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ダメなサー子の蘇生の義㉓

「…このバルデス! ありがたく拝命し、さらに勤めてまいりましょうぞ!」

 その興奮した声は後半オペラのように歌うようです。


「ついては」

 ドラヴァヒが厳かに続けます。

 今アスタレスタへ出兵をしている。

「バルデスは、いやバルデス男爵は」

 わざと言い直します。

「できるだけの兵をもって応援にかけつけ、合流せよ!」

 戦役が収まったのちは、さらなる栄光も王より賜られるであろう。

 そう、言葉を結びました。

 そして一連の「勅令のような書類」をバルデスの目の前に突き出します。


「ははーっ!」

 ついに平伏までして偽の指令に応えるバルデスです。


 もちろん、あらゆる書類は内政のエキスパートドラヴァヒが監修し芸術家シュートラが精魂込めて偽造した、まったくの偽物です。


「そしてその留守には」

 ドラヴァヒがさらに続けます。

「この私ドラーモン以下腹心5名が顧問官として統帥せよと言い使っております」


 さすがにこれは少しおかしいのでは、とざわめきます。

 バルデスでさえ、うるんだ涙をしばたたかせながらじっとこちらを見ています。


 ダルメルは大きな宮廷魔導士のフードで覆って目立つ羽根を隠しています。

 その顔も変装がほどこされ髪はアップのポニーテールになっていて、一度同じ場所で対面したことがあるバルデスでさえも気づきません。


「これは王命です。カルベルシュタイン王国法により勅使がそのまま守備の将として赴任することは過去に三度の事例があります。また宰相ゲオルク様が適用している現行の行政官任命法はこれに意をとなえるものを裁判なしで処刑することができます。その適用範囲は伯爵の貴族まで及びます。わたくしたちも大事な御身らを損なうことなんてしたくありません」


 すらすらと法的根拠を訴えることができるのは天才司法資格コレクター、ダルメルならではの展開です。

 ダルメルの司法官的口調がそれらしく響きます。

 そして裁判なしで死刑、というくだりがだいぶきいたようです。


 それは実際に公布されており、実効的な支配におよぶのは周知の事実でした。

 つまりそれだけゲオルクは「好き勝手に他人の命を奪ってきた」のです。


「いにしえより三度しかないような、特別なことであるのです!」

 ドラヴァヒはトドメとばかりに声高に宣告します。

「各々(おのおの)がた、よくよく肝に銘じ、取り急ぎの着陣に向けお勤めあれ!」

 ドラヴァヒも後半はオペラのような調子で、まさに言い放ちました。


 ははーっ、という一同の音声が響くフォンテーヌ城砦。


 それからは寝ずに出陣の準備をして、翌朝までに出立するようあわただしく動きます。


「バルデス男爵の腹心の方々、この大事に手柄をおあげなされよ」


 ドラヴァヒはドラーモンと名乗り、いいように軍を編成しました。

 執行官をやっていただけあって実に素早く手配されていきます。


 兵糧、武具、軍馬、つぎつぎと流れるように決裁されていきます。


「いやさすが王都づきの行政官じゃ!」

 バルデスはその手慣れた采配に信じ切っています。


 投石器、破城槌などの重量兵器も手配されます。

 これはバルデスの行軍の足を遅くさせるためです。

 在庫から特に軸受の傷んだ、古い壊れ気味の兵器をあえて優先して配備します。

 ドラヴァヒだから把握していることです。

 ただでさえ重い攻城兵器はギィギィ音をたてて重そうに倉庫から出されていきます。


「アスタリスタ城は堅牢と聞き及びます、足が重いかもしれませんが攻城兵器を加えましょう、バルデス男爵ならば行軍になんの支障もないでしょう」

 男爵という響きにとても酔いしれて、うむうむ、と終始上機嫌なバルデスでした。


 少しでも時間を稼いで、空になったフォンテーヌを統制すべく万全の体制をしいています。


 そして各地への伝令も手配されたのでした。


< アスタレット伯爵にご助力すべく、フォンテーヌも反ゲオルクの狼煙をあげます。もう圧政はまっぴらです。つきましては至急に軍を派遣いたしますので同盟都市として条約を結ぶよう提案いたします。 >


< 黒い森の女王タドミーラ様。黒騎士サー子たちとともにフォンテーヌ市は独立することになりました。以前と変わらぬ同盟関係を結べたら幸いです。 >


< ディアネートの街のセルリエーン大佐、このたびフォンテーヌの独立にあたり貴殿を将軍として迎えたく臥してお願い申し上げます。 >


< 親愛なるミント・ハーヴィス男爵。フォンテーヌは黒騎士サー子を擁して独立都市となります。ついては同盟都市としてともにゲオルクの圧政に抗しようではありませんか。 >


< コーデリア伯爵、盟友たるアスタレット伯爵の助力をいたすべく、またゲオルクの圧政を打ち払うべくフォンテーヌ市は独立します。同盟都市として共に助けあい王道の世を築こうではありませんか。 >


 そういう内容の手紙を王国全土の都市に飛ばします。

 反乱のげきというわけです。 


「バルデスを暗殺してはどうか」

 ドラヴァヒはそう言いましたが、それは効果的ではありませんでした。

 バルデス将軍を討ち取っても他の代わりのだれかが跡をとり駐留軍でドラヴァヒたちを追い詰めるでしょう。

 そうなってはドラヴァヒたちは一網打尽です。


「大儀と名分がなくてはだめ」

 ダルメルは薄黄色い瞳で物憂げに言います。

「法にのっとるのが、大事」


 つまりこうです。


 邪魔なバルデスと駐留軍を北へ追い出し、その間に時期をみてフォンテーヌ市を掌握します。

 黒い森、アスタリスタ城、ハーヴィスで4都市間同盟を結び共通法を制定して発布します。

 そのあと相互に防衛戦線を張りゲオルクと戦うのです。

 そして将来的には王都を攻略します。


 ぷーんがその構想を練りつつ言います。

「で、誰がこのフォンテーヌ市の領主になるか」

「領主は王か、王に叙任された貴族でないとなれませんね」

 ドラヴァヒは古来からの慣習に従って言います。

 そして彼は単なるいち執行官なので領主にはなれません。


「サー子姉さんは黒い森の騎士でおばけダコスレイヤーで地元組織の幹事ね…」

 ダルメルは物憂げな瞳を和らげて言いました。

「いちおう、領主になれないこともないわ…」

「はっはー! サー子がフォンテーヌ市の領主か!」

 だりきゃは心底愉快そうに言いました。

「ええええ?!」

 当のサー子は予想外すぎる展開に一気に大量の汗をかきます。

「わぁ! サー子おねえちゃんが領主なんて、なんてすごいんだろう!」

 シュートラも大喜びです。

「ま、サー子ならみんなにも慕われていいんじゃない?」

 ぷーんが覚悟しなさいとばかりに言い詰めました。


 ドラヴァヒたちの乾坤一擲の秘策。

 それはゲオルクに対抗する一大勢力の構築と同盟都市間での新法制定なのでした。



 バルデスが出陣するより前に、密命を帯びた使いが王都の各都市に走ります。


 そしてだいぶ経った翌日の昼前。


 重い攻城兵器を編成した駐留軍3000名がフォンテーヌから出陣します。


「速く駆け付け、王に合流するのじゃ!」


 自分が男爵になったと信じて疑わないバルデスは統帥旗に男爵をしめす王国のエンブレムをはためかせて、それはそれは張り切って出発しました。


 王軍1万騎は王都北の都市ヴァイデンホーフを経てアスタリスタ城の手前まで進軍しています。


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