ダメなサー子の蘇生の義⑳
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ふその国首都くまそに、だんだん近づいてきました。
「この辺はよくしってる村です、今日はこの辺で宿をとりましょう」
ドラヴァヒは懐かしむようにあたりをみながらサー子たちにいいます。
大きな農家が一軒、あとは小さい農家が点在しているぐらいの村でした。
野良仕事をしていた村民が駆けてきます。
「ドラヴァヒ曹長だ!」
「ドラヴァヒだ!」
「ドラヴァヒ曹長が外人の女の子を連れてきおったぞ!」
村中から歓迎されます。
どんな理由で歓迎されるのか、尋ねられる前にドラヴァヒが言います。
「前に盗賊が襲ってきたのを退治したことがあって、それで…」
「どこに行っとったんじゃ!」
「ひさしぶりじゃのう」
村民たちの歓迎の声でかき消されます。
庄屋さんの大きなおうちで宴会がもよおされます。
正式な歓迎の「お膳」が用意されます。
さて困ったのはサー子たちです。
食べるのに「お箸」を使ったことがないからです。
最初に泊まった宿の夕食はおにぎりという、穀物を丸めたものを手づかみで食べました。
これはサー子がとても気に入りました。
ダルメルも赤い実のすっぱいのが気に入っていました。
ですが今日のこの夕食はおにぎりとは全然違いました。
サー子たちが料理に手を付けれずに、じーっと見ていると。
「サー子さんたちは、箸が使えなかったですね。では自分の真似をして食べてみてください」
ドラヴァヒは箸を器用にくちばしのようにして、先から1寸もしないところだけ使って食べます。
「へええ…」
サー子たちは優雅な食事風景に感心してうなりました。
自分たちもやってみますが、箸の持ち方がまた複雑な感じです。
「こ、これどーやってもつんだよー?」
だりきゃはまるで知恵の輪でもといているみたいです。
ドラヴァヒは里芋の煮付けがあるのに固まりました。
この国の昔話に、食事の作法を知らない人が他人のマネをして食事をする、というのがあります。
里芋を掴み損ねて転がしてしまうところまでマネしてしまう笑い話です。
実際、自分がそのお手本になろうとは思ってもいませんでした。
ドラヴァヒはいつもより数倍の注意をはらって、とってもゆっくりと里芋を掴みます。
ふぅ、と安心する彼でした。
そしてサー子たちは箸を使いこなそうとがんばっていますが、なかなか慣れません。
でもただ一人ダルメルだけは素敵な動作で使いこなしています。
「すごいじゃないか!」
みんな振り返ります。
いちばん苦戦しているだりきゃが不思議そうに聞きます。
「どこで覚えたんだ?」
「今、ドラヴァヒさんのを見て覚えたのよ」
「マジか?!」一同がおどろきます。
「マジです」
間髪入れず平坦に応えます。
「ダルメルは本当にすごいよね」
サー子は里芋をぬるっと転がしながら言います。
「…里芋もつかめるし」
サー子は同じ姉妹なのにどうしてという気持ちをまるだしにして言いました。
「この国、わたしにあっているみたい。落ち着いた雰囲気とか」
薄黄色い瞳を輝かせて言います。
まるでこの国の姫のようでした。
ドラヴァヒは庄屋さんに今の「執権どの」に会見を申し入れるための手はずをお願いしました。
執権とは国王である天皇の代わりに政治をおこなう武力をもった権力者です。
元海軍とはいえ単なる下士官の曹長が、執権といういわば首相に直接会うことなんて普通はムリです。
しかしドラヴァヒは外国の主要都市フォンテーヌの執行官でした。
外国の行政を一手に担っていたこの国出身の人がそんな要職を経て帰還したとあって、執権どのは興味深々のようです。
翌日、故郷のアルフィッツの街に到着して久しぶりの風景に涙ぐみます。
一時期はアルフィッツの街の人たちも弾圧されたり拘留されてしまったりしたようです。
ドラヴァヒも両親はもういませんが慣れ親しんだ人たちと苦難を乗り越えてきた昔話に花を咲かせます。
街を散策してきたダルメルがみんなの前で書状をひろげます。
< ふぉんてーぬ市のだるめる 右のもの「刑部の判官相当」と認む 刑部大輔よりもと >
「えっ!!」
ドラヴァヒはおどろきました。
「判官の資格ですよこれ!」
へーぇ。とサー子たちはわからず、うなります。
「い、いや! 判官っていったらもうそれはすごいんですよ!」
へーぇ。とサー子たちはうなります。
「フォンテーヌでいうなら司法官の資格です」
「マジか!?」一同声をあげます。
「マジです」ドラヴァヒは間髪入れずに応えます。
ダルメルが白い前髪から薄黄色い瞳をのぞかせて言います。
「わたし、各都市の司法官の資格をとるのが趣味。もう20個ほどあるわ」
「マジか?!」
「・・・マジです」
さすが本職。ついマジか!と突っ込まざるをえません。
「ダルメルはいったいどこを目指しているのか不思議よね」
ぷーんは関心しながらそう言いました。
そして待つこと数日、都に入ったドラヴァヒたちに謁見の許可がおりました。
くまその都にある「くまそ城の天守」に通されます。
そこは護衛のものと小姓、そして重臣たちが一行を迎えます。
主座についている執権どのはドラヴァヒたちを歓迎しました。
「文化のちがいなど、さぞ不便なこともあろうのう」
大陸出身のサー子たちを興味ぶかくながめてねぎらいの声をかけます。
サー子はなんと言葉を出していいかよくわからずにいました。
そこで颯爽とでてきたのがダルメルです。
「はるか古より弥栄なるふその国の執権どのにおかれましてはご機嫌麗しく拝謁の光栄に浴せましたこと誠に恐悦至極に存じます…」
得意の宮廷儀礼です。
ほおぉ。とその流暢な口上におどろきの声がもれます。
ドラヴァヒの口上はこうです。
我々はフォンテーヌに帰らねばなりません。
つきましては大陸へたどり着くための軍船を一艘船を賜りたい。
かわりに執行官として技術供与をします。
それはこの国のために多いに役に立つでしょう。
これがダメならサー子たちはフォンテーヌに帰れません。
不安になった一同ですが、執権どのはとりあえずこれを認めてくれます。
まずはその成果をみてからですが、大きな船を贈ることを約束してくれました。
さっそくドラヴァヒは執行官の経験を生かして鉄工・木工などの技術を促進させます。
ふその国の刀剣技術は独特で質が良く、大陸よりも勝っている点もあります。
ふその太刀には刀身に「斬撃にちょうどよい反り」が入り、斬るという仕事においてその効率を高めています。
これは大陸では見られない技術でした。
また別の金属を鋳鉄にまぜて強くしているのもこの国独特の手法でした。
これをフォンテーヌ市で培った技術と合体させて、いままでより高温の炉で焼き入れをおこない、冷却も何度かにわけて腰がでるように温度を変えて鍛えます。
普通の武器鍛冶屋は熱した刀身を冷却する時に水を使っていますが、ドラヴァヒはそれに脂肪をまぜて使うという実験をおこないました。
これも執政官時代に産業技術研究の一環として考えていたことです。
水で急冷するよりもゆるやかに冷やすことによって、ゆがみが少なくなり精度があがります。
熟練の刀鍛冶でしかできなかった手直しでしたが、手直しの必要が少なくなって高品質な刀剣が多く作られるようになりました。




