ダメなサー子の蘇生の義⑦
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シュートラはちっちゃい妖精を連れて暮らしていました。
森の中で生き、森とともに寝起きします。
それが「緑の子」なのです。
森の中にさえいれば食料に困ることはありませんし、敵から身を隠したり守ったりもできます。
生命力にあふれた活力ある民族なのです。
綺麗な淡い金髪。それを動きで邪魔にならないようにすごい短髪にしています。
ですからたまに男の子とまちがえられるのですが、ちゃーんと女の子です。
あらゆる種族の多くの人は魔法が使えないタイプなのですが、シュートラは魔法が使える幸運に恵まれていました。
弓を使えば命中精度は高く、矢玉も多種多様で音でエモノを驚かしたり誘導したり、発光して合図するものもあったりして、あれこれと器用なコなんです。
いつも着ている鮮やかなグリーンの服だって、シュートラ自身で作ったものなんですよ。
まだまだあどけなさが残る歳でしたが、シュートラは森とともに生きていました。
ところが、いまは両手をしばられています。
身動きがとれないのです。
これはとてつもないストレスでした。
顔がすこしかゆい。でもかけないのです。
理不尽さと悔しさに涙があふれます。
まだ、それでもいいかもしれません。
もし用を足したくなったら…。って考えますと、心の底からおびえが来ます。
シュートラは明るい女の子でした。
しかし今、あまりにも理不尽な苦しみを植え付けられて。
シュートラの魂は歪んで苦しみのさ中です。
黒い森の北にはエルフの森があります。
奥に行くとエルフの国とお城があるらしいのですが、シュートラは森と森のそのちょうど中間の森で生活していました。
一夜にして集落を焼かれて、両親を惨殺されます。
多くの少女が奴隷として捕まり、その小さな身体に恐怖を刻まれます。
もう誰も、ここから逃げようなんて発想ができなくなるぐらいの。
家庭も日常も失い、未来までも恐怖の闇でうばわれてしまうのです。
「シュー…! がんばって…! きっと、きっと助ける…!」
その妖精は小さな身体をふるわせて、ヤツらに見つからないように。
そっと隠れながら。
その縄はあまりにも硬く強く結ばれていてどうしようもありませんでした。
できることは、声をかけるしかありませんでした。
「フゥア、助けて…フゥア…」
ヤツらのキャンプであるこの場所は粗末なテントがいくつか張られていて、誰も助けにくることなんて考えられないほどの深い森の中です。
「…きゃああああ!!」
他のテントからでしょうか。
悲鳴、打撃音や不自然に出る音。
地獄という場所がどこかにあるとしたら。
ここ以外に地獄と呼べる場所なんてどこにあるというのでしょうか。
「フゥア」と呼ばれた緑色の髪をしたちっちゃな妖精は、そっとふわふわ飛んで外の様子を見に行きます。
もしかしたら小刀を調達できるかもしれませんし。
フゥアは悲鳴が聞こえてきたテントをそっと覗きこみました。
どんな魔物がそこにいるのか…!
でもそんな「ヤツら」は普通の人間でした。
ただ、人間の姿をした魔物かもしれませんが。
恐怖を刻む「作業」は、淡々としてすすめられています。
もうこれはひとつの「労働」なのです。
少女はケイレンしています。
男たちは楽しんでいる様子も特にありません。
ソイツらにとってはごく当たり前の光景なのでしょう。
そういうことをずっとやっていたので、飽きさえ来ているようにフゥアには思えました。
そしてそんな感覚をもっている人間がいるという事実がフゥアは怖くてしかたありません。
「コイツら売れば3000にはなるかな?」
「まぁそんなところだろう、ひとり金貨1000だ」
そんな声も聞こえてきます。
金貨3000枚が一夜にして稼げるようです。
こんなことをやっていれば、まともに働こうなんておもわないかもしれません。
その魂をどす黒く染めて、彼らは生きているのです。
「ああああ!」
シュートラの絶望する悲鳴が聞こえます。
フゥアは涙をためて、すぐ引き返します。
もどると男が2人、まるで医療行為をするかのように。
なにかをしようとしています。
その不気味に圧倒され、怯えのどん底にシュートラは淡い金髪の短い髪を震えさせて。
ちいさいむねを抱えるようにガタガタと、音が鳴るぐらいに震えます。
その光景を見たフゥアも、ついに死を覚悟しました。
「おまえら!」
フゥアは緑髪の女の子の妖精ですが、ちっちゃい身体の、ちっちゃい声帯がこわれそうなほど叫びました。
おそらくもう声は出さないつもりで、最後に叫びました。
その時です。
「…わぁ! でたぞ!! タドミーラだ!!」
他のテントから男の叫び声がしました!
シュートラになにかをしようとしていた男2人は、その声をきいて急いで外へ出ていきました。
「ダンパッチ君! 火の矢! そらそらそら!!」
だりきゃは怒りにまかせて、ダンパッチ君を悪漢の顔面に炸裂させ半分吹き飛ばします。
さらに「火の矢」を手のひらから撃って別の悪漢の胸へ命中させ火だるまにします。
最後にバスタードソードでまた別の悪漢の肩口を切り裂きました。
「……」
ぷーんはそこにじっと目を閉じて魔法に集中し、だりきゃに支援のエネルギーを送ります。
そしてさらに今はいらない精霊や魔法を、別のにとりかえる「収集」という精神魔法をかけます。
これによって、だりきゃもサー子もより効率的に便利な魔法を使うことができます。
サー子は悲しんでいました。
黒い子が悪漢の中にいたからです。
もちろんそうじゃない白い子や赤い子もいました。
その悪漢たちには「奈落」で命のともしびをそっと吹き消すより仕方ありませんでした。
かわいそうな少女たちを見てしまったからです。
サー子だってあんなひどい姿を見てしまったら怒ります。
「しかたないよね…」
黒い子には「奈落」がきかないので、手元にきている魔法で使えるのは限られます。
サー子はまず「だるい呪いの付与」を使いました。
「だるい呪いの付与」
< 効果:ターゲットの攻撃力と生命を下げる。生命がゼロになればターゲットは死ぬ。 >
「あああ…」
悪漢の一人はこの呪いに耐えきれず、蒼白に震えきって絶命しました。
そして最後に残った魔法「拷問づみの石」を仕方なくうちました。
「拷問づみの石」
< 効果:ターゲットは術者の1ターンごとに拷問カウンターをひとつのせる。拷問カウンターの苦しみは術者の想いによる。 >
「ぎゃあああああ!」
しばらくの数分、もがき苦しんで、そのうち声も枯れてまた別の悪漢は絶命しました。
「あっはっは! なかなかステキだよ、3人とも!」
レルマは張り切って自分の黒魔法を唱えました。
「墓からの軍勢」
< 効果:地面からゾンビの軍勢を呼びターゲットに襲い掛かる。ただし地面の下からよびあつめるので、完全な人型ではなく、手だけだったり、首だけだったりする場合が多い。 >
わらわらわら~!
死体のカケラがレルマの軍勢となって、200体分ぐらいの身体のパーツが敵を追い回します。
黒い子ですら嫌悪の表情で切り刻まれていきます。
ましてや赤の子や白の子、また普通の人間たちなんかは恐怖に顔を凍らせながらスクラップになっていきます。
サー子は肩を震わせて死と隣り合わせで、ぶるぶる震えているシュートラを見つけます。
ハッとして助けます。
シュートラは恐怖からか、とにかく人間のふるえとは思えません。
「大丈夫よ…」
ぎゅっと抱きしめました。
ふるえはサー子の厚いローブ越しにも伝わってきます。
涙とはなみずが、どっとローブにつきます。
サー子はさらに抱きしめるちからを強くしました。
※フゥアです。かわいい妖精さんなんですよ。