表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/28

ダメなサー子の蘇生の義㉗

「打ち寄せよ! アスタレット伯を捕らえたものは伯爵に叙勲する!」

 ゲオルクは陣頭に立ってカン高い声を出して兵を鼓舞します。

 総攻撃の号令です。欲に狂った王軍が一気にアスタリスタ城に攻め寄せます。

 うおおお!

 屈強の戦士が数多くそろう王軍の気迫はそれはすごいものでした。

「一斉に放て!」

 コーデリア伯の透き通ったような号令。

 攻城はしごを無数にかけ、のぼってくる王軍の歩兵たちを一気に火矢で射殺します。

 アスタレット伯とコーデリア伯も必死に防戦します。

 ここにものすごい修羅場が繰り広げられます。


 その喧騒を眺めながら、フォンテーヌ騎兵が陣列を整えています。

「ゲオルクの後方の糧秣りょうまつを焼き払う!」

 ドラヴァヒの声がかかると各人は戦闘態勢に入ります。

 それっ、と一言を合図にどどどっと馬蹄が響きます。

 金具がかすれ、こすれる音。槍を構えなおす音。

 アスタリスタ城の攻防の喧騒はそれをかき消します。


挿絵(By みてみん)

※王都ポーディッド付近の地図です。戦場はアスタリスタ城手前です。


「なぜ攻め切れんのじゃ! あほうども!」

 興奮したゲオルクのカン高い声が前線の指揮所に響きます。

 そのとき、陣の後方から火があがります。悲鳴もきこえてきます。


 赤い戦装束が似合うだりきゃ。ここいちばんに張り切って弾ける火の玉の精霊を呼び出したのです。

「召・喚!! 激おこPPMの超ダンパッチ君!!」 


< 効果:怒れるダンパッチ君の上位召喚です。激おこです。 >


「PPMってなによ?」

 ぷーんがふとききます。

「PPMとはppmパーツ・パー・ミリオンで、100万分のいくらであるかという割合を示すぜ?!」

 だりきゃが珍しく理知的に説明します。

「100万分の激おこってなんだろう…?」

 ダルメルは激戦のさ中でありながらも、それが気になって仕方ありませんでした。


 どっかーん!! それはもうすごい爆発音。なんせ激おこです。

 あきらかに陣が混乱しています。

「どうした?!」

 ゲオルクが後方の異変に気付いたときには、フォンテーヌ騎兵はとっくに引き上げていたのです。


 疾風のごとき攻撃は騎兵の本分です。

 しかしこれほど鮮やかに効果的な攻撃ができたことをドラヴァヒは喜びました。

 そしてすぐに風のように引き上げたのです。

 戦場からまっすぐ南へ道なき道を50里ほど騎馬で駆け、ハーヴィス川にそって一日でハーヴィス城までたどり着くことができました。

「ドラヴァヒー!」

「ミント!」

 親友の二人はまた抱き合って再会を喜びました。


 いっぽうゲオルクの陣は悲惨でした。

 いきなりの奇襲で混乱をきわめた後陣は1000人ほどの大損害をうけました。

 しかも大事な食料を一気に失ってしまったのです。

 これではいくら数が多くて優れた王軍といえども、戦うわけにはいきません。

「おおばかもの! なにをやっていたんだなにを!」

 ゲオルクの怒りは頂点に達します。

「どうすればよいのだ、どうすれば!」

 さんざん混乱したあげく、結局ヴァイデンホーフまで軍を退くことになります。

「このおおばかものどもが!!」

 まわりの将軍や大佐たちをののしり、あたりちらしながら、悔しさで泣きながらダダをこねるように暴れます。

 アスタレット伯を降参させることができないばかりか、不名誉な撤退を強いられるなんて、とんでもないことでした。


 後陣に火の手があがったのはアスタリスタ城からもよく見えました。


「ああ、ゲオルクが退いていく…!」

 アスタレット伯は安堵の息をつきました。

 毎日毎日、毎時毎時、あの不愉快な手紙を届けられるだけで気が狂いそうでした。

 でも勝ったのです!

 アスタレット伯は安心すると今までの不眠不休の疲れと多大なストレスが一気に吹きあがるように、ふらふらとコーデリア伯の胸に倒れこみました。

「アスタレット!」


 ヴァイデンホーフは肥沃な土地です。

 ここを治めるヴァイデンホーフ家の当主はシャーフェン伯爵( Schafen )です。

 農業のスペシャリストでふっくらとした体形の、おっとりとした領主でした。

 農業が専門だけあってこのあたり一帯は豊饒な農地が多くもありましたが、シャーフェン伯は戦闘にはまるっきり向いていません。

 なので今回も後方支援の食料調達に忙しくしていましたが、そこに8000名もの王軍が食料を失い戦に敗れて、ヴァイデンホーフ城に大挙して押し寄せてきたのです。

 いくら肥沃で有名な土地でもこれはたまりません。

「なに、食料がないのか!?」

 ゲオルクは機嫌が悪くなるとカン高い声で怒鳴るのです。

「は、はい、ご出陣の際に出せるだけはお出ししていましたので…」

「ばか! もっとあるだろう、なんとかせよ! なんとかせよ!」

「し、しかし」

 気弱な伯爵はゲオルクがこわくてたまりません。

 しかも、ないものはないのです。

 食通で有名な伯爵ですら、最近はライ麦パンだけとか粗末な食事で過ごしていました。

「くっ、この無能が!」

 バシッ!っとゲオルクが手に持っていた錫杖で伯爵をはたきます。

 かわいそうに、額から血を出して倒れました。


 その頃、ドラヴァヒの特命をうけていたフォンテーヌの留守をあずかるセルリエーン将軍は、貿易拡大政策にいそしんでいた商人たちを集めて各方面に走らせています。

 莫大な税金を納めなくなったので、その分から食料の買いこみをするのです。

 王都ポーディッドと南のポーレチケ港、それと周辺のレザール卿の治める都市など周辺諸国の都市に食料の買い付けを依頼しています。

 おかげで麦やパンや穀物、果物、乾物、魚介類などの食料品関連は値が上がります。

 いままでの2倍ぐらい、いやもっとあがっています。

 特に王都ポーディッドはゲオルクの出陣とバルデスの要求もあったので、食料が完全に底をついていて値段が5倍ぐらいになってしまいました。

 あなたが外でご飯をたべるとして、その一食に今日一日はたらいた分のお給料を払いますか?

 台風や水害がおきたわけでもないのに、生活が圧迫されて一番悲惨なのは市民たちです。

 しかしフォンテーヌだけは豊富な食料がありますので、市民に安く流通させることができました。

 かわいそうな子供たちの食事は格段によくなりました。

 いまや王都の貴族たちよりもいいものを食べています。


 結局、軍を養いきれないという結論に至ったゲオルクは王都に退却せざるを得なくなります。

 そこで食料がそろうまで態勢をたてなおさなくてはなりません。

 ヴァイデンホーフから出発しようとする矢先に、王都から伝令が届きます。


「フォンテーヌ反逆!」


 これはゲオルクの度肝をぬきました。


 アスタレット伯だけならまだしも、フォンテーヌが反逆しては毎月の税収が激減します。

 そこへバルデスがヴァイデンホーフにたどり着きます。

 援軍に来るところを何者かに急襲され、攻城兵器とフォンテーヌ駐留軍3000名の部下を失ってしまったのです。

「バルデス! おぬしはなにを言ってるのだ? ドラーモンとは誰だ?」

「は、はっ…」

 バルデスはいやな汗を背中いっぱいにかきます。

「しかも男爵を名乗るとはなにごとか! 兵を失った? だれにやられたのだ?」

 は、はっ、とうなるような返事しかできないバルデスです。


「このおろかもの! 勝手にフォンテーヌを出るとは! 首をはねろ!」

 バルデスはおろかでどうしようもないヤツでしたが、ゲオルクに尽くすことは犬のようです。

 その功績を考えるとさすがにそれは、とまわりの側近たちもゲオルクを止めます。

 少し前まではフォンテーヌから莫大な金を納めていたので、それが彼の命をかろうじて助けたのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ