ準備してたのに。あとでリセさんにキャンセル入れとかないと。」

「伝えてなくてごめんなさい。」

「いいのいいの。」


 こうして家族の時間は過ぎていく。


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