学生長
期末試験も終わり、投票も終わった翌日、掲示板にはデカデカと選挙結果が張り出されていた。
学生長選挙結果
・セリナ・エルス 374票 当選
・クロト・カフン 0票
・ロイス・シュレック 0票
「は?へ?」
私は訳も分からず混乱した。
自分が当選したのはまあ、この際よしとしよう。
だが、なぜ他の二人が0票なのか。
なぜ自分に立候補者を除く全学生の票が入っているのか。
まったく意味がわからなかった。
「おお! おめでとうセリナ!」
横でミアは大はしゃぎしているが、私はそれどころではない。
今ごろ追試を受けているイスラも大変だろうが、それどころではない。
これどうすんだ?
「セリナ君、とりあえずおめでとう。」
「おお、ホルスト殿。」
「ミア様もご支援が実りよかったですね。」
「まあ、セリナなら大丈夫だと思っていた。」
ミアがホルスト先生に胸を張る。
いやまあ確かにあんたの力は大きかったけども。
「あ、あの。ホルスト先生。」
「なんだ。」
「これって当選辞退できたりは…。」
「なにを言っているんだ。我が校、始まって以来初の全票獲得当選だぞ。辞退などなぜする必要がある? まあ、ルールとしても辞退できないが。」
「ですよねぇー。」
はあ。こうなったら腹を括るしかないか。
ともかくこれからについて考えよう。
―――――――
当選が決まってから、学長に挨拶をして、学生長室へと向かった。
明日に控えた就任演説を考えなくてはならない。
ミアとイスラには責任をとって私の任期中、雑務をやらせることにしている。
まあ、イスラは追試でこの場にはいないが。
「さて、ミア君。」
「なんでしょうか。学生長殿。」
「お茶をくれないか。」
「お言葉ですが学生長殿。私は召使ではありません。」
「そこはわかりましたって言うところでしょ!」
「いや、現実問題私の淹れるお茶はマズイだろう。」
「はあ。そうだった。」
結局私が二人分のお茶を淹れて、就任演説の準備に取り掛かるのであった。
―――――――
「ええと、皆さんこんにちは。学生長になりましたセリナ・エルスです。」
翌日の午後、今学期最後の登校日に私の就任演説が行われた。
一応この日から私の仕事は始まるのだが、通例では夏季休暇明けから新学生長の仕事が始まる。
だが、せっかくなので一発かまそうというミアと話し合いをした。
はっきりって融和派や侵攻派に良いようにされるつもりはなかったので、そのことを最初から表明していくべきと考えたのである。
いくつかの当たり障りない挨拶を終えたのち、私は本題に入る。
「では、早速ですけど。新学生長としての仕事をさせていただきたいと思います。」
学生たちは何事かと面白そうにしている。
各派閥の幹部を除いて。
「えっと、学生長令第1号の提案をします!」
ざわめきはさらに大きくなる。
「立候補演説で色々と話しましたが、それらはおいおいやっていくとして。決闘と派閥争いに嫌気が差している皆さんのため、即効性のあるものを提案させていただきます! 学生長令第1号の内容は『本校学生同士での決闘においてトウキ製品の使用を禁止する。』以上です。はい賛成の人拍手!」
場の流れや雰囲気に当てられてか、一部の人間を除いて拍手が湧きあがる。
「はい。賛成多数で可決ですね。じゃあ、就任演説終わり。ご清聴ありがとうございました。」
―――――――
「いやー、びっくりしたよー。私追試で全然今日の演説内容知らなかったからさぁ。」
演説終了後、学生長室でいつもの三人衆でお茶をしている。
「それよりも。あんたは試験大丈夫だったの?」
「うん。ミアが教えてくれたからね。」
「イスラ、頭は悪くないんだから、ちゃんと勉強をしろ。」
「すみません。それはともかく、なんであんな学生長令を?」
「それはね。まずもってお父さんのアホみたいな製品があるから皆簡単に決闘とかしちゃうのよ。」
「あー、それはあるね。」
「それにね。」
「うん。」
「この学校には立派な鍛冶場もあるし、素晴らしい鍛冶の先生も居るのに誰も鍛冶をしないんだもん。なんだか悲しくてね。」
「おお、さすが鍛冶屋の娘ですなぁ。」
イスラに言いながらも、自分でもびっくりしている。
将来鍛冶屋になるつもりはなかったが、それでも私はずいぶんとお父さんに毒されているんだなと改めて感じている。
この学校の鍛冶場に初めて行ったとき、道具と言う道具が新品同様であった。
けども、ホコリは被っていなかった。
ホルスト先生が毎日手入れをしていたからだ。
それを知ってから私はなんだか心に引っ掛かりを持っていた。
今回は決闘云々と皆には言ったけど、正直私のわがままの部分も大きい。
ともかく、可決できてよかった。
「これで、決闘用に武器を作る学生が現れるといいな。」
「はは。ミア、ありがとう。」
「けどさ。よくこの文面にしたよね。」
「ん? イスラ、どういうこと?」
「このルールだとミアも雷虎使えないよね。」
イスラが学生長令作成時に居なかったことが悔やまれる。
ここで一章は終わりです。
週末にでも二章を開始したいと思います。