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ダメなサー子の蘇生の義㉒

 ドラヴァヒたちが偽の使者としてバルデス将軍と会見していた時です。


 王都からついに軍が出陣しました。

 その数10000人です。


 アスタレスタ城に向けて威風堂々と行軍します。

 おびただしい旗ざしもの、行軍のリズムを刻む太鼓。

 軍靴の地響き。連なる長槍。

 華麗な重装騎兵。

 あたりをはらう威圧感。

 さすがは王軍です。

 王都の人口から考えても相当の兵力が動員されています。


 ゲオルクはその間にもアスタレット伯に使節を送り続けました。


< 親愛なるアスタレット伯爵、わたしなら公王を説得して軍をとめることができます。いま一時平和のためにご賢察あれ。 ゲオルク >


< 王軍は本気でアスタリスタ城を攻め落とすでしょう。領民と王国の将来のために急いで王都へおいでください。決して悪いようにはいたしません。 ゲオルク >


 アスタレット伯は手紙を読むたびに背中に悪寒が走ります。


 アスタリスタ城の兵士たちも領民もゲオルクに憤りを感じていました。

 もしアスタレット伯が徹底抗戦するのであれば、それに従うものが多くいます。

 国王への莫大な徴税を領民への負担を最大限へらして、自分たちの出費をおさえることでしのいできたアスタレット伯に恩義を感じていたのです。


 それでもゲオルクの間者が城下の街で買収をはじめると、見切りをつけた人々が領地を出て王都に引っ越します。

「王軍は1万もいる。ひともみに攻められたらあっという間に落城して火の海だ。いまなら慈悲深い宰相どのが支度金を用意するので避難しろと言われて来ているのだ」

 そういって金貨を300枚も置いていきます。

 戦火から逃れられるうえに引っ越し費用と一年働く分ぐらいの現金が手に入るとなっては、逃げ出す人もかなりいました。

 ゲオルクはアスタレット伯を得るためには金と手段を選びません。


 アスタレット伯は兵士を最大1000人ぐらい集めることができましたが、こうして買収されてしまったので。

 いまでは300人ぐらいまでに減ってしまったのです。


「いよいよこれまでか…」

 アスタレット伯は流れ星のような目をいっそう細めて覚悟を決めました。



 サー子たちの魔法でうまく王都の使者に化けたドラヴァヒ一行は、バルデス将軍がいる大広間に案内されます。


 服装や装飾はドラヴァヒが執行官時代によくおぼえていましたので、再現できました。

 船の中で図案にして、それを作ったのはシュートラです。


「森を探索するおたすけエルフくん!」

 おたすけエルフくんは、森のエネルギーから大体のものを生成して調達します。

 上等の服に使えそうな布の素材などをもってきてもらい太めの針で縫製します。

 シュートラは力もなく攻撃的な行動は向きませんが素早くて器用です。


「シュートラはすごいよね」

 サー子は感心しながらシュートラの頭をやさしくなでます。

 外はねしている淡い金の髪の毛がぴんっと弾けます。

 えへへ、と照れながらも作業します。

「サー子おねえちゃん」

 緑色の瞳の奥が嬉しさに躍動してサー子を呼びます。

 サー子は微笑みながら応えます。

「シュートラ、わたしより全然役にたつよね」

「ううん、サー子おねえちゃんの黒魔法のほーが、とっても強くてカッコイイよ?」

「かっこいいかなぁ?」

「うん、僕たちきっとやれるよ!」

 シュートラの元気をもらいながらサー子たちは入念に準備しました。


 問題は「封蝋に押す王の印章」ですが、こればかりは調達できませんでした。

 そこで適当な王国のカウベル・エンブレムのそれらしい印をおして、ここで魔法の出番です。


「束の間の忘却」

< 効果:対象の相手のターンを1ターン飛ばす。 >


 トリッキーな魔法を得意とする青い子のぷーん。

 魔法は手元になにがくるのかは把握できませんでしたが、こういうまやかしの魔法はたいてい手元にやってくるのです。


 怪しむような番兵や側近たちに、そっと「束の間の忘却」の魔法をかけて疑惑の念を散らします。

 ついさっきのことが思い出せないぐらい忘れてしまうものですからドラヴァヒたちが偽物の使者ではないか、などという疑念なんか吹き飛んでしまいます。


「いやこのたびはバルデス将軍が爵位を賜られるとは、まったくめでたいことです」

 ドラヴァヒが執行官時代の経験を踏まえた話術でうまくはぐらかします。

 ちなみに彼も髪型を変え多少の化粧をし体型も詰め物をしたりして太く見せて、別人のように変装しています。

 これもシュートラの器用さによる賜物でした。意外と芸術家なのです。



「よくおいでなされた、勅使殿!」

 バルデス将軍は取次のものから叙勲の話を耳にしていて上機嫌です。


 真偽の判断を曇らせる原因は、彼の虚栄心でした。


 爵位が欲しくてたまらない彼は、フォンデンブルグ大臣の落ち度を狙って自分がその後釜に座ろうとずっと画策していたのです。

 はからずもゲオルク様からフォンデンブルグ大臣の処刑の命令をうけて、すぐさま実行しました。

 そして税収の上昇と王都への金品の輸送に精を出していたのです。

 もちろんかわいそうな子供たちや弱者のことは「財政のお荷物」としか考えていません。

 費用がかからなければ、淘汰するべきだとすら考えていました。

 なので容赦ない収税が執行されたのです。

 かわいそうな子供たちをはじめ、多くの市民が泣きました。

 そのくらい多大な「無駄」を省いて、ゲオルク様に貢献したのです。

 彼の計算では、そろそろ昇進があるのでは、と心ひそかに考えていました。


 そこに使者がくれば、疑う方に気が回るはずもありません。


 これはポーレチケ港で集めた情報から十分に予想できたことでした。

 そこをドラヴァヒはついたのです。


「偉大なる王よりのおことばです」

 ドラヴァヒはうやうやしく尊大にバルデス将軍に宣告します。

「王の名をもってバルデス、汝を男爵に叙勲する」

「おおお・・・!」

 バルデス将軍は涙さえ目にためて、感激します。


 多少この沙汰に疑問をもった側近たちも、機嫌の悪いバルデス将軍の怖さからあえてこれはおかしい、と声をあげる人もいません。

 気に入らない部下をいじめ抜く性質は、さすがゲオルクの腹心といってもいいでしょう。

 機嫌を損ねるのを恐れて、結局は誰も真実に気づくことがなかったのです。


「宰相ゲオルク様より…内々の、お言葉を預かっております」

 ドラヴァヒはさらに尊大ぶった雰囲気を出していいます。

 オールバックにしてお腹も膨らませてるものですから、そこそこの威厳があります。

 このたびの働き、税収増、まことに見事だ。

「叙勲につづき、ゆくゆくはフォンテーヌ伯にとも考えておる」

「はああ…!」

 その歓喜に打ち震える姿!

 だりきゃは笑いがこらえきれなくなりそうになったぐらいです。

 あわててぷーんがつっついて、事なきをえます。



挿絵(By みてみん)

※いい雰囲気のサー子とシュートラ。かわいいです。


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