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ダメなサー子の蘇生の義㉑

 工具や部品、鎧部品などにも独自の工夫がなされました。

 いままでは型に熱い金属をいれたままでしたが、ここで牛脂など動物性の脂肪を調合して鋳型に塗ることによって、あまり熱くない溶解しきっていない金属でも形を作ることができるようになりました。

 これは量産化に多いに役に立つことになる、世界初の鍛造技術になります。


 鉄工技術の向上はあらゆる分野に応用されます。

 木工で使用する刃物などです。

 鉄のように堅い木を加工しても刃の持ちがよく、かなり精密な平面を作り出すことができるようになりました。

 造船技術の交換と融合また船具や補強部品などの新開発などにより、従来とでは比べ物にならない船ができるようになります。

 この一連の技術革新をドラヴァヒたちはたった一か月だけで成し遂げました。

 これには執権どのも大喜びします。


 さっそく軍船を一隻と水夫30人が下賜されました。


 軍船を特製の器具などで補強しました。


 中型の船ですが大陸までの往路一回ならなんとかなりそうです。

 そして開発した技術を忘れないよう図面や書籍にして積み込みます。

 火薬の調合法、後ろごめ式の大砲の原案など最先端の技術も積み込みました。

 これで一か月。

 あわせて二か月が経過してしまっています。


 救国の老師ヴァイデノース様なきあとのカルベルシュタイン王国が心配でならないサー子たちは、魔法を駆使して一路西へ進路をとります。



 ◎◎ ◎◎ ◎◎



 アスタレット伯は高いバルコニーから、王都の夜景を眺めています。

 10万人以上が暮らしているはずですが、活気がありません。


(あいつのせいだ…)

 流れ星のような鋭い目をキッとして葛藤しています。


「アスタレット」

 綺麗な女性の声。

 振り向くとエメラルドグリーンの長い髪にはウェーブがかっています。

 シトラスのいい匂い。

 その姿を見る前から声の主はわかっていました。

 もうずっと聞きなれた声だからです。

「コーデリア」

 慈しみをこめてアスタレット伯が名前を呼びます。

 コーデリアと呼ばれたプロポーションのよい女性は、にっこり微笑みました。


 女神ウンディーネの化身。

 そう吟遊詩人にも歌われたこともあるという、コーデリア伯爵です。

 居城コーデリア城はアスタリスタから山脈をこえて西にあります。


 2人はそれぞれの先代領主の令嬢として幼少のころから顔見知りでした。

 いろんなことがありましたが二人とも伯爵として領主になります。

 以来ずっとだれも信じられませんでしたが、二人だけは心の底から信頼しあっています。


 この先、自分の領地と領民が安穏で。

 コーデリアとアスタレットがずっときがねなく一緒に居られるのなら。

 たとえゲオルクが王都でふんぞり返って暴政をしいたとしてもいいとさえ思っていました。


 ずっと一緒にいたい━━━。


 しかし今夜。

 アスタレットはゲオルクから求婚されました。


「アスタレット、あなたはどうするの?」

 コーデリアがその女神のような視線をじっと向けて聞きます。


「ことわるさ」


 コーデリアは沈黙しました。


 その一言に、アスタレットとコーデリアと。

 それぞれの多くの領民。

 そしてカルベルシュタイン王国の行く末が決まったからです。



< このアスタレット、結婚はしないつもりです >


 翌日、書置きを残して両伯爵は領地に帰りました。



 面目をつぶされたゲオルクはそれはそれは怒ります。


 アスタレット伯爵は大恩ある公王を侮辱したとして。


 莫大な罰金と身柄の拘束を命じました。


 王都からの使者はアスタリスタ城に向かいますが、代行のものが話を聞くとわかりました、とだけ返事をして実際にはなにも行動がありません。


 ゲオルクはついに王軍をひきいてアスタリスタへ出陣するとお触れを出します。


 もちろん、公王の名前で勅令として。


 これに逆らえるものはいませんでした。



 サー子は久しぶりのカルベルシュタイン王国にほっとします。


 といってもフォンテーヌではなく王都の南の街「ポーレチケ港」です。

 船を沖合4里のところに停泊させて、小舟で上陸したのです。


 先に政情を調べたうえで行動するためです。


 サー子たちは港のあわただしさに不穏な空気を感じていました。


 まず驚いたのは、フォンテーヌの領主フォンデンブルグ大臣が処刑されたことでした。


 ドラヴァヒはこの話を聞いたとき、つい叫び声をあげて泣きそうになりましたが、それをぐっとこらえます。

 フォンデンブルグ大臣は彼の政治・行政の師匠でした。

 治める、ということをおしえてくれたのはフォンデンブルグです。


 しかもバルデス将軍がとってかわって領主になったのです。


 ドラヴァヒは血涙を流さんばかりに右手のこぶしを握りしめました。


 それともう一つの大きなことは、アスタレット伯爵討伐軍の編成をしているということでした。

 街のあちこちには兵員募集の立て札が掲げられ、兵士が集められています。

 街の酒場などにいってそのへんの男に一杯おごると、その情報は簡単につかめました。


「アスタレット伯爵にふられたゲオルクの腹いせさ」


 つまりは力ずくで花嫁とするらしいです。

 アスタレット伯爵を生け捕りにしたものは伯爵の位と領地を約束するそうです。

 それは名誉ある戦役ではないので、地元の兵士の士気もあがりませんでした。


 船に帰ると、ドラヴァヒは声をあげて泣きました。


「フォンデンブルグ様!」


 そして


「老師ヴァイデノース様!」


 フゥアも泣きます。


 フゥアはヴァイデノースの獄死を見届けたのを思い出しました。


 強い闘志を抱きながら、だんだんと消えていく命の火。


 サー子たちはなぐさめようもなく、ただ茫然と見守るだけでした。


 少したって。


 何かを決意したように言います。


「船の中で、天下の計を練ります」


 ドラヴァヒは針路をフォンテーヌへと向けます。


 フォンテーヌまでは一両日中に着く距離です。



 船長キャビンの中、サー子たちはドラヴァヒさんに呼ばれて集まっています。

 口火をきったのは彼です。


「フォンデンブルグ大臣の執行官として、フォンテーヌを制圧します」


 決意みなぎる言葉でした。仇討ちです。


「で、どうやってやるんだい?」

 間をあけてだりきゃが、さぁ来たとばかりに聞きます。

「こちらには、ふその国の腕利きの水夫が30人います。武装もあります」

 フォンテーヌ市の地図の城砦を指で示しながら言います。

「バルデス将軍を討ち取ってしまえば、あとは説得して統治下に治める自信があります」

 ドラヴァヒの茶色い瞳は使命に燃えていました。


「それにしても正面突破じゃ芸がないわね」

 ぷーんは不満げに声をあげます。

「駐留軍は3000騎いるのよ。今はそれ以上いるかも」

「そこをどうにかしたいところですね」

 サー子は考えました。そして言います。

「なんとか軍ごと追い出せないかなぁ…」

 ぷーんはいいことを思いつきました。

「サー子も面白いこというわね。こういうのはどう?」


 ぷーんを中心に一同が頭を寄せ合って作戦を練ります。



 そして次の日。


 フォンテーヌ市の城砦に王都からの急使が到着します。


「バルデス将軍はおいでか! 王都ポーディッドからの使いである!」


 使いとなのる男と、フードを深くかぶった宮廷魔術師ふうの従者が5人ほど訪れてきたのです。


 偽の使者が横行するこの世界で、警戒されるのは当たり前でしたが。

 ドラヴァヒの一言は、疑わせる暇をあたえませんでした。


「おめでとうございます、バルデス男爵。宰相ゲオルク侯爵は将軍に男爵の位を賜りましたぞ!」


 バルデスと側近たちはおどろきの声をあげます。


 そしてみじんも疑わずに。


 使者たちにすぐ近くにくるよう、急かして言いました。


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