選挙活動
イスラが期末試験にてんてこ舞いとなっていたころ、私も私で大忙しであった。
私は勉強ができたので別に試験では苦労していない。
期末試験明けには学生長選挙の投票がある。
それに向けての選挙活動で苦労をしていた。
最初は乗り気ではなかったのだが、演説であそこまでしてしまったことや、二人に説得されたこともあり、本格的に選挙活動を始めた。
というよりも、「ミアにも働いてもらう」の意味をどう取ったのか、ミアは自分にラブレターをくれた相手に片っ端から私の応援を頼みに行っていた。
さらに、ミアが涙ながらに私の応援演説をしまくるものだから、どんどん支持者が増えていく。
気が付けば、私の周りにはいつも握手を求める人だかりができている。
ルクレスさんと違ってポンコツではないという昔の評価を改めよう。
「次の人どうぞ。」
「あの! この前の演説感動しました! 頑張ってください!」
「ありがとうございます。では次の人。」
「派閥のアホどもに目にもの見せてやってください!」
「ええ、頑張ります。では次の人。」
最近は試験時間以外、夕食後部屋に戻るまで、ほとんどこんな感じである。
イスラとは別の意味で試験が早く終わってほしい。
というかこんな時期に設定したやつらを呪ってやりたい。
「ふぃ…。おわったぁ…。」
私は部屋に戻るとベッドに飛び込む。
ああ、幸せ。
「このまま寝ちゃいたいなぁ…。」
が、お母さんの顔がよぎる。
うぐ。まったく強烈な母親だ。
ちょっとだらしないことをしようとすると、いつも頭に出てくる。
「はあ。髪の毛を梳くか。」
お父さんが作ってくれたお母さんとおそろいの櫛を使って髪の毛を梳いていく。
お母さんと同じ栗色の髪は私の自慢だ。
こうしていると、お父さんに髪の毛を梳いてもらっているお母さんの幸せそうな顔を思い出す。
なんというか、私と弟が恥ずかしくなるぐらい仲がいい。
まあ、基本的にお父さんが尻に敷かれてるけど。
そういえば、コウキは元気かしら。
冒険者になってアベルさんにしごかれているはずだけど。
忙しさのせいか、つい家族のことを思い出してしまい、早く夏季休暇にならないかと思ってしまう私であった。
―――――――
「今回の選挙、ダメそうだね。」
「申し訳ありません。私がもっとちゃんとしていれば。」
とある教室で融和派の会合が開かれていた。
クロトも懸命に選挙活動をしていたのだが、どうにも旗色が悪い。
融和派のなかにも離反するものが出ているほどだ。
「いいよ。クロト君のせいじゃないさ。それよりも僕のために苦労をかけたね。」
「いえ! コート先輩のせいではありません!」
「はは。ありがとう。しかしどうしようかね。」
「こうなったらせめてシュレックのクソ野郎が勝たないようにするのが良いかと。」
「僕も同じ考えだよ。」
「では。」
「ああ、今回は融和派はセリナちゃんに入れよう。クロト君には悪いけど。」
「いえ、仕方のないことです。」
「なに、融和派が侵攻派に負けたわけじゃないんだから。そんな暗い顔をしないで。」
コートはクロトの肩をポンと叩いてやる。
その光景を見た融和派の女子は歓喜していた。
―――――――
「さてさてどうしたものか。」
俺は独り部屋で考えていた。
今回の選挙戦では侵攻派の人間はかなり増えた。
それだけでも一定の成果と言える。
だが、選挙に勝てるかと言えば別であった。
融和派よりは人数が多いことは確かだが、腑抜け陣営にかなりの支持が集まっているのも事実である。
特にあのトレビノ公爵家の娘が側近としているのが厄介だ。
貴族の位にしても、血筋にしても、実力にしても、外見にしても、どれをとっても侵攻派のどの幹部も遠く及ばない。
あの女が居るだけで腑抜け陣営には人が集まる。
個人的にも一度手合せ願いたい相手である。
加えて、敗北の確定している融和派の動きも予想できる。
大方あいつらはこちらを勝たせないために腑抜け陣営に投票するのだろう。
そうなればまず、こちらに勝ち目はない。
「となればこうするしかないか。ネリン。」
「なんでしょうか?」
俺の声に反応して部屋の外で控えていたネリンが入ってくる。
「全侵攻派に伝達だ。我々は腑抜け陣営に投票する。」
「はっ。しかし良いのですか?」
「ああ。どうせ融和派の連中が投票して腑抜けが勝つ。そうなれば敵対するだけ無駄だ。それよりも多少なりとも腑抜けとの関係があった方がいい。」
「なるほど。そういうことですね。」
「あくまでも我々の敵は融和派だ。今のところはな。」
「承知しました。伝えて参ります。」
そう言うと、ネリンは頭を下げて部屋を出ていく。