鍛冶屋の娘
私の家は変だった。
伯爵家という高級貴族であったが、生まれ育った自宅は鍛冶屋の2階の居住スペースだった。
去年学校の友人を家に招いたときは「大きい屋敷だねぇ。」と言っていたが、それが私の家ではなくギルド兼宿屋であることを知ると静かになった。
まあ、その間違いは仕方ないと思う。
正直あの豪華な見た目は私も憧れている。
領地を案内して欲しいと頼まれたが、ワーガルだけがうちの領地なのですぐ終わった。
お父さんは最高の鍛冶師と呼ばれていたが、たまに入る注文に応えて作業するだけで、大して仕事をしている姿を見たことはなかった。
さらに、たまに仕事をしても一瞬で終わらせてしまう。
そのため、汗を流して働く父の姿に憧れを抱くという感情は生まれてこの方持ったことはなかった。
お母さんはおじいちゃんが引退したため正式な伯爵家の後継者となったが、毎日隣のおじいちゃんの店で働いていた。
友達は最初ただの街の人と思ったらしく、お母さんに対して「エルス伯爵にお会いしたいのですけど、どこにいますか?」と尋ねていた。
まあ、剛毅なお母さんは大笑いして許してくれていたが。
だが、仕事がないかわりに私と弟をお父さんは可愛がってくれたし、お母さんも貴族として威張ることもせず、騒がしいけど優しくて、両親のことは大好きである。
二人のおかげで私も貴族として威張ることもなく普通に街の人と接している。
というより、この街の人は私たち家族のことをちっとも貴族と思っていない。
子どものころからギルドの人たちに遊んでもらったし、騎士団の人たちの訓練を見学していたし、お小遣いのためにカフェや宿屋で働いていたこともある。
街の大きな決め事だって小さいけど議会で決めている。
そんな場所で私は育った。
「セリナ。どうしたんだ? 朝からずいぶんとぼうっとしているが。」
寮から登校する途中で青髪をショートヘアにした親友その1が話しかけてくる。
このイケメン女子に心を奪われる男女が後を絶たない。
「ああ、ミア。なんでもないの。ただ、去年イスラがワーガルに来たときのことを思い出していたのよ。」
「ああ、エリカさんに無礼を働いたやつか。」
「ちょ、ちょっと! あれはわざとじゃなくて事故だから! それにセリナのお母様だって許してくれたじゃない!」
ミアの言葉に、金髪をポニーテールにしている親友その2が反応する。
本人は断固として否定しているが、3人組のギャグ枠である。
「いや。あれは娘の前だから許したのであって陰では……。」
「確かに。あり得るかもしれない…。」
「もう! そもそもセリナもミアも知っていたなら教えてくれたらよかったじゃない!」
「「教えない方が面白いから。」」
「あんたたちねぇ!」
そんなこんないつも通り騒ぎながら、私たち3人は1限目の授業が行われる教室へと移動する。