ダメなサー子の蘇生の義㉖
大広間は完全に沈黙しました。
「老師ヴァイデノース様を不当に獄死させた!」
ドラヴァヒは叫びます。
「そして不当に軍を動かし人命を粗末にし!」
罪を数えます。
「自分の浪費のために、重税によってすべての民が苦しんでいる!」
サー子に目配せして合図をおくります。
サー子はゆっくり歩みよって、玉座に座ります。
「よって、今より暴君ゲオルクを討伐する!」
うおおおお!
歓声がおこります。
「サー子! サー子!」
城砦の外からも市民たちの歓呼の声が聞こえます。
「正義の使者」たちが予定通りに街中に情報を伝えたのでしょう。
反対するものはいませんでした。
あのバルデス派の役人たちもです。
ここにフォンテーヌは黒い森の騎士サー子領として独立しました!
ドラヴァヒが手配していた通り、城砦の蔵を開けて貯蔵されていたワインなどが街中に振舞われます。
「執行官ドラヴァヒ! 宮廷魔導士長ぷーん! 司法官長ダルメル! 将軍セルリエーン! 大佐だりきゃ!」
次々と役職と名前が呼ばれます。
それぞれはサー子の前に忠誠を誓う儀式として、ひざまづきお辞儀をします。
「それではここで領主サー子様より就任のごあいさつを!」
サー子はあわてます。
まさかスピーチをしないといけないなんて!
「えっと、あの」
みんながあったかい笑顔と視線でサー子に注目します。
「あああの」
ごくん、とつばをのみこむと、一気にしゃべります。
「わたし、なにもできませんが仲間といっしょに!」
息もたえだえになって一生懸命言います。
「みんながしあわせな街をつくります!」
わあああ!
大広間じゅうの役人や貴族が賛同の声をあげます。
※サー子の就任あいさつです
その日は祝賀で街中が独立を祝いました。
「これで重税がなくなるぞー!」
「働いた分だけむくわれる!」
生きる気力もなかった。
楽しみもなかった市民たちに。
希望が。
生きる気力がわいてきました。
それはただ使役される死人のような絶望からの。
「蘇生」です。
フォンテーヌじゅうが生き返ったのです!
フォンテーヌ市民は独立記念日を盛大に祝います。
かわいそうな子供たちも、飲んだくれのおっちゃんも。
誰一人差別なく。
みんなおんなじく。
ごちそうを食べて。
歓喜の涙にぬれながら。
祝います。
執行官ドラヴァヒはお酒は好きでしたが、今日は一滴も飲んでいませんでした。
祝賀ムードの中でしたが、出陣の号令を出したのです。
事前に招集して増員した兵士を編成し、騎兵500騎を仕立てました。
莫大な税金を王都に送らないとなれば、多少の兵を集めるのは難しいことではありません。
「セルリエーン将軍、留守をたのみます! めざすはバルデス軍および王軍の後方!」
ドラヴァヒは「ふその国」の海軍時代に身に着けていた真紅の鎧をまといます。
「サー子、ドラヴァヒ。気を付けて」
領主サー子を筆頭に、ダルメル、ぷーん、だりきゃ、シュートラ、フゥアも出陣します。
フォンテーヌ総がかりの軍と言ってもいいでしょう。
サー子たちはバルデスに追いつくため、騎馬を疾風のごとく駆って驀進します。
そのころのバルデスは、やっとのことで王都を通過したあたりにいました。
ハーヴィス川をわたったあたりから、フォンテーヌの補給部隊が着かないので不審に思い始めます。
なぜか食料が届かないのです。
これはドラヴァヒの作戦でした。
「くっそ、ドラーモンめ! 補給を怠りおって!」
バルデスはいきりたちます。
仕方ないので、王都に食料の支援を要請して急場をしのぎつつ進軍します。
王都の役人たちはバルデス将軍の出陣をきいてなかったし、また手紙の署名が「バルデス男爵」となっていたので不審におもいましたが、王軍の応援に攻城兵器まで編成してきているので、特に確認することもなく3000人分の食料を10日ぶん、30石(5400Lぐらい)のパンや小麦、穀物などを支給しました。
そしてヴァイデンホーフまであと10里ぐらいのところで野営をしています。
まだアスタリスタ城まではかなり遠いので、敵への警戒はしていませんでした。
そこで夜襲を受けます。
「騎馬隊、突撃ー!」
フォンテーヌ騎兵は強力です。
ダルメルの白魔法は物理攻撃的なものが多く安定して攻撃できます。
いまはその白い羽根をなびかせて急襲をかけます。
「…光の矢」
< 効果:敵全体に光の矢を浴びせる。>
光の矢が天から降り注ぎます。
殺傷力は低いですが、数多くの敵を負傷させることができます。
無防備に野営して寝ているバルデス軍はひとたまりもありません。
「うあああ!」
「ぐああ! 敵襲だー!」
一気にバルデス軍は混乱します。
3000名の大部分が負傷し戦闘力を失います。
「怒りのダンパッチ君!」
どっかーん!!
だりきゃのお得意攻撃精霊も炸裂します!
テントがはじけ飛び、わけもわからず火が起こります。
ぷーんとシュートラは魔法エネルギーの支援にまわります。
そしてダルメルがとんでもない魔法を引き当てます。
「…天使の加護」
< 効果:戦場に付与する。味方全軍は大きな羽根で空を飛べる >
「うおおお! 空を飛べるぞ!」
馬も人も羽根がはえ、わずかな時間ですが飛ぶことができるようになります。
これによってバルデスはろくな反撃もできず、全滅しました。
それは一瞬の出来事でした。
6倍の敵軍を一瞬にして消滅させたのです。
バルデスは逃げ去りました。
いっぽう、ここは王軍に囲まれたアスタリスタ城です。
アスタレット伯はあれから外に出て戦わず、籠城して持久戦にうつります。
ドラヴァヒからの手紙があったからです。
ゲオルクの軍はちまちまと少しずつ、猫がなぶるように遊ぶように攻めよせてきます。
それは昼夜問わず24時間ずっとです。
「くう、ゲオルクめ!」
アスタレット伯にも疲れがみえはじめてきます。
ゲオルクが何度も投降を呼びかけてきます。
心理的にゆさぶりをかけます。
しかし精鋭たちとアスタレット伯はくじけませんでした。
その時、西門から一軍が到着します。
「アスタレット!」
その女神の風貌にハッと気が付きます。
「コーデリア!」
はるか60里(240kmぐらい)西のコーデリア城から援軍に来てくれたのです!
すぐに門を開け、コーデリアを中に入れます。
王軍が開いた門に襲い掛かります。
青の子として水の魔法を使うコーデリアは上級の精霊を召喚します。
「水龍の召喚!」
コーデリア伯は水龍を召喚します。
水がないところなので戦闘力は落ちます。
ですがその大きさたるや砦ぐらいのモンスターがいきなり登場したので、王軍は驚いて後方にさがります。
コーデリア伯ひきいる弓隊1000名がそのスキをついて入城し、門が閉じられます。
そのくらいの時間は十分稼ぐことができました。
「アスタレット!」
「コーデリア!」
ふたりは固く抱擁しあいます。
生きている実感をかみしめます。
アスタリスタ城内の兵士は数百人しかいませんでしたが、援軍が到着して士気が大いにあがります!
精悍な弓兵が一斉射撃をします。
これまでと違う防備に王軍は少し焦ります。




