ダメなサー子の蘇生の義⑯
ゲオルクは手段をえらばなくなってきました。
自分に逆らえるものなんていない!
そう思い続けたからです。
ついに彼は老師ヴァイデノースを王族不敬罪で逮捕します。
ゲオルクは現公王ディースの息子です。
ディースも公爵ですから、ゲオルクは王子ではありません。
ですが生まれた瞬間から侯爵でした。
それはもう、とりまきがすごいです。
未来の実質的支配者ですから、なんとか気に入られようと貴族連中はみんな必死です。
そこに哲学とか民衆への慈愛とか、そんなものはあるはずもなく。
快楽と怠惰と自我の増長でずーっと育ってきたのです。
彼は容姿に強い劣等感がありました。
少し知恵がたりないような、そんな顔をしているのです。
それはどうしようもなく先天的で、普通は成長するうちに哲学や上品な言動、振る舞いなどが身に着いて。
知性がそれを償却していくものなのですが。
ゲオルクは恵まれすぎて不幸なことになります。
ずっと小ずるそうな顔で大人になって、青年時代も肉欲にふけって終わり、壮年になってしまっていたのです。
年齢は41歳でした。
でも中身は小ずるい幼い人間でした。
嫉妬深くて、いばりたがりのままです。
この歳になってもゲオルクは他人の目がこわかったのです。
「こいつは、俺の顔をみてバカだと思っているにちがいない」
実際、知識も教養も足りなかったので、知性が身に着くはずもありません。
知性がなくて、嫉妬深くて、恨みと傲慢がすごいのです。
本当に唾棄すべき人間がなぜか金と権力をもって生まれてしまうのも、この世の中の不思議な仕組みです。
そういう人生でしたから、老師ヴァイデノースが憎くて仕方ないのです。
今日ばかりは、自ら取り調べて王族誹謗の罪で殺そうとおもっています。
◎◎ ◎◎ ◎◎
ダルメルもくわわり、一層にぎやかになったフォンテーヌ市のサー子のおうち。
どんどんどん!
ある日の午後、家の扉が激しくノックされます。
だれですか、そんなにあわてて。
出てみますと執行官ドラヴァヒさんでした。
「サー子さん!! サー子さん!!」
必死の形相がただならぬ緊張感を張り巡らせます。
「老師ヴァイデノース様が逮捕されました、このうえは王都ポーディッドにのぼって老師の身をおまもりしたいのです」
彼はあらたまって礼儀正しく皆に話します。
サー子たちのパーティに護衛についてきてほしいと、そういうことなのでした。
「すでにフォンデンブルグ大臣の許可ももらっております、すぐに出立をお願いします!」
宮廷魔導士の一行はあわただしく集まります。
サー子、ぷーん、だりきゃ、シュートラとフゥア、そしてダルメルも旅に加わります。
ダルメルは大きな杖をもってドラヴァヒさんに言います。
「わたしだって、つかえるのよ魔法」
「ええっ! マジか!」
「マジです」と平坦な口調で即答しました。
ドラヴァヒさんはこれをとても喜んでいるようです。
「そしてサー子ねえさんとは双子の姉妹」
さらにドラヴァヒさんはおどろきます。
「えええ! マジか!」
「マジです」と平坦な口調で即答するダルメルでした。
「しかしまさかサー子さんと双子の妹さんだったなんて!」
おどろきと同時に魔法使いがふえた感激がありました。
老師を助ける力を得たことを心強く感じるのです。
そして取り急ぎ出立します。
2台の馬車を仕立てました。
ドラヴァヒとサー子たちは別れて馬車に乗りました。
ちょっと質のいい馬車は、スタッカートのリズムをきざみながら東へ向かいます。
「ところでダルメルは何の魔法をつかえるの?」
サー子はふわふわした羽根をなでながらききます。
「白魔法」
「マジか!」だりきゃがおどろきます。
「マジです」と平坦な口調でだりきゃに返します。
「なーんだ、双子の姉妹なのにまったく逆なんだなー?」
だりきゃはおもしろそうに言います。
「…そういうわたしらだって、水と火で対極じゃないの」
「あ、そうだったなー。ははは!」
ぷーんがだりきゃをあきれたように見ます。
対極にあるバストの主張を。
「ところでだりきゃさんは、むねまわりはどれくらいあるですか?」
それを見ていたダルメルがたずねます。
「ええ? うんと3尺3寸(1メートル)で鎧はつくってもらうけどな?」
「マジですか」平坦な口調でだりきゃに言います。
「マージだぜ!」ははは!とだりきゃが返しました。
シュートラもサー子と同じく、ふわっとした白い羽根がだいすき。
「ダルメルおねえちゃんの、お羽根はあったかくていいな!」
うっとりとしてほおをすりすりします。
シュートラはサー子の妹でしたから、ダルメルの妹でもあります。
「すこしくすぐったいわ…」
ダルメルがふるふるしながら馬車にゆられます。
フゥアもちっちゃい羽根をチリリンっとアピールしますが、ダルメルの美しくて壮麗な羽根とはどうも勝手がちがうようでした。
60里のみちのりがあっという間でした。
一行はハーヴィス川のほとりにあるハーヴィス城で宿をとります。
すこし小さめのお城でしたが気品にみちあふれてしました。
城門には白馬にまたがった金色の短髪。
颯爽とした青年、城主「ミント・ハーヴィス男爵」が一行を出迎えました。
「ドラヴァヒー!」
「ミント!」
どうやら2人は旧知の仲のようです。
2人は下馬するや駆け寄って、手を取り合って再会を喜びます。
ミント・ハーヴィス男爵は、ハーヴィス家の若き当主でした。
ミント色の鎧、服。
短い金髪、白い肌、青い目。
何事にもやわらかく話す彼は「ハーフエルフ」でした。
争い事はきらいでしたが、まちがったことはもっと嫌いです。
そんな彼が以前フォンテーヌに来たとき、地元の漁師と酒宴をしているドラヴァヒと出会います。
そう「バンダナ亭」です。
地元の漁師にさんざん飲みくらべを挑まれて、そうとうやりこめられたミント男爵でしたが、たまたま居合わせたドラヴァヒも一緒になってこの好青年にしきりにエールをすすめたのでした。
そして二人は夜を徹して飲み明かしたのです。
ゲオルクの悪政を肴に。
重税、むだづかい、非人道的な振る舞い。
忘れられないほど楽しい夜を過ごしました。
「ミント、今日は少し飲ませすぎてしまいましたね、どうも…」
「ドラヴァヒ。こんなに楽しかったことはなかったよ」
満面の笑みで宿へ行こうとしたのですが、その日はちょうど宿屋が満員でミントは泊まるところがありませんでした。
「ミント、僕のうちにおいでください」
「しかし…」
ゲオルクの息のかかった貴族たちの家に泊めてもらうよりはそのほうが気楽でいいかともおもい、二人で酔いつぶれてぐっすりと寝たのです。
「ドラヴァヒ。有事の際には、なんでも言ってください」
───有事の際、つまりディース公王の死去などにあたって、ゲオルクの圧政がひどくなったら。
フォンテーヌで打倒ゲオルクの狼煙をあげるのなら。
という、意味でありましょうか───。
「ありがとう、ミント。きっとそのときは、必ず!」
2人の青年は悪政を見据えて血が熱くたぎっていたのでした。
そうやって過ごした過去があったのです。
そして再会したまさに今、その有事の時が来つつあるのかもしれません。




